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第3章:魔人

ドール(機械人形)との出会い(3)

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 その女性型の自動機械は私に話しかけました。
 私に挨拶をしたのです。

 それは間違いなく人間の声でした。
 女性の声・・・若い女性の声・・・
 でも、やはりどこか音が歪んでいて、機械で作った声だとわかりました。
 それでも、ちゃんと聞き取ることができました。
 その機械人形は私に挨拶をしたのです。

 彼女はその言葉の意味を理解しているのでしょうか。
 自分がしゃべっていることの意味がわかっているのでしょうか。
 それとも、それは単なる一種のプログラムされた行動なのでしょうか。
 つまり、私が初めて会った人間だから・・・初対面の人間には、そう言うようにプログラムされているのでしょうか。
 
 私は何が起きているのか理解できずに、ただ彼女を見つめていました。
 返事をすることもできませんでした。
 彼女も私をじっと見ていました。
 もしかしたら、私の返事を待っていたのでしょうか。
 やがて、彼女は私のまわりに設置された機械の状態を確認してから、他の人のところへと・・・他の少女が入っている機械の方へと歩いていきました。

 私は、歩いていく彼女の後ろ姿をじっと目で追っていました。
 そのドールは少し壊れているようでした。
 歩き方が変なのです。
 左足が上手く動かないようでした。
 左足の膝の関節に何か問題があるのでしょう。
 彼女は少し引きずるようにして歩いていました。

 彼女は私の隣に寝ている女の子の機械を操作し始めました。
 どうも壊れているのは足だけではないようです。
 右手にも異常があるようでした。
 いつも動かすのは左手だけなのです。
 右手はいつでも肩からぶらりとぶら下がったままなのです。
 きっと動かないのでしょう。

 *

 私や少女たちが閉じ込められていた部屋は、完全に外部から隔離されていました。
 周囲は壁で覆われていて、窓など一つもありません。
 外の光が部屋の中に入り込むことは全くありませんでした。
 部屋の中はいつも薄暗いのです。天井がかすかに光っているだけなのです。人工的な光で・・・
 
 だから、この部屋の中にいると、時刻も時間の経過もわかりません。
 今が昼か夜なのかもわかりません。
 ただ暗い部屋の中に拘束され、定期的に魔力を吸い取られるだけなのです。

 私はここに何日いるのでしょうか。
 もしかすると、何週間もすぎたのでしょうか。
 あるいはもっと長い時間が・・・

 私はまたルークのことを思いました。
 彼は今どこにいるのでしょう。
 私はルークを助けることができませんでした。
 彼の肉体が光の矢で貫かれた時、私は彼の傷を治癒魔法で治してあげようとしました。
 でも、私の体も矢で撃ち抜かれて・・・
 だから、彼はきっと傷ついたまま・・・
 もしかすると、あのまま、あの場所に放置され・・・もう死んでしまったのかもしれません。
 私は悲しい気持ちになりました。

 やっぱり、私は無力なのです。
 私は誰も救うことができないのです。
 今の私にとって一番大切な人・・・ルーク・・・彼さえも助けることができなかったのです。
 もうこんな私には生きている意味などないのかもしれません。

 でも・・・
 それでも、希望を捨てるのはまだ早いような気もします。
 傷ついた私がとらえられた時に、きっと彼も一緒に・・・
 もし、彼もとらえられているのなら、この施設の中にいるのでしょうか。
 でも、彼には魔力などありません。
 つまり、もし人間の目的が魔力を収集することだけなら、彼には価値がないのです。
 だとすると、もはや彼は・・・
 不審者として・・・あるいは敵のスパイとして・・・彼はもう処分されてしまったのでしょうか。

 嫌な思考ばかりが、頭の中をぐるぐると駆け巡り・・・
 
 *

 この部屋には変化がないのです。
 ただ、定期的に機械が私の魔力を吸い出すだけ・・・
 そして、一日に何度かドールが機械の点検に来るだけ・・・
 やはり右足を引きずるようにして歩き・・・動かない右手は肩からぶらさがったまま・・・左手だけで機械を操作し・・・
 きっと同じドールなのでしょう。
 もしかすると、この施設の中に、ドールは一体しかいないのかもしれません。彼女だけ・・・
 
 ドールは一日に何度も点検に来ました。
 そして、いつも私に声をかけるのです。
「こんにちは・・・」
 不思議なことに、彼女が声をかけるのは私だけなのです。
 他の機械の中に嵌め込まれている女の子たちには声をかけないのです。
 理由はわかりません。
 私だけが何か特別なのでしょうか。
 確かに、他の機械の中の少女たちは、ほとんど意識がないようでした。
 激しい疲労からか、あるいは長期間の苦痛によるものか、彼女たちはまるで眠っているかのように・・・
 大量の魔力を全身から吸引され続けて、目を開く力すら残っていないのかもしれません。

 確かにそういう意味では、私は特別なのかもしれません。
 私の体内の魔力にはまだ余裕がありました。
 私も一日に何度も大量の魔力を吸い出されました。でも、まだ、体内には力が残っているのです。
 それは私だけなのかもしれません。
 もちろん、私だって、あのドラゴンとの出会いがなければ、こんなにたくさんの魔力を生成することなどできなかったでしょう。
 ただ魔人の血を引いているというだけで、魔力がたくさん作ることができるわけではないのです。
 私も、ドラゴンに出会う前だったら、そのわずかな魔力を全身から吸い出されれれば、きっと彼女たちのように気を失ってしまったでしょう。
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