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真のゲームが動き出す

ゲームという名の檻

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「オースティンにボコボコにされているからから、とりあえずラフレアを頼むよ」


クロフォード達に抱き寄せられながら出てきたラフレアの手をとった。


「私は、逃げてって言ったのに」


「リリアーヌとマルガリータに償いがしたかったの。いざとなったらラフレアでした~残念だったなバーカって言ってやるつもりだったの」


「それは襲われる前提よね?笑えないわ」


「まぁ~問題無かったから。本当にカツラだけで騙されるなんて、アイツは頭がおかしいって。気持ち悪い」


赤いチョーカーが見えなかった様です。


盲目にも程があります。


私はラフレアのチョーカーを外し、そっと首に手を当てキスを落とすと、痣のように施された魔法がパキンと音を立てて壊れた。


「魔法をかけると言われた時に、私に解除方法を教えてくれる事を条件に入れてもらったの。解除するにはラフレアが私に悪意を抱かない状態で、触れられることが第一条件だったから、中々解放してあげられなくて、ごめんなさいね」


「解除方法を知っているのは?」


「教えて欲しいと言っていたのは、私だけだったから」


「ごめんなさい。やっぱりヒロインの資格はなかったわ」


落ち込んでしまっているラフレアの頭を撫でてあげる。


「私も前世の記憶があったけど、ゲームは知らないから、ラフレアの言っていることを理解してあげられなかったけど、何かに必死なのは分かっていたから」


「本当に自分以外に何にも見えてなかったんだね」


「さぁ、みんな元の世界に戻ろう」


クロフォード様の言葉に、私とラフレアはキョトンとしてしまった。


「このゲームの世界は、アイツを閉じ込める為の檻なんだ。アイツは命を奪い過ぎた。幼い少女から成人女性に、その家族と転生する度に周りの人間を殺しているんだ。既に神様が見過ごせないレベルの殺人鬼なんだよ」


「元の世界?」


「私とお父さんが協力する代わりに、アイツが居なかった世界に戻してもらうの。私がジャスパーに襲われる前に戻してくれる約束なの」


元の世界に戻してくれる?やはりゲームだったの?


「待って………オースティンは?」


部屋から出てこない愛する人と、このまま離れたくない。


それに何故、オースティンは部屋から出てこないの?


不安になり部屋に入ると、異様な光景が目に飛び込んできた。


壁から伸びた無数の手に羽交い締めにされたジャスパーの服が避け、晒して巻いた胸の谷間が顕になっていた。


「あ………ジャスパーは女の子?」


「来てしまったのか、リリー」


「だってオースティンが戻って来ないから」


複雑そうに微笑んだオースティンが、私を抱き寄せた。


「ジャスパーは、リリー達以外にも女性達を襲って殺してる。だから同じ苦しみを味あわせる為にはアイツを女に転生させる必要があったんだ。このゲームはアイツを捕らえる檻であり、天罰を下す舞台を整える為に用意された仮の世界なんだよ。あの腕はゲームの世界の被害者達の腕だ」


女の子に生まれ変わっても、本質が変わらないどころか、さらに悪化し手当り次第に少女達を拉致して殺したそうです。


行方不明だと噂されていた人達は、ゲームの世界の為に用意された仮の人間で、世界を作り上げた神様が作った人形だったのだとか。


「オースティンも知っているのね?」


「あぁ、オレも愛する人を奪われてたからな」


真っ直ぐ見詰める目には、泣いている私の顔が写っていた。


「オースティンには、私よりも愛する人がいるのね?」


「違う」


「でも」


「オレはリリ………百合が生きる世界から来た」


でも私の前世の記憶にはオースティンは居ない。


「攻略対象者は、全て百合と花菜の周りにいたんだ」


「オースティンも?」


「あぁ」


大きな手が私の頬を撫で、おデコにキスを落とす。


「オレは百合の未来で待ってる。必ず百合を好きになる」


「未来………花菜が襲われる前に戻してくれるって言っていたから、その先で出逢えるの?」


「オレは百合を知っている」


「私の記憶には………あっ………花菜の関係者?」


「そうだけど、少し違うな」


チュッと音を立てて唇にキスをされた。


「オレはニュースで百合が殺された事を知った。話し掛ける前で出会ってないけど、好きだった。百合の瞳に映る前にアイツに殺された悔しさで、オレがジャスパーを殺そうとしたんだ」


私が死んだ後の事を教えてくれた。


私がヤリ殺された直後に、家に帰って来た家族も刺されたけど、両親の傷が浅く助かった事。


生き残った両親が娘を失った苦しみを味わい、ジャスパーの家族が世間の非難にさらされ地獄を見た事。


アイツの家族と一緒に、ジャスパーを殺した事。


その場にオースティンも居合わせた事。


「オレは最初からリリーが百合の記憶がある事を知ってた。そして生きている百合に会えて嬉しくて、また好きになった」


今度は深く口付けられる。


ゆっくり角度を変えながら舌が口の中を入ってくる。


私は彼に応えるように腕を首に回し、自分も舌を絡ませた。


舌が痺れるほどキスをする。


離れたくなくて、腕を外す事なんてできない。


離れた唇の間に糸が光った。


その糸をオースティンの舌が舐めとる様に、またキスをする。


「これ以上は時間が無い。きっと逢いに行くから」


「やだ。離れたくない」


「オレもだよ。やっと百合と恋人同士になれて、婚約までてできて幸せだった。このまま終わらせたくない」


力いっぱい抱きしめ合って、隙間を作りたくなくて痛いくらいくっ付いていました。


「でも、このゲームの中にい続ける事はできない。百合とジャスパーが同じ空間に居らさせるなんて我慢できない」


被害者の腕に捕らわれたジャスパーが、私を見て笑っている。


「百合を置いて行けば、他の女なんて殺さないし触らないけど」


「黙れ!オレは百合の記憶を話してくれた事で全てを思い出した。お前は百合以外の女性も襲い殺してる。そして女に生まれ変わったゲームの中でも、お前は変わらなかった。同性である少女達を拉致して殺し続けた。そんな奴がいる世界に百合を置いていくはずが無い」


「だが百合ちゃんを1人だけ犠牲にすれば解決する」


ジャスパーの言葉にオースティンは鼻で笑った。


「分かってないんだな。このゲームは解決するかの判定も兼ねていたんだ。お前は改心させるに値しないと判断されたんだ。勘違いするなよ。お前は手遅れなんだ」


ここにきて初めてジャスパーが顔色を変えた。


「ここにリリーがいる理由は、お前が最初から存在しない世界に作り替える為だ。囮でも犠牲でも無い。これ以上はリリーを傷付けさせない!」


オースティンの言葉に反応する様に、屋敷の壁等からミシミシと嫌な音がし始める。


「お前だけを残してゲームは収束するんだよ。後は神のみぞ知るってヤツだな。苦しむジャスパーを見られないのは残念だが、リリーはソレを望んだりしない。だから知る必要は無い」


私の中にあった”これは誰の為のゲームなのか”という疑問の答えと共に、世界が収縮を始めた。


世界が壊れる音を聞きながらオースティンと抱きしめ合っていた。


「きっと逢いに行くから」


彼の言葉を最後に、私は意識を手放した。
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