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1章 魔法とスキルと、魔法ポーション
エピローグ 壊れた備品のツケ
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調理指導を兼ねて、慌ただしい日々が続く。
メメル達も、ギルド本部があるルートネリアに入ったと連絡があった。
そして、ハウルからも手紙が来た。
今は帝国を抜け、海を見に臨海国へ向かっているそうだ。
彼に残した手紙には行く先々で馬を物々交換し、昼夜問わず走り続ける方法を書き記しておいた。
駿馬を一頭買って走らせ、到着した先に馬屋があったら同等の馬と物々交換をしてまた走る、というもの。
あくまで乗りやすいことが前提だし、行く先々に馬屋があるとは限らない。よくよく考えたら馬具も必要だと後になって気づいたが、その手紙には数回その方法を使ったことと、ハウルのスキルが馬のスピードアップも可能だったらしく、予定より早く帝国を抜けることができたという。
道中、世話になる家では和葉のカラアゲをご馳走したら好評であったこと。
綴られている文面から、彼は旅路を楽しんでくれているらしい。
そして、たくさんの「ありがとう」が、並んでいた。
知らない人にも親切にしてもらって、臨海国の景色に辿り着けたこと……まるで奇跡のようだと。
そう、和葉や冒険者ギルドのメンバーにお礼も書き込まれていた。
その手紙の隅に水で濡れて乾いた跡もある。
「ギメイさーん、ちょっと来てー!」
上機嫌のカロリーナに連れられ、和葉は厨房を出て表へ連れて行かれた。こちらに、と椅子に座らされると、途端に音が消えた。周囲に無機質な魔力壁が見える。
そして、その正面。
金髪に緑色の瞳、眼鏡を掛けて、明らかに良いところの坊っちゃんみたいな優男。
「こんばんは。お久し振りですね、ギメイ君」
「牢屋に戻れ」
「おや、連れないですね」
「牢屋に戻れ」
「ちょっとぐらい、お話――」
「牢屋に戻れ」
立ち上がって踵を返した和葉に、ちょっとぐらい良いじゃないですか! と手を掴んで引き止めるなりキレてきた。
気持ち悪くて手を払う。
「失念していた。君みたいな犯罪者じゃハウスの意味は分からなかったな。牢屋に戻れ」
「君のために事件をご用意しようと思ったのに、君ときたら、めったに出掛けないし、出掛けたのを見計らっていざ仕掛けようとしたら誰も君の姿をきちんと認識できず、姿も一致していないんですよ?! どういうことですかっ?!」
「牢屋までエスコートが必要らしいな。ほら、行くぞ」
「そんな手は取りません!!」
ぷーっと頬を膨らませるブレーメンに、和葉は心底気持ち悪さを覚える。クソガキか。
後でカロリーナには諸々言うとして、ブレーメンが尋ねてきた時はどうすべきか防犯訓練でもしておこう。
「ギメイ君、オリヴァーが見付からないんですよ。あぁ、ハウルの方が馴染みがありますか?」
「君が不快そうで何よりだ」
「まぁ、別に良いんですけど……彼らしい目撃情報があるにはあるんですけど、到着時間が早すぎるんですよ。スキルでもここまで早く着かないはずなんですが……」
何か知りません? と、尋ねてきたブレーメンの話を聞いてやる義理はない。
魔法障壁に和葉は魔力を練り込みながら一発叩き込む。練習通り、パリンと割れて酒場特有の騒がしさが帰ってきた。
「えっ? 魔法、使えたんですか?」
「ギルマスから、お前みたいな駄犬は接触してくるだろうからと魔法を叩き込まれた」
「それは大変でしたねぇ」
「おい、ブレーメンだぞ!!」
誰かの一言だった。次の瞬間、冒険者達が殺気立って武器を握った。
「前より血気盛ん……て、ちょっとギメイ君! 私の足元凍らせないで下さい!」
「心からお願いがあるんだ。くたばってくれ」
「何でそんな優しい表情でそんなこと言うんですか!!」
「君のことが心底嫌いだからだが?」
次の瞬間、冒険者達が飛び掛かってきた。
椅子が砕け、テーブルが真っ二つ。
備品が壊れていく。
野郎共の大声に駆けて来たケイまで、抜き身の剣で参戦した。混沌と化した酒場は、色んな理由で賑わっている。
テーブルも椅子も、全部がめちゃくちゃになっていく。
(……ブレーメンにツケたら払ってくれるかな)
終わり
メメル達も、ギルド本部があるルートネリアに入ったと連絡があった。
そして、ハウルからも手紙が来た。
今は帝国を抜け、海を見に臨海国へ向かっているそうだ。
彼に残した手紙には行く先々で馬を物々交換し、昼夜問わず走り続ける方法を書き記しておいた。
駿馬を一頭買って走らせ、到着した先に馬屋があったら同等の馬と物々交換をしてまた走る、というもの。
あくまで乗りやすいことが前提だし、行く先々に馬屋があるとは限らない。よくよく考えたら馬具も必要だと後になって気づいたが、その手紙には数回その方法を使ったことと、ハウルのスキルが馬のスピードアップも可能だったらしく、予定より早く帝国を抜けることができたという。
道中、世話になる家では和葉のカラアゲをご馳走したら好評であったこと。
綴られている文面から、彼は旅路を楽しんでくれているらしい。
そして、たくさんの「ありがとう」が、並んでいた。
知らない人にも親切にしてもらって、臨海国の景色に辿り着けたこと……まるで奇跡のようだと。
そう、和葉や冒険者ギルドのメンバーにお礼も書き込まれていた。
その手紙の隅に水で濡れて乾いた跡もある。
「ギメイさーん、ちょっと来てー!」
上機嫌のカロリーナに連れられ、和葉は厨房を出て表へ連れて行かれた。こちらに、と椅子に座らされると、途端に音が消えた。周囲に無機質な魔力壁が見える。
そして、その正面。
金髪に緑色の瞳、眼鏡を掛けて、明らかに良いところの坊っちゃんみたいな優男。
「こんばんは。お久し振りですね、ギメイ君」
「牢屋に戻れ」
「おや、連れないですね」
「牢屋に戻れ」
「ちょっとぐらい、お話――」
「牢屋に戻れ」
立ち上がって踵を返した和葉に、ちょっとぐらい良いじゃないですか! と手を掴んで引き止めるなりキレてきた。
気持ち悪くて手を払う。
「失念していた。君みたいな犯罪者じゃハウスの意味は分からなかったな。牢屋に戻れ」
「君のために事件をご用意しようと思ったのに、君ときたら、めったに出掛けないし、出掛けたのを見計らっていざ仕掛けようとしたら誰も君の姿をきちんと認識できず、姿も一致していないんですよ?! どういうことですかっ?!」
「牢屋までエスコートが必要らしいな。ほら、行くぞ」
「そんな手は取りません!!」
ぷーっと頬を膨らませるブレーメンに、和葉は心底気持ち悪さを覚える。クソガキか。
後でカロリーナには諸々言うとして、ブレーメンが尋ねてきた時はどうすべきか防犯訓練でもしておこう。
「ギメイ君、オリヴァーが見付からないんですよ。あぁ、ハウルの方が馴染みがありますか?」
「君が不快そうで何よりだ」
「まぁ、別に良いんですけど……彼らしい目撃情報があるにはあるんですけど、到着時間が早すぎるんですよ。スキルでもここまで早く着かないはずなんですが……」
何か知りません? と、尋ねてきたブレーメンの話を聞いてやる義理はない。
魔法障壁に和葉は魔力を練り込みながら一発叩き込む。練習通り、パリンと割れて酒場特有の騒がしさが帰ってきた。
「えっ? 魔法、使えたんですか?」
「ギルマスから、お前みたいな駄犬は接触してくるだろうからと魔法を叩き込まれた」
「それは大変でしたねぇ」
「おい、ブレーメンだぞ!!」
誰かの一言だった。次の瞬間、冒険者達が殺気立って武器を握った。
「前より血気盛ん……て、ちょっとギメイ君! 私の足元凍らせないで下さい!」
「心からお願いがあるんだ。くたばってくれ」
「何でそんな優しい表情でそんなこと言うんですか!!」
「君のことが心底嫌いだからだが?」
次の瞬間、冒険者達が飛び掛かってきた。
椅子が砕け、テーブルが真っ二つ。
備品が壊れていく。
野郎共の大声に駆けて来たケイまで、抜き身の剣で参戦した。混沌と化した酒場は、色んな理由で賑わっている。
テーブルも椅子も、全部がめちゃくちゃになっていく。
(……ブレーメンにツケたら払ってくれるかな)
終わり
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