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第2章:魔道

お母さん、私を思い出して!(1)

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 私とルークとクティカは、まだ橋の下で生活していました。
 行くところがないからです。
 二軒も宿屋を大破させてしまったから・・・。
 まあ、特に器物損壊の罪で告訴されているわけでもありませんし、似顔絵とか貼られて指名手配されているわけでもないので、知らんぷりして他の宿屋に行けば泊めてくれるでしょう。
 でも、また、何か問題を起こすかもしれません。
 いくらなんでも、これ以上この街の宿屋を壊すわけにはいかないのです。

 だから仕方なく、誰にも迷惑をかけないように、橋の下で寝泊まりしているのです。
 昼はお風呂の代わりに川の水で水浴びをしたり、夜は焚き火を囲んでトランプをして遊んだりして・・・
 通行人が珍しそうに私たちを見ていることもあります。
 その人たちの憐憫のまなざし・・・貧しきものを憐れむ視線・・・
 とても、私たちが世界を救おうなどと大きなことを考えているとは誰も思わないのでしょう。
 どう見ても、私たちは浮浪者・・・・ホームレス・・・乞食・・・

 一番困るのは、そういう人たちがあたりを気にしながら近づいてきて、私たちにそっとお金を渡そうとすること・・・

 ・・・いや、申し訳ないのですが、受け取れません・・・お気持ちだけで十分・・・いや、お気持ちすら結構なのです・・・別にお金がなくて、河岸で寝泊まりしているわけではないのですから・・・ただ、これ以上みなさんにご迷惑をおかけしたくないだけなのですから・・・いや、ホントに・・・
 ・・・ちゃんと、お金は持っているんですよ・・・大金じゃないけど・・・ルークがエロ本買うから、だいぶ減ったけど・・・でも、お金は持っているんです・・・だから、道端に捨てられているダンボール箱の中の猫の赤ちゃんを見つけた時のような表情で私たちを見ないでください・・・
 ・・・はっきり言っておきますが、これでも、私は魔術師なんです・・・だから、ちょっと魔術を組み合わせて使えば・・・店先のものをお金を払わずにいただいたり、歩いている方々の財布の中から金貨だけを私の財布に少々移動させたりすることぐらい簡単にできるんです・・・いや、やってませんよ・・・そんなことはやってません・・・でも、最悪の事態になれば・・・いや、最悪の事態でもそういうことはしませんが・・・いずれにしても、私たちは決して、お金がなくて死んじゃいそう、というような状況でないことだけはご理解を・・・

 これでも私たちは、この混乱した世界から人類を救おうとしているのです。
 これは間違いありません。
 うまくいくかどうかはわかりませんが・・・

 *

 最近、この街にラーメン屋があることを知りました。
 そうです。ラーメン屋です。
 この世界にもラーメンがあるのです。
 これは、このクルドークという国に来てからの最大の発見と言ってもよいでしょう・・・いや、転生して以来の最大の発見と言っても・・・この世界にもラーメンがあるのです・・・ずるずるずるずる・・・何と言う幸福・・・

 でも、ラーメン屋は一軒しかないようです。
 こんな大きな街なのに一軒しかない・・・ということは、やっぱり転生する前の世界とはだいぶ違うようですね。
 確か、東京駅の近くには、ラーメンストリートとか言って、ずらずらずらずらラーメン屋ばかりが並んでいるエリアもありました。
 もうこっちの世界に転生してから、だいぶ時間が過ぎたので、今でもあるのかどうかはわかりませんが・・・

 だから、こっちの世界では、それほど熱狂的なラーメンブームというわけではないようです。
 でも、ラーメンはあります。
 こんな大きな街に一軒しかないのですが、そうだとしても、ラーメン屋があるのです。
 私はそれで満足・・・

 私たちは毎日のようにそこへ・・・
 クティカとルークはそれほど喜んでいませんでしたが、私はもう狂ったように嬉しくて・・・
 ラーメンと言っても、ちゃんと、塩ラーメンとか、味噌ラーメンとか、醤油ラーメンとかあるんです。
 ただ、とんこつラーメンはありませんでした。
 やっぱりベジタリアンだから、豚の骨というのは使わないのでしょうね。
 もちろん、魚介系のあっさり味というようなものもありません。
 魚も食べないんですね・・・がっかり・・・
 トッピングはもやしとか野菜とか・・・チャーシューがない・・・悲しいです・・・
 でも、無いものに文句をつけても仕方ありません。
 ラーメンという食べ物があるだけで十分です。
 私は幸せです。
 何なら、魔物を倒すという旅の目的なんかどっかに捨ててしまって、この店でアルバイトとして働いて、毎日ラーメンを食べたい・・・と思っているぐらいです。

 ちなみに、インスタントラーメンなるものも、この街のどこかで売っているそうです。
 今度探してみることにします。
 この街を出る時には、たくさん購入していくつもりです。

 *

 ラーメンに未練があることは否定できないのですが、それでも私たちは、そろそろ街を出ようと考えていました。(まあ、未練があるのは私だけのようですが・・・)
 まずは海の方へ向かって港町まで・・・そこから、船に乗って海を渡ろうとしていました。
 海の向こうには、大きな大陸が・・・イジリア大陸・・・そこには昔は大勢の人間が住んでいたのですが、今は魔物に支配されています。
 しかし、何とかして、それを取り戻そうとして、人間と魔人が戦争をしているのです。
 私たちはその大陸へ向かおうとしていました。
 大陸にわたり、長い間続いている戦争を終わらせるのです。
 そして、人類の平和を取り戻すのです。

 でも、私もルークもクティカのことを気にしていました。
 さすがに、彼女をこれからの旅に連れて行くことはできません。魔物が支配する大陸へ一緒に行くなんて、あまりにも危険すぎて・・・
 しかし、だからと言って、この街にただ置き去りにしていくのもひどいです。
 引き取ってくれる人を探さなければなりません。
 
 クティカはあの宿屋で、魔物に体を蝕まれていました。
 魔物に喰われながら、その肉体を魔力で再生するという恐ろしい生活を続けていたのです。
 そのせいで、魔力がなくては生きていけない状態になっていました。
 だから、私が毎日彼女に魔の力を・・・
 でも、彼女は次第に普通の人間に戻り始めているのです。
 ルークは胸が小さくなっていくと言って寂しがっていますが、普通の少女の体に戻っていっているのです。
 最近は、ほとんど魔力がなくても生活できるようになってきているのです。
 もう少しすれば、きっと完全に魔力なしで生きていけるようになるでしょう。
 そうすれば、普通の人間としての生活ができます。

 そうなれば、きっと理解してくれて彼女を引き取ってくれる人がいるはず・・・そういう人を見つけなければ・・・
 でも、その前に、一つしなければならないことがあります。
 それは、彼女の母親が探すこと・・・。
 行方不明になっている彼女の母親を・・・。

 彼女の母親はどこにいるのでしょうか。
 魔物に捉えられた彼女の母親・・・
 きっと、街の中央にある、あの廃城なのです。
 以前私が潜入した、あの城の中に・・・
 あそこには、たくさんの若い女性が捉えられ・・・魔物の細胞を注入され、妊娠し・・・魔物と人間の血の混ざった子供を産み続けているのです。
 それは、魔物がこの人間社会をゆっくりと淘汰していくためにやっていること・・・
 彼女の母親もまだ若いので、きっとあそこに捉えられて・・・

 でも、どうやって、あの城に入り、彼女の母親を救い出せばいいのでしょうか。
 彼女の母親を見つけ出すには、クティカも連れて行かなければなりません。
 私とルークも含めて、三人であの城に入りこむ方法を・・・
 そのためには正攻法しかない、というのがルークの意見でした。
 なるべく見つからないようにして入り込むにしても、相手と戦うことを前提にしておかなければ・・・それが彼の意見・・・。
 おそらく正論でしょう。・・・
 
 しかし、そのためには、今の戦力ではダメなのです。
 力が足りないのです。
 私たちはもっと強くならなければ・・・
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