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33話 家宅捜索・下

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 キャシーに集めてもらい、ユリウスのスキル『映写』に任せれば過去3年ほどのエルフィールド家の実態が、出るわ出るわ。ヴォルグも別働で使用人達から記憶を漁ったが、寄ってたかってエマを『盗人』『盗人令嬢』と罵って罵詈雑言と暴行を加える上に、マリアエルの私物を盗んでエマのせいにしているメイド馬鹿までいた。

 仕事の関係上、マシだったのはサニアと執事長ぐらい。
 普段から全く干渉しなかったのは兄のロレンスと側仕えのカッサーだけだったが、彼らは家を出て行こうとしたエマに剣を向けた。挑発したのはエマだが、あの程度のことで剣を抜いて切り殺そうと考えるのは犯罪者と一緒だ。

 エマは殺意がないから抜かなかった。時系列としては、ロレンス達と会ったのは本当にこの家を出る直前、夕方だ。サニアもその場に居て、証言した。ロレンスが剣を握ったこと、そしてエマを妹ではないと拒絶。エマも血縁関係上は兄だが、存在が迷惑だと言い返している。

 エマは既にその時点で『剣聖』を手に入れていた。だから、殺さないように剣を抜かなかった。

 捜査中に学園から帰ってきたロレンスに、これまでの経緯と剣を抜いた理由を問いただした。
 彼は軽蔑を滲ませた目で、言い放った。

「前世が盗人の人間など、この家の人間じゃありませんから」
「残念だったな。そんな妄言を信じてるのは時代遅れの馬鹿ぐらいだ」
「私は違う。お前達みたいな汚らわしい人間と一緒にするな」

 返り討ちにあったとはいえ剣を抜いた。実の妹に。どれだけ拒否しようとも血縁関係は事実として残る。そして、剣を抜き、『処分』と吐き捨てた事実も。

「お貴族様だからって、人を殺そうとたら犯罪なんだよ。それも分からねぇで貴族やってるのか。本当、お前みたいな奴に一番死んでほしいわ」
「ヴォルグさん!」
「こいつがエマちゃんに言ったことだろ。1人の女の子を寄って集って暴行を加えている事実は、事件として扱えるんだよ」
「お前達スキル特務部隊のスキルが虚偽を写しているからだ! 俺は確かに剣を抜いた。だが、俺達は不必要に干渉していない!」
「あぁ? アホ抜かすなクソガキ! 殺人未遂っていうのはな、1回でもやれば十分摘発できる罪だ! 他人の命を簡単に奪って良い訳ねぇだろうが!! これだから人の命を何とも思ってねぇクソとは話が合わねぇ!」

 どん! と今まで持っていたエマの殺害依頼書をロレンスの前に叩きつける。

「どの道、エルフィールド家は取り潰し確定だ。テメェの親父がこんなもの依頼してる時点でな」

 特に、マフィアと関係を持つのはご法度。だが、しっかりこの国で犯罪組織として認知されているマフィアの名前が明記されいている。
 その魔法契約書を見たロレンスの表情が、絶望に染まる。

「うそだ……父上が、こんな……こんな事をするはずがない!!」
「あ? やるだろ。テメェだって、エマちゃん殺そうと剣を抜いて振り回しただろうが。親子揃ってやることが全く同じで吐き気がする」

 今更、何かが分かったように顔を青くしたがもう遅い。ヴォルグは魔法とスキルが使えなくなる枷を嵌めさせて連れて行ってもらう。

 親だからって愛してもらえるのは当然ではない。親に愛されない子供がいないなんて、幻想だ。家族だからって思い合ってはいない。それでも心を通じ合える人は、必ず世界のどこかにいる。
 この国の法律はヴォルグに合わない。それは、師匠の側で異世界の知識を学んできたから。彼の国が平等を謳って血液による上下を廃し、実力と人柄を評価してくれたから。
 ようやく、胸糞悪いエルフィールド家の家宅捜査が終わった。

「後で始末書ですよ」とキャシー。
「あんな乱暴な言い方、絶対後で周りから言われるんですからね」ユリウスも半眼だ。
「その程度でしか攻撃材料にできねぇのか。ここで働いてる連中は無能ばっかだな。もっと上手に揚げ足取ってくれ。そうじゃないと、俺の在籍期間の満期までここで待たないといけないだろ」

 ヴォルグはこんな堅苦しい場所、あと数年もいたくないのだから。
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