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英雄奪還編 後編
七章 第八十六話 女神の来訪
しおりを挟む帝王達の話し合いから三日後。その日ボーンネルには天界から女神エメスティアの来訪が予定されていた。天からは鐘が鳴り響き天使達は仰々しい様子でエメスティアの道をつくる。そうして現れたエメスティアにはクリュスとゼステナが対応していた。
「お前さぁ。黙って来れないの? ジンが鐘の音にびっくりしてたんだけど」
「申し訳ありません。ですがもう一度ジンに会いたかったんです。付き添いはこちらのアクアのみで、他の天使達はすぐに帰りますので」
「ジン様は現在話せる状況ではありませんよ。精神世界の修復中です。帰ってくれると嬉しいのだけれど」
「貴様·····エメスティア様がわざわざ御足労なされたんだ。無礼だぞ」
「アクア、よいのです」
「本当に分かってないわね。ジン様がいなければエメスティアは今頃呪いで死んでいたのよ。感謝なさい」
「それは······」
「まあこのまま大勢いられるのは面倒だから。入れば。家の中でパール達と遊んでるよ。それと付き添いのお前は外で待っとけよ」
ゼステナの後ろにあるジンの家からは幸せそうな声が外へ漏れ出していた。
「エメスティア様、やはりわざわざこのようなこと····」
「いいえ、あなたはここで待っていてください」
アクアは不満げに了承しエメスティアはそのままジンの家へと入っていった。
外から聞こえていた声はさらに盛り上がりを見せ小さな家の中は熱気に満ち溢れていた。エメスティアが部屋の中に入るとそこにはジンやパールに加え大の大人達も共に盛り上がっていた。
「あー」
ジンがエメスティアを指差すと一気に部屋の入り口に注目が集まった。緊張し固まるエメスティアにクレースは笑顔で、そして優しい口調で話しかけた。
「エメスティアか。この前はジンを助けてくれてありがとうな」
「いえ、御礼を言いに来たのは私の方です。こうして元気な姿が見れただけで私は満足です。きっと今は私の言っていることが分からないのかもしれません。ですがせめて、最大限の敬意を」
そう言ってエメスティアは跪き左手を胸に当てた。それは天使が女神に対してのみ行う最大限の敬意を示すものである。
「長く居ても迷惑になりますので私はこれで。また話せるようになった時、再び訪れたいと思います。それでは·····ッ?」
帰り際、パールはエメスティアの服の裾を掴み制止させた。
「······パール、あなたのお母さんはそこに居ますよ」
「知ってる。わたしのお母さんはジン。でも·····また私にも会いに来て」
「······」
エメスティアは振り返り黙ったままパールを強く抱き締めた。そうして全員に一礼すると天界へと帰っていったのだった。
「そういえばデュランはどこじゃ。今朝から見ておらんのう」
「デュランなら三日前からマニアの研究室で治癒魔法を研究しテル。朝昼夜ご飯の時だけジンに会いに来てルヨ」
「そうか······じゃがジンの体調は問題ないんじゃろ?」
「まあ······歩けなくなったのと片目が見えないのは呪いが消えても治ってないカラネ。それにトキワの人工心臓もあの時に急いで作ったからまだまだ最適化はできるかもしれナイ」
「ああ、人工心臓ならいくつか試作品は作ってるぜ。まだまだ改良が必要だけどな」
「あの、少し提案があるんだがいいか」
ジンの後ろに座っていたレイの言葉に全員が耳を傾けた。
「少し話は変わるがジンのことで一つ。もうすぐジンの誕生日だろ。ボーンネルは誕生日に贈り物を渡すだけだったよな。私の祖国では誕生日にパーティーを開く·····らしい。ジンの誕生日に贈り物だけで終わらせるのはどうかと思うんだ。呪いから解放されたお祝いも込めて同じようにパーティーを開くのはどうだ?」
「らしいってお前の誕生日はどうだったんだ」
「いや私の家庭はそういう華やかものとは縁遠いからな」
「いいじゃねえか。それなら俺とガルミューラの結婚式も同じ日に開くか」
「······え?」
トキワの発言にその場にいた数名は固まった。そんな様子を見て笑みを浮かべつつトキワは話を続ける。
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「ジンにはもう伝えてたのか?」
「もちろんだ。少し前にな。子どもが産まれればジンに名前をつけてもらう。まあ、まだまだ先の話になるけどな。今のジンなら安心だろ」
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