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2章 誘拐・融解事件
63話 五十四分の一
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《……ならばまずは、そのお粗末な頭で冒険者ギルドの手配書を見直すといい。その後、同じことを俺に言えるのならば聞いてやる》
《ギルドの手配書?》
こつこつと足音が遠ざかる。
ここで、マルスが録音機を切った。兄の手がプルプルと震えている。
冒険者ギルド各職員、冒険者、さらには協力関係にある軍人達も、これを聞いて沈黙した。
(アイツ……! ブレーメンのみならず、トラッドにすら手配書を見ろと言われてる……!!)
思わずケイも頭を抱えた。
本当に今まで見たことがなかったのだ。昨日、ケイが記録機を使ったあの瞬間まで。
これを聞き終えたアシュレイががたん、と立ち上がる。
「あの馬鹿は今どうしてる……!」
「そ、それが、揺すっても起きなくて……」ケイがぽつり。
「叩き起こして来い、今すぐに!」
「そんな熱くならないで、アシュレイ様。こんなこともあるわよ」
「『こんなこともある』じゃ、ない! 事件がひっくり返ったんだぞ?! ブレーメンが絡んでないどころか、トラッドに罪状すらないだと?!」
「あら、それを含めて『こんなこともある』のよ」
サビータが微笑んでいる。
その後すぐにキーラが腹を抱えて笑い出した。彼女がここまで声を上げて笑うのは非常に珍しい。達観しているから、雑談で笑うことはあっても心の底からおかしくて笑うことはまずない。
「あ~~~~……ふっふふ……で、何ぃ? いつ犯行を起こすかも分からない状況で、地下水路の出入り口が五十四カ所もあるっていうのに、カズハ君ったらトラッドの犯行後にばったり遭遇したっていうの? あっはははは! どんな確率よ!」
テーブルに突っ伏して、キーラはばんばん叩く。その後、笑い過ぎて力が抜けたようで俯せのまま笑い続けた。
言われてみれば、確かに五十四分の一を引き当てる奇跡的な確率だ。それでもカズハなら「運が良いから仕方がない」とさっぱり言う姿が見える。常に「運が良いから」解決できたみたいに言う男だ……いや、実際のところそんなのが多い。
今回みたいに、変な情報を書き加えていると思ったら実は関係していたこともあった。
「えっと、事件の様相が変わったとしてもっスよ、トラッドが殺害をするのは……変わらないんスよね?」とレムレスが首を傾げる。
「トラッドが隷属の呪いの支配下にいる以上、命令されれば殺害することは間違いない。奴を動かされる前に、地下水路の共有要地解除を帝王陛下からいただけないか、もう一度掛け合う必要がある」
そうオールドが言う。
昨日から状況は一変した。地下水路にアンデットが出ただけではない。教会が封鎖を強行している地下水路をトラッドが使っているという決定的な証拠が出てきた。
「今回は帝王陛下へ謁見しに俺も行こう。元来ならば、捜査に関して必要な許可をもぎ取ってくるのは俺達の仕事だ。アルフレッド様やアシュレイ様達だけで行かせるのは軍人の名が廃る」
そう続けてオールドは言った。
「俺達では使えないと?」
「いいえ。守らねばならない御身の後ろに隠れている、俺達が情けないという意味です」
アシュレイに、そうマルスが言い返す。
その後に、冒険者姿の軍人達もついて行くと次々声を上げていく。
「アシュレイ様、また帝王陛下のもとへ行かれるのでしょう。ならば、次はお共いたします」
「行くのはアルフレッドだけだ。俺は行かない」
「ダメよ、アシュレイ様。君も行ってきなさい」
そう後ろからサビータが言った。
「俺が行ったところで意味はない」
「行ってきなさい。そうじゃないと、今からみんなで王城へ徒歩で行くことになるわよ」
サビータの圧が強い。こちらの指示に従わないなら空間魔法での移動は使わせないという。それは不服とアシュレイが眉根を寄せる。
「でもその前に……その格好のままでは行かせませんからね」
そうサビータが言う。
確かに、帝王への謁見に行くのなら軍服だ。軍人の礼装は、軍服。そうでなければ失礼に当たる。
「着替えは?」
「えっと……」
「みんな、家にあるのね?」
「「「「「はい」」」」」
「それなら、まずは軍寮の子達から送り出します。それから……」
サビータが次々と軍服を取りに行く順番を指定していく。
ケイが学園を卒業してから、もう五年以上も経った社会人だ。この年になってもまたサビータの世話になるとは。彼女からすれば、ケイ達は一生学生のままなのかもしれない。
彼女より先に老いていき、置いて逝ったその後も、ずっと。
■□■□■
「ほら、あんた達も。しょげてないで調べ物してきなさい」
「地下水路に入れねぇのに、どうやって調べろってんだよ!」
「地下水路を使うには、まず入らないとダメでしょ? そもそも、事件を起こすのに重要な潜伏先があるでしょうよ。ほら、この写真持って、地下水路に入って行ったって証言を探してきなさい」
灯台もと暗しと言えば良いだろうか、誰もが「あ!」と声を張り上げた。
確かに、トラッドが使っている事実があるということは、彼が出入りしている地下水路入り口も存在している事実を示すことになる。そこから入っているのなら、潜伏先はその周辺になるだろう。
キーラはさらに続ける。
「それに、入るなってどこまでよ? 地下水路出入り口の階段までダメだと思う? あそこ、一時の雨を凌ぐのに便利なのよ。教会がそこまでケチったらそれこそ疑うべきじゃない。入らなきゃ良いなら、階段上から撮影機を突き出して、撮影可能範囲ぐらい撮影しててもいいでしょ? 体ごと中には入ってないんだから」
「(屁理屈過ぎる)ただ、現在一台貸し出し中だから、二台だけになるが……」
「二台あれば単純計算で二十七カ所撮影できるでしょ。十分よ、朝から暇なんだし」
それじゃあと犯罪奴隷の少年捜しの依頼が来たとか法螺吹いてと、冒険者達の今日の行動が決定していく。
一部のギルドメンバーを残して、トラッド捜索班と地下水路入り口周辺撮影班に分かれて動き出した。
《ギルドの手配書?》
こつこつと足音が遠ざかる。
ここで、マルスが録音機を切った。兄の手がプルプルと震えている。
冒険者ギルド各職員、冒険者、さらには協力関係にある軍人達も、これを聞いて沈黙した。
(アイツ……! ブレーメンのみならず、トラッドにすら手配書を見ろと言われてる……!!)
思わずケイも頭を抱えた。
本当に今まで見たことがなかったのだ。昨日、ケイが記録機を使ったあの瞬間まで。
これを聞き終えたアシュレイががたん、と立ち上がる。
「あの馬鹿は今どうしてる……!」
「そ、それが、揺すっても起きなくて……」ケイがぽつり。
「叩き起こして来い、今すぐに!」
「そんな熱くならないで、アシュレイ様。こんなこともあるわよ」
「『こんなこともある』じゃ、ない! 事件がひっくり返ったんだぞ?! ブレーメンが絡んでないどころか、トラッドに罪状すらないだと?!」
「あら、それを含めて『こんなこともある』のよ」
サビータが微笑んでいる。
その後すぐにキーラが腹を抱えて笑い出した。彼女がここまで声を上げて笑うのは非常に珍しい。達観しているから、雑談で笑うことはあっても心の底からおかしくて笑うことはまずない。
「あ~~~~……ふっふふ……で、何ぃ? いつ犯行を起こすかも分からない状況で、地下水路の出入り口が五十四カ所もあるっていうのに、カズハ君ったらトラッドの犯行後にばったり遭遇したっていうの? あっはははは! どんな確率よ!」
テーブルに突っ伏して、キーラはばんばん叩く。その後、笑い過ぎて力が抜けたようで俯せのまま笑い続けた。
言われてみれば、確かに五十四分の一を引き当てる奇跡的な確率だ。それでもカズハなら「運が良いから仕方がない」とさっぱり言う姿が見える。常に「運が良いから」解決できたみたいに言う男だ……いや、実際のところそんなのが多い。
今回みたいに、変な情報を書き加えていると思ったら実は関係していたこともあった。
「えっと、事件の様相が変わったとしてもっスよ、トラッドが殺害をするのは……変わらないんスよね?」とレムレスが首を傾げる。
「トラッドが隷属の呪いの支配下にいる以上、命令されれば殺害することは間違いない。奴を動かされる前に、地下水路の共有要地解除を帝王陛下からいただけないか、もう一度掛け合う必要がある」
そうオールドが言う。
昨日から状況は一変した。地下水路にアンデットが出ただけではない。教会が封鎖を強行している地下水路をトラッドが使っているという決定的な証拠が出てきた。
「今回は帝王陛下へ謁見しに俺も行こう。元来ならば、捜査に関して必要な許可をもぎ取ってくるのは俺達の仕事だ。アルフレッド様やアシュレイ様達だけで行かせるのは軍人の名が廃る」
そう続けてオールドは言った。
「俺達では使えないと?」
「いいえ。守らねばならない御身の後ろに隠れている、俺達が情けないという意味です」
アシュレイに、そうマルスが言い返す。
その後に、冒険者姿の軍人達もついて行くと次々声を上げていく。
「アシュレイ様、また帝王陛下のもとへ行かれるのでしょう。ならば、次はお共いたします」
「行くのはアルフレッドだけだ。俺は行かない」
「ダメよ、アシュレイ様。君も行ってきなさい」
そう後ろからサビータが言った。
「俺が行ったところで意味はない」
「行ってきなさい。そうじゃないと、今からみんなで王城へ徒歩で行くことになるわよ」
サビータの圧が強い。こちらの指示に従わないなら空間魔法での移動は使わせないという。それは不服とアシュレイが眉根を寄せる。
「でもその前に……その格好のままでは行かせませんからね」
そうサビータが言う。
確かに、帝王への謁見に行くのなら軍服だ。軍人の礼装は、軍服。そうでなければ失礼に当たる。
「着替えは?」
「えっと……」
「みんな、家にあるのね?」
「「「「「はい」」」」」
「それなら、まずは軍寮の子達から送り出します。それから……」
サビータが次々と軍服を取りに行く順番を指定していく。
ケイが学園を卒業してから、もう五年以上も経った社会人だ。この年になってもまたサビータの世話になるとは。彼女からすれば、ケイ達は一生学生のままなのかもしれない。
彼女より先に老いていき、置いて逝ったその後も、ずっと。
■□■□■
「ほら、あんた達も。しょげてないで調べ物してきなさい」
「地下水路に入れねぇのに、どうやって調べろってんだよ!」
「地下水路を使うには、まず入らないとダメでしょ? そもそも、事件を起こすのに重要な潜伏先があるでしょうよ。ほら、この写真持って、地下水路に入って行ったって証言を探してきなさい」
灯台もと暗しと言えば良いだろうか、誰もが「あ!」と声を張り上げた。
確かに、トラッドが使っている事実があるということは、彼が出入りしている地下水路入り口も存在している事実を示すことになる。そこから入っているのなら、潜伏先はその周辺になるだろう。
キーラはさらに続ける。
「それに、入るなってどこまでよ? 地下水路出入り口の階段までダメだと思う? あそこ、一時の雨を凌ぐのに便利なのよ。教会がそこまでケチったらそれこそ疑うべきじゃない。入らなきゃ良いなら、階段上から撮影機を突き出して、撮影可能範囲ぐらい撮影しててもいいでしょ? 体ごと中には入ってないんだから」
「(屁理屈過ぎる)ただ、現在一台貸し出し中だから、二台だけになるが……」
「二台あれば単純計算で二十七カ所撮影できるでしょ。十分よ、朝から暇なんだし」
それじゃあと犯罪奴隷の少年捜しの依頼が来たとか法螺吹いてと、冒険者達の今日の行動が決定していく。
一部のギルドメンバーを残して、トラッド捜索班と地下水路入り口周辺撮影班に分かれて動き出した。
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