FLY ME TO THE MOON

如月 睦月

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『こうしちゃいられない!』

パイロンは心では焦りつつも、落ち着いて静かにトイレのドアを開ける。

トイレで襲ってきた女性の話が本当ならあと3人危険な人物がいる。如月は1人だと思っているかもしれない、知らせなければ如月が危ないかもしれない。と言う”かもしれない祭り”がパイロンの心の中で開催され、焦りを生み出しているのだった。

『どっちだ!?こっち?こっち?』

キョロキョロを20回ほど繰り返した、2度見ならぬ、20度見と言うのが正しいだろう。結局選んだのは右、スタジアムの通路通り。同じ場所にスナイパーがずっといるはずがない・・・そう考えたからである。『私がいるこっちには来ない、下がって次のチャンスを待ち、狙いを定めているに違いなし!』小走りで右に進みながら周囲を警戒した。

一方如月はウキウキ気分で左から回り込んでいた。

『一人ってのは考えにくいよね・・・少なくとも3人以上・・・だってここにもゾンキーが居たはずだけれど、ちゃんと処理したんだよ、そうだよ、一人でできるわけがないもの・・・・』

如月の考えはなんとズバリ的中だった。
物陰からのぞき込むと、3人が見えたのだ。

『男2・・・女1・・・ネイルガンは女・・・でかいおっさん、おデブな兄ちゃん、委員長がイチ・・・デカオを最初に潰すべきね、おデブちゃんは動きが遅い、ネイルガンにさえ気を付ければ抜けるかな・・・いあ、突っ込むのはよそう、パイロンに怒られる。』

突っ込むことをせず考ながら辺りを見回す。保管室と書かれたドアを発見した如月は、中から脚立を見つけ、通路の真ん中に置き、横の柱に隠れた。

大きな男が脚立を見つけ不審に思う。
『変だな・・・こんなところに脚立置いた覚えねぇぞ。』

大きな男が脚立を持ち上げた瞬間如月が走り込み、脚立の真ん中目掛けて滑り込む!男の股をすり抜けると同時に大きな男の足首を掴んだ。

大きな男は脚立ごと前に倒れた。

ネイルガンを横転で避け、おデブちゃんに体当たり!しかしおデブちゃんはそれをステップでかわし、如月の脇腹に蹴りを打ちこんできた。

『いっつ!機敏なデブかい!』

『動けるデブと言ってくれ、俺は空手二段だ、謝るなら幕の内』

『腹減ってんのかよ!今のうちだろ!』

『あ~ぁ、めっちゃ減ってるよ、だからその鞄をよこしな』

『ふふ・・・奪ってみなよ食いしん坊』

左の正拳突きがフェイクで右が来る。だがそれもフェイクで三発目の右ハイが本命。そう読んだ如月は一発目の左に自分の右肘を当てて潰した。潰すなら一発目からが如月の鉄則。

予想通りだった。

一発目の左正拳はスピードはあったがフェイクの為パワーが乗っていなかった。強烈なカウンターまでは行かなかったが、恐らく指の骨が3本ほど折れただろう、如月にはその感触があった。

『いってぇー!!!!!!』大きくのけぞったおデブちゃん!しかし如月のぶっこみを見切っていたので、即バランスを取り、前蹴りで止めた。

ドン!

しかしガッチリ捉えたのは如月の方だった。おデブちゃんの右足首を右腋に抱え込んでくぐるように回転をし、右足の膝から下を可動範囲を超えてねじる!バキバキと音がなり、回転に付いて行くようにおデブちゃんの巨体が一瞬宙に浮いて思い切り倒れ込んだ。

『如月スクリュー!』と叫び、立ち上がってポーズを取る如月。

『ギャァアアアア!!!喧嘩でドラゴンスクリューやるやついるかよてめぇ!!!!!足がぁあああああああ!!!』

『巨体を倒すには、相手の力や体格を利用するのが一番楽。自滅ってやつね、己の体格を憎みながらポン酢でも飲みなさい。』

パスパスパス!!!

横転で釘をかわす如月。
『忘れてた!釘女が残ってた!』

パスパスパス!!!

『ぐわぁああああ!』
おデブちゃんの顔面に数本の釘が撃ち込まれた。

『くそっ!飛び道具は厄介だわね、素手で勝負しろっつーの』

視界から避けられる柱の陰に隠れて考えた。
『さてどうするか・・・・あ!パイロン!あいつまだかなぁ・・・・トロい所あるからなぁ・・・』

後ろから脚立で転ばされた大きな男がナイフを振り回して近づいてくる。
『くっそ、腹減ってんだ、リュックよこさねぇとぶっ刺すぞこのクソ女がよぉ』

『刺すってその10徳ナイフで?』

『ふん、刺すならこれで十分だろ』

『ばーか・・・私を刺したいなら槍でも持ってこないと、あんたの距離は私の距離より3cm遠い。終わるよあんた。。。』

『るせぇ!!!3cmで運命でも変えるってか!』

大きな男の大振りナイフをバックステップで避け、如月は背中の鉄の棒を抜いた。大きな男が右手でマシンガンの如くナイフを何度も高速で突き出してきた。突き付ける度に如月が鉄の棒で大きな男の手首を叩く。

パンパンパンパンパンパン!!!

『イッてぇ!!!!』

『なんじゃワレァその程度かボンクラァ!』

『おまえ距離がどうのこうのって言ってただろ!圧倒的にそっちの方が長いだろ!!!!』

『試合じゃない、喧嘩やで?舐めとんのか?コイよほら!』

如月が激しい激を飛ばす。

戦う事に関しては常に真剣な如月、ついつい相手が敵とかどうでもよくなり、勝負にのめり込んでしまうのだ。

パスパスパスパス!

『うぎゃぁああああああああああああ』

大きな男に釘が撃ち込まれて倒れた。
とっさに如月が隠れる。
『なんだよこれからやんけ、邪魔しよってからに』
如月は勝負を邪魔され苛立つ。

『助かったわ、ありがとう』

女性の声が聞こえた。
『はぁ?』如月は警戒している、いあ警戒しないはずがない。
今までネイルガンを自分に向けて撃っていた人間が、お礼を言うなんて明らかに変。如月は聞いてみることにした。
『助かったって?あなた私を狙ってたじゃない』

『ち、違うの!あの男2人に脅されて・・・でも2人とも撃ったでしょ?見てたでしょ?』

確かに躊躇なく男2人はネイルガンにより殺害されている。信じさせるために仲間を?いあいあ、人数が減るのは戦力が減る事だ、自らそんなことする?普通に不利じゃん・・・。如月の頭で計算が始まるが、オカルト以外勉強していない如月、その答えが簡単に出るはずもない。

『ねぇ!あんた鍵持ってる?このスタジアムで使うやつ』

『持ってるわ!だって私ここのスタッフだもの、見える?ホラ』

そう言うと女は金属の輪にたくさん鍵が付いたキーホルダーをジャラジャラと振って見せた。柱の陰からその姿を確認したが、もう1人確認できた。右からこっそり近づき、通路の観葉植物に隠れているパイロンの姿だ。如月は注意を引き、パイロンに任せる決断をした。

『ねぇ釘女さん、その鍵本物かどうか見たいんだけど、こっちに投げてくれる?確認したら返すから』

『私にとって、あなたがこれを欲しいと言うなら、これは大切な切り札になる、だから渡せない。でも、抵抗はしないし攻撃もしない、信じてほしい』

『攻撃をしないと言う証拠が見たい!例えばそのネイルガン』

『わかった!置けばいいのね?』

『いや・・・エアタンクを外してから置いて』

『わかった』

キュキュキュ・・・プシュ!
『タンクを外したわよ!置くわね!』

『タンクを置いてから10歩歩いた先にネイルガンを置いて、ゆっくりよ!ゆっくり!』

1・・・・2・・・・

ゆっくりゆっくり女は歩を進めた。

強烈なスタートダッシュを決めたパイロンが一気に間合いを詰める。振り向いた女が見たのは2つの靴の底だった。顔面にドロップキックを喰らった女は吹っ飛ばされ、床で3回転がって壁に背中をぶつけて意識を失った。

『パイロンやりすぎ』

『申し訳ございません、必死で・・・。睦月ならどうしてた?』

『肋骨粉砕』

『でしょうね』

『ナイスコンビネーションで片付いたね、あの男性2名は釘女が殺したんだ、躊躇なく打ち込んでね・・・でも釘女は男に脅されてたって言ってたんだけれど・・・』

『え?じゃぁ敵じゃないのに私、顔面蹴ったのですか!?もも、申し訳ございませんっ!』

『寝てるって』

『こういうのは気持ちなんですっ!』

『はいはい・・・じゃぁ鍵奪ってから休憩しよう』

『はい!』
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