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友達を拾うとは

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 今日も私は朝から学園までの強制ウォーキングに励んでいた。
少しだけ待遇改善された今、私の希望次第では馬車通学する事も可能かもしれない。
しかし、あえてそうは言わない。
身体能力改善の目的がある事と単純に妹との同乗が嫌だからである。

 弱々しいその鳴き声は自宅と学園の間にある小さい森に差し掛かる所で聞こえた。
声の方を伺ってみると草葉の陰に小さい動物が血を流して倒れている。


「……猫?」


 一見した所高級なシャム猫の様だった。
出血も酷いが何かを当てられた様な横腹の凹み具合が酷い。
これは助からないと感じたが、それでも私は思わず手を差し伸べた。

 すると、猫に触れた手から急激に何かが抜けていく気がした。
私がこの世界に来て初めて味わった体内に血が戻って行く奇妙な現象。
あの何とも言えない感覚の逆だ。 
そしてどういう訳か目の前の猫の傷がどんどん回復していくのが分かった。
やがて流れ出ていた血も消え失せて猫は目を覚ましてこちらを見た。


『……お前が俺を助けてくれたのか?』

「喋った!?」

『喋ってない。念話だ。お前の頭の中に話しかけているんだ。』


 そう言われれば、なるほど。
猫の口は動いていないし現実の私の耳には何の声も聞こえていない。


『あなたは猫じゃないの?』

『俺はケット・シーだ。リオって名前もある。』


 ケット・シーか……。確か猫型妖精だったっけ。
こういう子が居る世界なんだなぁ、ここ。フリーダの記憶にはないけど。


『その、ケット・シーのリオが何でここに居て怪我をしていたの?』

『人間の街にうまい物を食いに来て怪我をした。』


 ん?


『森で人間に食い物を貰った事があるんだけど、人間の街ならもっとうまい物が
 食えると思ったんだ。でもなかなか食事にありつけなくてさ。
 腹が減って森に帰ろうと思っていた所で馬車に轢かれたんだ。』

『……なるほど。』


 食い意地が張って街に来て馬車にはねられ瀕死の重傷、か。
何というかもうちょっとドラマチックな理由が欲しかったわね。
生き別れの両親を探して来たとかなんとか。

 でも、現実はこんなものか。
醒めた考えで見つめているとリオのツッコミが入った。


『ちゃんと聞こえてるぞ、こら。』

『え? 貴方、私の考えてる事が読めるの?』

『お前が考えている事だけな。』


 成程。そりゃそうよね。
何でもかんでも私の考えが読めるのなら妖精どころかサトリの妖怪だ。


『とにかく、これでもう大丈夫ね? 一人で森に帰れるわよね?』

『俺、帰らないぞ。』

『えっ?』

『だって、そうだろ。こんな形でもせっかく人間の知り合いが出来たのに。
 お前の近くに居れば人間のうまい食い物が食えるじゃないか。』


 どうやらこの食い意地が張った妖精は私についてくる気が満々らしい。 
無理よ、と答えようとして食生活が改善した事に思い当たる。
一応極上の食事とはいかないがまあ普通の庶民レベルの食事にはなっている。
猫一匹くらいは大したことはないかとも思うが……。


『……止めといたほうがいいわよ。』

『何でだ?』

『私、家族に色々と虐待されてる真っ最中だから。
 ならもっといい食生活が期待できる人をお勧めするわ。』


 家や学園では食事こそマシになったが金銭的余裕があるわけではない。
買い食いなど不可能だ。
この猫の望む様な豊かな食生活は期待できないだろうと思って忠告する。


『悪霊みたいな言い方するな! 決めた。意地でもついていくぞ。』

『生憎と学園にペットの持ち込みは出来ないの。』

『こうすりゃいいだろ。』


 そう言うとリオの姿が消えた。いや、正確に言うと手触りがある。
一体どういう事なのか。


『魔力を使って見えなくした。これなら誰にもバレないだろ?」

『そうね。確かにこれなら。』


 魔法を使ったステルス迷彩の様な物だろうか。
以前最新科学だかアメリカ軍だかのテレビで見た事があった。


『じゃあ行くぞ。お前の肩を貸してくれ。』

『あっ』


 そういうと猫は私の肩に乗って来た。別に大した重さは感じない。


『友達なら友達の云う事を聞いてくれるだろ?』


 いつの間にか知り合いから友達になっている。呆れた図々しさだ。
しょうがないわね。このままでは遅刻するから連れて行こう。
どうせ学園でもぼっちだし目に見えない友達でもいてくれた方が嬉しい。
独り言を言った所でどうせ私に対する周囲の評価は変人の危ない奴だから今更だ。 
まさか登校時に友達を拾うとはね。


『……連れていくなら条件があるわ。もう一回元に戻って姿を見せて。』

『ん? 何だ? ホレ。』


 あっという間に視覚的に認識可能になる。便利だ。
私はリオの脇を両手で持ち上げて眼前に持ってくる。
猫特有の重力で伸びた胴体が私の目の前にあった。


『お腹をかがせて頂戴。』

『……変な奴だな、お前。』


すー、はー、すー、はー……。

私はリオのお腹に顔を押し付けてもふもふ成分を吸収した。
そしてこの世界に来てまた少しだけ幸せ要素が上がった気がするのだった。
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