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66話 スキル『仮面』

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(ち・な・み・に、実は奪ったスキルの中に魔法の二重発動を可能とする『二重詠唱』がありまーす)
《うん? 使うとどうなるの?》

 舞が、ディバインライトの詠唱がもうすぐ終わる所で、

「フラッシュ!!」

 カッ! と目を潰すほどの閃光に塗り潰された。展開範囲はこの室内全域。目も開けないほど眩い光の中で、舞が叫ぶ!

『降り注げ、断罪の神光!! ディバインライト!!』
《待って待って?! 見たいんじゃなかったの? 見たいんだよね?! これじゃ、何も見えないよね?!》

 ずががががっ! と轟音が鳴り響く中、『魔力探知』でどこに誰がいるか、そして攻撃がどこに降り注ぐかを割り出してくれる。
 エマの体は降り注ぐ光の柱の合間を縫って、アルフレッドを狙うべく『縮地』距離を詰めていく。
 戸惑っているアルフレッドの背後へ迫る。

(そうすれば、ガイアが来る!!)
《ガイアさんを狙ってるの?!》

 思惑通り、一瞬のうちに彼が来る。眩い光の中、彼の腕に掴みかかる。
 スキルを使う。これは、『盗用』スキルだ。

 ……。

(くっそ、れない!! 鉱物創造がほしかったのに!)
《え?》

 大きく舞は後退する。
 仕方がないと、舞は当たり前のように、眠っていた生贄対象から奪った土属性で、床を埋め尽くさんばかりに大量の岩の柱を作り上げる。
 ガイアも、邪魔臭そうに岩の柱を破壊して視界を広げる。

《舞、岩をわざと壊してない?》
(うん。でも、これなら『ファフニール』の連中もまとめて倒せるから)
《えっ? 何するの?》

 エマの問い掛けに、舞は言う。

(エマちゃん覚えておいてね。台風が来た時は絶対建物の中、一番壁が厚くて頑丈な柱が立っている所に隠れるんだよ?)
《うん???》

 *

 ガンガンと岩を破壊して、辺りには砕け散って散乱した岩が転がる。
 その背に向かって、アルフレッドは繋いでくれている念話に向けて発する。

(ガイア、彼女止めてくれ!)
《外客はあと20分はここにはこれない。それに、彼女の夢の時間はもうすぐ終わる》
(夢の、時間?)
《多種多様な魔法、そして数あるアビリティを利用している。彼女、元は『闇』属性の一つだけだったはずだ》

 周囲を気にせず、使いたいだけ使いたい放題の魔力でエマは詠唱を始める。風の魔力が吹き荒れていく。

《他者から属性や魔法、スキルを奪って、そして今自分の物としている。それも返却しなければならないことを、彼女も分かっている。だからこそ、他者から得た力を利用できている間だけは、彼女にとって『夢』の時間だ》
「災いを誘うは、全てを飲み込む嵐の渦! 荒れ狂え、テンペスト!!」

 ごぉおおお! と緑色の荒れ狂う風が吹き荒れる。視界を埋め尽くすほどに巻き上がる。そして、散らばっていた岩の破片を暴風の中へと巻き込んでいく。

「なるほど。アルフレッド、その場を動くな」

 そう言ったガイアが彼とアルフレッドの間に黒光する鉱石の壁を作り上げる。それは三方に聳え立ち、さらに頭上にも覆いかぶさる。次の瞬間、どががががが! と大量の轟音が断続的に、途切れることなく続く。
 顔を上げれば飛んできた岩が室内の壁に次々とめり込み、床を抉るように着弾する。大量の岩を巻き上げて、回転している嵐が遠心力を作り出し、そこから巨大な岩を飛散させているのだ。
 
 アルフレッドの間近の壁に、バゴン! バゴン! と鼓膜を破らんばかりの轟音を立てて、何度も当たっている。
 こんなものを食らえばひとたまりもない。

 数秒後、アルフレッドの目の前に金糸で刺繍が施されたローブを纏う男が現れた。息はしているが、人間の骨格の大部分が損壊していた

 何度でも体はアルフレッドを狙う。ならば、指示を出す人間の息の根を止めれば早い。

(私は、……それが分かって……)

 エマの中にいる舞という異世界人は、ただだ魔法で遊んでみたいだけとは露知らず、アルフレッドは心を痛めた。

 アルフレッドは男の顔に手を乗せる。浮かび上がった白い仮面がアルフレッドの掌に。
 ガンガンと岩が破壊される轟音の中、仮面を顔に嵌めた。

 瞳の色が変わっていく。この瀕死になっている教団のリーダーである男の瞳と同じ、鳶色に。
 彼らにとっては崇拝なるドラゴンを称えるためのこれまでの行為が、アルフレッドにとっては唾棄すべき忌まわしい記憶が、脳髄に染み込んでいく。
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