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生中継

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28 生中継

 ━━━━━━

『あー、あーテステス。本日は晴天なり。
 えぇと、初めての方は初めまして、そうでない人はこんにちは。ヒーラーの紀京です。
 なにか作業してる人は悪いんだけど手を止めてくれ。ダンジョンの中の人は敵モブの動きを止めてるからな。
 あと、寝てる人は悪いけど強制的に起こさせてもらった』

 ゲーム内、一人一人のプレイヤーに小さな画面が立ち上がる。
 ゲームに存在する人たち全員とここをつなげ、テレビみたいに生中継放送を開始した。

 画面に映された俺の周りに、衣装を揃えた全員が並んで…絵面は偉そうだ。黒と白のコントラストで、陰陽師勢揃いって感じ。
 このゲームの題材そのままだな。

「ここは北原天満宮ボス部屋の中。そこからワールド内の皆に話しかけてる。アマテラス、意識統制を解いてくれ」
「はいよっ☆」

 アマテラスが指パッチンすると、入口の人達にざわめきが起こる。
 これで転生を誤魔化してる精神的な制御がなくなる。
本当にリアルの、生まれたままになった。



「だ、誰だお前!!!」
「あんたこそ誰だよ!」
「お前兄貴?!嘘だろ!?」
「えっ、なんで!?サトシと結婚してたのか!!」
「絶世の美女が!?」
「くっ、みるなあぁ!?」

入口前は大混乱だ。外でも同じ事が起きてるんだろうな。

「あらら、大混乱だねぇ」
「仕方ないな」



『自分自身ではわかるだろうけどオンラインゲーム内でのキャラメイクではなく、リアルの…現実の姿になったと思う。
 これには理由がある。巫女、頼む』
「はぁい」

 巫女が懐刀を使い、空間に大きく円を描き、手印を組む。
「空間接続、みちびきにアクセス」



 巫女の目が大きく開き、ふわふわと髪の毛が広がる。
 おわー、そうなるのか!目の中に流れ星がいくつも流れ、いつか見た赤い光の結界回路図が身体に浮かび上がる。
 巫女…カッコイイ!!!
 

「接続完了。画面に切り替えるよぉ」
 巫女が刀で輪を描いた中に映像が映る。

 これは…思っていたより酷いな……。
 リアルの日本を映す映像、殆どが海の中に沈んだあとだ。
海外からのヘリコプターや船、色んなものが飛び回ったり浮かんでいる。海外の国が残った人を救助してくれてるんだな。

『これから……見せるのは、今の日本のリアルだ。
 心の準備が必要な映像になる。ショッキングなものになるから、苦手な人は目を閉じて、説明だけ聞いてくれ。
………………いいか?よし、見せるぞ』

 映像を巫女が指の先でつついて、俺の目の前に持ってくる。

 

『…これが、今の日本だ。
この映像は準天頂衛星システムのみちびき、と言う衛星から映している。

 現在元の形のままの土地は、信州……群馬、長野の一部、岡山県、伊勢神宮周辺。

 伊勢神宮の辺りは、地震を抑える要石があるからかなり残っている。
 他にも埼玉の秩父、京都、奈良の一部…出雲大社周辺、高野山、熊野古道近隣、天孫降臨の地、高千穂…富士山あたりも少し残ってるな。

 ほかは全て海の下だ。
日本総人口、約一億二千強のうち、生き残ったのは三百六十万人程度。
 今現在このゲーム内にいる人たちは、リアルで全員命を落としている』

 画面を見ている人達から伝わってくる、色んな思い。
 一つ一つを受け止めてあげたいが、ゲーム内に現存する転生した人の数は二千万人じゃ効かない。
 登録者数は俺が覚えているだけでその程度だったが、黄泉の国で書類処理した人数は倍以上だった。

 

『俺を含め大崩壊を起こした日本からみんな転生して来た。新しい命として、プレイヤーキャラの中に本物の命を宿しているんだ。
 ログアウトボタンが無くなっていると思うが、それが証拠だ。

 続けて先に伝えておくことがある。
本物の命を宿したみんなは、ここ〈光と影の道標〉内部で死を迎えた場合、本当に死ぬことになる。
 全てのシステムは元々の日本の神様である、アマテラスの中に保存された。
 そのシステムの中で、前のマスターデータから変更できなかったのが死のシステムだ。

 ゲームとしての死の設定は、街外で三回までは自動回復、その後は時間経過で街に戻される。
 プレイヤー同士の戦いは即死で自動回復。
 どちらも時間経過でカウントダウンが起こって街に戻されるがゲームと違ってその後は魂として、リアルの命として死ぬ。
死の痛みも省かれない。

 特に注意して欲しいのはプレイヤー同士の戦闘死。すぐにカウントダウンが始まり、それが終われば同じく死を迎える。

いいか、もう一度言う。本当に死ぬんだ。

 その後の命の生まれ変わりはあるそうだが、それを司るのは、イザナミになる。
 このゲームをしている人なら知ってると思うが、この神は元々黄泉の国を司っていて、ここでも同じ扱いだ。
 生まれ変わりの先はこのゲームになるかどうかは、分からないそうだ』

 黄泉の国で働いてきた知識と、アマテラス達に教わった知識。
今は伝えることしか出来ないが、皆は受け止められるかな。
 画面から視えるのは俺の話を聞いてくれている、呆然とした人たちの姿。まだ、事実として受け止めきれないだろうな。

『システムとして、最初の説明はここまで。残りのシステムや細々とした決まりは今配った称号の〈転生者〉ってやつの説明欄を参照してくれ。
 質問はいつでも受け付ける。説明欄にある〈運営への問い合わせ〉というボタンから頼む。
 この後だが、スケジュールとしては……

 一、現在起きている美海対皇の暴行事件についての決着
 二、今後の責任者紹介
 三、今後の運営について詳細説明と社員募集

となる。
一旦休憩にしよう。質問は申し訳ないが全て終わってからになるので了承してくれ。
では一旦休憩』



 アマテラスが画面を切りかえ、CMを流し始める。
今話したことの説明繰り返しと、社員募集のCM。
 イザナミ!黄泉の国の人員募集はやめろって言ったのに。

「イザナミはCM出すなよ」
「うちも人が欲しいんだよ。死ななくても現世から通勤できる。電車を今作っているからな」
「益々現世と変わらないじゃないか。死なないならいいか」

 あの高層ビルにどれだけの人が通うことになるやら。
 黄泉竈食とかその辺はどうなのかちゃんと聞いておかないとな。
やることが山積みだ。



「…………紀京」
「ん?獄炎さん、どした?」

「…俺の家族が映ってた。後で…その…」
「おん。写真か動画なら渡せる。アマテラスに頼んでくれるか?すぐ行っておいでよ」
「あぁ」


 複雑な顔をした獄炎さんが、アマテラスと話し始めた。
他のみんなは焚き火を囲んで座る。

「オッフ!?ええい!絡みつくのはいいけど優しくしてっ!巫女は膝の上においで」
「うん…」


 巫女を膝に抱え、みんながくっついてくる。衝撃映像だったもんな……。ここに居る皆もだけど、入口の人たちを見ると沈黙の海に沈んでるし。心配だ。


 
「俺ん家は跡形もなかったな。未練もないからいいが」
「清白を含めて皆は一度黄泉の国に来てるからな。書類整理した時に詳細を見てるよ。もし知りたいなら後で伝えられるが」

「いや、俺はいい。今ここにいるのが俺だから」

「そうか?美海さんは?」
「オイラもいいッス。なんか、放送中の凛々しい紀京氏に、名前呼ばれるとドキドキするッスね?」

「そうなのか?他に言いようがなくて、ごめんな」
「いえいえ。オイラの疑いも晴らして貰えるッスね!紀京氏、ありがとうございます」

「当然だろ。美海さんは無罪だ。一応皇たちが作った偽証の画像が流れるけど、許してくれな」
「いいッスよ。何ともないっす。」


 美海さんの事件で提出された動画は、大分アレな映像だという事でアマテラスがモザイクかけてくれるらしい。
 証明のためには顔を出さなきゃだから偽物とはいえ美海さんは顔が出てる。
 不名誉なものだが仕方ない。
 


「私も清白と同じく…今の私がリアルですからね……」
「殺氷さん?本当にか?」
 僅かながら、殺氷さんの顔に苦い色が見える。

「紀京は…巫女だけじゃなく、私も見てくれてるんですね」
「そりゃそうだ。これから先ずっと一緒に暮らす仲間同士なんだから。後でアマテラスに頼んでみるといいよ。言いづらいなら一緒に行くからさ」
「はい……」

 気になっているのは御家族か、離婚したお嫁さんか、警察の仲間か、そんなところかな。
 みんなも、リアルの終わりを受け止められるといいんだが。

「紀京、祝詞の時もそうだったけど、システムとかよく覚えてるねぇ。一回しか聞いてないのに。頭の中どうなってるのぉ?」

 腕の中から巫女が上目遣いで問いかける。
長いまつ毛の間から見える目はずっとキラキラしてる。
はー。かわいいなぁ……疲れが飛んでく。



「巫女だって陰陽師の知識とか凄いだろ?これから仕事していくうちに会社のこともすぐ覚えるだろうし、巫女の方がすごいよ」
「そんなことないよ。紀京凄いもん」
「そうかぁ?俺は巫女の方が凄いと思うけどな」
「むー。紀京の方が凄いの」
「むー。」

 お互い唇がとんがるから、思わずキスを落とす。
 巫女が赤くなって、俺の精神力がギュンギュン戻ってきた。まぢ満タン。疲れ吹き飛んだ。



「おい、イチャつくのは程々にしろ。ちなみにそこの菅原道真はどういう扱いになるんだ?」
「……あぁ、まだ寝てるな」

 ボス部屋の中だけど、鬼たちと道真はグースカ寝てる。
じっと皆で見ていると、ツクヨミがやってきた。


 
「道真はここの守人としての希望を出しているよ。巫女の優しさに触れて、そうしたいってさ」
「えっ、ボク?」

「そう。ここは巫女のおかげで面白い場所になったな。
 紀京、北原天満宮は現世からの入口にでもしようか。本社である神域への。誰でも来られるのは困るからな」

「それはいいな。報酬の称号も売り切れだし、ソロでたどり着けるようなら神様に転属申請可能、とかどうだろう」
「そうしよう。後でイリュージョンして〆にでもするか」
「そりゃいい。派手にたのむ」
「まかせろ」

 ツクヨミと、グーを握ってこつん、と合わせる。メチャ楽しい。兄がいたらこんな感じかも。んふふ。

 

「紀京氏双子説」
「似すぎだよなぁ、考えも似てるし喋り方も似てる」

 双子は分からんけど、これだけ似てるとそれでもいい気はするなぁ。
ある意味巫女と夫婦で、ツクヨミとも家族だが。ツクヨミを今更兄と呼べはしないが。家族!そういえば!

「なぁ、巫女。イザナミの事姉様って言うけど姉じゃないよな?」
「んー。そだねぇ。本当はおばあ…」
「みいぃぃぃぃこおおおおぉ???美味しそうな桃だねぇええええ?」

 えっ、イザナミこわっ。


「…桃食べたら姉様は祓われるよぉ。怖い顔しないでよぉ」
「なるほど把握した。イザナミしっしっ。こっち来んな」

「忌々しい夫婦だね」

 あっ……夫婦と言えば。
「巫女、色々始める前に…時間欲しいな」

「ん?時間?」
「そう。…あの、さ。結婚式、したい」
「あ…う、うん…えへへ……わかったぁ」

 両手を繋いで、ブンブン振られる。
 喜んでるな。うう。照れる。楽しみだな……。



「オイラ、ヘアメイクしたいッス」
「おぉ…美海さん!プロの方がやってくれるのか?お願いします!」
「わたくし巫女の装飾品などを作りたいのですが」
「俺も作りたい。宝飾品作るの得意なんだ」

「では私たちは会場を。どこでやります?」
「はいはい!!神界でやろうよ!とと様が飾り付けしたい!」
「俺も手伝うぜ」

「ふむ……では私たちは閨の事でも教えてやろう。紀京は知らなすぎるだろう」
「イザナミ!やめなさい!」

「なにさ、イザナギ。正しく私たちが教えるべきだろう?」
「どっちを?柱を回るほうか、それとも」
「回らない方だねぇ」


「ねやってなんだ?」
「聞いたことあるけど、何をするのかは知らないんだよねぇ」
「巫女も知らないのか。イザナミ、夫婦には必要な物なのか?」 

「必要さ……ふふふ」

 イザナミの邪悪なほほ笑みを見て、みんな微妙な顔になる。
 大丈夫かな、これ?本当に必要なのか?一体なんのことなんだろう。



「は、はいっ、じゃあ次行こう!なっ!
 美海タソ事件のデータ準備ができたッピ☆」
「若干の無理やりを感じるが、とりあえず進めるか」


 焚き火から立ち上がり、ツクヨミが取り出した裁判所の設備一揃えを見つめ、気合いを入れる。

終わったら結婚式。終わったら結婚式!!
 がんばるぞっ!!
 
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