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2章 誘拐・融解事件
77話 違法建築
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「これ……」
ヴォルグの手元には契約書と手紙。そして設計図の紙束。
契約書には地下牢を建設することを明記した書類。それには先々代の社長、コナーの祖父に当たる人物の名前と、教会建築の依頼をした枢機卿の直筆サインが入っていた。二人の指印も押され、ダメ押しでペルーナ教会紋章の印鑑……鏡を抱くドラゴンの紋章。
そして手紙には、教会から圧力をかけられて断れなかったことを懺悔する文章が綴られていた。
自分の子孫に負の遺産を相続することになることを謝罪し、それでも絶対に設計図と契約書は捨ててはならないと念を押した。
地下牢を併設するために作られた設計図が数枚、他にも特殊な構造の部屋と地下水路とを繋ぐための設計図、加えて完成した後の教会内部の正確な地図数枚。
「社長、これ……」
「持っていきなさい。人の命が、懸かってるんだろう」
コナーは力なく笑う。
「きっと、うちも畳むことになるだろう。何せ違法建築だから……──でも、良いんだ」
ぽつりとコナーは言う。
「また、お前と酒が飲みたい……」
「社長……」
背が低くて小さなコナー。ずっしりした頼り甲斐のある大きな背中を見せてくれていた人。
それが今、こんなにも弱々しく小さく見えた。
■□■□■
空気に電撃が走ったようにビリリと脳髄が痺れる。
ガタン、と真っ先にアシュレイが立ち上がった。
「事件とは別の事件でも、決定的な証拠があれば教会内部への調査は可能……『国教条約』の条項範囲内だ」
「それは、シャラリアでは許容範囲の法律である場合でも?」
「当たり前だ! 帝国内において違法を許可する訳ないだろう!! そもそも、自国の法律を無視して自由勝手できる条約なんぞ、どこの国も結ぶわけあるかっ!!」
アシュレイがキレた。言われてみれば確かに、と和葉は思う。
空気が変わる。
こんなに重たかった空気が期待と希望に塗り変わっていく瞬間を、和葉は初めて体験した。
みんなの顔つきが変わる。
──この時を待っていた。
そんな声が、頭に聞こえてきた。
■□■□■
ヴォルグは紙を折り畳む。
「分かった! 約束だからな、社長! 行ってくる!!」
「酒奢るから!」と言って踵を返した。
「待ってヴォルグ! 確認したいことがある!」
ダブの声が肩の上のレザーからする。
「エインリッシュ地方のゴーンかゴーヴィンに、ペルーナ教会関係者の別荘を建てたりしてないか?!」
「え? あぁ……ゴーヴィンの方に建ててあるな。シャラリアに行き来するための休憩用別荘がほしいって依頼を受注したことがある……でも、そっちに地下牢はないぞ」
「オッケー! それだけで十分!! ありがとう、コナーさん!」
後で「アタシからも酒奢るわ!」とブルーファルコンからダブの声。
ヴォルグはその声に押されるように、会社を飛び出した。
「ヴォルグ、ついて来な! 一時間で帝都まで帰るよ!」
「は?! 一時間?! 一時間で帰れんのに、なんで一日跨いだんだ?!」
「お前の体力がどうなってるか分からなかったからさ! でも、レザーと同じだって分かった! さっさと変身しな!」
飛び上がったレザーに触れて、ヴォルグもブルーファルコンに姿を変える。握り締めていた紙は翼にはない。それでも、手に持っている感覚があるのは不思議だ。
空高く舞い上がるレザーの後を追い、ヴォルグも障害物が何もない空へと急上昇する。
レザーが、今までの何倍もの速さで飛行を開始した。ヴォルグも難なく後を追う。
「見失うんじゃねぇぞ! アタシの相棒の実力、見せてやる!」
次の瞬間、また一羽ばたきでレザーが遠ざかった。
ヴォルグも同様に翼を全力で振るう。見える世界が流線に変わった。空という遮蔽物のない自由で広大な美しい景色なぞ見る価値はないと言わんばかり速さで後方へと流れる。
『救出』──この目標を前に、ヴォルグは脇目も振らずに滑空する。
■□■□■
「よっし、ヴォルグの奴ついて来た! レザー達、一時間で帰って来るよ!」
「分かりました! 皆さん、直ちに準備を! デイヴィス、まとめ役を!! 準備ができ次第、目的地へ向かってください!!」
突然空気が慌ただしくなる。
ここにいる人達のエネルギーが一気に突き上がったのを肌で感じる。
抱いた思いが叶った瞬間、巨大な地震が来たように大きく空気が震えたように、和葉は感じた。
「よし俺達も……」
「貴方達、軍服はどうしたのかしら?」
「「「「「あっ」」」」」
「持ってきています」
サビータの問いに大正解を答えたのはオールドだけだった。
「お前達……昨日の今日だぞ? これからは用心して持ってこい」
「いや、相変わらず真面目だなお前は……」ハロルドが呟く。
「当然だ。仕事だからな」
「急ぎなら備品室からパクッてくればよいのでは?」
「「「「「それだ!」」」」」
「ダ~~メ~~で~~すぅ~~!」
和葉の言葉をそうサビータが否定する。
「もうっ! 貴方達が着けている階級章は飾りじゃないの! 何も着けてないのは二等兵のぺーぺー! 軍人としての示しがつかないでしょう! ほら、軍寮の子から繋ぐから、横着しないでこっち来なさい!」
(なるほど、これが『ママ』か……)
昨日もこんな感じだったのかと思うと、その光景を見れなかったのは少し損した気分だ。
「学園長ありがとう」と言いながら扉を潜り抜けて行く軍人は、やんちゃな学生達の後ろ姿を見ているようだった。
そんな騒ぎの中で、キーラは見知らぬ鍵を回しながらやって来た。
「そういえば王子サマ? 教会の地下部屋をゴルドバ建設が作ったってことは、王家の方でも関連した書面があるんじゃないかしらぁ?」
アシュレイは数秒後、はっと目を見開いた。沈黙していたが、にやにや笑っているキーラを見て怒り出しそうな表情だった。
ヴォルグの手元には契約書と手紙。そして設計図の紙束。
契約書には地下牢を建設することを明記した書類。それには先々代の社長、コナーの祖父に当たる人物の名前と、教会建築の依頼をした枢機卿の直筆サインが入っていた。二人の指印も押され、ダメ押しでペルーナ教会紋章の印鑑……鏡を抱くドラゴンの紋章。
そして手紙には、教会から圧力をかけられて断れなかったことを懺悔する文章が綴られていた。
自分の子孫に負の遺産を相続することになることを謝罪し、それでも絶対に設計図と契約書は捨ててはならないと念を押した。
地下牢を併設するために作られた設計図が数枚、他にも特殊な構造の部屋と地下水路とを繋ぐための設計図、加えて完成した後の教会内部の正確な地図数枚。
「社長、これ……」
「持っていきなさい。人の命が、懸かってるんだろう」
コナーは力なく笑う。
「きっと、うちも畳むことになるだろう。何せ違法建築だから……──でも、良いんだ」
ぽつりとコナーは言う。
「また、お前と酒が飲みたい……」
「社長……」
背が低くて小さなコナー。ずっしりした頼り甲斐のある大きな背中を見せてくれていた人。
それが今、こんなにも弱々しく小さく見えた。
■□■□■
空気に電撃が走ったようにビリリと脳髄が痺れる。
ガタン、と真っ先にアシュレイが立ち上がった。
「事件とは別の事件でも、決定的な証拠があれば教会内部への調査は可能……『国教条約』の条項範囲内だ」
「それは、シャラリアでは許容範囲の法律である場合でも?」
「当たり前だ! 帝国内において違法を許可する訳ないだろう!! そもそも、自国の法律を無視して自由勝手できる条約なんぞ、どこの国も結ぶわけあるかっ!!」
アシュレイがキレた。言われてみれば確かに、と和葉は思う。
空気が変わる。
こんなに重たかった空気が期待と希望に塗り変わっていく瞬間を、和葉は初めて体験した。
みんなの顔つきが変わる。
──この時を待っていた。
そんな声が、頭に聞こえてきた。
■□■□■
ヴォルグは紙を折り畳む。
「分かった! 約束だからな、社長! 行ってくる!!」
「酒奢るから!」と言って踵を返した。
「待ってヴォルグ! 確認したいことがある!」
ダブの声が肩の上のレザーからする。
「エインリッシュ地方のゴーンかゴーヴィンに、ペルーナ教会関係者の別荘を建てたりしてないか?!」
「え? あぁ……ゴーヴィンの方に建ててあるな。シャラリアに行き来するための休憩用別荘がほしいって依頼を受注したことがある……でも、そっちに地下牢はないぞ」
「オッケー! それだけで十分!! ありがとう、コナーさん!」
後で「アタシからも酒奢るわ!」とブルーファルコンからダブの声。
ヴォルグはその声に押されるように、会社を飛び出した。
「ヴォルグ、ついて来な! 一時間で帝都まで帰るよ!」
「は?! 一時間?! 一時間で帰れんのに、なんで一日跨いだんだ?!」
「お前の体力がどうなってるか分からなかったからさ! でも、レザーと同じだって分かった! さっさと変身しな!」
飛び上がったレザーに触れて、ヴォルグもブルーファルコンに姿を変える。握り締めていた紙は翼にはない。それでも、手に持っている感覚があるのは不思議だ。
空高く舞い上がるレザーの後を追い、ヴォルグも障害物が何もない空へと急上昇する。
レザーが、今までの何倍もの速さで飛行を開始した。ヴォルグも難なく後を追う。
「見失うんじゃねぇぞ! アタシの相棒の実力、見せてやる!」
次の瞬間、また一羽ばたきでレザーが遠ざかった。
ヴォルグも同様に翼を全力で振るう。見える世界が流線に変わった。空という遮蔽物のない自由で広大な美しい景色なぞ見る価値はないと言わんばかり速さで後方へと流れる。
『救出』──この目標を前に、ヴォルグは脇目も振らずに滑空する。
■□■□■
「よっし、ヴォルグの奴ついて来た! レザー達、一時間で帰って来るよ!」
「分かりました! 皆さん、直ちに準備を! デイヴィス、まとめ役を!! 準備ができ次第、目的地へ向かってください!!」
突然空気が慌ただしくなる。
ここにいる人達のエネルギーが一気に突き上がったのを肌で感じる。
抱いた思いが叶った瞬間、巨大な地震が来たように大きく空気が震えたように、和葉は感じた。
「よし俺達も……」
「貴方達、軍服はどうしたのかしら?」
「「「「「あっ」」」」」
「持ってきています」
サビータの問いに大正解を答えたのはオールドだけだった。
「お前達……昨日の今日だぞ? これからは用心して持ってこい」
「いや、相変わらず真面目だなお前は……」ハロルドが呟く。
「当然だ。仕事だからな」
「急ぎなら備品室からパクッてくればよいのでは?」
「「「「「それだ!」」」」」
「ダ~~メ~~で~~すぅ~~!」
和葉の言葉をそうサビータが否定する。
「もうっ! 貴方達が着けている階級章は飾りじゃないの! 何も着けてないのは二等兵のぺーぺー! 軍人としての示しがつかないでしょう! ほら、軍寮の子から繋ぐから、横着しないでこっち来なさい!」
(なるほど、これが『ママ』か……)
昨日もこんな感じだったのかと思うと、その光景を見れなかったのは少し損した気分だ。
「学園長ありがとう」と言いながら扉を潜り抜けて行く軍人は、やんちゃな学生達の後ろ姿を見ているようだった。
そんな騒ぎの中で、キーラは見知らぬ鍵を回しながらやって来た。
「そういえば王子サマ? 教会の地下部屋をゴルドバ建設が作ったってことは、王家の方でも関連した書面があるんじゃないかしらぁ?」
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