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強すぎて話にならない主人公
しおりを挟む男「あー、今日も授業だりーな」
友「おい男、最近さ、俺ネット小説書き始めようと思ってるんだけどさ」
男「突然どうした」
友「すっげーいいアイディアがあるんだよ」
男「……おう」
友「聞けよ」
男「ドンナアイデアー?」
友「どこにでもいる高校生の主人公が、偶然手に入れた能力で、超強くなるってお話」
男「結構やってる人多いだろ」
友「ちがーう、違うんだって」
友「いいか、書き出しはこうだ【俺はどこにでもいる高校生。名前はクリスタロイド・R・シュバイツ17世】」
男「ちょっとまて」
友「なんだよ今いいとこなのに」
男「どこにでもいる高校生の名前じゃねーだろそれ」
友「大丈夫大丈夫、第13章で実はイギリス系ドイツ人のハーフだって判明するから」
男「伏線でもなんでもねぇ……」
友「【今日は人生初の高校生活初日な訳だが、妙な腹騒ぎがする……。ヒツジの爺やが入れた、砂糖ミルク無しの苦いロイヤルミルクティーを口の中で転がしながら私は考えていた。すると予想皆中。時計の長針が15°ズレていたのだ。そう……15分の遅刻だ!】」
男「この時点で小説家としての能力は知らんが、添削の仕事だけはやめとけよお前」
友「【遅刻して慌てていた僕は、ついうっかり通りで人とぶつかってしまった……。次の瞬間目の前が真っ暗になり、手でその柔らかいものを押し返すと今度は真っ赤な世界が見えた………。】」
男「ああ、ヒロインキャラとぶつかって、目の前がパンツだけになるラッキースケベなシーンね」
友「【その赤は、クリスタロイド家の血……つまり俺の血だった。ついうっかりぶつかったのはオオサンショウウオ……両生類だったのだッ!!】」
男「人って言ったよな!お前さっき人って言ったよな!そもそも町でオオサンショウウオとぶつかるって元号当てるぐらい難しい確率だろ」
友「【その後俺の意識は消えた……】」
男「マジで何だったんだよオオサンショウウオ……」
友「ほらー、第1話で主人公が死ぬって名作が多いじゃん?」
男「死んだの?そのー……何だっけ?」
友「クロスベイト・L・シュバイン21世?」
男「多分違う、主人公のやつ」
友「ああ、アイツね。死んだよ。この後が面白いんだよ」
友「【目が覚めたら俺は綿菓子のような雲の上にいた。すると笑いながらジジイがでてきた。どうやら天界側のミスで僕は死んでしまったらしい……。お詫びとして俺を次の神さまにしてくれるらしい。】」
男「神さま太っ腹過ぎるだろ。俺もそんな神さまの元に生まれたかった」
友「【元の世界に戻った俺は、聖グルデリクシアン高校で、普通の高校生活を送っている。ただし夜は、私たちクリスタロイド家に復讐を企む謎のグループ……“オオサンショウウオ”との戦いに明け暮れているッ!】
男「それ神さまラスボスだろ」
友「やめろ。ネタバレ感想は却下にするぞ」
男「やってみろよ現実で」
友「まぁまぁ、こっからが面白いんだよ」
友「【神になった俺だったが、最初の内はレンタルビデオでDVDの貸出期間を延ばしたり、水泳の授業で視力増強させたりする程度だったんだが……】」
男「使い道が地味過ぎる」
友「【ある日、両親が殺されてしまう……。犯人は分からない……。ただヌルっとした半透明の液体だけが残っていた………。】」
男「それ絶対オオサンショウウオだ」
友「【許せねぇ……怒りで俺の力は覚醒した。思い返せば幼稚園や小学生の時にも、上級生と喧嘩になり意識が戻ったら相手を病院送りにしていた……。後になって分かったことだが、俺は笑顔で殴っていたらしい】」
男「そりゃハーフだからな、体格もいいんだろ」
友「【神としての力が解放された俺の戦いは一瞬だった……刹那、両親を殺した連中を悪魔の左目で探し当て、胃袋に大量の増えるワカメを発生させて殺した】」
男「………んで?」
友「終わりだよ、超簡潔だったから微妙に感じるかも知れんが、全67章ある話だからな」
男「なげぇよ、3行でも読まねぇはこんな話」
友「なんで?」
男「なんでってお前……。そもそも、敵との戦いが短すぎね?それも省略されてんの?」
友「いやむしろここ増やしたぐらいだな」
男「もうちょいバトル白熱させろよ……。あとそんな簡単に神様になって強くなっても何の説得力もねぇわ」
友「いやーでも最強だから、苦戦とか一切しないからこの主人公」
男「それって生きてて楽しいん?」
友「……どういう意味だ?」
男「強さに説得力が感じられないんだよね。そんなミスやらかす神の能力もらっても、もっと凄いやついるんじゃね?ってさ」
友「いやでも最強だから」
男「もっと努力して強くなった方が現実味があるじゃん」
友「ほんとにそうか?」
男「?」
友「お前さっき、俺の話の中で主人公が上級生ボコってた回想で何て言ってた?」
男「ああ、ハーフだから体格いんじゃねーの?」
友「そう、それだ。お前はこの主人公がトレーニングをしているか否かを知らないのに、ハーフなら強いかもと心を許してしまったんだよ」
男「……………」
友「つまりこの世界は理不尽なんだ!」
友「身長なんてものはやはり遺伝だし、運動神経もそうだ。筋肉だって努力すればなんとなるなんて言われるが、いくら食ってもデカくなれない奴はいるんだ!」
友「だったら!だったら理不尽に強くなれるのだっていいんじゃないか!?」
男「お前………」
友「…………なんてな」
男「え?」
友「そう思っていたのはつい先週の話だ。この小説を書いている途中に思い出したんだよ……」
友「俺が書いていた小説の主人公……クリステン・R・シュバババイン17世は俺自身だったんだ!」
友「つまり俺はッ!この世界の1582代目の神さまだってことにな!」
男「!」
友「俺は世界の全てに満足していた……。だからこそ………だからこそ!普通の高校生で愚痴を言うだけの“友”という存在と“男”という存在をつくったんだ!」
男「!!?!?!???!?」
友「全部お前のいう通りだ。努力をして、辛い過去を超えて、強くなった者こそが美だ。でも世界は違う!美は力に敗北する!力こそ絶対!生まれつきだろうが、偶然手に入れようが、結局強さこそが全てなんだ!」
男「ラスボス感あるセリフだな」
友「じゃあな、俺はもう天界に帰らなくてはならない……」
友「俺のこと……せめて神頼みする時ぐらいは思い出してくれよ……」
友「じゃあな!」
男「!!おい待てよ!クリス……ト……いやクリスティア……あれ?なんて名前だっけ」
キーン コーン カーン コーン
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