上 下
3 / 27

後悔する事になるのはあなたよ

しおりを挟む
「困ったわねえ。お姉様の事、学園で聞かれたらなんて説明したらいいのかしら。」


 妹が後を追ってきて私に話しかける。
失望しているであろう姉が悲嘆にくれるのを見たがっている事は明白である。
先程は私が必死に婚約破棄の事実に耐えているとでも思ったのかもしれない。
どうやったらこの年齢でここまで醜く歪むのか。
私は無視して別棟の寝室へ向かって歩き続ける。


「まさかお姉様が嫌で私を選んだ何て言えないでしょう?
 適当な事を言ってごまかしてもいずれ判ってしまうし。
 何ていえばいいのかしらね、ふふふ。」


 妹は16歳で私の一つ下の年齢だ。
しかし正確に言うと誕生日は私と一年離れていない。
父は私の母と同時期にあの義理の母親サンドラと浮気していたという訳である。
そんな屑の娘はやはり屑らしい。

 廊下を曲がった所で私は歩を止めた。
首だけ少し動かして後方をチラ見し、妹に答える。


「下らない。ホントに子供ねぇ。好きに言えば?」

「何ですって!?」

「あなたの言う通り、私の婚約破棄は隠し様の無い事実だしね。
 私を貶めたければ貶めればいいわ。」

「……さっきもそうだけど、お姉さまのくせに随分と強気ね。
 このお屋敷の皆も学園の人達も、私の味方なんだからね!」
 
「だから何? 忠告しておくけどこれからは何事も覚悟してやる事ね。
 もう黙っていないから。」

「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」

「もう後悔なんてしないし、虐められるのに飽きただけよ。
 それに、私が貴方に怯えたりしなければいけない理由なんてそもそも無いから。」

「どういう事よ。」

「だってそうでしょ。
 お父様は入り婿だから唯一侯爵家の血を継いでいるのは亡くなったお母様が生んだ
 私だけ。
 貴方には上級貴族の血は流れていない。。」

「……っ!」

「あなた達の扱いが酷くて今はこんなに痩せて酷い容姿になってしまっているけど、
 生活改善すれば私の見た目もましに変わるでしょうしね。
 頭も性格も容姿も血筋も妹になぜ怯えなければいけないの?」

「な……なっ……。」

「理解できた? それともその足りないオツムじゃ事実認識も難しいかしら?
 いずれにしろ、あなたと会話するのは本当に時間の無駄だわ。」


 そう挑発したら妹の顔がみるみる真っ赤になるのを確認した。
その様子を見て私は薄笑いを浮かべ踵を返した。
この後の妹の行動は既に読めている。


「待ちなさいよ!」


 私の肩か腕か服か、どこかをつかもうと手を伸ばした妹を躱す行動をとる。
左に振り向きつつその回転を生かして左の後ろ手で妹を壁側に押し出した。


「あっ!」


 妹が小さい声を出して壁に寄りかかると間髪入れずに私は大きく足を蹴りだした。


ドゴン!!


 大きい音を立てて私の右足かかとが妹の顔の10センチ横の壁に激突する。
室内用とはいえそれなりに高めのヒールが折れてしまった。


「ついでに貴方が生きているのも無駄かしらね。」


 寧ろ悪役令嬢的なセリフを吐いて私は妹を睨みつけた。
左手で妹の首元をつかんで眼前に持ってくる。
何が起こっているのか理解できないのかドロテアの目は見開かれたままだった。 
私は右足を妹の顔面の真横に置いたまま目を細め一段声を低くして警告する。


「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」


 妹の顔から血の気が見事に引いていくのがわかった。
水音が聞こえたので視線を下ろすと足元に小さい水たまりが出来ている。


「あら、こんなところで粗相するなんてね。貴方、何歳?
 貴族どころか人として何とも恥ずかしい事。」
 
「……あ、あんた、誰……?」

「おやおや、人として全ての要素が劣っているだけじゃなくて目も悪かったのね。
 何処からどう見てもあなたのお姉さまじゃない?
 きちんと下着を変えて寝なさいよ。風邪ひくわよ? じゃあね。」

 そう言って私は寝室に立ち去った。 
向こうの廊下から誰かの足音が聞こえた。
私の壁への蹴りは思った以上に響いた様だ。

 改めて言うが、私の前世はどこにでもいる日本の平凡なアラサーOLである。
空手と柔道が黒帯なだけの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!

naturalsoft
恋愛
読者の方からの要望で、こんな小説が読みたいと言われて書きました。 サラッと読める短編小説です。 人々に癒しの奇跡を与える事のできる者を聖女と呼んだ。 しかし、聖女の力は諸刃の剣だった。 それは、自分の寿命を削って他者を癒す力だったのだ。 故に、聖女は力を使うのを拒み続けたが、国の王子が難病に掛かった事によって事態は急変するのだった。

聖女とは国中から蔑ろにされるものと思っていましたが、どうやら違ったようです。婚約破棄になって、国を出て初めて知りました

珠宮さくら
恋愛
婚約者だけでなく、国中の人々から蔑ろにされ続けたアストリットは、婚約破棄することになって国から出ることにした。 隣国に行くことにしたアストリットは、それまでとは真逆の扱われ方をされ、驚くことになるとは夢にも思っていなかった。 ※全3話。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

お姉様に押し付けられて代わりに聖女の仕事をする事になりました

花見 有
恋愛
聖女である姉へレーナは毎日祈りを捧げる聖女の仕事に飽きて失踪してしまった。置き手紙には妹のアメリアが代わりに祈るように書いてある。アメリアは仕方なく聖女の仕事をする事になった。

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。

さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」 王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。 前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。 侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。 王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。 政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。 ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。 カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

【完結】婚約破棄されたので国を滅ぼします

雪井しい
恋愛
「エスメラルダ・ログネンコ。お前との婚約破棄を破棄させてもらう」王太子アルノーは公衆の面前で公爵家令嬢であるエスメラルダとの婚約を破棄することと、彼女の今までの悪行を糾弾した。エスメラルダとの婚約破棄によってこの国が滅ぶということをしらないまま。 【全3話完結しました】 ※カクヨムでも公開中

処理中です...