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第3章:魔人

殲滅(4)

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 私はこっそり、上級の防御魔法だとか、上級の攻撃魔法だとかを勉強していました。
 それは、クルドークの教会でもらった小さな魔術書に書いてあったのです。
 でも、それらを実際に練習することはできませんでした。

 上級の防御魔法は都市全体を守るほどの力があるのです。
 そのためには、膨大な魔力を使います。
 おそらく、今の私なら、ほとんど体内の魔力を使い切ってしまうでしょう。つまり無防備になってしまうのです。
 敵が近くに潜んでいるかもしれません。
 いつ敵に襲われるのかわからない状態で、そんなことを試すのは危険です。

 上級の攻撃魔法の練習ができないのも同じ理由でした。
 しかも、それは強力な攻撃なので、実際にやってみたら、もしかすると、このあたりの世界を全部破壊してしまうかもしれません。
 もし近くに村があったなら・・・それが人間の村ではなく、魔人の村だとしても・・・そうだとしても、意味もなく皆殺しにするようなことなどできません。
 そもそも、私はこんな恐ろしい攻撃魔法など使いたくないのです。
 いくら殺しても、何も解決しないのです。
 殺せば殺すほど、争いは激しくなってしまうのです。
 私たちは、戦争がしたいわけではないのです。

 上級の攻撃魔法の代わりに、違う魔法を一つ覚えました。
 それは、心の中の元ソフィアさんが教えてくれたのです。

 分身の術。
 一人が二人になる術・・・
「ルーク、新しい魔術ができるようになったよ」
「え? 魔術?・・・新しいテンプラ?・・・戦うための?」
「もちろん、戦うための・・・。私たちが強くなるための・・・」
「どんな?」
「分身・・・」
「え、うれしい! すぐにやってほしい・・・だって、胸が・・・」

 彼がなぜ大喜びしているのか、私にはわかっていました。
 彼は私が二人になると思っているのです。そして、胸の数が増えることを喜んでいるのです。
 でも、違うのです。

 ・・・分身の魔法・・・

 私は彼に説明しました。
 私が分身するわけじゃないのです。
 正確に言うと分身するのは人間ではなく、魔剣なのです。
 魔剣が二つになる術なのです。
 でも、魔剣が二本になるから、ルークが二刀流になるということではありません。
 魔剣を持っているルークも二人になるのです。
 つまり、魔剣が二本になり、魔剣を構えたルークも二人になるという魔術なのです。
 だから、分身の魔法なのです。

 ルークはがっかりしました。
「ソフィアさん二人に挟まれて眠れるのかと思ったのに・・・」

 ・・・いいえ!!・・・たとえ、分身の術で私自身が二人になれたとしても、そんなことには使いません・・・
 ・・・ルークは私一人で十分なんです・・・私一人で彼を十分に満足させてあげることができるのです・・・いや、何を言っているのか、だんだんわからなくなっていますが・・・

 私は彼の魔剣に分身の魔法をかけ、魔力を充填しました。
「剣を構えてから、自分が二人になるのをイメージしてみて・・・そうすると、分身できるから・・・」

 最初は彼も戸惑っていました。
 しばらくして・・・
「あ、できた・・・」「あ、できた・・・」
「二人になった・・・」「二人になった・・・」
 少し練習すると、彼は分身できるようになったのですが・・・でも、せっかく二人になっても、同じことしかできないのです。

「あのね。ここからが難しいところなの・・・
 たとえ、剣が二本になっても・・・肉体が二つになっても・・・それでも、心は一つなの・・・魂も一つなの・・・
 でも、目だってちゃんと二つずつあるし、耳だって二つずつある・・・
 その小さな脳みそだってちゃんと別々にあるんだよ・・・
 だから、二人の人間として、見て、聞いて、考えることができるの・・・
 二人、別々の人間として戦うことができるの・・・別々の相手を倒すことが・・・
 それでも、心も魂も一つなの・・・。
 だから、ちゃんと集中しないと、二人が同じ動作をしちゃうの・・・
 それだと何の意味もないでしょう・・・
 ね!・・一生懸命、相手を倒すことだけ考えて!
 そうしたら、二人がそれぞれちゃんと戦えるようになるから・・・」

 彼は長い間練習していました。
 必死で剣を振り回しているのです。
 私は彼のそういう一途なところが好きでした。
 頭は悪いかもしれないし、変態かもしれないけど、一生懸命なんです。
 いつも一生懸命前に進もうとして・・・どんなに痛い目にあっても、また立ち上がって、前に一歩踏み出そうとするんです・・・私はそういうルークが好きなんです。

 しかし、彼も疲れたようでした・・・いや、正確に言うのであれば、彼らも疲れたようでした。
 二人は地面に座り込んでしまいました。
 それでも、かなり上達していました。
 二人がそれぞれ自分の状況を判断して、個別に戦えるようになったのです。

 ルークは私に・・・
 これで二人分戦える、と言いました。
 一人はソフィアさんを守りながら、もう一人は敵と戦うことだってできる・・・そう言って喜んでいました。
 でも、彼はつぶやきました。
 二人だけでは、まだ、戦力が足りないと・・・
 もっともっと強くならないと・・・

 私は俯いている彼に(彼らに)言いました。
「大丈夫だよ。魔力さえあれば、何人にでもなれるよ。
 何十人にでも、何百人にでも・・・・
 もちろん、ルークの魂や心は一つしかないから、それだけ大勢の自分を操るのは大変だけどね・・・。
 でも、やろうと思えばできる」

 そして、私はもう一つ恐ろしいことを伝えました。
 それは絶対に言っておかなければならないこと・・・とても大切なこと・・・

「あのね、この術を使えば、一人が何人にでも、あるいは何十人にでもなれるの・・・
 でも、もし、その中の一人が傷ついたら、元に戻った時、その一人のあなたもまたその傷を負っているの・・・
 だから、分身して、みんなが怪我をしたら、元に戻ったあなたは身体中に怪我をしていることになるの・・・
 いや、怪我くらいならいいの・・・
 もし、その中の一人が死んだら・・・たとえ、それが一人でも・・・一人でも死んだら・・・元に戻った時のあなたの命の保証はないの・・・
 だから、多くの人間に分身することはできるし、その方が強いけど・・・でも、その分、生き残る確率は極端に下がるの・・・
 それを覚悟した上で分身の術を使わなければならないの・・・」

 二人のルークは同時にうなずきました。そして、
「でも、俺たち、どうやったら一つに戻るんですか?」「でも、俺たち、どうやったら一つに戻るんですか?」

 私は一人になる方法を説明しました。
 一人に戻る方法は二つあるのです。
 一つは、自分が一人になるのをイメージする方法・・・
 私はそう言ったのですが、彼はなかなか一人になりません。
 これは難しいのかもしれません。
 もう一つの方法は簡単・・・魔剣の中の魔力がなくなったら、自然に一人に戻るのです・・・それまで待つだけ・・・
 でも、剣の中の魔力はまだ、かなり残っています。

「・・・どうしても、一人になれない・・・」
「・・・どうしても、一人になれない・・・」
「・・・あのう、ソフィアさんの胸に触ってもいいですか?」
「・・・あのう、ソフィアさんの胸に触ってもいいですか?」
「えっと、三人で一緒に寝ましょう・・・」
「えっと、三人で一緒に寝ましょう・・・」

 ・・・ああ、うるさい・・・変態が二人になっちゃった・・・

 私は、思わず、魔剣の中の魔力を吸い出そうとしました。
 剣の中の魔力がなくなれば、二人は元の一人に戻るから・・・
 でも・・・でも、ちょっと面白いから、しばらくはルーク二人と遊ぶことに・・・
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