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大事な人だ
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「スヴェン、どうしてあなたがここに?」
「驚いたよ、側妃になったんだってね。私は愚かだった。君と別れるなんて」
「……なぜここに?」
「今更やり直しなんか出来ないと分かっている。でも君にお願いがあるんだ」
一方的にスヴェンは自分の身の上を語り始めた。
先日父から聞いた通りの内容で父の危惧が現実のものになった。
本来すぐにでも生徒会室の外に居る側近に声を掛け彼を連れて行ってもらうべきだった。
だが、そう出来なかった。
酷い思いをさせられたとはいえかつての婚約者に対して機械的にそういう態度を取れなかった。
「貴方の私的な問題に私が出来る事なんてないわ」
「それでもお願いするしかないんだ。どうか父にとりなして欲しい」
「え?」
「公爵家は王族の縁戚だし、今やその一員である君から何とか力添えしてして欲しい。お願いだ」
私は必死に懇願するスヴェンを前に困惑した。
♢
エルヴィンは生徒会役員の一人として講堂の司会席脇に控えて進行補佐の仕事をしていた。
そして今、気にかかった事があった。
何故なら控室である生徒会室に向かうアニエスとラウラにゲルハルトが同行するのを見たからだ。
(何であいつが同行するんだ?)
本当に大した事ではない。だが妙に気になった。
コンラートから鍵を預かったラウラがアニエスと側近達を案内する手はずだったからだ。
偶々変更になったのだろうか。
講堂の舞台からアニエスの次の来賓が話しているのを生徒達が大人しく聞いている。
当然、誰も彼女達の行動には気が付かない。
だがエルヴィンには気付いた。
ずっとアニエスを視界にとらえていたからだ。
アニエスとは最近王宮でも接触する機会は無くなっていた。
そして今日も特になかった。
学園内では来賓と生徒会役員の下っ端なのでそういう機会はなかったからだ。
重要な事は生徒会長のコンラートが中心となってアニエスと話している。
何か胸騒ぎがしたエルヴィンはアニエスを追って生徒会室に向かった。
するとこちらに歩いて来たゲルハルトとラウラに遭遇する。
「おや殿下? 持ち場はどうしたんだい?」
「ゲルハルト先輩、アニエス妃は?」
「生徒会室で待機してるよ。なあ、ラウラ嬢」
「え、ええ」
ラウラは強引に連れて来られたと本人の前で言えない。
「一人で?」
「側近達もいるだろう?」
「ちょっと挨拶してきます」
「は? 今? おい、持ち場は!?」
驚いた様に声を掛けるゲルハルトを無視して生徒会室に向かう。
アニエスの二人の側近達が扉の前に立っていた。
エルヴィンの姿を認めて居住まいをただす。
「殿下?」
「アニエスは?」
「中におられますが……」
そう側近が答えた時、生徒会室からかすかに物音が聞こえた。
側近が居るし王族を閉じ込める事など失礼だからゲルハルトも鍵など掛けてはいない。
生徒会室に入ると知らない男がアニエスに迫っている(様な)光景がエルヴィンの目に入った。
「何をしている!」
すかさず二人の間に割って入って男からアニエスを引き離す。
「……っ 王太子殿下!?」
「誰か知らないが彼女は私の大事な人だ。離れろ」
その言葉に驚くアニエスと反対にエルヴィンは怒っていた。
自然に出てきた言葉がアニエスが驚く類のものだと気付いていない。
エルヴィンの様子を見て側近達も少し遅れて生徒会室に入って来た。
エルヴィンはスヴェンを彼女らに引き渡す。
一応側近は女性といえ護衛も兼ねているので問題ない。
それよりこの男とアニエスを二人だけにした失態を責めたかった。
しかし寸前で思いとどまる。
(状況把握をしてからか)
こうなった状況が分からない今はまだ早い。
そう思ってからアニエスに向き合う。
「アニエス、無事か?」
「ええ、大丈夫。何も手荒な事はされていないから」
「奴は誰なんだ?」
「……私の婚約者だった人よ」
その言葉にエルヴィンは驚いた。確か公爵家の次男の筈だ。
いつだったか挨拶くらいはした事もある嫡男と違って印象が全く無い。
先程のくたびれた印象からとても上級貴族の子息とは思わなかった。
当然の疑問を口にする。
「……あいつが? でも、なぜここに?」
「私も知りたいわ」
「分かった。調べるのは後だ。それより良かった何も無くて」
「ありがとう。私もあなたが来てくれるとは思わなかったわ。でもどうして?」
「……偶々だ」
自分が常にアニエスを視界に入れていた事を説明出来なかったので話を逸らす。
アニエスはそれ以上深く考えずに今自分が最も気に取られている事を聞いた。
「そう。……ところでエルヴィン」
「ん?」
「さっき何て言ったの?」
「何って、君から離れろと」
「その前」
「え? 彼女は……」
エルヴィンは口にしてからその後に続く言葉を思い出した。
そして自分が重大な事を口走った事に気が付いた。
顔が赤くなるのを感じるが表面上は平静を保ち無かった事としてすまして答える。
「いや……王室にとって大事な人だから離れろ、とね。
そんな事はどうでもいい。何があったのか聞かせてくれ」
「驚いたよ、側妃になったんだってね。私は愚かだった。君と別れるなんて」
「……なぜここに?」
「今更やり直しなんか出来ないと分かっている。でも君にお願いがあるんだ」
一方的にスヴェンは自分の身の上を語り始めた。
先日父から聞いた通りの内容で父の危惧が現実のものになった。
本来すぐにでも生徒会室の外に居る側近に声を掛け彼を連れて行ってもらうべきだった。
だが、そう出来なかった。
酷い思いをさせられたとはいえかつての婚約者に対して機械的にそういう態度を取れなかった。
「貴方の私的な問題に私が出来る事なんてないわ」
「それでもお願いするしかないんだ。どうか父にとりなして欲しい」
「え?」
「公爵家は王族の縁戚だし、今やその一員である君から何とか力添えしてして欲しい。お願いだ」
私は必死に懇願するスヴェンを前に困惑した。
♢
エルヴィンは生徒会役員の一人として講堂の司会席脇に控えて進行補佐の仕事をしていた。
そして今、気にかかった事があった。
何故なら控室である生徒会室に向かうアニエスとラウラにゲルハルトが同行するのを見たからだ。
(何であいつが同行するんだ?)
本当に大した事ではない。だが妙に気になった。
コンラートから鍵を預かったラウラがアニエスと側近達を案内する手はずだったからだ。
偶々変更になったのだろうか。
講堂の舞台からアニエスの次の来賓が話しているのを生徒達が大人しく聞いている。
当然、誰も彼女達の行動には気が付かない。
だがエルヴィンには気付いた。
ずっとアニエスを視界にとらえていたからだ。
アニエスとは最近王宮でも接触する機会は無くなっていた。
そして今日も特になかった。
学園内では来賓と生徒会役員の下っ端なのでそういう機会はなかったからだ。
重要な事は生徒会長のコンラートが中心となってアニエスと話している。
何か胸騒ぎがしたエルヴィンはアニエスを追って生徒会室に向かった。
するとこちらに歩いて来たゲルハルトとラウラに遭遇する。
「おや殿下? 持ち場はどうしたんだい?」
「ゲルハルト先輩、アニエス妃は?」
「生徒会室で待機してるよ。なあ、ラウラ嬢」
「え、ええ」
ラウラは強引に連れて来られたと本人の前で言えない。
「一人で?」
「側近達もいるだろう?」
「ちょっと挨拶してきます」
「は? 今? おい、持ち場は!?」
驚いた様に声を掛けるゲルハルトを無視して生徒会室に向かう。
アニエスの二人の側近達が扉の前に立っていた。
エルヴィンの姿を認めて居住まいをただす。
「殿下?」
「アニエスは?」
「中におられますが……」
そう側近が答えた時、生徒会室からかすかに物音が聞こえた。
側近が居るし王族を閉じ込める事など失礼だからゲルハルトも鍵など掛けてはいない。
生徒会室に入ると知らない男がアニエスに迫っている(様な)光景がエルヴィンの目に入った。
「何をしている!」
すかさず二人の間に割って入って男からアニエスを引き離す。
「……っ 王太子殿下!?」
「誰か知らないが彼女は私の大事な人だ。離れろ」
その言葉に驚くアニエスと反対にエルヴィンは怒っていた。
自然に出てきた言葉がアニエスが驚く類のものだと気付いていない。
エルヴィンの様子を見て側近達も少し遅れて生徒会室に入って来た。
エルヴィンはスヴェンを彼女らに引き渡す。
一応側近は女性といえ護衛も兼ねているので問題ない。
それよりこの男とアニエスを二人だけにした失態を責めたかった。
しかし寸前で思いとどまる。
(状況把握をしてからか)
こうなった状況が分からない今はまだ早い。
そう思ってからアニエスに向き合う。
「アニエス、無事か?」
「ええ、大丈夫。何も手荒な事はされていないから」
「奴は誰なんだ?」
「……私の婚約者だった人よ」
その言葉にエルヴィンは驚いた。確か公爵家の次男の筈だ。
いつだったか挨拶くらいはした事もある嫡男と違って印象が全く無い。
先程のくたびれた印象からとても上級貴族の子息とは思わなかった。
当然の疑問を口にする。
「……あいつが? でも、なぜここに?」
「私も知りたいわ」
「分かった。調べるのは後だ。それより良かった何も無くて」
「ありがとう。私もあなたが来てくれるとは思わなかったわ。でもどうして?」
「……偶々だ」
自分が常にアニエスを視界に入れていた事を説明出来なかったので話を逸らす。
アニエスはそれ以上深く考えずに今自分が最も気に取られている事を聞いた。
「そう。……ところでエルヴィン」
「ん?」
「さっき何て言ったの?」
「何って、君から離れろと」
「その前」
「え? 彼女は……」
エルヴィンは口にしてからその後に続く言葉を思い出した。
そして自分が重大な事を口走った事に気が付いた。
顔が赤くなるのを感じるが表面上は平静を保ち無かった事としてすまして答える。
「いや……王室にとって大事な人だから離れろ、とね。
そんな事はどうでもいい。何があったのか聞かせてくれ」
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