上 下
71 / 237
ボーンネルの開国譚2

二章 第三十三話 破壊衝動

しおりを挟む
ヘリアルは人型の姿で空中に止まり、ジンと閻魁の様子を観察していた。

(今の奴は完全に破壊衝動に呑み込まれている。おそらく精神に語りかけることは不可能だろうな)

閻魁はただひたすらに暴れ回り、あたりの目に入ったものを次々と破壊していた。
その姿はまさに災厄そのものであり、かつてギルゼンノーズで破壊をし尽くした”閻魁”がそこにはいたのだ。

(これは私の知ってる閻魁じゃない。本当の閻魁は子どもっぽくて、抜けてて、それでいて真っ直ぐで優しい)

ジンは小さな体で巨大な姿の閻魁に近づいていく。

(ん?······気のせいか?)

その時、へリアルは妙な違和感を感じた。
ヘリアルの下で暴れ回る閻魁は無差別にありとあらゆるものを壊していた。
しかしながら閻魁はゆっくりと近づいていたジンの周りをまるで故意に避けるようにして移動していたのだ。

(やはりあの娘が現れてから明らかに動きが鈍っているな。破壊衝動に閻魁の意識が干渉しているというのか。
 だとすれば、厄介だな······それにあの人間)

ヘリアルは高度を下げてジンの少し上の辺りまで下がってきた。
ジンを見るその目からは一切の油断が感じられず、完全なる警戒体制をとったへリアルは一瞬のうちに右手へ魔力を集中させた。そしてその魔力は燃え上がるように赤く、激しく渦を巻く。

「ジークフレア」

へリアルから放たれたそのジークフレアはまさに太陽そのもののように辺りの温度を上げて時間と共に巨大化していった。洗練されたへリアルの魔力はジークフレアの魔力密度を最大限まで引き上げ、空気を揺らす。

「よいのかレイ? あの状況ではお主が大事そうにしていた小娘は死ぬぞ」

しかしレイはさらに距離を詰めてトウライの体制を崩す。
巨大なハルバードとレイの剛力にトウライの刀は弾き返され、トウライの腕に強烈な痺れが走った。

「····グハァッ!」

さらに体制を崩され隙ができた脇腹に重たい拳が繰り出され、トウライの体は軽々と遠くまで吹き飛ばされた。

「ジンが任せろと言ったんだ。舐めるなよ、私の全てであるあの子を」

へリアルから放たれたジークフレアは轟音とともにジンへと向かっていった。

(この魔法は······)

しかし、魔法がジンに放たれたタイミングで突然閻魁はピタリと動きを止めた。
ジークフレアをじっと見つめた閻魁は地面を強く蹴ってその巨体は空を飛んだのだ。

「なっ」

閻魁は空中で拳に妖力を纏わせる。そして目の前のジークフレアとは比にならないような強大な妖力を纏ったその拳は最も簡単にジークフレアを掻き消した。

閻魁は爆風と轟音とともに着地し、その目はすぐ前にいたジンのことをはっきりと捉えた。

「ガァアアアアアあああッ!!!!」

閻魁の中では破壊衝動と元の意識が混じり合い反発していた。
両者は拮抗し、ひどくけたたましいような叫び声とともに閻魁はその場で悶える。

苦しそうに顔を歪め、その感情を発散させるように閻魁は再びその巨体で暴れ回った。

しかしジンは暴れ回る閻魁の足元まで近づいて、足に触れた。
すると閻魁は落ち着いたように再び動きを止め、ゆっくりと下にいるジンを見た。

「帰るよ、閻魁」

その言葉に閻魁は呆気に取られたような顔を見せた。その瞬間、閻魁の身体から何かが一瞬姿を現し、刹那のうちに空気中に霧散したのだ。

そして閻魁は下を俯き、ニヤリと口角を上げた。

「······我、ふっかぁーつッ!!」

「おかえり、閻魁」

「おう、ジン。すまんな少し破壊衝動のやつを抑えるのに時間がかかった」

「なんじゃとっ!? 破壊衝動じゃぞ!」

「どうした、トウライ。だから舐めるなと言っただろ」

「トウライ! さっさと終わらせろッ!」

その叫びとともにヘリアルは龍化する。鋭い牙と黒く硬い爪を生やし、漆黒の翼を羽ばたかせたへリアルはおぞましいほどの雄叫びを上げた。

「止む終えん。龍人族最強たる龍化の力を見せてやろう」

(やっぱり、そうだ)

その時、ジンはあることを確信したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

婚約破棄をしてきた元婚約者さま、あなただけは治せません。

こうやさい
ファンタジー
 わたくしには治癒の力があります。けれどあなただけは治せません。  『婚約者に婚約破棄かお飾りになるか選ばされました。ならばもちろん……。』から連想した、病気を婚約破棄のいいわけに使った男の話。一応事実病気にもなっているので苦手な方はお気を付け下さい。  区切りが変。特に何の盛り上がりもない。そしてヒロイン結構あれ。  微妙に治癒に関する設定が出来ておる。なんかにあったっけ? 使い回せるか?  けど掘り下げると作者的に使い勝手悪そうだなぁ。時間戻せるとか多分治癒より扱い高度だぞ。  続きは需要の少なさから判断して予約を取り消しました。今後投稿作業が出来ない時等用に待機させます。よって追加日時は未定です。詳しくは近況ボード(https://www.alphapolis.co.jp/diary/view/206551)で。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/423759993

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

処理中です...