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転。〈漆〉
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ふと、自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、清司は目を開けた。
目の前には、尾が2つに分かれた、緑色の瞳の白い虎がこちらを見つめ、座っている。
横たわっていた姿勢から身を起こし立ち上がると、巨大な虎は清司に近づき、飼い猫が主人にする様に体をすり寄せ、後ろを回ってから彼の左側に寄り添った。
その頭を軽く撫でてから前方を見やると、痩せこけて骨と皮だけの、ぼろを纏った人間が両足を鎖に繋がれた状態で立っている。
近づくと、まるで助けを求めるかのように、枯れ枝のようになった腕を伸ばしてきた。
不思議と何も考えられず、その手をとる。
瞬間、彼の意識は暗転した。
「もう良いであろう。櫻井、拘束を解け」
清司を拘束してどのくらい経っただろう。
男の声にハッとして、康樹は術を解いた。
瞬間、清司を縫い止めていた鎖の束が霧散し、彼はその場に崩れるようにして倒れるのを見てすぐさま太壱が駆け寄り、彼の状態を確認している。
もしかして。
ふと、最悪の状況が頭を過り、康樹はその場に座り込んだ。
「……オレ……力加減、出来ない……から、さ……」
つぶやくように、震えた声で言いつつ、二人から目を逸らしてしまう。
もしかして、自分は親友を殺してしまったのではないのか?
必死に呼びかけ続ける太壱の声を耳にしながら、浮かんだ答えに吐き気が込み上げ、思わず口元を抑えた。
「くそっ!息しろ清司‼」
現実が、受け容れられない。
頭が段々と痺れてくる。
上手く、息ができない。
段々と狭まる視界の端に狐の男を捉えて、「コイツが居なければこんな事にはならなかったのではないか」
と思う反面、それが逆恨みでしかない事を理解しながら、彼は意識を失った。
どさっという音を耳にして、清司の肩を叩きつつ、太壱はそちらに目をやった。
何ということだろう。康樹まで倒れてしまうとは。
「ちょっ!康樹⁉」
その様子を見て、側にいた狐の男がすぐさま康樹に駆け寄った。顔はすでに人のそれになっている。
「大丈夫。気を失っているだけだ」
その言葉に内心胸を撫で下ろしつつ、清司の状態に視線を戻す。
着ていた上の着物などとうに焼け落ちており、露出した上半身の鎖が巻き付いていた部分。両の上腕と手首、それと胴体の上半分が焼けて爛れた状態になっていた。
本当は触れないほうがいいのだろうが、何かが詰まっているかのようにうまく呼吸ができていない為、太壱は横たわる清司の姿勢を整えつつ横向きにし、肩甲骨の少し下に思い切り平手で衝撃を与えた。
「清司!頼むから息しろって‼」
言いながら必死に背中を叩き続ける。
何度めかの打撃で、
「……っ、がはっ‼」
清司がようやくむせ込んで、詰まっていたと思しきモノを吐き出した。
吐き出されたそれは、薄暗い部屋の中でもなお黒く、おぞましく見えた。
と、
「右吉、左吉」
声と同時に先の狐が二匹、その黒い物体に噛み付いた。そして引き千切ると、二匹がそれぞれ噛み砕き、飲み込んでしまう。
男を見やると、それまで見せなかった優しい表情だ。
「今のは術自体の残りカスよ。ここまでよく頑張られた。二人はじき、目を覚ますであろ」
言われて、改めて清司の様子を見ると、呼吸はすっかり落ち着いていた。
顔面は腫れ上がり、火傷は依然酷い状態だが、玉の回復能力を持ってすれば明日にはすっかり良くなっているだろう。
肩の荷がおりたようにため息をつき、太壱はその場に座り込んだ。
目の前には、尾が2つに分かれた、緑色の瞳の白い虎がこちらを見つめ、座っている。
横たわっていた姿勢から身を起こし立ち上がると、巨大な虎は清司に近づき、飼い猫が主人にする様に体をすり寄せ、後ろを回ってから彼の左側に寄り添った。
その頭を軽く撫でてから前方を見やると、痩せこけて骨と皮だけの、ぼろを纏った人間が両足を鎖に繋がれた状態で立っている。
近づくと、まるで助けを求めるかのように、枯れ枝のようになった腕を伸ばしてきた。
不思議と何も考えられず、その手をとる。
瞬間、彼の意識は暗転した。
「もう良いであろう。櫻井、拘束を解け」
清司を拘束してどのくらい経っただろう。
男の声にハッとして、康樹は術を解いた。
瞬間、清司を縫い止めていた鎖の束が霧散し、彼はその場に崩れるようにして倒れるのを見てすぐさま太壱が駆け寄り、彼の状態を確認している。
もしかして。
ふと、最悪の状況が頭を過り、康樹はその場に座り込んだ。
「……オレ……力加減、出来ない……から、さ……」
つぶやくように、震えた声で言いつつ、二人から目を逸らしてしまう。
もしかして、自分は親友を殺してしまったのではないのか?
必死に呼びかけ続ける太壱の声を耳にしながら、浮かんだ答えに吐き気が込み上げ、思わず口元を抑えた。
「くそっ!息しろ清司‼」
現実が、受け容れられない。
頭が段々と痺れてくる。
上手く、息ができない。
段々と狭まる視界の端に狐の男を捉えて、「コイツが居なければこんな事にはならなかったのではないか」
と思う反面、それが逆恨みでしかない事を理解しながら、彼は意識を失った。
どさっという音を耳にして、清司の肩を叩きつつ、太壱はそちらに目をやった。
何ということだろう。康樹まで倒れてしまうとは。
「ちょっ!康樹⁉」
その様子を見て、側にいた狐の男がすぐさま康樹に駆け寄った。顔はすでに人のそれになっている。
「大丈夫。気を失っているだけだ」
その言葉に内心胸を撫で下ろしつつ、清司の状態に視線を戻す。
着ていた上の着物などとうに焼け落ちており、露出した上半身の鎖が巻き付いていた部分。両の上腕と手首、それと胴体の上半分が焼けて爛れた状態になっていた。
本当は触れないほうがいいのだろうが、何かが詰まっているかのようにうまく呼吸ができていない為、太壱は横たわる清司の姿勢を整えつつ横向きにし、肩甲骨の少し下に思い切り平手で衝撃を与えた。
「清司!頼むから息しろって‼」
言いながら必死に背中を叩き続ける。
何度めかの打撃で、
「……っ、がはっ‼」
清司がようやくむせ込んで、詰まっていたと思しきモノを吐き出した。
吐き出されたそれは、薄暗い部屋の中でもなお黒く、おぞましく見えた。
と、
「右吉、左吉」
声と同時に先の狐が二匹、その黒い物体に噛み付いた。そして引き千切ると、二匹がそれぞれ噛み砕き、飲み込んでしまう。
男を見やると、それまで見せなかった優しい表情だ。
「今のは術自体の残りカスよ。ここまでよく頑張られた。二人はじき、目を覚ますであろ」
言われて、改めて清司の様子を見ると、呼吸はすっかり落ち着いていた。
顔面は腫れ上がり、火傷は依然酷い状態だが、玉の回復能力を持ってすれば明日にはすっかり良くなっているだろう。
肩の荷がおりたようにため息をつき、太壱はその場に座り込んだ。
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