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9話 エマの10歳の誕生日

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「何だその目は」じろりとロレンスが睨む。
「申し訳ありません、失礼します」

 そう返答して、エマは立ち上がる。
 多分、このままアリアに触れるのは不自然だ。それなら、

(お兄様、お前からスキルと属性をもらっていく)

 よろよろと歩きながら、エマは出入り口付近に立ったままのロレンスとアリアの前でわざと倒れる。アリアがクスクス笑う横で、起きろ、と吐き捨てたロレンス。サニアの趣味はすこぶる悪い。こんなクソガキ、良いのは容姿だけ。

 体を起こすと同時に頬に蹴りが飛んできた。横転しないとおかしいけど、本当に衝撃も痛みもなくて戸惑ってしまう。
 ロレンスなりにアリアを守っているのだろうが、ただのクズが何をしたってクズ。
 胸倉を掴み上げたロレンスの腕に「お兄様、くるしい」と両手で掴む。

(こい!!)

 スキルを発動する。スキルも、属性も、全て奪い取ってやると、強い意志を持って。
 次の瞬間、ロレンスが一瞬顔を歪めてからエマを突き飛ばした。
 胸元にふわりと温かい感覚がある。

『スキル【剣光】を入手しました』
『属性【炎】を入手しました』
(出た!)
『スキル【剣術】とスキル【剣光】は同一スキルです。経験値を合算いたしますか?』
(えっ?)

 ロレンスが痛みに顔を歪めてふらりとよろめく。

「……っ。お前のような無能に兄と呼ばれる筋合いはない。とっとと消え失せろ!」
「そうよ、お前はもうすぐ追い出されるんだから! お前の誕生日の日に!」
(何そのめちゃくちゃ嬉しい報告……て! 今ならアリアに掴みかかっても違和感はない!!)

 立ち上がりながら、エマの両肩を掴む。

「それは、どういうこと?!」

 もう一度、スキルを発動する。アリアも痛みに顔を歪めてから「痛い! 離して!」と叫んだ。その時に確認する。アリアの聖属性を入手したと、ウィンドウが現れる。
 ロレンスがアリアの肩を引き寄せながら、エマを突き飛ばす形で引き離した。

「そうよ、お前の誕生日にお父様が追い出すって言っているのよ! もう立派な成人でしょう? 今まで家の掃除をやらせてきたんだから、一人で生きていけるわよねぇ?」

 嫌みったらしく言うアリア。兄も何とも思ってない表情……2人とも知っていたのだ。エマが追い出されることを。

 何て幸運なんだろうか、合法でこの家を出られるなんて!
 こうしちゃいられない。早く父親の書斎で不正改竄書類などお家没落へ誘う証拠品を掻き集めないと!
 仲睦まじい様子の2人が出入り口を陣取っていて邪魔だ。ロレンスの方を突き飛ばして脱出口を開けると、エマはさっさとアリアの部屋から逃走した。

 突き飛ばされたロレンスが向かいの壁にぶち当たって昏倒したのには気付かない。アリアの心配する悲鳴が耳にこだましたが、エマは次いで縮地スキルを使ってサニアの部屋へと飛んでいった。

 在室を確認し、彼女からスキルを奪ってエマは本館へトンボ返りする。手を触れられただけで終わったサニアは頭にクエスチョンマークを浮かべるだけだった。
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