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英雄奪還編 後編
七章 第五十五話 模倣
しおりを挟むレイの纏う黒雷は異質な魔力を放っていた。
その魔力はクレースの魔力とほぼ同質。その魔力がレグルスを纏い凄まじい威力を生み出していた。
「——雷震流・居合」
「ッ———······グハッ」
避けたはずがモルガンは硬い装甲を切り裂かれレイの姿を捉えることすら出来なかった。雷の如く高速で移動し光線がモルガンの周りを飛び交う。
(どういうことだ····先程現れた獣人の魔力と同じ。この戦いの中で意思の力に目覚めたか)
光が動きを止めるとそこにはさも当然の如くレイがいた。変わらず隙は多いが攻めればやられるとモルガンは確信していた。両者の距離はおよそ30メートル。
「———雷震流、遠雷の煌」
まさに疾風迅雷。長い距離など無意味と言うように斬撃は離れた位置にいたモルガンの腕を二本切り落とした。
「貴様ッ——」
超至近距離までレイが迫った瞬間、銃口を向ける。
足ではなく即死させるため眉間への狙い撃ち。
リロード時間も反動もなくただ音速の銃弾が放たれる。
「バブル」
(軌道が逸れた!?)
トキワの使用する確率操作。それにより被弾する確率をゼロに変更したのだ。
レイが発現させた意思の能力は「模倣」
上限があるものの一度見た技や魔法を模倣することができる。
一度見ただけであろうともレイの鋭い洞察力と強い意志力がその技を可能としたのだ。
「グハッ———」
レグルスの先端はモルガンを突き刺し続け様に突きを繰り出す。レイの左腕は完全に機能を失っている。だがそれでも四方八方から攻撃が加えられモルガンは完全に動きを封じられた。
「ハァアアア”ア”」
「ッ········」
(恐れている。この人間を。新型の我がたかが人間にッ——)
悪寒と共に感じる底知れない深い恐怖。
傷だらけになりながらも自身を圧倒するレイはまるで鬼神のようであった。
「舐めるなッ——!」
衝撃を引き起こし距離を取るが身体が思うように動かなかった。背中から生やした四本の腕は既に全て切り落とされている。加えて装甲がボロボロにされ防御力が著しく下がっていた。
(一発でも当てればこちらの勝ち。此奴の体力も知れている。自己再生をすれば耐久戦に持ち込める)
「耐久戦なんて甘ったれた考えしていないだろうな」
「図に乗るなよ····人間」
まるで見透かされたいるかのよう。先程とは別人のようなレイの瞳には深い闇が広がっていた。
底知れぬ恐怖が更に深くなっていく。モルガンはその恐怖に呑まれながら一方的に攻撃を受け始めた。
「収縮ッ———」
猛攻を受ける中、モルガンは自身に魔力を纏わせた。レイの突きによるダメージを全て一点に収束させ態勢を立て直す。
「発散」
「ウ”ぅ——」
凝縮されたダメージは光線と化しレイの肩を貫いた。
レイは態勢を崩し身体中の力が一瞬抜ける。
そしてモルガンはその一瞬を見逃さない。
「——最大出力」
持ちうる全ての銃口を出現させレイに向けた。
(もうコイツに魔力は残っていない。終わらせるッ)
(身体が······動かない。魔力が····)
雷震流に加えバブルの使用。レイの魔力量はほとんど無に等しかった。
(レイッ——)
レグルスの声に答えることすらできない。
身体が全く動かなかった。
モルガンは銃弾へのエネルギー充填を終える。それはレイの死を意味していた。
「······これは」
しかしその瞬間、突如として力が込み上げてきた。
感じたことのあるあたたかい魔力が身体中を駆け巡ったのだ。
(ジンの強化魔法だ····)
(コイツに何が起こったッ——突然魔力が増大した)
「——雷震流」
(勝てない····逃げれもしない。死が迫っている····レウス様····危険だ。ここにいる者達はあまりにも危険だ。見誤った。こいつも、あの獣人もレウス様に近づけてはならない)
「———?」
突然雰囲気の変わったモルガンにレイは動きを止め警戒する。
だが違和感とは裏腹に憔悴しきったようなモルガンは防御の一切を捨て隙を見せた。
(終わらせる)
(駄目だ! 離れろレイ!!)
「ッ———」
——刹那、眼前のモルガンは突如光を放ち魔力が膨張した。
モルガンの決断は早く、レイに勝利することを諦め道連れのための自爆を選んだのだ。
(間に合わない····)
「共に滅べッ!!」
(······あれは)
だがその時、レイの視界は見覚えのある二人を捉えた。
一人は手を伸ばしレイの腕を確実に掴む。
そしてもう一人は投擲の構えを取っていた。
「ブレンド、リンギル!」
「にーげろー!」
リンギルの投げたゼーンは爆発から離れる方向に飛び三人の視界は一瞬途切れた。
辺りは不自然なほど静まり返り次の瞬間、凄まじい轟音が響き渡る。
「二人とも俺に捕まれ!」
「あぁあ———飛ばされる~」
モルガンの命を賭した爆発には全魔力が込められていた。辺りの水蒸気は瞬時に蒸発し二人を庇ったリンギルは背中に痛みを伴う熱を感じ取る。
「グッ······」
爆風とともに熱が迫りリンギルは更にゼーンを投げ距離を稼ぐ。ゼーンの能力は言わば瞬間移動。リンギル自身とその身体に直接、または間接的に触れているものをゼーンの元へと瞬間移動させるのだ。
リンギルは二人を抱え瞬間移動を繰り返しひたすらに距離を取る。
「リンギル。もう大丈夫」
爆風と共に飛来する障害物を避けながら数十回の瞬間移動を繰り返し三人は安全な場所まで移動した。
爆発の影響は非常に大きく建物の残骸は全て燃え尽き灰と化していた。
「リンギル、レイが寝た」
いつの間にかレイは安心したように小さく寝息を立てていた。
「疲れたんだろう。それより閻魁はどこに行ったんだ。魔力が遠のいたな」
「····ジン、そこは····駄目だ······ううん、いいよ」
その寝言にリンギルは咄嗟にブレンドの耳を塞いだ。
リンギルでは処理しきれない寝言の内容。この場にブレンドしかいなかったことにホッとしながらもブレンドはニヤリと笑っていた。
「ブレンド。聞いていても今の発言は墓まで持っていくんだぞ。男の約束だ」
「イェッサー」
「まあ寝言を言っているなら大丈夫だ。俺たちもだが回復班と合流しなければな」
こうして戦いに勝利した三人は一度前線から退いて行ったのだ。
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