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 明くる日、ヴァレリアはアルトから紹介したい人がいると書斎で待っていた。

 アルトが連れて来た人達にヴァレリアは目を疑う。

 紹介するまでもないがという三人――黒髪をきれいに切り揃え、執事服を纏うガイアと、メイド服を纏うメイジー、それにコナーまでいた。

 結論を言うと、方々からガイアがいると仕事にならないと言われた。
 魔法薬を手掛ければ全てが完璧、開発途中の魔法陣を見掛けて助言すれば魔法陣が完成したと、各分野において引っ張りだこになっているガイアだが、やはり一部気に食わないと思う連中はいる。

 重要な役職に就いている連中が結託して追い出そうと試みたが、シリルとタッグを組んだ二人の手に掛かると全員返り討ちにされた。予想通りである。

 だが、城とは言うなれば不安定な場所だ。 誰がいつ裏切るか、どんな攻撃をしてくるか。ならば、追い出すのではなく他で保護しようということになった。

 コナーが正式に引き取ることになったが、男爵家の五男では後ろ楯としては弱い。そこにフレデリックが後ろ楯になってくれている。

「理由はと言うとね、ヘブンズソンというコナー先生の成果を横取りした悪い人がいただろう? ヴァレリアは知らないと思うけど、七年前にアレン様を産んだ後にカトリーヌ様が襲われる事件があってね。あの時に賊の侵入を手引きしたんだ」
「えぇっ?!」

 しかも、その犯人を見つけたのはシリルとガイアのコンビ。意味もなく納得できてしまう編成だ。

 かつて治癒師達は治癒師の希少性と効果の確実さにおいて魔法薬よりも優位に立っていた。幅を利かせていた彼らは傲慢にも魔法薬研所など必要ないと言い、魔法薬研究所は存続の危機に立たされていた。

 ヘブンズソンは魔法薬の存在意義を守るために、手元にあれば多くの人間が対応できるという利便性に目を向けさせることでその当時の治癒師達の目論見を退けることに成功したのだ。
 生け贄がカトリーヌだった訳である。

 城では今や治癒師よりも魔法薬……『月浴の神酒ソーマ』の支持率が高くなってきた。

 だがそれは同時にコナーの麻酔薬もお役御免ということ。ヘブンズソンの悪事がバレるや否、製薬研究所の廃棄が決定した。

「それなら、うちが建物ごと買い取ったんだよ。ほら、ヴァレリアはみんなの虫歯の心配をしていただろう?」

 この嘘から出た真とはまさにこの事である。
 元々あの製薬研究所は『月浴の神酒ソーマ』製薬の効率を上げるために作られた研究所だ。
 国王の悲願は果たされ研究所も役目を全うした。そう言うコナーの微笑みは、怒っているようだった。
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