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中央教会編

四章 第二十二話 鐘の襲来

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「お前を見ていると、剣帝になるというのも馬鹿らしくなってきた。よく思い出してみろ、あの戦争で何を失ったか。多くの騎士がその命を戦場に置いてきた。メルバドは死に、フィオーレも死んだ。だが未だ多くの国が今までもこれからも、戦争をやめない。ギルメスド王国もそうだ。戦争により周辺国を壊滅させ、領地を拡大してきた。そして今回、このような戦争を始めた私もまた愚かだ」

「じゃあ、お前はどうするつもりだよ。戦わねえと守るもんも守れねえッ—」

「守れたか?」

「ッ——」

その一言で、息が詰まった。単純ながら、その一言はあまりにも重たく突き刺さったのだ。

「だから私はこの世界を、この世界の全てを終わらせる」

「フィオーレは、それを望んでんのか?」

「黙れッ、お前はいつまで経っても誰も守れない。そう、今でもな」

「お前、まさかッ!?」

ラグナルクを掴もうとしたが、そこには何もなかった。ただ空気を掴み、同時に寒気を感じる。

「クソッ、いつからだ」

(ハルトもここにはもういない)

すぐに教会を出てギルメスド王国に向かい走り出す。もう誰も失わない為に、ギルを掴みロングダルト国から異常なまでの速度で出ていった。

(間に合ってくれッ)



一方、少し時は遡りベオウルフが国を発ってすぐのギルメスド王国。メスト大森林の一件から騎士達は元の生活に戻ったものの、国全体はひどく暗かった。そんな中、ベオウルフへの報告が終わったゼーラとミルファは二人で城下を歩いていた。

「ゼーラ、ハルトさんの妹はあれでよかったの?」

「うん、いいのよ。あの子は昔、ずっと独りだったの。私やラダルスが話しかけたことが多くあって少しは心を開いてくれたかもしれない。でもあの子、本当に幸せそうだったんだもの、それはもう今まで見たことないくらい。私が何も言えるわけないわ」

(ゼーラのこんな顔、なんだか久しぶりね)

「でも、あの子は心配いらないって分かったわ。······ミルファ、あの国どう思う?」

急にゼーラの顔が真剣になった。

「正直、ロンダートの目を疑うわね。あのジンっていう女の子のどこが普通なのかしらね。私達全員で戦っても勝てる気がしないのに。それにあの獣人の女性、あの人は敵に回してはダメね。別次元よ、人が戦ってはいけない存在だわ」

思っていたことを包み隠さず述べた。少しの間だが実際に見た率直な感想だ。

「同感よ。まあ、今考えても仕方ないわね、とりあえずは目先のことに集中しましょう」

ゼーラの言葉にミルファは大きく息を吐いて神妙な顔になった。

「ハルトさん、大丈夫····よね?」

「ええ、ハルトさんならきっと大丈夫。あの人は妹さん思いの強い人だから。もしレイに助けを求めたなんて言ったら怒るかもしれないわ。きっとレイもお兄さんを信じているからあんな風に言ったのじゃないかしら」

二人の歩く城下もまた活気などなかった。いつもより路地裏の暗さが目立ち、国全体が闇に包み込まれていくような、そんな鬱蒼な気持ちを感じる。

「私達が暗くなっても仕方ないわ。だから今はッ—」

「敵だぁああアアッ!!」

突然、ゼーラの言葉が打ち消されるようにして閑散とした城下にその声が響き渡った。

「そんなまさかッ、どうしてこのタイミングで!?」

(住民の避難ができていない、全員ここにいる。今攻められれば····)

「ミルファッ、すぐに住民の避難誘導と敵の迎撃をするわよ!」

「了解」

そして声とともに住民に混乱が巻き起こった。正門の方から薄暗いマントで全身を覆い隠した数十人の敵襲は見張りの騎士を瞬殺し入り込んできた。大きな戦いの後、全員が心のどこかで油断し安心していたのだ。だがその安心感を打ち破るように敵は城下の中まで入り込んでくる。

「行かせないッ」

(ッ——強い!)

敵の剣を受けながら個々の力の強さにゼーラは驚愕した。そして同時に冷や汗とともに顔に焦りの表情が出る。

(奥の五人、あれは八雲でないと無理ね。グラムさんは······いないから私がなんとかするしかない。もしかして、こちらの動きが読まれてる。だとしたら····剣帝様の····)

「ミルファ、おそらくこれからギルメスド王国への総攻撃が始まる」

「えっ····どうしてそんなことが」

「敵にはこちらの動きがバレているのでしょう。そのために今までこの国の地下を利用していた可能性が高いわ。それにッ!」

「ゼーラ?」

何かを言いかけた瞬間、ゼーラの息が詰まった。そして絶望するように口を開き目の前、ではなく空を見上げた。聞いたことがないような鐘の音が聞こえる。他の騎士達も地上の敵への注意を消し去ってひとえに上を見上げた。

「あれは······天使····族」

「やめッ、て····」

気づけば、剣を引き抜かずしてミルファの口からそう声が漏れていた。住民も騎士も、八雲の者達でさえも避難と迎撃を忘れその場に立ち尽くした。
近づいてくるその鐘の音は近づくにつれて圧迫するように地上にいた者の耳に響き渡った。
怖い、逃げたい、自然と心の底から湧き上がる感情を押し殺し住民も騎士もジッと黙り込む。誰もがその恐怖を今まで体験したことがなかったのだ。

「浄化を開始する」

天使族の先頭にいた者が低い声でそう言った。誰もがその声を聞いていたが動けない。
だが、一人全員を鼓舞するようにしてゼーラは剣を握り締め上に掲げた。

「住民の避難を最優先!! 八雲含め、騎士長たちは武器を取れッ!!」

その声に周りにいた者達はハッとなり石化が解けるかのようにそれぞれの役割を果たすために動き出した。

地上にいた敵を確実に食い止めるために騎士長達はそちらの対応に急ぎ、ゼーラ達は地上の者を一人で数人分相手取りながら天使族の警戒に最大限の注意を向ける。だが妙なことに天使は動かなかった。高みの見物と言わんばかりに見下すような目で下にいる者達を見つめる。

(どういうこと、この状況でまだ動かないつもり? なら目的は······)

しかし深く考える時もなく、再び鐘の音が響き渡った。

「まずい、ヤベェのが来るぞ!!」

するとゆっくりと先頭の天使族から小さな光が生み出された。その光は輝きを増しいつの間にか城下全体を明るく照らした。

「まさか、ここにいる者たちもッ!」

しかし地上にいた敵は突然その場から姿を消す。そして同時に地上にいた騎士は血の気が引き、本能的に危険信号を感じた。

何か来る、だがどうしようもない。何も考えが浮かばない。圧倒的な力の前に等しくその時を迎える。
誰もがそう思った。国が終わりを迎えるとき。


だがこの国には

「ッ——!」

雷怒咆らいどほう

ただ一人の女性を愛し、独り味わった者。
ただ一国の民を守るため己が全てを捨てた者。
八大帝王のひとりであり、世界の力の一端を担う者。
剣の帝王、バリオンド・ベオウルフがいた。
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