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2章 誘拐・融解事件
2話 ヴォルグ
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「ったく! 人の金で食ってんだから、もっとしっかり捜査しろってんだ!」
帝国軍からの帰り道、辻馬車が動き出すなりヴォルグは牢屋の中で何があったかをぐちぐちと話し始めた。反発してくれるならまだ安心だと和葉はほっと胸を撫で下ろした。自分が犯人ではないという確固たる自信があったからだろうか。和葉も精神的な罪悪感が少なくて済んだ。
冤罪被害者である冒険者ギルドの受付を担当していたリーセルは、四カ月前にブレーメンから一人目の被害者として選ばれた。冤罪だと認められたものの、帝国軍の尋問や乱暴な調査に精神的なダメージは大きく、外出が極端に怖くなってしまった。
冒険者ギルドを辞めることはしなかったものの、職員として表には出なくなり職員寮で療養を兼ねて副業中。和葉がミサンガの作り方を教えてからは、それを被服店に卸したり、刺繍で刻印魔法を行うという力を発揮し、今はマジックアイテムの製作で収益を得て、冒険者ギルドの職員寮に滞在していた。
ケイもブレーメンの被害者の一人だ。リーセルの時同様に精神ダメージが大きかったのを今も覚えている。
冤罪にかけられたケイは真っ直ぐな目で、訳分からんぐらいの絶大な信頼感を持って和葉に「待っている」と言い放った。誰かの人生が自分に懸かっているということの恐ろしさを実感した。
ヴォルグの気が落ち着いたところで、和葉の現状……誰かを冤罪にかけ、間接的に事件解決をしてもらうという細工を和葉に強いていることを話した。
そして、冒険者ではない一般人を巻き込んだのは初めてのケースであることも。
(あるいは、宣戦布告)
これからは冒険者職員だけなんてまどろっこしい真似はしない。
人間であれば誰でも対象に入れる……──そういう考えも受け取れる。
「まぁしかし、アンタが来てくれて良かったぜ。この界隈じゃ有名だからな!」
「界隈?」
「帝国軍なんかより頼りになる賢者サマだって!」
ヴォルグの快活で爽やかな笑顔に、和葉は視線を逸らして片手で顔を覆った。
勝手に祭り上げられている。やめてくれ、こっちはブレーメンの事件が解決できなかったらどうしようという不安と責任でいつも精神が瀕死だ。
謎解きのアプリゲームとは違う。ゲームでは情報と事実が固定され、確定している。事柄を見付けて組み合わせると情報を勝手に更新してくれる……主人公が思い付いてくれる。
だが、現実の事件は動画再生で得られるヒントはないし、証拠品を見付けてもどんな理由があるのか文章も表示されない。新たな情報を見付けたからといって証拠品の情報は自動更新されない。
事実、情報、証拠品、それらを合わせて何が起こったのか、和葉が自力で探し当て、気づかないといけないのだ。
この情報の更新が遅れや認知の誤りがないかが分からない部分が、和葉にとって最もきつい。曲解ではいけない。確実に誰かの人生が懸かっている。事実は物語より単純ではない。
「俺、フレガーストにある『ゴルドバ建設』っていう会社で働いててさぁ」
ヴォルグがそう話を切り出してからは辻馬車の中で話は盛り上がった。
エルドランド領にあるフレガーストという町にある『ゴルドバ建設』という地元では有名な建設会社で働き始めるまでの奇妙な物語を教えてもらえた。
「でさ、キラーエレファントぶん殴ったらさ」
「殴った? 生身でAランクモンスターに近づいたのか?」
「いやだってさ、社長達がせっかく作った建物壊されたんだぜ? もう、腹が立ってさ。その時には殴りかかってて」
(いや、無謀だろ)和葉は思う。
「そしたら、何でか体が突然大きくなったんだよ。キラーエレファントと視線の高さが同じになってんの。しかも鼻がやたら重焚く手臭いんだよ。で、鼻を持ち上げたらさ、キラーエレファント同じ肌色の長い鼻が自分に付いてたんだよ」
「モンスターに変身してたってことでしょうか?」
「そう! あぁ、俺、モンスターに変身できるんだって初めて知ってさ!」
その後、キラーエレファント対キラーエレファントの対戦が始まって、無事に倒したということだった。
「それは、鳥にも変身できるということだろうか?」
和葉の知的好奇心がひょっこり頭をもたげた。
「鳥? 捕まえられないから試したことはないけど、フレイムドラゴンに変身したことならある。もちろん、倒したぜ」
(それもキラーエレファントに並ぶAランクモンスターだが?? それも素手で触ったのか??)
「君、今からスキルの実験を──」
「カズハ。それはせめて、冒険者になってもらってからだ」
ケイにそう窘められて、和葉はがっくりと肩を落とす。
他にも色々面白そうな能力がありそうなのに……実に残念だ。
■□■□■
彼の帰り際、和葉はヴォルグに働き先から解雇されていたり、何らかの実害があれば冒険者ギルドまで来てくれれば対応すると約束したその一週間後、和葉が冒険者ギルドの開店準備のためにスタンド式の看板を出しに外へ出たそこにヴォルグがいた。
「一週間ぶりですね、ヴォルグさん。どうされましたか?」
「いやぁ何か、世話になってた会社クビにされちまってたから、こっち来たわ」
ヴォルグはカラッと笑って、
「ってことで、よろしくお願いしまぁーす!」
朝の爽やかな空気の中、これまた爽やかに青年が笑った。
帝国軍からの帰り道、辻馬車が動き出すなりヴォルグは牢屋の中で何があったかをぐちぐちと話し始めた。反発してくれるならまだ安心だと和葉はほっと胸を撫で下ろした。自分が犯人ではないという確固たる自信があったからだろうか。和葉も精神的な罪悪感が少なくて済んだ。
冤罪被害者である冒険者ギルドの受付を担当していたリーセルは、四カ月前にブレーメンから一人目の被害者として選ばれた。冤罪だと認められたものの、帝国軍の尋問や乱暴な調査に精神的なダメージは大きく、外出が極端に怖くなってしまった。
冒険者ギルドを辞めることはしなかったものの、職員として表には出なくなり職員寮で療養を兼ねて副業中。和葉がミサンガの作り方を教えてからは、それを被服店に卸したり、刺繍で刻印魔法を行うという力を発揮し、今はマジックアイテムの製作で収益を得て、冒険者ギルドの職員寮に滞在していた。
ケイもブレーメンの被害者の一人だ。リーセルの時同様に精神ダメージが大きかったのを今も覚えている。
冤罪にかけられたケイは真っ直ぐな目で、訳分からんぐらいの絶大な信頼感を持って和葉に「待っている」と言い放った。誰かの人生が自分に懸かっているということの恐ろしさを実感した。
ヴォルグの気が落ち着いたところで、和葉の現状……誰かを冤罪にかけ、間接的に事件解決をしてもらうという細工を和葉に強いていることを話した。
そして、冒険者ではない一般人を巻き込んだのは初めてのケースであることも。
(あるいは、宣戦布告)
これからは冒険者職員だけなんてまどろっこしい真似はしない。
人間であれば誰でも対象に入れる……──そういう考えも受け取れる。
「まぁしかし、アンタが来てくれて良かったぜ。この界隈じゃ有名だからな!」
「界隈?」
「帝国軍なんかより頼りになる賢者サマだって!」
ヴォルグの快活で爽やかな笑顔に、和葉は視線を逸らして片手で顔を覆った。
勝手に祭り上げられている。やめてくれ、こっちはブレーメンの事件が解決できなかったらどうしようという不安と責任でいつも精神が瀕死だ。
謎解きのアプリゲームとは違う。ゲームでは情報と事実が固定され、確定している。事柄を見付けて組み合わせると情報を勝手に更新してくれる……主人公が思い付いてくれる。
だが、現実の事件は動画再生で得られるヒントはないし、証拠品を見付けてもどんな理由があるのか文章も表示されない。新たな情報を見付けたからといって証拠品の情報は自動更新されない。
事実、情報、証拠品、それらを合わせて何が起こったのか、和葉が自力で探し当て、気づかないといけないのだ。
この情報の更新が遅れや認知の誤りがないかが分からない部分が、和葉にとって最もきつい。曲解ではいけない。確実に誰かの人生が懸かっている。事実は物語より単純ではない。
「俺、フレガーストにある『ゴルドバ建設』っていう会社で働いててさぁ」
ヴォルグがそう話を切り出してからは辻馬車の中で話は盛り上がった。
エルドランド領にあるフレガーストという町にある『ゴルドバ建設』という地元では有名な建設会社で働き始めるまでの奇妙な物語を教えてもらえた。
「でさ、キラーエレファントぶん殴ったらさ」
「殴った? 生身でAランクモンスターに近づいたのか?」
「いやだってさ、社長達がせっかく作った建物壊されたんだぜ? もう、腹が立ってさ。その時には殴りかかってて」
(いや、無謀だろ)和葉は思う。
「そしたら、何でか体が突然大きくなったんだよ。キラーエレファントと視線の高さが同じになってんの。しかも鼻がやたら重焚く手臭いんだよ。で、鼻を持ち上げたらさ、キラーエレファント同じ肌色の長い鼻が自分に付いてたんだよ」
「モンスターに変身してたってことでしょうか?」
「そう! あぁ、俺、モンスターに変身できるんだって初めて知ってさ!」
その後、キラーエレファント対キラーエレファントの対戦が始まって、無事に倒したということだった。
「それは、鳥にも変身できるということだろうか?」
和葉の知的好奇心がひょっこり頭をもたげた。
「鳥? 捕まえられないから試したことはないけど、フレイムドラゴンに変身したことならある。もちろん、倒したぜ」
(それもキラーエレファントに並ぶAランクモンスターだが?? それも素手で触ったのか??)
「君、今からスキルの実験を──」
「カズハ。それはせめて、冒険者になってもらってからだ」
ケイにそう窘められて、和葉はがっくりと肩を落とす。
他にも色々面白そうな能力がありそうなのに……実に残念だ。
■□■□■
彼の帰り際、和葉はヴォルグに働き先から解雇されていたり、何らかの実害があれば冒険者ギルドまで来てくれれば対応すると約束したその一週間後、和葉が冒険者ギルドの開店準備のためにスタンド式の看板を出しに外へ出たそこにヴォルグがいた。
「一週間ぶりですね、ヴォルグさん。どうされましたか?」
「いやぁ何か、世話になってた会社クビにされちまってたから、こっち来たわ」
ヴォルグはカラッと笑って、
「ってことで、よろしくお願いしまぁーす!」
朝の爽やかな空気の中、これまた爽やかに青年が笑った。
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