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第3章:魔人
D地区での戦い(4)
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私たちは、それから数日間、山間の道を進みました。
もう、この大陸には人間の街や村はないようなのです。
これから先にあるのは、全て魔物の世界なのです。
油断できません。
でも、港を離れてからは、魔人に出くわすこともなく平和な旅を続けていました。
夜はメティスが見張りをしてくれました。
彼女はドールなので、眠る必要がないのです。
メティスが夜通し周囲を警戒してくれるおかげで、私とルークは熟睡することができました。
しかし、彼女は壊れかけていました。
時々、動かなくなるのです。
それは魔力が不足しているからではありません。
私が魔の力を補給してあげても、返事をしなくなったり、倒れたまま起き上がれなくなったり・・・きっと、彼女の内部で致命的な問題が起きているのでしょう。
私はそういう彼女の姿を見ると悲しい気分になってしまい・・・
メティスの体の異常の発生頻度は次第に増加し・・・
彼女の体はだんだん壊れていく・・・
でも、原因はそれだけではないのかもしれません。
それは、私たちがD地区に近づいているからかも・・・。
*
D地区。
ビドラカの街に行くには、このD地区と通り抜けるのが一番早いのです。
ここは不思議な場所でした。
そして、危険な場所でもあるのです。しかし、ある意味ではとても安全な場所でもあるのです。
ここは特殊な場所・・・つまりここでは、魔力が効かないのです。
D地区に近づくにつれて、魔力で動いているメティスの体は動かなくなり、私は魔法も次第に使えなくなっていきました。
そしてD地区の中に入ると、私の魔法は完全に使えなくなりました。
体内の魔力は残っているのですが、なぜか使おうとすると無力化されてしまうのです。
メティスも完全に動かなくなってしまいました。
今はルークが肩にかついで運んでいます。
このD地区に入ると魔力が効かなくなる理由はよくわかりません。
もしかすると、古代文明の一部が動作しているのかもしれません。
例えば、この一帯には魔力に対する防御システムがあって、その機能の一部が今でも作動しているのかも・・・
だから、ここには、魔物はほとんどいません。
いたとしても、魔力を使えないので、人間界の生き物とほとんど同じなのです。
つまり、強くないのです。
魔人だっていません。
魔人も魔力が使えなくなるだけで、この地区に入ってくることはできるようです。
でも、ここでは人間と同じことしかできないのです。
あえて、そんなところに入り込んでくる魔人はいません。
ここでは魔法が使えませんが、その代わりに魔物や魔人に襲われる心配がないのです。
しかも、ここの水は汚染されていないのです。
つまり、ここには魔毒もないのです。
D地区の中の自然は、魔力の影響を受けていないのです。
私たちは、湧水を飲み、森の中に生えているキノコや木の実をとって料理しました。
久しぶりに、のんびりした気分でした。
ルークと旅を始めたころを思い出しました。
しかも、ここでは魔物が襲ってこないと思うと、とてもリラックスできたのです。
私はルークに言いました。
「ねえ、ここ、とても気持ちいいね。平和で、静かで、争いごともなくて・・・」
「そうですね」
「私たちしかいないから、ちょっと寂しいけど」
「そうですか? 俺は寂しくないですよ。だって、ソフィアさんと一緒なんですから・・・寂しいわけないでしょう・・・」
・・・うん、と私はうなずきました。
私も、ルークと一緒にいるから寂しくない、と言おうとしましたが、でも、その言葉を声にすることができませんでした。
もし、それを言ったら、全てが壊れてしまうような気がしたから・・・
「私は、ずっとここにいてもいいような気がする。
ずっと・・・
ねえ、ドルト遺跡でうまく魔道を封印することができたら、また、帰りにここでのんびりしたいね」
するとルークは静かな声で、
「でも・・・」
ルークはなぜかそれ以上言いませんでした。
彼が何を否定しようとしたのか、私にはわかりませんでした。
そして、なぜ彼がそれをはっきりと言おうとしないのかも・・・
私は彼の目を見つめました。
「どうしたの?」
でも彼は少し目をそらして黙っています。
「ねえ、どうしてはっきり言ってくれないの?
ねえ、もしかして、やっぱり私のことが嫌いなの? 昔のソフィアじゃないから・・・」
「違いますよ・・・でも・・・」
「・・・でも、何?」
彼は少し苦しそうな声で、
「この旅は片道のような気がするんです・・・つまり、帰れないような・・・」
「それってどういうこと? 私たち、死んじゃうってこと?
やっぱり魔道を封印できないってこと?」
「ソフィアさん、ごめんなさい・・・俺にもよくわからないんです・・・
でも、どうしても、帰ってくる自分の姿を想像できないんです・・・だから・・・
ソフィアさん、怒らないでください。
別に何かを隠しているわけじゃないんです・・・俺にもわからないんです。
でも、勘違いしないでください。
決して、俺、ソフィアさんが嫌いだとか、そういうことじゃないんです・・・だから・・・」
私はルークの手をひいて、
「少し、散歩しよう・・・ここ、気持ちいいよね・・・」
*
二人はしばらく黙って歩きました。
私は空を流れる雲を指さして・・・
「ねえ、きれい・・・空ってきれい・・・雲って自由だね・・・
あのね、私、ルークがいいって言うなら、ずっと、一緒にいてもいいんだよ・・・
ここにずっと二人だけで一緒にいても・・・」
その時でした。
何か強い風が吹いたような気がしたんです。
その瞬間に恐ろしいことが起きました。
私の目の前に《魔人》が・・・クルドークの街で私たちをつけまわした、あの《魔人》が・・・宿屋で私たちを殺そうとした、あの・・・
なぜか、あの《魔人》が目の前に・・・私の目の前に・・・
しかも、彼は剣を持ち、その剣の先が私に・・・
私はその時、感じたのです。
《魔人》の冷たい剣を・・・首の皮膚に・・・
私は思いました。死ぬと・・・私は殺されるのだと・・・
もう、この大陸には人間の街や村はないようなのです。
これから先にあるのは、全て魔物の世界なのです。
油断できません。
でも、港を離れてからは、魔人に出くわすこともなく平和な旅を続けていました。
夜はメティスが見張りをしてくれました。
彼女はドールなので、眠る必要がないのです。
メティスが夜通し周囲を警戒してくれるおかげで、私とルークは熟睡することができました。
しかし、彼女は壊れかけていました。
時々、動かなくなるのです。
それは魔力が不足しているからではありません。
私が魔の力を補給してあげても、返事をしなくなったり、倒れたまま起き上がれなくなったり・・・きっと、彼女の内部で致命的な問題が起きているのでしょう。
私はそういう彼女の姿を見ると悲しい気分になってしまい・・・
メティスの体の異常の発生頻度は次第に増加し・・・
彼女の体はだんだん壊れていく・・・
でも、原因はそれだけではないのかもしれません。
それは、私たちがD地区に近づいているからかも・・・。
*
D地区。
ビドラカの街に行くには、このD地区と通り抜けるのが一番早いのです。
ここは不思議な場所でした。
そして、危険な場所でもあるのです。しかし、ある意味ではとても安全な場所でもあるのです。
ここは特殊な場所・・・つまりここでは、魔力が効かないのです。
D地区に近づくにつれて、魔力で動いているメティスの体は動かなくなり、私は魔法も次第に使えなくなっていきました。
そしてD地区の中に入ると、私の魔法は完全に使えなくなりました。
体内の魔力は残っているのですが、なぜか使おうとすると無力化されてしまうのです。
メティスも完全に動かなくなってしまいました。
今はルークが肩にかついで運んでいます。
このD地区に入ると魔力が効かなくなる理由はよくわかりません。
もしかすると、古代文明の一部が動作しているのかもしれません。
例えば、この一帯には魔力に対する防御システムがあって、その機能の一部が今でも作動しているのかも・・・
だから、ここには、魔物はほとんどいません。
いたとしても、魔力を使えないので、人間界の生き物とほとんど同じなのです。
つまり、強くないのです。
魔人だっていません。
魔人も魔力が使えなくなるだけで、この地区に入ってくることはできるようです。
でも、ここでは人間と同じことしかできないのです。
あえて、そんなところに入り込んでくる魔人はいません。
ここでは魔法が使えませんが、その代わりに魔物や魔人に襲われる心配がないのです。
しかも、ここの水は汚染されていないのです。
つまり、ここには魔毒もないのです。
D地区の中の自然は、魔力の影響を受けていないのです。
私たちは、湧水を飲み、森の中に生えているキノコや木の実をとって料理しました。
久しぶりに、のんびりした気分でした。
ルークと旅を始めたころを思い出しました。
しかも、ここでは魔物が襲ってこないと思うと、とてもリラックスできたのです。
私はルークに言いました。
「ねえ、ここ、とても気持ちいいね。平和で、静かで、争いごともなくて・・・」
「そうですね」
「私たちしかいないから、ちょっと寂しいけど」
「そうですか? 俺は寂しくないですよ。だって、ソフィアさんと一緒なんですから・・・寂しいわけないでしょう・・・」
・・・うん、と私はうなずきました。
私も、ルークと一緒にいるから寂しくない、と言おうとしましたが、でも、その言葉を声にすることができませんでした。
もし、それを言ったら、全てが壊れてしまうような気がしたから・・・
「私は、ずっとここにいてもいいような気がする。
ずっと・・・
ねえ、ドルト遺跡でうまく魔道を封印することができたら、また、帰りにここでのんびりしたいね」
するとルークは静かな声で、
「でも・・・」
ルークはなぜかそれ以上言いませんでした。
彼が何を否定しようとしたのか、私にはわかりませんでした。
そして、なぜ彼がそれをはっきりと言おうとしないのかも・・・
私は彼の目を見つめました。
「どうしたの?」
でも彼は少し目をそらして黙っています。
「ねえ、どうしてはっきり言ってくれないの?
ねえ、もしかして、やっぱり私のことが嫌いなの? 昔のソフィアじゃないから・・・」
「違いますよ・・・でも・・・」
「・・・でも、何?」
彼は少し苦しそうな声で、
「この旅は片道のような気がするんです・・・つまり、帰れないような・・・」
「それってどういうこと? 私たち、死んじゃうってこと?
やっぱり魔道を封印できないってこと?」
「ソフィアさん、ごめんなさい・・・俺にもよくわからないんです・・・
でも、どうしても、帰ってくる自分の姿を想像できないんです・・・だから・・・
ソフィアさん、怒らないでください。
別に何かを隠しているわけじゃないんです・・・俺にもわからないんです。
でも、勘違いしないでください。
決して、俺、ソフィアさんが嫌いだとか、そういうことじゃないんです・・・だから・・・」
私はルークの手をひいて、
「少し、散歩しよう・・・ここ、気持ちいいよね・・・」
*
二人はしばらく黙って歩きました。
私は空を流れる雲を指さして・・・
「ねえ、きれい・・・空ってきれい・・・雲って自由だね・・・
あのね、私、ルークがいいって言うなら、ずっと、一緒にいてもいいんだよ・・・
ここにずっと二人だけで一緒にいても・・・」
その時でした。
何か強い風が吹いたような気がしたんです。
その瞬間に恐ろしいことが起きました。
私の目の前に《魔人》が・・・クルドークの街で私たちをつけまわした、あの《魔人》が・・・宿屋で私たちを殺そうとした、あの・・・
なぜか、あの《魔人》が目の前に・・・私の目の前に・・・
しかも、彼は剣を持ち、その剣の先が私に・・・
私はその時、感じたのです。
《魔人》の冷たい剣を・・・首の皮膚に・・・
私は思いました。死ぬと・・・私は殺されるのだと・・・
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