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1章 魔法とスキルと、魔法ポーション
12話 続・シャボン玉スキルの実験
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パトリックが帰ってきたのは、日も暮れてからだった。
依頼量以上に、薬草を採ってきてくれたらしい。メメルの依頼分より余剰分はギルドで換金した。
ギルドの方で貯蔵しておいたり、専門店に卸したりするのだ。
パトリックは嬉しそうに並んだ銅貨を確認する。硬貨の枚数を数える手際はいい。お金の扱いも『銀の狼』で教え込まれたのだろうか。
「何から何まで、ありがとうございます」
どういたしましてと返答しながらも、それ以上に恩があるのはこちらだという気持ちは伝えた。何せ、獣に食われている可能性の方が高かったのだから。
「この後、また森に戻るのか?」
「い、いえ……今日はお金があるので、街の宿に……」
「それなら、宿代を払わなくて済む場所がある」
「えっ!? どこですか!?」
(予想以上に食い付いた)「ここだ。しばらく泊まっていってくれないかな? 君のスキルをもう少し調べたいんだが……」
パトリックが途端に申し訳なさそうに断るそこに、ケイとハウルが戻ってきた。事情を説明すると、パトリックの相手をハウルが引き受けて、和葉はケイにスタッフルームへと押しやられた。
『銀の狼』の処遇についてだが、その前にまずは『銀の狼』から聴取する。事実確認は必要ということだ。
しかし、『銀の狼』は現在、護衛任務を遂行中だ。帰ってくるのは一カ月後になる。
それまでは、パトリックをギルドで保護する形となる。
「事情聴取、必要か? 連中、正直に話さないだろう」
「そうだろうな」
良くも悪くも、パトリックは素直によく従う。それは大人という存在が絶対的であるという考えがあるからだ。
大人に逆らってはいけない、大人の言うことには全て従わないといけないと思っている。
そんな少年では、暴力三昧な上、頭が悪くとも言い訳はできる狡猾な大人には言葉で負けてしまう。
ケイは何とかするとは言っているが、どうやら子供より大人の発言の方が重要視されそうだ。
■□■□■
パトリックは焼き上げたフレンチトーストと、あっさりしたスープもしっかり完食してくれた。
もうちょっと物欲しそうな感じだったので和葉の分を与えてみれば、それも食べ切った。
そのまま、食事の片付けを終えたらボトルに水をいっぱい入れて部屋へと逃げた。これでパトリックのスキルの実験もできるし厨房に捕まらずに済むはずだ。
まずは、パトリックに水をシャボン玉のように形成できないかを試してもらった。最初は分からなかったようだが、諦められなかった和葉がまずは水を吸い上げて、シャボン玉のような薄い膜の玉を作るイメージだ、と伝えたら本当に作ってくれた。
ぷかぷかと、水でできたシャボン玉の表面は洗剤液のようなマーブル模様ではなく、部屋の明かりをわずかに反射して、美しい水球となって浮かんでいた。
水でできたシャボン玉も、彼の自由意思で動くようだ。触ったらすぐに弾けてしまった。あの弾力はスキル限定のようだ。
割れて床に散った水を再びシャボン玉にできるか挑戦してもらったが、こっちはうまくいかなかった。それは仕方がないから拭き取って、今度は本命のシャボン玉の中に水を内包できないかだ。作り方は同じだが、その後は水を吸い上げ続けてもらう。
シャボン玉の底から徐々に水がたまり始める。それは三分の一、半分、とどんどん増えていく。残り四分の一程度のところで、水はそれ以上入らないとパトリックは言った。その状態で動かしてもらう。すると、シャボン玉はすぐに弾けてしまった。
「ごっ、ごめんなさい!」
「構わない。水分量によっては通常時のように動かすには、コツが必要なのかもしれないな。そこの微細な点は、パトリックさんにしか分からない。それは、これからゆっくり探していけば良いことだ。焦る必要はない」
だが、思いっきり床を濡らしてしまった。タオルを借りてくると言って、部屋を出る。多分、備品置き場にならあるだろう。幸い厨房の近くではない。
扉を開くと、そこにハウルがいた。備品を片手にボードを持っていた。
それよりも驚いたのは、備品室の備品というのが日用品の類ではなく、動物の牙や毛皮、見たこともない植物など、多種多様な物が置いてあった。
それが一〇個以上の大きな棚に整然と配置され、箱の中はほとんど山積みだ。あまりに余って、床にまで置いてある。
(備品? えっ? 備品??)
「あれっ? どうしたの? もう、上がったんじゃなかったの?」
中にいたハウルが、備品の一つであろう緑色の宝石が羽を模したような物を持っている。
「すまない、タオルを貸してもらいたかったんだが、ここじゃないな」
「そうだね! そういうのは、二階の洗濯室にあるよ」
「ありがとう。それじゃあ頑張ってな」
そう言って戻ろうとして、扉を閉める。
(そういえば)「すまない、ここにポーションはあるか?」
「っ!! びっくりしたぁ!」
扉を再度開いたら、ものすごく驚かれた。
「え、えっと、何だって?」
「ここにポーションはあるか? もしよければ、購入したい」
「何に使うんだい?」
「個人的趣味の実験に。今は現金がないから、給料から差し引いてもらえるなら今すぐ使いたいと思っている」
「そういうことなら、俺から期待の新人君にプレゼントするよ」
寄越されたのは四種類のポーションだ。青、緑、赤、白。最初の三つは体力回復ポーションで、青が一般的なポーションで、緑で中、赤は上位ポーション。これになると白は魔力回復用のポーションだと教えてくれた。
ちなみに、ハウルは今回も和葉の少し上を見ていた。何か頭に乗ってるんだろうか。
礼を言って備品室を後にした後に頭頂部に触れてみたが、何もなかった。
依頼量以上に、薬草を採ってきてくれたらしい。メメルの依頼分より余剰分はギルドで換金した。
ギルドの方で貯蔵しておいたり、専門店に卸したりするのだ。
パトリックは嬉しそうに並んだ銅貨を確認する。硬貨の枚数を数える手際はいい。お金の扱いも『銀の狼』で教え込まれたのだろうか。
「何から何まで、ありがとうございます」
どういたしましてと返答しながらも、それ以上に恩があるのはこちらだという気持ちは伝えた。何せ、獣に食われている可能性の方が高かったのだから。
「この後、また森に戻るのか?」
「い、いえ……今日はお金があるので、街の宿に……」
「それなら、宿代を払わなくて済む場所がある」
「えっ!? どこですか!?」
(予想以上に食い付いた)「ここだ。しばらく泊まっていってくれないかな? 君のスキルをもう少し調べたいんだが……」
パトリックが途端に申し訳なさそうに断るそこに、ケイとハウルが戻ってきた。事情を説明すると、パトリックの相手をハウルが引き受けて、和葉はケイにスタッフルームへと押しやられた。
『銀の狼』の処遇についてだが、その前にまずは『銀の狼』から聴取する。事実確認は必要ということだ。
しかし、『銀の狼』は現在、護衛任務を遂行中だ。帰ってくるのは一カ月後になる。
それまでは、パトリックをギルドで保護する形となる。
「事情聴取、必要か? 連中、正直に話さないだろう」
「そうだろうな」
良くも悪くも、パトリックは素直によく従う。それは大人という存在が絶対的であるという考えがあるからだ。
大人に逆らってはいけない、大人の言うことには全て従わないといけないと思っている。
そんな少年では、暴力三昧な上、頭が悪くとも言い訳はできる狡猾な大人には言葉で負けてしまう。
ケイは何とかするとは言っているが、どうやら子供より大人の発言の方が重要視されそうだ。
■□■□■
パトリックは焼き上げたフレンチトーストと、あっさりしたスープもしっかり完食してくれた。
もうちょっと物欲しそうな感じだったので和葉の分を与えてみれば、それも食べ切った。
そのまま、食事の片付けを終えたらボトルに水をいっぱい入れて部屋へと逃げた。これでパトリックのスキルの実験もできるし厨房に捕まらずに済むはずだ。
まずは、パトリックに水をシャボン玉のように形成できないかを試してもらった。最初は分からなかったようだが、諦められなかった和葉がまずは水を吸い上げて、シャボン玉のような薄い膜の玉を作るイメージだ、と伝えたら本当に作ってくれた。
ぷかぷかと、水でできたシャボン玉の表面は洗剤液のようなマーブル模様ではなく、部屋の明かりをわずかに反射して、美しい水球となって浮かんでいた。
水でできたシャボン玉も、彼の自由意思で動くようだ。触ったらすぐに弾けてしまった。あの弾力はスキル限定のようだ。
割れて床に散った水を再びシャボン玉にできるか挑戦してもらったが、こっちはうまくいかなかった。それは仕方がないから拭き取って、今度は本命のシャボン玉の中に水を内包できないかだ。作り方は同じだが、その後は水を吸い上げ続けてもらう。
シャボン玉の底から徐々に水がたまり始める。それは三分の一、半分、とどんどん増えていく。残り四分の一程度のところで、水はそれ以上入らないとパトリックは言った。その状態で動かしてもらう。すると、シャボン玉はすぐに弾けてしまった。
「ごっ、ごめんなさい!」
「構わない。水分量によっては通常時のように動かすには、コツが必要なのかもしれないな。そこの微細な点は、パトリックさんにしか分からない。それは、これからゆっくり探していけば良いことだ。焦る必要はない」
だが、思いっきり床を濡らしてしまった。タオルを借りてくると言って、部屋を出る。多分、備品置き場にならあるだろう。幸い厨房の近くではない。
扉を開くと、そこにハウルがいた。備品を片手にボードを持っていた。
それよりも驚いたのは、備品室の備品というのが日用品の類ではなく、動物の牙や毛皮、見たこともない植物など、多種多様な物が置いてあった。
それが一〇個以上の大きな棚に整然と配置され、箱の中はほとんど山積みだ。あまりに余って、床にまで置いてある。
(備品? えっ? 備品??)
「あれっ? どうしたの? もう、上がったんじゃなかったの?」
中にいたハウルが、備品の一つであろう緑色の宝石が羽を模したような物を持っている。
「すまない、タオルを貸してもらいたかったんだが、ここじゃないな」
「そうだね! そういうのは、二階の洗濯室にあるよ」
「ありがとう。それじゃあ頑張ってな」
そう言って戻ろうとして、扉を閉める。
(そういえば)「すまない、ここにポーションはあるか?」
「っ!! びっくりしたぁ!」
扉を再度開いたら、ものすごく驚かれた。
「え、えっと、何だって?」
「ここにポーションはあるか? もしよければ、購入したい」
「何に使うんだい?」
「個人的趣味の実験に。今は現金がないから、給料から差し引いてもらえるなら今すぐ使いたいと思っている」
「そういうことなら、俺から期待の新人君にプレゼントするよ」
寄越されたのは四種類のポーションだ。青、緑、赤、白。最初の三つは体力回復ポーションで、青が一般的なポーションで、緑で中、赤は上位ポーション。これになると白は魔力回復用のポーションだと教えてくれた。
ちなみに、ハウルは今回も和葉の少し上を見ていた。何か頭に乗ってるんだろうか。
礼を言って備品室を後にした後に頭頂部に触れてみたが、何もなかった。
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