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第五十八話 合同訓練

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━━━━━━

 昴side



「館内の警備に関してはこれでいいだろう。宗介、子供達はどうする?」
「立派な戦力になるが、親分がな…」

「身を守るならいいけど、最前線はダメ」
「そうだよなぁ…そもそも必要か?」

「ボスの目が覚めたら連絡が来るようにしてあるんだ、どうせ暇だし訓練すりゃいい。相手方がどう出るかわからんなら戦力は保持すべきだろ?」
「そりゃそうだけど、一朝一夕に行くのか?」

「元々兵隊としてはまぁまぁのレベルだ。と言うかお前達の実力見てねぇな?そこからか」
「そうだな…せっかく宗介がいるんだもんな。有効活用しよう」

「人を便利道具みたいに言ってんじゃねぇ」
「宗介は必要とされて嬉しいだろ?」
「ウルセェ」


 はは、と笑った千尋がこっちにやってくる。

 組織メンバーでミーティングをして、見張りの順番や今後の活動をまとめて…施設内について追加で蒼と千尋と宗介さんが話していたんだが…。急に三人の距離が近くなっているような気がする。


「なんか、仲良くなったな?」

「あぁ…まぁな。昨日ちょっとあって」
「そのちょっとの内容は?聞かせてくれないの?」
「そうだぞ。夫間の中で隠し事は良くない」


 うーん、と千尋が唸る。

「慧なら…いいかな…うーん」
「何故だ!どうして俺は除外された!?」
「宗介の切ない恋心の話は、昴には理解できん」
「あっ、なるほどね。それは納得した。あとで聞かせて」
「おう」




 …くっ。俺だけ除け者か。何かがあったのはわかる。蒼の宗介さんに対する態度が明らかに変わってる。
 名前で呼んでるし、対等な位置どりになっている感じだ。
 宗介さんは蒼の手を握ったり、頭を撫でたり…昨日あった妙な違和感はない。
 千尋とも息が合っている。お互いの心のうちを曝け出し合った仲間のようだ。




「そんじゃま、やろうぜ。蒼の同期達も呼んだからよ。」
「「「えっ!?」」」

「子供達も来るからな」
「「「えっ!??」」」

「あはは。うちの旦那さんが強いところ、見せないとね」
「「「うっ!」」」

 冷や汗がたらり、と流れる。
 コレはまずいことになった…。



 ━━━━━━

「うわー。余裕ぶってた俺を殴りたい…」
「右に同じく」
「左に同じく」



 ケイが呟き、俺も千尋も同意せざるを得ない…。
訓練施設に移動して射撃場にやってきたがものすごい施設だ。だだっ広い空間、飛距離が最大1km。
 …使うのはハンドガンだよな?子供達に囲まれた蒼と、蒼の同期達。
 蒼以外は全員白髪、赤目だ…顔は本当に似てる。見分けがつくのはつくが、仕草や声まで似ているとは聞いてない。
 髪型や服装が違うものの、動いていると胸がザワザワする。



「099本当に変わらないね!でもおっぱい大きくなった?」
「なぁんでそう言うこと言うの?宗介みたい」
「…誰それ」
「先生の名前。みんなも知らないの?」 
「知らないよ。099が知ってるのは納得だよね」

「な、なんで納得なの?」
「だって明らかに好きだって、目が言ってたもん」 
「だよねぇ。気づいてないの099だけだったよ」
「それで、どんな感じ?キスした?くっついたんでしょ?」
「違うでしょ?先生は振られて、旦那さんがいるんだよね?どの人?」

 大勢の目が俺たちに一斉に目線を送ってくる。



「三人…です」
「えぇ?」
「三人…」
「す、すごいね?」

「私も恋人欲しいな」
「099紹介してよ~。わたしあのガチムチの人がいい」
「スネークのこと?スナイパーさんだし、優しいよ」

「わたしは白いロングヘアの…真っ黒の人」
「銀…はどうだろう…かっこいいけどなぁ…」
「わたしあの小さい人。可愛いよね」
「桃はいい子だよ!」

「わたしは旦那さんの…灰色の目の人がいいなぁ」
「ちょっと。ダメ。わたしの旦那さんだから」
「一人くらいいいじゃない?」
「ダメ」

「099にお熱ならいけるんじゃない?わたし肌の色が濃いめの青い目の人がいいなー!かっこいい」
「確かにかっこいいと思う」
「私はもう一人の人~。髪の毛長いのツボなの。背が高いし優しそうなイケメンだよね」
「もう!ダメ。私の旦那さんなんだから!好みまで似るのやめて」

ドギマギしてしまうじゃないか。
…蒼がいちいち納得してるのはものすごくうれしいが。 



「ほれほれ。姦しいなお前ら…とりあえず順番にやるか。お前達は卒業後のテストだ」

 はい、と揃った声が返事を返す。
 …昔はこれが百人?同時に?
 ブースはかなりの数があるから、確かに…出来なくはないが。

 宗介さんが合図をすると、全員同時にハンドガンを装備する。
 蒼もするのか…。自分のM9を装備してる。



 宗介さんが蒼を眺めて眉を下げる。
 これは蒼がやりたいって言ったんだな。

「蒼…腹がおかしくなったら言えよ?無理すんな」
「うん」

「ねー!聞いた!?無理すんなだって!」
「先生…まだ諦めてないの?」
「三人も旦那さんがいるのに…」


「ウルセェ。5.5.4速射。マガジン3。連続交換だ」



 宗介さんの言葉で全員の気配が一斉に張り詰める。…すごいな。殺気で鳥肌が立つ程だ。



「ようい…撃て!」

 ものすごい速さでハンドガンが発射される。全員のリズムが揃っていたが、マガジンの交換が続くにつれ徐々にずれ始めて、蒼が最初に手を上げる。

「的確認お願いします」

 言いながら空薬莢を拾い、バスケットに入れる。
 双眼鏡を覗いた宗介さんがニヤリ、と笑って蒼の頭を撫でた。
 蒼はM9だから弾が一発多いがやはり早い…宗介さんの優秀発言は依怙贔屓では無さそうだ。


「的確認お願いします!」



 次々に手が上がる。
 全員同じ姿勢で的確認を待ち、手を挙げた順に的を確認してもらっている。
 彼女達もすごいが、宗介さん…よく見分けがつくな…。バラバラに挙げられる声は全く同じにしか聞こえない。

 蒼だけ、少し高い声だ。全員耳障りの良い中高音だが若干低めにバラけて入るようだな…。
 百人同時にこれを見ていた過去がある宗介さんが末恐ろしい。



「お前手癖が抜けてねぇな。左手が捻じれてんだよ。直せ」
「すみません…」  

 しょんぼりした声を上げた子が頭を差し出す。それをポン、と軽く抑えて宗介さんが次の子へ。


「えっ?!ゲンコツなし?」
「うそ…何が起きてるの?」
「宗介はもうゲンコツしないの」

 得意げに笑う蒼に他の子達がびっくりしてる。…なるほど。蒼が何かしたな。



「よし。各位ガンホルダーに戻せ。おい、旦那共出番だぞ」

 頑張って下さ~いと声をかけられて、青くなりながらブースに並ぶ。
 ジャケットを脱いで、ベンチにかけると黄色い声が上がる。
 すごい精神的攻撃だ。蒼に似た声、似た仕草の子達にキャーキャー言われて顔が赤くなってしまう。
 待てよ、ここは天国だったのか。なんだか気分がいいな?いや、でも圧が厳しいな。



「見て!ホルスターかっこいい!」
「クロス型なんだね?ジャケット開けてたのそれかな」
「わー、セクシーだねぇ」
「もー、みんなしっ。」


「すごいプレッシャーなんだが」
「手が震えるんですけど」
「撃ちたくない」

「お前らムーブと静止どっちがいい?」
「練習ならムーブですかね」
「了解。せいぜい恥かかないようにな?ククッ」


 宗介さんの意地悪な声。
 よし、本気出してやるぞ。



「お前達は好きに撃っていいぞ」

 頷いて、集中する。
 ムーブ的は断続的に動きのある的だ。
 だが、これは。


「宗介、意地悪じゃない?遮蔽物アリのムーブなの?」
「実戦想定じゃなきゃわからんだろ。」
「それもそうか…」



 動き回る的のパターンはバラバラだ。
 遮蔽物に隠れたり、現れたり。パターンが多くて複雑なのは良い訓練になる。
 よし。

 狙いを定めて、片手で撃つ。
 俺は速射はしないが間隔は短い。
 千尋は速射。
 慧はゆっくりだが、重い音が響く。
 撃ち終わって蒼達を真似て手を挙げる。


「ほーん。ずいぶん個性があるな。」

 双眼鏡を掲げて宗介さんが横に立つ。


「ふん、嫌味な撃ち方だ。全部急所を外してやがる。警察ならではか?」
「すみません…」
「動く的に全く同じ場所に当てて、謝るこたぁねぇだろ」


 慧のブースで双眼鏡を覗いて、宗介さんが唸る。
「お前それ、手首大丈夫なのか?密偵じゃねえのかよ…デザートイーグルなんか撃ちやがって…」
「すいません…握力が強くて小さいものだとブレるんです」
「ふーむ。的も外してねぇし…規格外だなお前ら…」

 お?褒めてる?
 慧と見つめあって、苦笑いをこぼす。


 千尋のブースで宗介さんがさらに唸る。


「なんだお前…速射してたよな?」
「そうだが」
「なんで頭を撃ってんだよ…ムーブ的だぞ」
「目立ったほうがいいかと思って」
「チッ。腹立つな。しかも脳幹狙いか」
「中枢神経なら即死だろ?」
「あー腹立つ。三人揃ってイヤミな奴らだな!」


「かっこいい!遮蔽ムーブで同じとこ撃ってるなんてロマンがあるね!」
「すごぉい!デザートイーグルだよ…握力どれだけなの??」
「聞いた?ハンドガンで脳幹狙うなんて…」
「私の旦那さん達がかっこいい…」

 蒼にほめられたっ。走り寄ってくる蒼に手を伸ばして、その手をぎゅっと握る。


「昴、かっこいいね…」
「抜け駆け発見」
「俺も入れてくれ」
 三人で蒼を抱きしめて笑う。

「三人とも本当にかっこいい…」

「やってらんねぇな…まったく。」



 呟く宗介さんが恐る恐る蒼の頭を撫でようと手を伸ばす。
 蒼が微笑んで、その手を迎えて幸せそうに笑う。
 宗介さんが真っ赤になった。



「やってらんねーよはこっちですよ先生!」
「まー幸せそうですこと!」
「いいなぁ」
「ほんとだね」


「っつ、次…子供達だ。お前ら手分けして見てやってくれ。姦しいのも頼む」
 四人で頷き、赤い顔の宗介さんが離れていく。パタパタと蒼の同期達も走っていった。


「浮気とは言えない…」
「千尋はなんなんだよ…昼にでも教えてよね」
「くそぉ…俺だけ教えてもらえないのか…」


 バラバラに散って、子供達がブースに並ぶ。
 自分で持ってきた台を固定して、その上に立ってこちらに振り向く。

「「よろしくおねがいします」」
「こちらこそ」

 四歳か五歳くらいか?小さな二人がニコッと微笑む。
 うわ、かわいい…小さい蒼がいる…。



「シングルアクション、10発。」
 宗介さんの声に、慌てて銃を構える。その瞳からスッと光が消えた。


「ようい…撃て!」

 一発ずつハンマーを起こし、撃つ。繰り返し、繰り返し…。
 うまいな。手首の使い方が蒼にそっくりだ。宗介さんのやり方なのか…。



「まとかくにんおねがいします」

 パラパラと声が上がり、ブースの担当が的を確認して、頭を撫でたり、説明してる。
 俺のブースの子は体の軸がブレてる子と、エイムが若干遅いかな。だが、年齢を考えたら恐ろしい熟練度だ。
 そこらの本職よりよっぽどうまい。

 
「まとかくにんおねがいしゅ…あっ」
「2371がかんだぁ!わたしもおねがいします」
「は、はい…」

 可愛さに身悶えながら、ブースの区切りにかけてある双眼鏡を覗く。
 数字で呼ぶのは若干抵抗がある。まだ名前を決めてないしな。この辺はおいおいか。

「2371は左に傾いてるな、足の開きの幅が等間隔じゃないんだ。体の軸を意識して、自分の真ん中から開いてみて。…足元をよく見てごらん。ここが真ん中だ。」

「あっ、みぎのほうがせまいね?」
「そうだよ。もう少し開いてみて」
「わあ、わかった!おなじたいじゅうをかけなきゃいけないの?」
「そう。よくわかったね、いい子だ」

 頭を撫でると、目を細めて、微笑みが浮かんでくる。

「2372はエイムが苦手かな」
「うん、ちょ、ちょっとね?」

「エイムを合わせるコツは、自分の動きを直線にすること。銃の反動を抑える、左右に振られない、腕や手首の動かし方もそうだが骨の軸を意識してフラフラしないことが一番だな。
 それから、両目で見たほうがいい。片目をつぶるとバランスが悪くなるし、照準を見る時も周りを含めて見ないと…近付いてきた敵に気付けない」

「しょうじゅん…さいとのこと?てきはえねみーだよね」
「あぁ、ごめん。照準はサイト、敵はエネミーだよ」
「そっか。れんしゅうあるのみ、だね」
「そうだな、いい子だ。」

 もう一人も撫でると、同じように微笑む。
 撫でられるの好きなのかな。気持ちよさそうにしてる。


 宗介さんが苦笑いで近づいて来る。

「すまんな、俺が海外で活動してたから癖で横文字なんだ」
「いえ、警察が日本語を使ってるので…つい。」
「そうなのか?横文字の方が短ぇのに面倒だな?」
「そうですね…」



 俺たちの会話が途切れるのを待って、俺の担当の子達が宗介さんの袖を引っ張る。

「せんせい、わたしは099になでてもらえないの?」
「あのこたちだけずるい」


 蒼のブースの子達は抱きしめあって幸せそうに笑ってる。
 まわりの子がみんな羨ましそうにそれを眺めていた。


「あんだよ、みんな蒼がいいのか?」
「だって…だいすきなの」
「わたしも099がいい」

「だってよ。フラれたな?」 
「複雑な気分です…」

 周りの子達が我慢できずに台を飛び降りて、蒼にそろそろと近づいていく。
 蒼が微笑んで手を伸ばし、1人目がそっと寄り添うと、みんな駆け出して蒼の元へ集まってしまった。



「あいつ、本当に天使なのかもしれんぞ」
「同感ですよ」
「誰も彼も引き込んで、厄介な天使だな」

 違いない。真っ白な子達に囲まれて、幸せそうな蒼。俺もつられて口の端が上がる。


「一人だけじゃ、あれは繋ぎ止められねぇな…」

 宗介さんの呟きが笑い声にかき消されていった。
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