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サロメの最後

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 老婆は手に水晶を持ちながら暫くジーッと見つめていたのである。


「銀髪の魔女の守護者は大柄な戦士風の女です……」


 老婆は笑みを浮かべてフードを被った女性に言ったのである。彼女はフードを取ると綺麗で美しい顔が現れたのだ……。

 髪は長く茶色であり、目元はキツイ感じを醸し出していたのだ。そして、彼女は魔女オルガだったのである。

 老婆の方は配下のカイラニで男はハーランと呼ばれる剣士であり長髪で顔も整っていたのだ。彼の背には籠を背負っており中に何か入っているようである。

 女の方はエヴリンと言い顔は綺麗な方だが頬はこけており、目の下には隈が出来ていたのだ。魔女の配下としては顔色が悪そうである。

 彼女の外観は少し朧げで幽かな印象があった。そして、ハーランとエヴリンは兄妹でもある。

 オルガはそんな3人に命令を下したのである。


「ハーラン、お前は銀髪の魔女の守護者がやられる様に隙を作る攻撃をしてくれ。カイラニは遠見の術でハーランに攻撃の合図を送るようにしろ。エヴリンは銀髪の魔女が死んだ時に幽体で敵の配下を攻撃しろ……」


 その言葉に配下達は黙って頷いていたのだった。そして、オルガ達は暫くその場で様子を刻一刻と見ていたのであった……。



 その頃、ラドリックとサロメは墓地で戦いを繰り広げていた。彼は剣を構えてサロメに斬りかかったが、彼女は三日月斧で彼の攻撃を凌いだのである。

 彼には彼女から付けられた切り傷が無数にあったが彼女が付けられた傷は塞がり出血は無くなっていたのである。


(もう傷が回復しているだと……)


 俺は彼女の回復能力に驚いていたが彼女はそのまま斧を振り下ろしてきたのだ。その攻撃をギリギリで避ける事が出来て俺は安堵したのである。

 だが、すぐに次の攻撃が来たのでそれを何とか受け流す事に成功したのだ。そして、連続で斬りつけていったのだが切り傷をつけても暫くすると塞がっていくのである……。


「この化け物め……」


 思わず呟いたその言葉にサロメはニヤリと笑って言ったのだ。


「その通り! 私はトロルの力を授かっている!!」


 トロルは伝説上の巨人で再生能力を持っていると言われているのである。そして巨人族の能力を貰い力も非常に強いのであった。


「私を倒すのは容易ではないぞ!」


 そう自信満々に言うサロメに俺は舌打ちをしてしまった。確かに彼女の再生能力の前に浅い攻撃では致命傷を与える事は出来なかったのだ。

 だが、トロルの能力を持っていると言っても元は人間なのである。魔女から力を与えられたからと言って再生能力も無限と言う訳ではなさそうであった。

 しかし、長期戦になれば俺が圧倒的に不利になるかも知れないと思ったのだ。


「うぉぉぉ!!」


 そんな掛け声とともにサロメが斧を振り下ろしてきたのだ。その攻撃を避けたが、墓石に当たった衝撃で石が飛び散り俺は目を瞑ったのである。

 そして再び目を開けた時、彼女は目の前にいたのだ。


「しまった……!」


 そう思った時には既に遅く彼女は三日月斧を振り下ろしていたのだった……。だが、その時であった。 俺の脳裏に彼女の斧を振る動作が見えたのだ!

 そして、俺はそのイメージを頼りに体を逸らしてその攻撃を避けたのだった。だが、完全に避けきる事が出来ず左肩に切り傷を負ってしまったのである。


「くっ……」


 肩を押さえながら彼女から距離を取ったのだが、彼女は余裕の笑みを浮かべていたのだ……。


「運が良かったな……」


 そう言って再び斧を振りかぶってきたので俺は剣で彼女の攻撃を受け流そうとしたのだが……。


「むぅ!」


 そんな俺の考えとは裏腹に彼女は力一杯振り下ろしてきたのだ……。その攻撃は凄まじく、俺は吹き飛ばされてしまい地面に叩き付けられたのである。


「ぐはっ!」


 倒れながら転がって何とか被害を軽減する事が出来たようだ……。だが、そんな俺の前に立ち彼女は斧を振り下ろそうとしていたのだった……。


「どうやらここまでのようだね……」


 そんな彼女の勝ち誇った笑みに俺は悔しさで唇を噛み締めたのだが、その時であった。突然、彼女の頭上から複数の短剣が降り注ぎ体中に突き刺さったのである。


「ぎゃあ!!」


 彼女は悲鳴を上げてその場に膝を付いてしまった。その体には何本も短剣が突き刺さっており血が噴き出していたのだ……。

 俺はその光景に呆然としていると、辺りに敵がいないか見渡したのである。だが、敵の姿も見えなく気配も感じなかった……。


「一体誰が……?」


 疑念を抱いていたが彼女を倒す絶好の機会だと感じ、剣を持ち立ち上がると膝を付いている彼女に止めを刺そうと近付いたのだ。そして、彼女の目の前に立った時であった……。

 突然、彼女は口を開くと俺の顔に向かって緑色の吐瀉物を吐きかけたのだ。吐瀉物が俺の顔に掛かると視界を奪われてしまったのだ……。


「ぐっ……!」

「ははっ……! 馬鹿め!」


 そんな嘲笑う彼女の声が聞こえ、俺は視界を奪われながらも剣を構えると彼女の攻撃に対して身構えていたのであった。

 手で顔の吐瀉物を拭おうとした時、俺の能力で生命の危機を感じ脳裏に彼女が斧を振り下ろす動作のイメージが見え、咄嗟に俺は体を逸らしたのであった。

 すると、斧が空を切る風圧を感じると俺のすぐ傍を斧が地面に突き刺さったのだ。


「くそっ! 躱したな……」


 舌打ちする彼女の声が聞こえたのである。そして、俺は顔の吐瀉物を拭うと彼女の体には幾つもの短剣が刺さったままであり血塗れになっていたのだ。

 そして、彼女は肩で息をしながら力を振り絞ると俺に向かって突進してきたのだ。だが、その動きは緩慢であり攻撃を避けるのは簡単であった。

 俺は彼女の攻撃を躱すと剣を構えて渾身の力で彼女の首を刎ねようとしたのだ。


「終わりだ!」


 そう言って剣を振り下ろそうとした時、彼女と目が合ったのである。その目は憎悪に満ちており同時に無念の表情を浮かべていたのであった……。


「くそぉおお!!」


 そんな絶叫を残しながら彼女の首は血を吹きながら宙を飛んでいきゴロリと音を立て落ちていったのだ……。

 俺は地に落ちた彼女の首を見下ろすと恨めしい表情をしていたのであった。

 剣に付いた血を振り払い鞘に収めると、背後に気配を感じて振り返ったのである。

 するとそこには腰に剣を差した20代後半ぐらいの男がひっそりと立っていたのだ……。


「誰だ?」


 俺は警戒しながらそう問い掛けると、男は返答したのであった。


「魔女オルガの配下、ハーランだ……。短剣よ戻れ!」


 そう名乗るとサロメの体に突き刺さっていた短剣が離れ彼が背負っている籠の中に戻っていったのだ。その光景を見て俺は驚きを隠せなかったのである……。


「お前の仕業だったのか……」


 俺の問い掛けにハーランはニヤリと笑って言ったのだ。


「そうだ、俺は無数の短剣を操ることが出来る!」

「嘘だろ……」


 その言葉しか出なかった……。そんな俺にハーランは余裕のある表情で答えたのだった。


「本当だとも、この能力で魔女の配下達を殺してきたんだ……」


 そんな彼の言葉に俺は背筋が凍る思いだった……。そして、彼は俺を見ると言ったのだ。


「今度はお前が死ぬ番だ……」


 そう言って腰の鞘から剣を引き抜くとゆっくりとこちらに向かってきたのである……。



 ラドリックがサロメの首を刎ねた時、カイラニは水晶を通して戦いの終わりを見ていたのであった。そして、彼がサロメを倒したと同時にオルガに伝えたのである。


「オルガ様! 銀髪の魔女の守護者が死にました!」

「分かった!」


 それを聞いてオルガは魔女達の元へ向かって行ったのだ……。魔女の元に向かう前にエヴリンに呪文を唱えていたのである。

 そして、エヴリンはその場で眠りに着いたのであった……。

 カイラニは戦闘能力が低い為、その場に留まっていたのである。それだけでなく、エヴリンを守るためにも彼女は留まっていたのであった……。
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