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1章 魔法とスキルと、魔法ポーション
32話 再び、タタの薬屋へ
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朝、和葉はシーラと共に、メメルが提出した依頼書や受注書を集めていた。
これまでメメルは荒稼ぎした依頼料金を全て研究費に突っ込んでいる。計算すれば、全てが実費であることは判明する。
恐らくベナードは素材ごと奪っているはずだ。身勝手な言い分を打破するのは外部機関である和葉達では難しいが、揃っている証拠から素材の回収だけなら、ベナードも返すしかない、はず。
それには彼女が今まで苦労を重ねてきた証拠品が必要になる。その一つが、薬草採取の依頼。そして、彼女がお金を稼ぐのに時間と身を費やし得た依頼料金のやり取りの証拠品だ。
領収書を回収してはいたが、彼女がそれを学園側に提出しているとは思えない。何せ、相手はベナードのような教師がいる学園だ。研究費を請求しても、びた一文支払っていないだろう。
支出管理に使っているのだ。いずれ研究所に就いた時、研究所を運営する上でお金の管理は必要になる。
他にも、ベナードが実験できなくなるように必要素材を買い込み、それをギルドの備品として貯蔵してある。こちらの方が先に抑えておく必要があるため、すでにメメルと推理ゲームを行った翌日からジェシカに買い付けに行ってもらっていた。
ベナードが当てずっぽうで実験に使っても、次の実験着手を引き伸ばすためだ。どれだけ金に物を言わせても、取り寄せるのには時間がかかる。
やっぱりと言うべきか、メメルはタタの元にも訪れていた。実験を取られたという話も知っていた。材料がなかったら冒険者ギルドに来てほしい、素材は抑えてあると伝えてもらっている。その際、タタから大量のスライムの体液を譲渡された。レアチーズを作ってくれという強い意思が伝わってくる。何なら、ホールで寄越せと言わんばかりだった。
ということで、昨日の夜のうちに作った。
この作業を終えたらタタの所に乗り込もうと思っている。
一週間前からシーラとデイヴィス公認で、ただし他のメンバーには秘密裏で、メメルの薬草採取の依頼書と報酬金の支払書控え探しを仕事終わりに行っていた。
依頼書の方はすぐに集まったが、支払書探しは難航した。メメルだけではなく、他の冒険者も受注している上、それがモンスター討伐や薬草採取など分けられていなかった。過去一年分のものを探すだけでも毎日何時間と費やした。パソコンみたいに、データをすぐに閲覧出来ればいいのに、と思ってしまう。
作業中、和葉の隣ではパトリックが興味津々で覗き込んでいた。質問されたが、ギルドの仕事で秘密だと言えば、彼はそれでも作業を見ていたいという。地道な作業だとは伝えたが、それでも良いと彼は言って和葉の傍から離れることはなかった。
その苦労が実って、今日の昼を過ぎた頃には一年分の資料を見付けることができた。
だが、もう一つある。次は彼女が受注した依頼書だ。こちらも全部混ざっているとシーラは言う。こうやって資料をひっくり返すことはまずないからだ。
ともあれ、ひと段落した。タタの所へ行こう。
和葉が出掛けると言ったら、パトリックも付いて来るという。
「……そうだな。明日、森へ行くのに必要な物をケイさんからは聞いていたかい?」
「はい! 聞いてあります!」
「それじゃあ、それを一緒に買いに行こうか」
「分かりました!」
彼は最近、よく笑顔を見せてくれるようになった。
シルバーグリズリーを生け捕りにしてきたことが、彼に何らかの心境の変化をもたらしたのだろう。
和葉はハウルが作ってくれた唐揚げの昼食を取ってから、冒険者ギルドを出た。
「カズハさんは、さっき何のお仕事をされていたんですか? ジェペットさんのお名前が乗ってるものばかりでしたが」
「あれは訳あってギルドの仕事として、口外しないことになっているんだ。すまない」
「そうなんですね! カズハさんは、大事なお仕事を任せてもらっているんですね!」
和葉はお礼を言って、笑って誤魔化した。同じ年の頃の自分と比べて話すのが上手なパトリックを見ていると羨ましいと思える。
素直に人の良いところを見つけられるのは、良いことだ。和葉は自分の時間を自分の好きなように使いたくて、あまり交流には頓着しなかった。お陰で三七年間独身だ。構わないが。
到着したタタの店。
扉を開けば鈴の音が来客を告げ、奥からタタがいらっしゃいと声をかけた。
カウンターにやって来て、タタはぱちくりと目を瞬かせる。
「なんだい、アンタか」
「お久しぶりです、タタさん。レアチーズを持ってきました」
「はっは。すまないねぇ」そう笑うタタは、嬉しそうだ。
レアチーズケーキとお試し用のベイクドチーズケーキ、それにハーヴルベリーという果実のソースが入った瓶を入れた紙袋をカウンターに置いて突然、はっとした。
「あっ……あれ、タタさん、もしかし……――あぁいや駄目だ、今店内……」
「何だい。客ならお前達しかいないよ」
「いや、個人的……いや、ジェペットさん関連の……」
気づいた事実に精神が落ち着かない。思考がぐるぐると回り始めて、頭がぼんやりする。
そこに、タタからガツンと頭を殴られた。
パトリックに心配されたが、途端に思考がスッキリと晴れ渡る。
眼の前にいるタタが丸く渦巻く杖を持ち上げていた。
「カズハ。アンタ、賢者だろう」
「へっ? いや、そんな頭は良くない……」
「『賢者』クラスの奴は、大概そう言うんだよ。有名で高名な錬金術師よりね。そこの坊主と奥に上がんな」
言われるままに、カズハはパトリックを連れて、奥の部屋へと上がり込んだ。こじんまりとした部屋で、テーブルのほかに雑多に物が積み上げられている。
タタが声を上げる。
「メメル、お茶を準備してくんな。お前も入れて四人分だよ」
「はーい、分かりまし……――あれっ!? カズハさん?!」
顔を一瞬出したメメル。
今は学園で授業を受けているはずのジェペットが、私服姿でそこにいた。
まるで全てを悟ったように、頭が答えを弾き出す。
ニルヴァーナ学園を退学させられたのだ。
一方的に。そして、強制的に。
これまでメメルは荒稼ぎした依頼料金を全て研究費に突っ込んでいる。計算すれば、全てが実費であることは判明する。
恐らくベナードは素材ごと奪っているはずだ。身勝手な言い分を打破するのは外部機関である和葉達では難しいが、揃っている証拠から素材の回収だけなら、ベナードも返すしかない、はず。
それには彼女が今まで苦労を重ねてきた証拠品が必要になる。その一つが、薬草採取の依頼。そして、彼女がお金を稼ぐのに時間と身を費やし得た依頼料金のやり取りの証拠品だ。
領収書を回収してはいたが、彼女がそれを学園側に提出しているとは思えない。何せ、相手はベナードのような教師がいる学園だ。研究費を請求しても、びた一文支払っていないだろう。
支出管理に使っているのだ。いずれ研究所に就いた時、研究所を運営する上でお金の管理は必要になる。
他にも、ベナードが実験できなくなるように必要素材を買い込み、それをギルドの備品として貯蔵してある。こちらの方が先に抑えておく必要があるため、すでにメメルと推理ゲームを行った翌日からジェシカに買い付けに行ってもらっていた。
ベナードが当てずっぽうで実験に使っても、次の実験着手を引き伸ばすためだ。どれだけ金に物を言わせても、取り寄せるのには時間がかかる。
やっぱりと言うべきか、メメルはタタの元にも訪れていた。実験を取られたという話も知っていた。材料がなかったら冒険者ギルドに来てほしい、素材は抑えてあると伝えてもらっている。その際、タタから大量のスライムの体液を譲渡された。レアチーズを作ってくれという強い意思が伝わってくる。何なら、ホールで寄越せと言わんばかりだった。
ということで、昨日の夜のうちに作った。
この作業を終えたらタタの所に乗り込もうと思っている。
一週間前からシーラとデイヴィス公認で、ただし他のメンバーには秘密裏で、メメルの薬草採取の依頼書と報酬金の支払書控え探しを仕事終わりに行っていた。
依頼書の方はすぐに集まったが、支払書探しは難航した。メメルだけではなく、他の冒険者も受注している上、それがモンスター討伐や薬草採取など分けられていなかった。過去一年分のものを探すだけでも毎日何時間と費やした。パソコンみたいに、データをすぐに閲覧出来ればいいのに、と思ってしまう。
作業中、和葉の隣ではパトリックが興味津々で覗き込んでいた。質問されたが、ギルドの仕事で秘密だと言えば、彼はそれでも作業を見ていたいという。地道な作業だとは伝えたが、それでも良いと彼は言って和葉の傍から離れることはなかった。
その苦労が実って、今日の昼を過ぎた頃には一年分の資料を見付けることができた。
だが、もう一つある。次は彼女が受注した依頼書だ。こちらも全部混ざっているとシーラは言う。こうやって資料をひっくり返すことはまずないからだ。
ともあれ、ひと段落した。タタの所へ行こう。
和葉が出掛けると言ったら、パトリックも付いて来るという。
「……そうだな。明日、森へ行くのに必要な物をケイさんからは聞いていたかい?」
「はい! 聞いてあります!」
「それじゃあ、それを一緒に買いに行こうか」
「分かりました!」
彼は最近、よく笑顔を見せてくれるようになった。
シルバーグリズリーを生け捕りにしてきたことが、彼に何らかの心境の変化をもたらしたのだろう。
和葉はハウルが作ってくれた唐揚げの昼食を取ってから、冒険者ギルドを出た。
「カズハさんは、さっき何のお仕事をされていたんですか? ジェペットさんのお名前が乗ってるものばかりでしたが」
「あれは訳あってギルドの仕事として、口外しないことになっているんだ。すまない」
「そうなんですね! カズハさんは、大事なお仕事を任せてもらっているんですね!」
和葉はお礼を言って、笑って誤魔化した。同じ年の頃の自分と比べて話すのが上手なパトリックを見ていると羨ましいと思える。
素直に人の良いところを見つけられるのは、良いことだ。和葉は自分の時間を自分の好きなように使いたくて、あまり交流には頓着しなかった。お陰で三七年間独身だ。構わないが。
到着したタタの店。
扉を開けば鈴の音が来客を告げ、奥からタタがいらっしゃいと声をかけた。
カウンターにやって来て、タタはぱちくりと目を瞬かせる。
「なんだい、アンタか」
「お久しぶりです、タタさん。レアチーズを持ってきました」
「はっは。すまないねぇ」そう笑うタタは、嬉しそうだ。
レアチーズケーキとお試し用のベイクドチーズケーキ、それにハーヴルベリーという果実のソースが入った瓶を入れた紙袋をカウンターに置いて突然、はっとした。
「あっ……あれ、タタさん、もしかし……――あぁいや駄目だ、今店内……」
「何だい。客ならお前達しかいないよ」
「いや、個人的……いや、ジェペットさん関連の……」
気づいた事実に精神が落ち着かない。思考がぐるぐると回り始めて、頭がぼんやりする。
そこに、タタからガツンと頭を殴られた。
パトリックに心配されたが、途端に思考がスッキリと晴れ渡る。
眼の前にいるタタが丸く渦巻く杖を持ち上げていた。
「カズハ。アンタ、賢者だろう」
「へっ? いや、そんな頭は良くない……」
「『賢者』クラスの奴は、大概そう言うんだよ。有名で高名な錬金術師よりね。そこの坊主と奥に上がんな」
言われるままに、カズハはパトリックを連れて、奥の部屋へと上がり込んだ。こじんまりとした部屋で、テーブルのほかに雑多に物が積み上げられている。
タタが声を上げる。
「メメル、お茶を準備してくんな。お前も入れて四人分だよ」
「はーい、分かりまし……――あれっ!? カズハさん?!」
顔を一瞬出したメメル。
今は学園で授業を受けているはずのジェペットが、私服姿でそこにいた。
まるで全てを悟ったように、頭が答えを弾き出す。
ニルヴァーナ学園を退学させられたのだ。
一方的に。そして、強制的に。
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