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ここからが正念場
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あれから一年と数か月後、私は学園を無事卒業した。
そしていよいよ明日、私の運命が決まろうとしていた。
王家預かりの爵位を授与される日がついに来たのだった。
しかし、頭で思い描き準備して来たディーツェ領主としての一歩を踏み出す前に
私には最後の難関があった。
本日の侯爵位授与の後のお披露目パーティには王太子殿下もいらっしゃるからだ。
あの両親との決別の日から学園を卒業する時まで私は比較的自由に過ごしてきた。
二年以上前にあった狩猟祭での出来事も今では人々にとって普通の過去の記憶だ。
王家が聖女に関して私を認定や言及しなかった事が大きい。
そんな事もあったと聖女に関する噂もいつの間にか立ち消えになっていた。
いくら奇跡的な事であったとしても人の記憶の風化は早い。
しかし、勿論私は分かっている。
王太子殿下が私の事を考えて在学中に聖女認定などしないでいてくれたという事を。
何も言わない気持ちに感謝しつつ私は学生生活を無事終える事が出来た。
私より先に卒業していた殿下は国王陛下の片腕として既に政務をされていた。
殿下が王立学園を卒業して以来、必然的に私達は顔を合わせる事は無くなった。
しかし明日、私の授爵パーティで久々に顔を合わせる事になる。
私はその時にスルーされていた聖女認定がされるのではないかという予感があった。
その事次第で私の人生は全く真逆のものになる。
女侯爵としてディーツェ領で女領主になるか。
聖女として王太子殿下の婚約者となるか。
私としては運命の一日だった。
♢
侯爵位授与は滞りなく終わり、私は保留されていた侯爵位を正式に継いだ。
そして時間を置いてそのまま王城で私のお披露目パーティが行われた。
本来、栄爵・叙爵された場合はその本人が後日お披露目パーティを自費で開くものであるが、私に関しては違う。
二年前の不始末によるディーツェ領の王家預かりの件が周知の事実だからである。
侯爵になったとはいえ、私がつい先日まで王立学園の一学生であった事実は変わらない。
私なりにこの日に備えて準備してきたとはいえ、小娘がいきなり領地を治める事など出来る訳も無い。
王命で一時的にディーツェ領を管理していた者達の協力は引き続き必要だ。
つまり、ディーツェ領はまだ完全に王家の手を離れていない。
そういう訳でお披露目パーティもそのまま保護者たる王家の王城で行われている訳であった。
格式こそ高いものの立食パーティーと基本変わらない。
私はその主役の新侯爵として貴族の方々に精力的に挨拶に回った。
大方の貴族の方に挨拶を終えた所でひと際目を引く貴公子が目に留まる。
王太子殿下だった。
殿下は周囲の目礼に軽く応えながらこちらに近づいてくる。
その秀麗な容姿と貴公子ぶりは2年前と変わらない。
私が挨拶に一区切りするまで控えていてくれたのだろう。
疲れている暇はない。
いよいよ私の本当の戦いが始まるのだ。
「やあ。久しぶりだね、ディーツェ侯。」
「王太子殿下、お久しぶりでございます。」
「あれから二年か……。
こんな可憐な侯爵閣下は諸外国を見渡してもいないだろうね。」
「そんな……。ありがとうございます。全ては殿下のおかげと心得ております。」
転生してすぐのあの時、殿下と接触した事でフリーダの運命は劇的に変化した。
私にとって間違いなく大きな事実だ。
「君にこの話をする機会がようやく来たという気分だよ。
少し付き合ってくれるかい?」
殿下の言葉に頷いて私達は人ごみを抜け出して広間からバルコニーに出る。
そして、二人きりになった。
「私が何を言うのか予想がついているようだね。」
「はい……恐れ多い事ですが。」
「そうか。なら話は早い。」
殿下は私の手をとり、私の目を見つめてその言葉を告げた。
「フリーダ・フォン・ディーツェ侯。私と結婚して欲しい。」
想像していた事の通りの事が起こったとしても、私が平静を保つのは難しかった。
この2年間、どの男性を見てもやはり殿下と比べてしまう自分を自覚していたから。
しかし私の答えは決まっているのだ。
瞳を逸らして少し間をおいてから私は口を開いた。
「殿下、私は聖女ではありません。」
「今更そんな事を言うのかい?」
「お忘れですか? 聖女の条件を。」
「もちろん、覚えているよ。」
「……殿下は聖女だと思うから私に求婚されたのでは?」
「……君はそれだけだと思うのかい?」
聖女であるかないか関係なく、殿下が私の事を大事に思ってくれていたのは自由に
過ごす事が出来た2年間で分かっている。
しかし、やはり聖女であるという事も重要なのだ。
だからこそ断る理由にもなる。
「以前、殿下が仰られた聖女の決定的な証拠になりうる要件というのを覚えておいで
でしょうか?」
「……前世の記憶の事かな?」
「はい。今まで話す機会がありませんでしたが……私には前世の記憶という物は無い
のです。」
さあ、ここからが正念場よ。
私はそう思って殿下を見つめ直した。
そしていよいよ明日、私の運命が決まろうとしていた。
王家預かりの爵位を授与される日がついに来たのだった。
しかし、頭で思い描き準備して来たディーツェ領主としての一歩を踏み出す前に
私には最後の難関があった。
本日の侯爵位授与の後のお披露目パーティには王太子殿下もいらっしゃるからだ。
あの両親との決別の日から学園を卒業する時まで私は比較的自由に過ごしてきた。
二年以上前にあった狩猟祭での出来事も今では人々にとって普通の過去の記憶だ。
王家が聖女に関して私を認定や言及しなかった事が大きい。
そんな事もあったと聖女に関する噂もいつの間にか立ち消えになっていた。
いくら奇跡的な事であったとしても人の記憶の風化は早い。
しかし、勿論私は分かっている。
王太子殿下が私の事を考えて在学中に聖女認定などしないでいてくれたという事を。
何も言わない気持ちに感謝しつつ私は学生生活を無事終える事が出来た。
私より先に卒業していた殿下は国王陛下の片腕として既に政務をされていた。
殿下が王立学園を卒業して以来、必然的に私達は顔を合わせる事は無くなった。
しかし明日、私の授爵パーティで久々に顔を合わせる事になる。
私はその時にスルーされていた聖女認定がされるのではないかという予感があった。
その事次第で私の人生は全く真逆のものになる。
女侯爵としてディーツェ領で女領主になるか。
聖女として王太子殿下の婚約者となるか。
私としては運命の一日だった。
♢
侯爵位授与は滞りなく終わり、私は保留されていた侯爵位を正式に継いだ。
そして時間を置いてそのまま王城で私のお披露目パーティが行われた。
本来、栄爵・叙爵された場合はその本人が後日お披露目パーティを自費で開くものであるが、私に関しては違う。
二年前の不始末によるディーツェ領の王家預かりの件が周知の事実だからである。
侯爵になったとはいえ、私がつい先日まで王立学園の一学生であった事実は変わらない。
私なりにこの日に備えて準備してきたとはいえ、小娘がいきなり領地を治める事など出来る訳も無い。
王命で一時的にディーツェ領を管理していた者達の協力は引き続き必要だ。
つまり、ディーツェ領はまだ完全に王家の手を離れていない。
そういう訳でお披露目パーティもそのまま保護者たる王家の王城で行われている訳であった。
格式こそ高いものの立食パーティーと基本変わらない。
私はその主役の新侯爵として貴族の方々に精力的に挨拶に回った。
大方の貴族の方に挨拶を終えた所でひと際目を引く貴公子が目に留まる。
王太子殿下だった。
殿下は周囲の目礼に軽く応えながらこちらに近づいてくる。
その秀麗な容姿と貴公子ぶりは2年前と変わらない。
私が挨拶に一区切りするまで控えていてくれたのだろう。
疲れている暇はない。
いよいよ私の本当の戦いが始まるのだ。
「やあ。久しぶりだね、ディーツェ侯。」
「王太子殿下、お久しぶりでございます。」
「あれから二年か……。
こんな可憐な侯爵閣下は諸外国を見渡してもいないだろうね。」
「そんな……。ありがとうございます。全ては殿下のおかげと心得ております。」
転生してすぐのあの時、殿下と接触した事でフリーダの運命は劇的に変化した。
私にとって間違いなく大きな事実だ。
「君にこの話をする機会がようやく来たという気分だよ。
少し付き合ってくれるかい?」
殿下の言葉に頷いて私達は人ごみを抜け出して広間からバルコニーに出る。
そして、二人きりになった。
「私が何を言うのか予想がついているようだね。」
「はい……恐れ多い事ですが。」
「そうか。なら話は早い。」
殿下は私の手をとり、私の目を見つめてその言葉を告げた。
「フリーダ・フォン・ディーツェ侯。私と結婚して欲しい。」
想像していた事の通りの事が起こったとしても、私が平静を保つのは難しかった。
この2年間、どの男性を見てもやはり殿下と比べてしまう自分を自覚していたから。
しかし私の答えは決まっているのだ。
瞳を逸らして少し間をおいてから私は口を開いた。
「殿下、私は聖女ではありません。」
「今更そんな事を言うのかい?」
「お忘れですか? 聖女の条件を。」
「もちろん、覚えているよ。」
「……殿下は聖女だと思うから私に求婚されたのでは?」
「……君はそれだけだと思うのかい?」
聖女であるかないか関係なく、殿下が私の事を大事に思ってくれていたのは自由に
過ごす事が出来た2年間で分かっている。
しかし、やはり聖女であるという事も重要なのだ。
だからこそ断る理由にもなる。
「以前、殿下が仰られた聖女の決定的な証拠になりうる要件というのを覚えておいで
でしょうか?」
「……前世の記憶の事かな?」
「はい。今まで話す機会がありませんでしたが……私には前世の記憶という物は無い
のです。」
さあ、ここからが正念場よ。
私はそう思って殿下を見つめ直した。
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