上 下
87 / 237
ボーンネルの開国譚3

三章 第八話 そして王となる

しおりを挟む

この日、ボーンネルに住む各種族の代表たちが長い間を経てようやく一つの場所に集まることとなった。
それぞれの種族は数名の付き添いのものに加え、龍人族からはエルバトロスとラルカが、エルフ族からはリンギル、リエル、ルースの三人が、剛人族はエルダンが、そして骸族からはクシャルドに加えハバリとギルスという骸族のものがくることになった。

「もう少しでクシャルドが骸族のものを連れてくるそうだ」

「わかった。ラルカたちはもう少しかかりそう?」

「ああ、少し距離があるからな。こちらの準備はもうできてるからあとは待つだけだ」

「ジン、クシャルドが戻ってキタヨ」

「わかった。すぐに行くよ」

集会所から外に出るとクシャルドの連れてきた骸族のものたちは物珍しそうに辺りを見回していた。

「クシャルド様、ここは見たことのないようなものばかりですね。仰っていた通り素晴らしい場所だ」

「クシャルド様、あちらで手を振っていらっしゃる方は?······」

「あの方がジン様だ。少し待っててくれ」

軽装で長身のハバリは少し離れた場所で手を振っていたジンの姿を見つけた。そしてクシャルドもジンを見つけると急いでジンの方へと駆け寄っていった。

「ジン様、お待たせいたしました。我が同胞の者たちを連れて参りました。あちらの二人が先日魔力波で通信をしていたハバリとギルスでございます」

「そうだったんだ。会うのは初めてだね、わざわざ来てくれてありがとうね」

「いえいえ、クシャルド様のおっしゃっていた通りお美しい方で。私がハバリでこちらがギルスでございます」

「ジン様、もう龍人族の方たちは来ていますか?」

「うんうん、もう少しかかりそうだからあっちでご飯たべてくる? エルフと剛人族もあっちにいるから少し話せると思うよ」

「そうでしたか。お心遣い感謝致します。ではそうさせて頂きます」

そして骸族たちはクシャルドに連れられてそのままヴァンのレストランに向かって行った。

「それで閻魁、どうして隠れてるの?」

ギクッ——

「ま、まあ大した意味はないぞ。別にお主がいつもより少し緊張しておるから様子を見に来たわけではない」

「あはは、ありがとう。大丈夫だよ」

閻魁はもう一度ジンの方を向いて少し照れくさそうな顔を見せ、口を開いた。

「ジン、お主は他の者よりも感情を表に出さないようにするのが得意だと我は知っておるぞ」

「ッ—」

閻魁は変なところで敏感だ。こう見えて私や他のみんなが気づかないようなことに気付いたりする不思議な力を持っている。

(もしかして顔に出てたかな)

「我は、人間など到底生きられないほどの長い時を生きておる。だからお前は、まだ我に比べれば赤子同然なのだ。だがなジン、お前はこの我が認めるほどの何かを持っておる、それだけは確かなのだ。長き時を生きた我が今まで見たことのないようなものをな。だから誇れ、鬼帝ゲルオードが、そしてこの我が認めたお前自身を」

そしてガッと腕を組んで今度はジンの顔をしっかりと見つめた。

「この閻魁がはっきりと言ってやろう。 お前は、王に相応しい」

その顔はいつになく真剣でその目はいつになく真っ直ぐだった。

「······ありがとう。うれしい」

少し照れながら笑うジンの顔を見て閻魁はニカッと口角を上げた。

(そうだ、常に笑っておればいい。お前のようないるだけで周りをこのような感情にするものを我は知らん。······もし神とやらがおるのならば感謝するぞ、こやつと会わせてくれたことを)

「ではな、気負うなよ」

そして閻魁はそのままいつものように大きくお腹を鳴らしてご飯を食べに行った。

「フッ、少し顔が和らいだか? 可愛いのは変わりないが」

「うん。やっぱり優しいね、閻魁」

少し落ち着いた心でその後もしばらく待っていると強大な魔力とともに巨大な存在が近づいてきた。

「キタ」

「おう、ありゃあすげえ迫力だな。全員龍化してんじゃねえか」

巨大な龍の姿をしたエルバトロスとラルカが仲間を数名の仲間を引き連れながらやって来たのだ。バサリっという大きな音と巨大な翼から出る大風を辺りに発生させながらエルバトロスたちはジンたちの目の前にゆっくりと降りてきた。

「ジン様っ!」

ラルカは龍化を解くと嬉しそうな顔ですぐに駆け寄ってきてそのままバッと抱きついた。
それに続き他の者たちも龍化を解いていく。

「お待たせして申し訳ありません。エルバトロス様、こちらがジン様ご本人ですわ」

(ラルカ懐きすぎじゃね?)

「実際にお会いするのは初めてですな。お初にお目にかかります、改めましてワシが龍の里を治める龍人族の長、エルバトロスであります。本日はお招き頂き感謝致します······あ、昨日話した通り、ワシにはタメ口でオッケーで、ジンちゃん」

「え、エルバトロス様、いつの間にそんな仲良く」

「こちらこそ初めまして。わざわざ来てくれてありがとう。実は昨日の夜も話してたからね、優しそうな人って分かってたよ」

「そ、そうでしたか。それはよかったです」

そしてラルカは昨日ジンに言っていたことが杞憂だったことにホッとした。各種族で軽く挨拶を交わすとようやく四種族が一つの場所に集まった。ボルが設計した大きな丸テーブルは自由自在に直径を変え、大人数がその丸テーブルを囲むようにして座った。

「ジンちゃん、ラルカから閻魁がいると聞いたのだが本当か?」

「ああ、閻魁ならジッとしてられない子だから外で遊ばしてる」

「そうじゃったか、本当だったのだな。すまんなでは始めてくれ」

「うん。じゃあ改めて、みんな来てくれてありがとう。見た感じ、みんな仲良さそうでよかったよ。私は初め、この国で争いが無くなるために王になろうって決めから今の感じがとっても嬉しい。だから正直、みんなが仲良くなっちゃったら王様になる必要なんてないかなって思ってたんだ」

そう、それは嘘偽りのない本音だった。目的が達成されればわざわざ王になる必要はないのだ。

「······ジン」

「だけど·······みんなと暮らして、建物を建てたり、美味しい料理を食べたり、温泉に入ったり、宴をしたり、一緒に寝たりして改めて思ったよ。本当に幸せだって、だから私のわがままだけど、この幸せがずっと続いて欲しい。もっとたくさんのみんなと色々なことをしてみたい。だから私は王になっても、統治なんてするつもりは無いんだ。ただ楽しく暮らしたい······だからその代わり、王として絶対に誰も苦しませたり、悲しませたりしない。必ず、全員を幸せにする。
そしてそれが、王になる私の覚悟だよ」

「「ッ—」」

その言葉を聞いて皆はゴクリと息を呑む。後ろいたゼグトスは体を打ち震わせ、クレースは無意識に目に涙を浮かべていた。ジンの言葉とその覚悟は確実にその場にいたもの全員の胸に届いたのだ。

「ハッハッハッ!」

そしてその空間をエルバトロスの大きな笑い声が包み込んだ。

「よく言ったジンちゃん、ワシは一向に構わんぞ。ますます気に入った」

「だから言ったでしょうエルバトロス様。ジン様は素晴らしい御方なのですよ」

「ジン様、私たち骸族もぜひ貴方様の元へ」

「我らは元よりジン様に忠誠を誓っております。これからも我らの王として一生の忠誠を」

「そうです。剛人族の俺たちも貴方様に一生の忠誠を」

「みんな······ありがとう」

「ではジンちゃん。ワシらもここで暮らしても良いのか? 正直言って龍の里は魔力濃度が高くて若いものが暮らしにくいのだ」

「もちろん。ハバリとギルスもここで暮らさない?」

「ええ、是非とも。こちらからお願い致します」

「じゃあこれからはみんな一緒だね」

「よし。では私がここに宣言させてもらう。
 今日この時より、ジンをボーンネルに住む全種族の王とする」

クレースの声に続いて皆はその場で頭を下げた。
こうして、ジンはボーンネルの王となったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

私の物を奪っていく妹がダメになる話

七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。 立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。

処理中です...