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誕生日
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生徒会室の出来事は生徒達に漏れる事は無かった。
そして当日はそのまま何事も無かった様にその後の予定も終了した。
終了していないのはスヴェンの王立学園不法侵入の件である。
その後の取り調べで手引きしたのはやはりゲルハルトだという事が分かった。
別に何も大事には至っていないが、だからといって済む話ではない。
学園の生徒会室という環境を利用して身分ある者と不審者を二人きりに誘導したという悪意ある行為だ。
スヴェン本人にしても王室の者と面会したければ正規の手続きを取ればいい話だ。
会えるかどうかは別問題だが。
貴族社会では軽かろうと重かろうと醜聞や罪が表ざたになった時点で大きく評判を損なう。
今後二人は何らかの処罰を負ってまともな貴族としての人生は難しくなった。
アニエスはエルヴィンに疑問を呈した。
「あの二人はどの時点で知り合っていたのかしら」
「以前からの知り合いと云っていたらしいが、詳しい事はまだわからない」
婚約破棄の件もゲルハルトが関わっていたのかもしれないとアニエスは考えた。
だが、それを知るには外国の貴族の娘と彼が知己だったのか色々調べる事がある。
いずれにしろ今後の調査次第であった。
しつこく偏狭的な人間の理不尽な恨みは何が契機でどの様に爆発するのか常人には理解しがたい。
アニエスに調査の中間報告したエルヴィンは暗い話を振り切る様に話題を変えた。
「そう云えば、明日は私の16歳の誕生日なんだ。知っていたかい?」
「もちろんよ。明日改めて言うけど、おめでとう。」
実は気になって以前自分で確認したのだ。
尤も、そういう気持ちになっていたからではない。
陛下から始めの任務(?)を受けた時、学年ではなく正確にどれくらい年齢が離れているか調べただけだ。
でも今は正直忘れようがないくらい記憶に刷り込まれている。
「父上は嫌いだから国を挙げてのパーティなんてしないけどね。
身内でささやかに祝うのだけれど、今年は特別だ」
「成人だものね」
「そうなんだけど、……今年は君も居るしね」
「……そうね。私も嬉しいわ。その場に居合わせて」
そう云ってお互いほんの少しだけ見つめ合って無言の時間が過ぎた。
時間にして数秒だったかもしれない。
「明日、夕刻前あたりに知らせが来るから来てくれ。
君の気に入る様なお菓子もふんだんに出るはずだ」
「勿論、参加させていただくわ」
そう云って笑顔を見せるアニエスにエルヴィンも微笑んだ。
♢
エルヴィンの誕生日当日の夜、いつもの食事と違う風景がそこに会った。
開放的な大広間の中心の豪華なテーブルに豪勢な食事が沢山用意されてある。
いつもの上品なコース料理ではなく家族だけの誕生日会といった感じだ。
実際その通りで、参加者は国王・エルヴィン・ヒルダ・ノーラ・ロッテと3人の子供・そしてアニエスだけだ。
臣下も友人も誰も外部の者が居ない王族だけの宴。
王室入りして特に不自由なく生活していたアニエスではあるが王族全員特に普段から贅を尽くすという感じを持った事は無かった。
しかし、この時は違った。
家族と年配でベテランの使用人達と参加人数に釣り合わない沢山の最上級の食物に囲まれてエルヴィンの誕生パーティは始まった。
成人したばかりのエルヴィンがワインを飲んで顔をしかめるのを皆で笑う。
公的な場を離れたら王家に非ざる堅苦しくないこの雰囲気をアニエスは更に好きになった。
ロッテやお姫様達の相手をしていると国王がエルヴィンに何か云うのが目に入る。
バルコニーに誘ったらしく二人で大きい掃き出し窓からに出ていった。
するとそれを確認したヒルダがアニエスに提案する。
「私達も行きましょう」
「え?」
ヒルダはアニエスに手招きして歩き出した。
ノーラもアニエスの背中を押して歩き出す。
「あの、一体何ですか?」
「面白いものが見れるかもしれないわよ」
「はっきりわからないけど、多分ね」
「?」
何かを知っている様な表情でヒルダとノーラは会場の隣の部屋にアニエスを連れて行った。
大きく開放的なバルコニーを2方面からL字型に囲む上側の小部屋だ。
灯りは着いてないので暗いままだった。
三人は慎重に暗い部屋に入ると中途半端に大きい窓の下にしゃがみ込んだ。
先程まで離れた後姿しか見えなかった国王とエルヴィンが今度は真横から見える。
こそこそと小さい声でヒルダがアニエスに耳打ちする。
(知らなかったと思うけどこの位置からバルコニーの会話が筒抜けになるのよ)
(そうなんですか?)
そんな事は知らなかったのでアニエスも小さい声で返す。
(風の影響でそうなる様に計算されて作られているの。二人の話を聞いてみましょ)
ヒルダの言葉をノーラが補足した。
二人共なぜ急に陛下とエルヴィンの会話の盗み聞きなどしようとするのか。
疑問に思ったもののアニエスも二人に習う。
美しい三人の側妃達はこそこそ隠れて子供の様に耳を澄ませた。
そして当日はそのまま何事も無かった様にその後の予定も終了した。
終了していないのはスヴェンの王立学園不法侵入の件である。
その後の取り調べで手引きしたのはやはりゲルハルトだという事が分かった。
別に何も大事には至っていないが、だからといって済む話ではない。
学園の生徒会室という環境を利用して身分ある者と不審者を二人きりに誘導したという悪意ある行為だ。
スヴェン本人にしても王室の者と面会したければ正規の手続きを取ればいい話だ。
会えるかどうかは別問題だが。
貴族社会では軽かろうと重かろうと醜聞や罪が表ざたになった時点で大きく評判を損なう。
今後二人は何らかの処罰を負ってまともな貴族としての人生は難しくなった。
アニエスはエルヴィンに疑問を呈した。
「あの二人はどの時点で知り合っていたのかしら」
「以前からの知り合いと云っていたらしいが、詳しい事はまだわからない」
婚約破棄の件もゲルハルトが関わっていたのかもしれないとアニエスは考えた。
だが、それを知るには外国の貴族の娘と彼が知己だったのか色々調べる事がある。
いずれにしろ今後の調査次第であった。
しつこく偏狭的な人間の理不尽な恨みは何が契機でどの様に爆発するのか常人には理解しがたい。
アニエスに調査の中間報告したエルヴィンは暗い話を振り切る様に話題を変えた。
「そう云えば、明日は私の16歳の誕生日なんだ。知っていたかい?」
「もちろんよ。明日改めて言うけど、おめでとう。」
実は気になって以前自分で確認したのだ。
尤も、そういう気持ちになっていたからではない。
陛下から始めの任務(?)を受けた時、学年ではなく正確にどれくらい年齢が離れているか調べただけだ。
でも今は正直忘れようがないくらい記憶に刷り込まれている。
「父上は嫌いだから国を挙げてのパーティなんてしないけどね。
身内でささやかに祝うのだけれど、今年は特別だ」
「成人だものね」
「そうなんだけど、……今年は君も居るしね」
「……そうね。私も嬉しいわ。その場に居合わせて」
そう云ってお互いほんの少しだけ見つめ合って無言の時間が過ぎた。
時間にして数秒だったかもしれない。
「明日、夕刻前あたりに知らせが来るから来てくれ。
君の気に入る様なお菓子もふんだんに出るはずだ」
「勿論、参加させていただくわ」
そう云って笑顔を見せるアニエスにエルヴィンも微笑んだ。
♢
エルヴィンの誕生日当日の夜、いつもの食事と違う風景がそこに会った。
開放的な大広間の中心の豪華なテーブルに豪勢な食事が沢山用意されてある。
いつもの上品なコース料理ではなく家族だけの誕生日会といった感じだ。
実際その通りで、参加者は国王・エルヴィン・ヒルダ・ノーラ・ロッテと3人の子供・そしてアニエスだけだ。
臣下も友人も誰も外部の者が居ない王族だけの宴。
王室入りして特に不自由なく生活していたアニエスではあるが王族全員特に普段から贅を尽くすという感じを持った事は無かった。
しかし、この時は違った。
家族と年配でベテランの使用人達と参加人数に釣り合わない沢山の最上級の食物に囲まれてエルヴィンの誕生パーティは始まった。
成人したばかりのエルヴィンがワインを飲んで顔をしかめるのを皆で笑う。
公的な場を離れたら王家に非ざる堅苦しくないこの雰囲気をアニエスは更に好きになった。
ロッテやお姫様達の相手をしていると国王がエルヴィンに何か云うのが目に入る。
バルコニーに誘ったらしく二人で大きい掃き出し窓からに出ていった。
するとそれを確認したヒルダがアニエスに提案する。
「私達も行きましょう」
「え?」
ヒルダはアニエスに手招きして歩き出した。
ノーラもアニエスの背中を押して歩き出す。
「あの、一体何ですか?」
「面白いものが見れるかもしれないわよ」
「はっきりわからないけど、多分ね」
「?」
何かを知っている様な表情でヒルダとノーラは会場の隣の部屋にアニエスを連れて行った。
大きく開放的なバルコニーを2方面からL字型に囲む上側の小部屋だ。
灯りは着いてないので暗いままだった。
三人は慎重に暗い部屋に入ると中途半端に大きい窓の下にしゃがみ込んだ。
先程まで離れた後姿しか見えなかった国王とエルヴィンが今度は真横から見える。
こそこそと小さい声でヒルダがアニエスに耳打ちする。
(知らなかったと思うけどこの位置からバルコニーの会話が筒抜けになるのよ)
(そうなんですか?)
そんな事は知らなかったのでアニエスも小さい声で返す。
(風の影響でそうなる様に計算されて作られているの。二人の話を聞いてみましょ)
ヒルダの言葉をノーラが補足した。
二人共なぜ急に陛下とエルヴィンの会話の盗み聞きなどしようとするのか。
疑問に思ったもののアニエスも二人に習う。
美しい三人の側妃達はこそこそ隠れて子供の様に耳を澄ませた。
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