上 下
47 / 73

46話 人手不足のスキル特務部隊

しおりを挟む
 スキル特務部隊が人手不足なんだと切り出された。
 隊員はスキルの能力がメインで、入隊年齢制限がない。今は8歳の子供も隊員として所属している。国内限定だがスキル特務部隊は遠方にも出張できるという。

 だがエマの意思を無視して強制することはしたくない。冒険者ギルドに残るか、スキル特務部隊で働くかはエマの自由。そして2年後、エマが成人した後もだ。

 2年間、ロイアの町限定で冒険者として活動するか、まだ出張があるスキル特務部隊での仕事を引き受けるか。ギリギリ自由なのはスキル特務部隊の方だろうか。しかし、そんなお願いされるほど仕事ができるとは思えないのも事実だった。何故なのか、理由を聞いてみた。

「先程、スキル特務部隊では特殊スキル持ちの犯罪者を預かっていると言ったのを、覚えているだろうか。あそこは、犯罪者達がスキル特務部隊員として働く代わりに特別待遇として軟禁生活を送っている。有事の際、我々の協力者として活動できるように」

 ただ、それには手間と金がかかる。彼らの価値は正直スキルにしかないが、スキルが優秀だからと付け上がった犯罪者が多くいる。そして、そんな連中が生きるのに多額の税金が使われている。だが待遇が待遇なだけに、犯罪者達の中にはスキルの希少性や優位性を鼻にかけるばかりで、心を入れ替えることも、贖罪もしようとしない。

「国民に迷惑だ。更生の余地がある者と分別し、他は犯罪奴隷として無期懲役の農業生産業務に就かせたい。君にはその犯罪者達からスキルを奪い取ってほしい。彼らの心の拠り所である『希少スキル保持者』程度の価値観を、まとめて」


 無感情に光る紫水晶の瞳が、エマを捉える。


「でも、『無効化』スキル持ちの人がいたら、私に集めても当人に返却されてしまいます。倉庫の鍵は、厳重ではありません」
「君を倉庫として扱いたいわけではないが、確かに、我々は『無効化スキル』持ちの人間を引き入れようと保持者を捜索している」
「私は、それまでの繋ぎに?」
「いや、君のスキル効果の持続時間次第では、君のスキルの方が無効化よりよほど強力だ。君のその能力は、他者からすれば『封印』と呼称しても過言ではない」

 ただ、とアルフレッドは続ける。

「私からは、冒険者ギルドの庇護下に入ることを推奨する」
「えっ」「おい!」

 アルフレッドの肩をヴォルグが掴んだ。それを、彼も一瞥するだけ。
 メイアの町を離れられないが、冒険者として知識を蓄えるなら冒険者ギルドの方が良い。ここには、百花繚乱が経営する宿泊施設があるから、そこなら先輩冒険者達と交流しながら学べる。
 一方でスキル特務部隊は王国に所属している。決まり事、貴族のいざこざ、他部隊との無駄な言い争い……と、今、彼らが直面しているのであろう、職場の関係性が詳細に語られた。

「現実、エマ嬢はエルフィールド家の人間から離れ、法律上もエルフィールド家の人間ではない。とはいえ、他者からすればあなたはエルフィールド家の人間だ。貴族の肥溜めである国に所属すれば、やり玉に上げられるだろう。しかし、スキル特務部隊を選択した以上は2年間、耐えてもらわねばならない」
(肥溜め……)「それは、私のスキルの利用価値しかないってことですね?」
「それは我々も同様だ。私達はスキルがなくなればただの人であることを、よく理解しているつもりだ。だからこそ、剣技や魔法など、別の能力も磨いている……――他に、質問は」
「あの、リースナー様は異世界人ですか?」

 北海道……どう聞いても舞が住んでいた場所の名前だ。
 彼の瞳はじっとエマを見据える。

「違う。私自身はこの世界の生まれだ。ただ、異世界人の知識を引き継いでいるに過ぎない」
(異世界人の知識を、引き継いでいる……)

 ほかに質問はないかと問われたがエマは首を振った。
 アルフレッド達スキル特務部隊を含めた騎士団がカルト教団『ファフニール』を捕らえるまでに答えを出してほしいと旨を告げて立ち上がった。

 アルフレッドが頭を下げて部屋を後にする。その後を追うヴォルグは「考えておいて」と軽い調子で手を振って去って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

骨から始まる異世界転生~裸の勇者はスケルトンから成り上がる。

飼猫タマ
ファンタジー
トラックに轢かれて異世界転生したのに、骨になるまで前世の記憶を思い出せなかった男が、最弱スケルトンから成り上がってハーレム勇者?魔王?を目指す。 『小説家になろう』のR18ミッドナイトノベルズで、日間1位、週間1位、月間1位、四半期1位、年間3位。 完了済では日間、週間、月間、四半期、年間1位をとった作品のR15版です。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

リフォーム分譲ダンジョン~庭にダンジョンができたので、スキルを使い改装して、分譲販売することにした。あらぬ罪を着せてた奴らにざまぁしてやる~

喰寝丸太
ファンタジー
俺はソフトウェア開発会社の社員だった。 外注費を架空計上して横領した罪に問われ会社を追われた。 不幸は続く。 仲の良かった伯父さんが亡くなった。 遺産が転がり込むかと思われたら、貰った家の庭にダンジョンができて不良物件に。 この世界は10年前からダンジョンに悩まされていた。 ダンジョンができるのは良く聞く話。 ダンジョンは放っておくとスタンピードを起こし、大量のモンスターを吐き出す。 防ぐ手段は間引きすることだけ。 ダンジョンの所有者にはダンジョンを管理する義務が発生しますとのこと。 そして、スタンピードが起きた時の損害賠償は所有者である俺にくるらしい。 ダンジョンの権利は放棄できないようになっているらしい。 泣く泣く自腹で冒険者を雇い、討伐する事にした。 俺が持っているスキルのリフォームはダンジョンにも有効らしい。 俺はダンジョンをリフォーム、分譲して売り出すことにした。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

処理中です...