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英雄奪還編 前編
五章 第二十二話 救いの矢
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時はネフティスのいるバルハールの上空に天使が出現した時まで遡る。
「この魔力は······」
血眼になってラグナルクの魔力を調査していたネフティスは近くに同質の魔力を感じた。このところ同じことばかり考えていたため敏感に体が反応したのだ。それは隣でネフティスを手伝っていたメイルも同じだった。二人は何も言わず一度だけ顔を合わせて立ち上がりそのまま外に出た。
そして空を見上げると空中に一人天使が止まっている姿が見えた。
バルハールに住む夜士族は暗い場所に適応してきた。それ故バルハールという暗闇が一日中広がる空間において夜士族の感覚は敏感になる。そしてネフティスやメイルだけでなく他の者達も空を見上げ天使の姿を確認した。
「どうやら他の場所にも来ておるようじゃ」
ネフティスは杖を振りかざしてバルハール中に転移魔法陣を展開した。この国にいる兵を除き一瞬にして全員を避難させたのだ。
「ネフティス様、何も言わずにするのは少し強引では?」
「フン、仕方ないだろ。直ぐに元へ戻す」
(結界は通り過ぎてきたか。数は一人)
ネフティスは空中を飛び、現れた天使のいる高度まで上がった。
「誰じゃお主。ここはわしの国だと分かっておるのか」
ネフティスの前に現れた男の天使は真っ白な髪に金色の瞳を持ち、ネフティスを前にしても表情一つ変えずに静かに目を合わせた。
「分かっているよ。君は下界で帝王と呼ばれる者だね。確か······呪帝だったかな? そうそう、僕の名前はエミルだよ」
「天使ならば、ラグナルクというものを知っているか」
「ラグナルク?······ああ、天生体の彼のことか。知ってるよ、彼がどうかしたのかい?」
「あやつには返してもらわなければならんものがある。知っているのならわしに居場所を教えてもらおうか」
「まあ彼がなぜそんなことをしたのかは僕も分からないよ。ただ彼の居場所を教えるのは色々とこちらに不利益があるからね。できないよ」
「では、お前がここにきた理由は何だ」
「簡単だよ、女神の粛清さ。君は何回目かな?」
「女神の粛清だと? 目的は何だ」
数百万年生きるネフティスにとって自身が直接関わった女神の粛清はほんの数回だけだった。しかしそのどれもがネフティスにとっては面倒と感じる内容だった。
「僕らの住む天界のためさ、それなら下界の者達はみんな喜んで納得するでしょ? 君達帝王は毎回目障りだからさ。邪魔をしないように利用させてもらおうと思ってさ」
「では何故お主の仲間は帝王のいない場所まで行っておる。ただの人間は関係ないだろ」
「ああ、あの国のことか。いいや関係あるよ。あそこの国には今回の目的そのものがいるんだから。それと僕、君達のこと好きじゃないんだよねー。下界に住むやつは醜いからさ、僕はもういっそ下界を全て破壊し尽くしてもいいかなあって思うんだよね」
「本気でできると思っておるのか?」
「もちろんさ、帝王さえ抑えれば更に簡単になるよ。それにもう一人は堕ちてるんだ、時間の問題だろうね」
「そう考えている時点で、お主らはあまい。お前達の下界と呼ぶここには帝王に力で勝つ者やこのわしに真っ向から向かってくるようなやつもおる」
「へえ、そうかい。でも君だってすぐにこちらにつくことになるよ」
(ネフティス様、戦ってはいけません。緋帝が操られたことを考えると敵の強さは容易に推し量れません)
(構わん)
(へっ?)
「呪いの往来」
顔に向かってきたネフティスの攻撃をエミルは軽く避けた。しかし呪いの往来の黒い軌跡はエミルの頬に触れ、真っ白な肌を黒く蝕んだ。
「これが呪力か、でも僕なら····」
肌から徐々にエミルを蝕もうとしていた呪力は内から光り出した魔力に浄化されるようにして消えていった。
「驚かないのかい。君の呪いが僕には効かなかったんだよ」
「お主は大天使だろう、それくらいで死んでしまってはつまらんわ」
「博識だね、魔力はうまく隠してたつもりなんだけど」
「これ以上話してもお前からは何の情報も得られそうにないな。それでお主は、今このわしに手を出す気か?」
「まあ今日は宣戦布告ってところかな。でも同時に、力の見極めをするようにも言われているんだ」
「ほう······」
二人は睨み合いネフティスの黒い呪力とエミルの白い魔力がぶつかり合った。その衝撃は凄まじく、メイルでさえ介入できないほどの空間に誰もが息を呑み動けなくなっていた。
(メイル、少し離れておけ。他の者も同様だ)
(分かりました、気をつけてくださいよ。そんな人残されても私はどうにもできませんからね)
(いや少しは頑張らんか)
「エミルと言ったな。いいだろう、このわしが相手をしてやる」
「うんうん、それは光栄だね。なら僕だって全力で応えてあげるよ。一つ聞いておきたいんだけどさ、君のその呪力は有限かい?」
「······だといいな」
二人は一度力を抑え込み、辺りは急に静まり返る。ネフティスは魔力に呪力を練り込んだ結界を張り上空に空間を作り出した。下にいるメイル達と完全に分け隔てられたその結界内は何者からの干渉も受け付けない。完全に孤立した空間で二人は空中に止まり下にいた者達はネフティスを心配しながらもその場から少し離れて様子を伺った。
「僕と違って、君の武器には意思が宿っていないようだね。そんな貧相な杖を使って本気で勝てると思っているのかい?」
「確かに意思のある武器は強大な力を持つ。だがそれでも、無敵ではない」
「負け惜しみかい? 僕の武器に宿るのは下界にいるゴミのようなもの達では一生契約することのできない高位の意思さ」
「お前のように、底辺を知らぬ者は成長できない。そのもの達がどれほどの逆境を乗り越えて生きているのかお前には想像もできんだろう」
ネフティスの言葉に自身のプライドが汚されたような感じがしてエミルは少しイラッとした。
「大天使であるこの僕に説教のつもりかい? もう無駄な話し合いは終わろうか」
エミルの武器は近接武器でない。内部に超高密度のガルド鉱石を埋め込み火力を供給し続けるリボルバー拳銃であった。「ハート」という名の意思を宿すその拳銃はエミルの魔力と同化し、最大限の能力を発揮する。
「腕試しだ」
ハートを構えたエミルの動作はあまりにも自然で、気付けば装弾数と同じ六発の弾丸が空を切っていた。その速度は音速を裕に超えて四肢、胸、頭の六箇所に向かい一切のブレなく飛んでいった。
「呪いの盾」
しかし一瞬で現れた黒い盾に弾丸がめり込み六つの穴が空く。シリンダーは高速で回転し、瞬く間に六発の弾丸が装填された。
「呪いの人形」
エミルの頭上に現れた首無し人形に対応し、拳銃を握る右手がフワリと浮いた。
(体の自由が)
「呪詛の大波」
エミルの動きが鈍った瞬間にネフティスの前方から結界の中を覆い尽くすほどの黒い大波が現れた。逃げ場の無いその攻撃が、身体の自由が効かないエミルに向かっていく。
(ハート頼んだよ)
(了解よ)
エミルは腕を完全に脱力させ拳銃を手放した。しかし地面に落ちていくかと思われた拳銃は方向を変えて頭上にあった人形の胸を貫いた。
拘束が取れた瞬間、迫り来る大波に向かい五発の弾丸を放つ。
「無駄だ」
当然の如く三十二口径の弾丸は大波を貫いただけで威力を殺しはしない。しかし大波に小さな穴を空けた弾丸は空中に留まり五角形の魔法陣を構築した。
「吸い込め」
魔法陣の中に一瞬で大波は吸収されていき、エミルにぶつかる前に跡形もなく消え去った。だがエミルが体勢を正す前に視界の下から黒い何かが迫ってきた。
(剣だと?)
一瞬戸惑ったが、凄まじいほどの反射神経で拳銃に当て火花が散った。
目の前には黒い鎧に包まれた剣士が現れていたのだ。
すぐに距離を取り遠距離からの銃撃を放つとその剣士は一瞬で消え去った。
「僕が気配が感じられないとはね」
ネフティスは続けて剣士を生み出し四方八方から数十体による斬撃が飛んできた。
「天の銃雨」
しかし上空から雨のように降り注いだ弾丸は正確に剣士の頭を貫き全てを消し炭にした。
「お前の弾丸はわしに届かん。諦めてラグナルクの居場所を教えろ」
「おやおや、もう勝ったつもりかい?」
(認めてあげよう、君には僕の加護を使用する価値がある)
「······何をする気だ」
「僕たち大天使は女神様からの名前を持った加護を与えられるのは知っているかい? 今回は特別に僕の加護を見せてあげよう」
そう言って今度はゆっくりと拳銃をネフティスに向けた。
(特に魔力が増加した様子も無ければ、雰囲気が変わった様子も無い)
ネフティスはそれでも警戒するようにエミルの一挙一動に気を配った。
——だが、
「ネフティス様ッ—!!」
下からメイルの叫び声が聞こえてきた。そして同時に身体に違和感を感じる。
「····グハッ」
そして気付けば、無意識に吐血していた。違和感の感じる場所に手を当てると真っ赤な血が手についている。
「僕の授かった加護は『必殺の加護』。拳銃が武器である僕にとっては最強の加護だよ」
(自然治癒力が低下している。弾丸に魔力を練り込みおったか)
一度身体全身の力が抜け、周りに張っていた結界が消滅した。
「一ついいことを教えてあげるよ。この加護による弾丸は三発当たれば必ず死ぬからね。もちろん、不死族である君でも関係なく」
(チッ—厄介な攻撃じゃな。避けようにも見えんかったぞ)
エミルの言葉を聞いたメイルは地面を激しく蹴り一瞬でネフティスの前に立った。
「今のうちに回復してください、ネフティス様」
「退け、お前も死ぬのだぞ」
「退きません!」
「泣けるねえ、じゃあ君が先に死ねよ! よく見ておけよ呪帝!」
再び銃口を向けたエミルはニヒリと笑みを浮かべた。
「メイル!!」
いつ放たれたのかすら分からないその弾丸はメイルの右肩を貫いた。
「二発目!!」
「グッ—」
そして今度は左の太ももが血で染まる。
「最後だ、死ねぇえ!!」
「転移!」
弾丸が放たれるであろうその直前にメイルを地上に転移させたが、真後ろにいたネフティスの左腕に二発目の弾丸が着弾した。
「あーあ、惜しかったなぁ。でもこれで二人とも崖っぷちだねぇ」
「お二人をお守りしろ!!」
「そうはさせないよ」
地上にいた夜士族が助けに入ろうと動いたが、地面に押し潰され地に伏した。
「終わりだァアア!!」
「ネフティス様ァアアッ!!」
しかし弾丸を放つ直前、凄まじいほどの速度でエミルの元へと何かが飛んできた。
(これはッ、ナフカの!?)
エミルは突如として飛んできた光の矢に反応しきれず、数本の矢が身体に突き刺さった。
「転移!」
そのタイミングを逃さず、ネフティスは一瞬にしてエミルを別の場所へと転移させた。
「あれは······一体」
「メイル、無事か」
「あっ、はい! ネフティス様もご無事で!?」
「問題ない」
(あの方角······まさかな)
そうしてネフティスとメイルは突如として現れた光の矢に助けられたのだった。
「この魔力は······」
血眼になってラグナルクの魔力を調査していたネフティスは近くに同質の魔力を感じた。このところ同じことばかり考えていたため敏感に体が反応したのだ。それは隣でネフティスを手伝っていたメイルも同じだった。二人は何も言わず一度だけ顔を合わせて立ち上がりそのまま外に出た。
そして空を見上げると空中に一人天使が止まっている姿が見えた。
バルハールに住む夜士族は暗い場所に適応してきた。それ故バルハールという暗闇が一日中広がる空間において夜士族の感覚は敏感になる。そしてネフティスやメイルだけでなく他の者達も空を見上げ天使の姿を確認した。
「どうやら他の場所にも来ておるようじゃ」
ネフティスは杖を振りかざしてバルハール中に転移魔法陣を展開した。この国にいる兵を除き一瞬にして全員を避難させたのだ。
「ネフティス様、何も言わずにするのは少し強引では?」
「フン、仕方ないだろ。直ぐに元へ戻す」
(結界は通り過ぎてきたか。数は一人)
ネフティスは空中を飛び、現れた天使のいる高度まで上がった。
「誰じゃお主。ここはわしの国だと分かっておるのか」
ネフティスの前に現れた男の天使は真っ白な髪に金色の瞳を持ち、ネフティスを前にしても表情一つ変えずに静かに目を合わせた。
「分かっているよ。君は下界で帝王と呼ばれる者だね。確か······呪帝だったかな? そうそう、僕の名前はエミルだよ」
「天使ならば、ラグナルクというものを知っているか」
「ラグナルク?······ああ、天生体の彼のことか。知ってるよ、彼がどうかしたのかい?」
「あやつには返してもらわなければならんものがある。知っているのならわしに居場所を教えてもらおうか」
「まあ彼がなぜそんなことをしたのかは僕も分からないよ。ただ彼の居場所を教えるのは色々とこちらに不利益があるからね。できないよ」
「では、お前がここにきた理由は何だ」
「簡単だよ、女神の粛清さ。君は何回目かな?」
「女神の粛清だと? 目的は何だ」
数百万年生きるネフティスにとって自身が直接関わった女神の粛清はほんの数回だけだった。しかしそのどれもがネフティスにとっては面倒と感じる内容だった。
「僕らの住む天界のためさ、それなら下界の者達はみんな喜んで納得するでしょ? 君達帝王は毎回目障りだからさ。邪魔をしないように利用させてもらおうと思ってさ」
「では何故お主の仲間は帝王のいない場所まで行っておる。ただの人間は関係ないだろ」
「ああ、あの国のことか。いいや関係あるよ。あそこの国には今回の目的そのものがいるんだから。それと僕、君達のこと好きじゃないんだよねー。下界に住むやつは醜いからさ、僕はもういっそ下界を全て破壊し尽くしてもいいかなあって思うんだよね」
「本気でできると思っておるのか?」
「もちろんさ、帝王さえ抑えれば更に簡単になるよ。それにもう一人は堕ちてるんだ、時間の問題だろうね」
「そう考えている時点で、お主らはあまい。お前達の下界と呼ぶここには帝王に力で勝つ者やこのわしに真っ向から向かってくるようなやつもおる」
「へえ、そうかい。でも君だってすぐにこちらにつくことになるよ」
(ネフティス様、戦ってはいけません。緋帝が操られたことを考えると敵の強さは容易に推し量れません)
(構わん)
(へっ?)
「呪いの往来」
顔に向かってきたネフティスの攻撃をエミルは軽く避けた。しかし呪いの往来の黒い軌跡はエミルの頬に触れ、真っ白な肌を黒く蝕んだ。
「これが呪力か、でも僕なら····」
肌から徐々にエミルを蝕もうとしていた呪力は内から光り出した魔力に浄化されるようにして消えていった。
「驚かないのかい。君の呪いが僕には効かなかったんだよ」
「お主は大天使だろう、それくらいで死んでしまってはつまらんわ」
「博識だね、魔力はうまく隠してたつもりなんだけど」
「これ以上話してもお前からは何の情報も得られそうにないな。それでお主は、今このわしに手を出す気か?」
「まあ今日は宣戦布告ってところかな。でも同時に、力の見極めをするようにも言われているんだ」
「ほう······」
二人は睨み合いネフティスの黒い呪力とエミルの白い魔力がぶつかり合った。その衝撃は凄まじく、メイルでさえ介入できないほどの空間に誰もが息を呑み動けなくなっていた。
(メイル、少し離れておけ。他の者も同様だ)
(分かりました、気をつけてくださいよ。そんな人残されても私はどうにもできませんからね)
(いや少しは頑張らんか)
「エミルと言ったな。いいだろう、このわしが相手をしてやる」
「うんうん、それは光栄だね。なら僕だって全力で応えてあげるよ。一つ聞いておきたいんだけどさ、君のその呪力は有限かい?」
「······だといいな」
二人は一度力を抑え込み、辺りは急に静まり返る。ネフティスは魔力に呪力を練り込んだ結界を張り上空に空間を作り出した。下にいるメイル達と完全に分け隔てられたその結界内は何者からの干渉も受け付けない。完全に孤立した空間で二人は空中に止まり下にいた者達はネフティスを心配しながらもその場から少し離れて様子を伺った。
「僕と違って、君の武器には意思が宿っていないようだね。そんな貧相な杖を使って本気で勝てると思っているのかい?」
「確かに意思のある武器は強大な力を持つ。だがそれでも、無敵ではない」
「負け惜しみかい? 僕の武器に宿るのは下界にいるゴミのようなもの達では一生契約することのできない高位の意思さ」
「お前のように、底辺を知らぬ者は成長できない。そのもの達がどれほどの逆境を乗り越えて生きているのかお前には想像もできんだろう」
ネフティスの言葉に自身のプライドが汚されたような感じがしてエミルは少しイラッとした。
「大天使であるこの僕に説教のつもりかい? もう無駄な話し合いは終わろうか」
エミルの武器は近接武器でない。内部に超高密度のガルド鉱石を埋め込み火力を供給し続けるリボルバー拳銃であった。「ハート」という名の意思を宿すその拳銃はエミルの魔力と同化し、最大限の能力を発揮する。
「腕試しだ」
ハートを構えたエミルの動作はあまりにも自然で、気付けば装弾数と同じ六発の弾丸が空を切っていた。その速度は音速を裕に超えて四肢、胸、頭の六箇所に向かい一切のブレなく飛んでいった。
「呪いの盾」
しかし一瞬で現れた黒い盾に弾丸がめり込み六つの穴が空く。シリンダーは高速で回転し、瞬く間に六発の弾丸が装填された。
「呪いの人形」
エミルの頭上に現れた首無し人形に対応し、拳銃を握る右手がフワリと浮いた。
(体の自由が)
「呪詛の大波」
エミルの動きが鈍った瞬間にネフティスの前方から結界の中を覆い尽くすほどの黒い大波が現れた。逃げ場の無いその攻撃が、身体の自由が効かないエミルに向かっていく。
(ハート頼んだよ)
(了解よ)
エミルは腕を完全に脱力させ拳銃を手放した。しかし地面に落ちていくかと思われた拳銃は方向を変えて頭上にあった人形の胸を貫いた。
拘束が取れた瞬間、迫り来る大波に向かい五発の弾丸を放つ。
「無駄だ」
当然の如く三十二口径の弾丸は大波を貫いただけで威力を殺しはしない。しかし大波に小さな穴を空けた弾丸は空中に留まり五角形の魔法陣を構築した。
「吸い込め」
魔法陣の中に一瞬で大波は吸収されていき、エミルにぶつかる前に跡形もなく消え去った。だがエミルが体勢を正す前に視界の下から黒い何かが迫ってきた。
(剣だと?)
一瞬戸惑ったが、凄まじいほどの反射神経で拳銃に当て火花が散った。
目の前には黒い鎧に包まれた剣士が現れていたのだ。
すぐに距離を取り遠距離からの銃撃を放つとその剣士は一瞬で消え去った。
「僕が気配が感じられないとはね」
ネフティスは続けて剣士を生み出し四方八方から数十体による斬撃が飛んできた。
「天の銃雨」
しかし上空から雨のように降り注いだ弾丸は正確に剣士の頭を貫き全てを消し炭にした。
「お前の弾丸はわしに届かん。諦めてラグナルクの居場所を教えろ」
「おやおや、もう勝ったつもりかい?」
(認めてあげよう、君には僕の加護を使用する価値がある)
「······何をする気だ」
「僕たち大天使は女神様からの名前を持った加護を与えられるのは知っているかい? 今回は特別に僕の加護を見せてあげよう」
そう言って今度はゆっくりと拳銃をネフティスに向けた。
(特に魔力が増加した様子も無ければ、雰囲気が変わった様子も無い)
ネフティスはそれでも警戒するようにエミルの一挙一動に気を配った。
——だが、
「ネフティス様ッ—!!」
下からメイルの叫び声が聞こえてきた。そして同時に身体に違和感を感じる。
「····グハッ」
そして気付けば、無意識に吐血していた。違和感の感じる場所に手を当てると真っ赤な血が手についている。
「僕の授かった加護は『必殺の加護』。拳銃が武器である僕にとっては最強の加護だよ」
(自然治癒力が低下している。弾丸に魔力を練り込みおったか)
一度身体全身の力が抜け、周りに張っていた結界が消滅した。
「一ついいことを教えてあげるよ。この加護による弾丸は三発当たれば必ず死ぬからね。もちろん、不死族である君でも関係なく」
(チッ—厄介な攻撃じゃな。避けようにも見えんかったぞ)
エミルの言葉を聞いたメイルは地面を激しく蹴り一瞬でネフティスの前に立った。
「今のうちに回復してください、ネフティス様」
「退け、お前も死ぬのだぞ」
「退きません!」
「泣けるねえ、じゃあ君が先に死ねよ! よく見ておけよ呪帝!」
再び銃口を向けたエミルはニヒリと笑みを浮かべた。
「メイル!!」
いつ放たれたのかすら分からないその弾丸はメイルの右肩を貫いた。
「二発目!!」
「グッ—」
そして今度は左の太ももが血で染まる。
「最後だ、死ねぇえ!!」
「転移!」
弾丸が放たれるであろうその直前にメイルを地上に転移させたが、真後ろにいたネフティスの左腕に二発目の弾丸が着弾した。
「あーあ、惜しかったなぁ。でもこれで二人とも崖っぷちだねぇ」
「お二人をお守りしろ!!」
「そうはさせないよ」
地上にいた夜士族が助けに入ろうと動いたが、地面に押し潰され地に伏した。
「終わりだァアア!!」
「ネフティス様ァアアッ!!」
しかし弾丸を放つ直前、凄まじいほどの速度でエミルの元へと何かが飛んできた。
(これはッ、ナフカの!?)
エミルは突如として飛んできた光の矢に反応しきれず、数本の矢が身体に突き刺さった。
「転移!」
そのタイミングを逃さず、ネフティスは一瞬にしてエミルを別の場所へと転移させた。
「あれは······一体」
「メイル、無事か」
「あっ、はい! ネフティス様もご無事で!?」
「問題ない」
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