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第1章:魔物
悲しいドラゴン(5)
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ドラゴンは近くに立っている私たちに気がついているようでした。
そのメスのドラゴンは私たちをじっと見つめていました。
警戒。
彼女はまだ、卵を守ろうとしているのです。割れて干からびた卵を・・・
母親として・・・
私は耐えられないほど悲しい気持ちでした。
なぜなのかわかりません。
それは魔物なのです。それは魔界の生き物なのです。人間を食べるのかもしれない生き物なのです。私だって、今すぐに食べられてしまうのかもしれないのです。
でも・・・それでも・・・私はなぜか悲しい気持ちでした。
私は卵に近づきました。
それは危険な行為でした。
相手は私を警戒しているのです。
いつ攻撃してくるかわかりません。
あの巨大な生き物と戦って勝てるわけがありません。
私は死んでしまうかもしれません。
それなのに、私は卵に近付いて行きました。
私は自分が何をやっているのかわからなくなっていたのです。
私は気が狂っていたのです。
私は卵に近づいて行き・・・殻の割れた卵に・・・
すると、心の中から声が聞こえてきたのです。
初めて聞く呪文。
《ーーーー》
それは治癒魔法の一種でした。
しかし、今まで私が使ってきた初級魔法や、ルークの腕を治した再生魔法とも違いました。
全く新しい魔法・・・そして、非常に難しい魔法・・・
それは、私一人では行うことができないのです。
彼女の力が・・・そのドラゴンの力が・・・母親としての力が必要なのです。
母鳥の助けが必要なのです。
どうやって話しかければいいのですか? どうやって説明すればいいのですか?
相手は言葉が通じない動物なのに・・・相手は人間を襲う恐ろしい魔界の生き物なのに・・・
しかし、彼女は私の意志を理解したようでした。
なぜ彼女に私の気持ちが通じたのかは、よくわかりません。
それも魔術の一部だったのかもしれません。あるいは、もっと強い力が私と母鳥の間で働いていたのかも・・・
彼女は、私が何をしようとしているのかを理解し、そして、その母鳥は、私の意志を受け入れたのです。
私と、私の中にいる昔のソフィアの意志と、その母鳥の心が一つになり・・・魔力が共鳴し・・・イメージが重なり合い・・・そして、私たちは一つの呪文を詠唱し続けたのです。
それは、蘇生の魔法でした。
蘇生・・・
私たちは、割れた卵の中のヒナを蘇生させようとしたのです。
何十年も前に死んでしまい、もうとっくに干からびてしまっているドラゴンのヒナを・・・
そのためには膨大なエネルギーが必要でした。
そして、生き物を蘇生させるためには、膨大な情報が・・・生物を隅々まで正確に再生させるための詳細なイメージが必要でした。
でも、それをやったのです。
私たちはそれを実行したのです。
やがて、ヒナが動き出し・・・殻をやぶって出てきたのです・・・そして、すぐに羽を動かし・・・羽ばたき・・・母親のドラゴンのまわりを飛び回り始め・・・
私は力尽きて倒れていました。
ドラゴンはその羽でやさしく私を撫でてくれました。
それから、ヒナを背中に乗せると、魔界へと飛び立っていきました。
私はしばらく倒れたままでした。
しかし、私は感じていました。
そのドラゴンが私に与えてくれたもの・・・それはきっとお礼・・・
私は膨大な魔力を与えられ・・・そして、特別な魔法も・・・
ルークは私に近づき、尋ねました。
「大丈夫ですか?」
私は返事をすることすらできませんでした。
すると、彼は言ったのです。
「ソフィアさん、ありがとうございます」
その言葉で、私はいろいろなことを理解しました。
彼は最初から、そのドラゴンを倒そうとはしていなかったのです。
彼はわかっていたんです。何が起きているのか、最初から知っていたんです。・・・
もしかしたら、村に入った時から・・・村に入って、村人に石を投げつけられた時から・・・
あの時、彼が悲しい表情をしたのは、もしかしたら・・・
ルークは動けない私を背負うと、村に向かって歩き始めました。
私は彼の背中を感じながら、なぜか幸せな気分に・・・
そのメスのドラゴンは私たちをじっと見つめていました。
警戒。
彼女はまだ、卵を守ろうとしているのです。割れて干からびた卵を・・・
母親として・・・
私は耐えられないほど悲しい気持ちでした。
なぜなのかわかりません。
それは魔物なのです。それは魔界の生き物なのです。人間を食べるのかもしれない生き物なのです。私だって、今すぐに食べられてしまうのかもしれないのです。
でも・・・それでも・・・私はなぜか悲しい気持ちでした。
私は卵に近づきました。
それは危険な行為でした。
相手は私を警戒しているのです。
いつ攻撃してくるかわかりません。
あの巨大な生き物と戦って勝てるわけがありません。
私は死んでしまうかもしれません。
それなのに、私は卵に近付いて行きました。
私は自分が何をやっているのかわからなくなっていたのです。
私は気が狂っていたのです。
私は卵に近づいて行き・・・殻の割れた卵に・・・
すると、心の中から声が聞こえてきたのです。
初めて聞く呪文。
《ーーーー》
それは治癒魔法の一種でした。
しかし、今まで私が使ってきた初級魔法や、ルークの腕を治した再生魔法とも違いました。
全く新しい魔法・・・そして、非常に難しい魔法・・・
それは、私一人では行うことができないのです。
彼女の力が・・・そのドラゴンの力が・・・母親としての力が必要なのです。
母鳥の助けが必要なのです。
どうやって話しかければいいのですか? どうやって説明すればいいのですか?
相手は言葉が通じない動物なのに・・・相手は人間を襲う恐ろしい魔界の生き物なのに・・・
しかし、彼女は私の意志を理解したようでした。
なぜ彼女に私の気持ちが通じたのかは、よくわかりません。
それも魔術の一部だったのかもしれません。あるいは、もっと強い力が私と母鳥の間で働いていたのかも・・・
彼女は、私が何をしようとしているのかを理解し、そして、その母鳥は、私の意志を受け入れたのです。
私と、私の中にいる昔のソフィアの意志と、その母鳥の心が一つになり・・・魔力が共鳴し・・・イメージが重なり合い・・・そして、私たちは一つの呪文を詠唱し続けたのです。
それは、蘇生の魔法でした。
蘇生・・・
私たちは、割れた卵の中のヒナを蘇生させようとしたのです。
何十年も前に死んでしまい、もうとっくに干からびてしまっているドラゴンのヒナを・・・
そのためには膨大なエネルギーが必要でした。
そして、生き物を蘇生させるためには、膨大な情報が・・・生物を隅々まで正確に再生させるための詳細なイメージが必要でした。
でも、それをやったのです。
私たちはそれを実行したのです。
やがて、ヒナが動き出し・・・殻をやぶって出てきたのです・・・そして、すぐに羽を動かし・・・羽ばたき・・・母親のドラゴンのまわりを飛び回り始め・・・
私は力尽きて倒れていました。
ドラゴンはその羽でやさしく私を撫でてくれました。
それから、ヒナを背中に乗せると、魔界へと飛び立っていきました。
私はしばらく倒れたままでした。
しかし、私は感じていました。
そのドラゴンが私に与えてくれたもの・・・それはきっとお礼・・・
私は膨大な魔力を与えられ・・・そして、特別な魔法も・・・
ルークは私に近づき、尋ねました。
「大丈夫ですか?」
私は返事をすることすらできませんでした。
すると、彼は言ったのです。
「ソフィアさん、ありがとうございます」
その言葉で、私はいろいろなことを理解しました。
彼は最初から、そのドラゴンを倒そうとはしていなかったのです。
彼はわかっていたんです。何が起きているのか、最初から知っていたんです。・・・
もしかしたら、村に入った時から・・・村に入って、村人に石を投げつけられた時から・・・
あの時、彼が悲しい表情をしたのは、もしかしたら・・・
ルークは動けない私を背負うと、村に向かって歩き始めました。
私は彼の背中を感じながら、なぜか幸せな気分に・・・
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