モブっと異世界転生

月夜の庭

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獣耳イケメン王子達とドキドキ学園ライフ

1つの恋が終わる時***ジャスパー

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「おはよう」

まだ薄暗い早朝に、ラベンダー色の可愛い義理の妹が訪ねてきた。特に驚きもしなかった。


やっと彼女は、僕を断罪しに来たんだと安堵にも似た寂しさを感じていた。


「カメリアから聞いたんだけど。ジャスパーお兄様は、どこまで前世の記憶が有るの?」


大きな目をクリクリさせて、小さな頭を傾げる可愛い妹に罵倒されるであろうと身構えてしまう。


「私はね。身体と心も傷だらけの男の子が、心配で仕方なかったの。死んだ………殺した両親の亡霊に取り憑かれている事に気が付かず傷を増やす男の子が心配で仕方なかった」


殺したと言い換えたのだから、全て思い出したんだと理解した。


「私が死んだ後のことは知らなけど、もう前世とか忘れなよ」


「は?」


「今のジャスパーお兄様は、あの時の男の子じゃ無いよ」


「俺は殺人鬼だ」


「もしかして、その中に私も含まれているなら間違いだよ。私は殺されてない。逃げずに寄り添う事を選択して寿命がきたの」


「違う。サクラは………まだ7歳だった。サクラが7歳に近付くだけで怖かったんだ。また目の前で消えてしましそうで、長期休暇でも帰れなかった。でも大怪我をおって重症だと聞いた時は心臓が止まるかと思った。僕が近くに居なくてもサクラが死ぬかもしれない現実に頭が………おかしくなりそうだった」


僕が近くに居なければ、サクラは死なずに済むんじゃないかと思ったから、可愛いのに大事にしたいのに近付くのが怖かった。


どんなに手紙に気持ちを書きなぐっても、会うのが怖かった。


また、僕が殺してしまいそうな恐怖に震えるていた。


あんなに女共を殺してきたのに、サクラの死だけが恐ろしかった。


また心も身体も凍えるように冷え切って、息を吸うように人を殺したくなるのではないかと思う気持ちを軽くしてくれたのはサクラだけだった。

サクラは、僕が この世で一番大切にしたい女の子だ。


でもサクラは番じゃ無かった。


これも天罰なのかもしれない。


ずっと求め欲しかった女の子とは違う番を用意して、サクラが他の野郎と幸せになる姿を指を咥えて見守れという罰。


しかも番が……………サクラの面影を求め奪い尽くした女の子に瓜二つだった。


身体が番を求める一方で、それを暖かく見守るしかサクラの視線に苛立ちを感じていた。


嫉妬し怒り狂って欲しかった。


だが目の前のサクラは、ただ静かに微笑むだけだった。


「お兄様、もう過去を見る必要は無いんだよ。未来を見て幸せになって」


「サクラが居ない幸せに興味は無い」


「居なくならないよ。私は妹だよ。お兄様が誰と結婚しても、私はジャスパーお兄様の家族だよ」


サクラの優しさは毒にも似ている。残酷な程に染み渡り、僕を突き放している事を知らない。それでもサクラが生きていてくれるなら、僕は我慢してみせる。


「そんだな。サクラは………僕の義妹いもうとだ」


僕達は本当の兄妹じゃ無い。でも結婚は出来ない。僕はレオ父さんの弟だから。僕を産んでくれた両親は悪天候の中、乗っていた馬車が転落して亡くなった。一緒に乗っていた僕を2人が庇うように折り重なって死んでいた。僕を生かし、守る為に死んだ両親。そして僕を養子にしてくれて大事に育ててくれた兄夫婦。僕が欲しかった優しい家族。


でも、本当に欲しかった女の子だけは、僕の手には入らない。





その言葉は呪いの様に、サクラとは結婚出来ないっだと、この手が届かないんだと思い知らせる。


認めなくなかった。妹だなんて認めなくなかった。姪なんだと打ち明けても、さほど事態は変わらない。それでも足掻きたかった。サクラと一緒に幸せになれるのではないかと模索していた。


それを嘲笑うかのように、目の前に番が現れた。


本能はサクラでは無い、黒髪の女の子を求めている。優しい声で名を呼ばれれば得体の知れない喜びが湧き上がり、擦り寄られれば舞い上がりそうな自分に苦笑いするしかなかった。


僕は前世で人を殺し過ぎた。そして罪悪感なんて無かった僕は、サクラの死だけが恐ろしかった。また失えば、きっと奥底に眠る殺人鬼が目を覚ますだろう。


「ジャスパーお兄様は、真面目で誠実な養護教諭を務める猫族だよ。人殺しなんかじゃない。私の大切な家族だよ」


過去との決別。それはサクラとの別れも意味していた。


「あぁ、サクラは僕の妹だ」


サクラが作ってくれた朝食を二人で食べ、一緒に学園に手を繋いで向かい玄関で別れた。


とても幸せな夢を見た気がしていた。それから1人で保健室に向かい、誰も居ないソコに入り扉を閉めた途端に、言い様のない寂しさと大量の涙が溢れ出した。


「涙って塩っぱいんだな。知らなかったよ」


そして一週間後、僕は異世界から来た女の子と婚約した事が学園中に広がり、兄夫婦………いや、両親に紹介しろと手紙で催促された。


そんな僕を見たノエルが、何も言わずに背中を叩いて去っていった。


これは、いつか訪れるノエルの未来でもあった。


「僕は兄さんと違って、ちゃん妹としてサクラを大事にしているんだ………なんて言っても聴こえないだろうけど」

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