上 下
23 / 94
第2章:魔道

魔界へつながる道(1)

しおりを挟む
 私たちは国境を超えて、ゾルドからクルドークという王国に入りました。
 ゾルドは比較的平和な国でしたが、このクルドークにはたくさんの魔物が・・・そして、たくさんの魔人がいるので気をつけなければなりません。
 私とルークは毎日警戒を怠らないようにしながら、旅を続けていました。
 でも、今のところ、襲ってくる魔物はいません。

 ルークは山道を歩きながら、クルドークという国について教えてくれました。
 クルドークはこれまで旅してきたゾルドとは比較にならないほど栄えているのだと。
 商業や工業が盛んで、たくさんの人間が住んでいるのだと。
 だから、その中に魔人が紛れ込んでいるのだと。
 大勢の人間がいるので、中に魔物が紛れ込んでいても、誰も気が付かないのだと。

 彼は、この国のことをよく知っていました。
 まるで、何度も行ったことがあるような口ぶりで話すのです。
 時々私は不思議な気分になりました。・・・
 ・・・もしかしたら、彼は、今私たちが旅をしているのと同じ道を歩いたことがあるのかもしれない・・・
 それは、誰と?・・・
 以前のソフィアと? あるいは別の人と? それとも一人でで?・・・
 よくわかりません。
 でも、彼は同じ旅を何度も繰り返しているような気がして・・・
 どうして、私はそんなことを思うのでしょうか。

 私たちは、テリクという街に向かっていました。
 そこは、クルドーク第二の都市で、人口も多く、・・・

 私たちは長い山道を歩いていました。
 いくら国が栄えていると言っても、私が以前住んでいた日本とは違います。
 鉄道が通っていて列車が轟音を立てながら走行しているわけでもなく、高速道路があってひっきりなしにトラックが走っているわけでもなく・・・山中に細い道が続いているだけ・・・馬車がやっと通れるぐらいの細い道が・・・
 私の頭には、ふと、東京大阪間約2時間などという言葉が浮かんできました。

 ・・・ああ、なつかしい・・・

 今でも時々、転生する前の生活を思い出します。
 でも、以前と違って、前の世界に戻りたいというような衝動が起きなくなりました。
 私はこの世界でやるべきことがある・・・私がこの世界で生きているのには意味がある・・・だから、私は・・・

 しばらく歩くと、やっと山間に巨大な都市が見え始めました。
 さすがに、クルドーク王国第二の都市ですね・・・この世界でこんな大きな街を見るのは初めてでした。
 ほとんどが石造りの建物でしたが、中央には高い建築物が密集して建てられていて、その中には高い塔がいくつもそびえていて、教会らしき建物や劇場のような大きな施設もあり・・・しかも、周囲には高い城壁も作られていました。
 街をぐるりと囲いこんでいる頑丈な石の壁・・・街の人々を守るための厚い壁・・・それは街の中と外を明確に区別し・・・

 山間部を抜けると、街までは野原が続いていました。
 とても歩きやすい場所でした。
 きれいな草花がたくさん・・・
 でも、時々奇妙な植物も・・・真っ黒な花や、紫色の葉っぱの植物・・・
 それらは、見たこともないような異様な形状をしていて・・・
 しかも、不思議なことに、街に近づくにつれて、そういう奇妙な植物を多く見るようになったのです。
 それは明らかに魔界の植物でした。
 魔の植物がこの世界に溢れ出ているのです。
 つまり、このあたりは、魔の力の支配が強いのです。

 ルークは立ち止まってしゃがむと、派手な色の魔植物を手でつまみながら言いました。
「こういう魔界の植物には気をつけないと・・・襲ってくることはありませんが・・・うっかり食べるとお腹を壊しますよ・・・」

 ・・・え?! そういうことをルークに言われたくない・・・この前、魔キノコを食べてお腹を壊したのは誰だっけ?・・・それで私、大変な目にあったんだから・・・まあ、最後にはルークに助けられたけど・・・
 
 それにしても、街に近づくにつれて、魔界の植物が増えていくというのはどういうことなのでしょうか。
 魔物の力が強まっているということなのでしょうか。
 街に潜んでいる魔物たちのエネルギーが漏れ出しているということなのでしょうか。
 でも、ルークは違うというのです。
「もう、このあたりまで来ると、魔界から直接魔力が流れ込んでいるんです」

 魔界の植物が生えているあたりを探ると、地面に小さな黒い穴があるのです。
 確かにその穴から魔力が流れ込んできているようなのです。

 ルークは私に、
「これは、魔界につながる小さな穴です。つまり、それは魔界とこの世の境界面の裂け目なのです・・・魔植物がたくさん生えているあたりには、必ずこういう小さな穴があって、それが魔力の源になっているんです」
 彼の説明では、これらは小さな裂け目なので、そこから魔物や魔人が入ってきたりすることはないのだと。
 魔力は漏れ出してくる程度で、魔植物の種子などの小さなものが飛んでくるだけだと。
 でも、その穴はいずれ大きくなるかもしれないのだと。
 だから、そういう小さな魔界の穴でも危険なのだと。

 私は、見つけるたびに、魔法でその魔界の穴を塞ぎ、もう二度と魔力が入ってこないように封印しました。
 しかし、そんな穴は無数にあるのです。
 全てを私一人で塞ぐことなどできません。
 私はルークに、
「ねえ、こんなにいっぱいあるのに、これ全部封印することなんてできないよ」
「そうですね、たくさんありますからね」

 ルークの話では、本当に危険なのは、魔道と言われるもっと大きな穴なのだと。
 その魔道は、魔物や魔人が通り抜けることができるのだと。
 そして、これから向かうテリクという都市にはそういう魔道がたくさんあるのだと。
 私たちはそれを見つけて塞がなければならないのだと。

 魔道を塞ぐ・・・そんなことが私に本当にできるのでしょうか。何となく不安な気持ちになりました。

 ルークは言いました。
「そうしないと、たくさんの少女がさらわれて・・・毎日のように・・・そして、魔人の餌食になって・・・今でも、大勢の女性たちが、魔物に苦しみながら・・・」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...