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ボーンネルの開国譚2

二章 二十三話 一の力

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一方、ベインが閻魁たちを転移させる少し前。

百鬼閣のかなりの高さから飛び降りたはずのジャスパーはスタッと地面に着地するとボルの前に立った。

「ほう、近くで見るとさらに練り上げられた闘気が見えますね。素晴らしい」

「クレース、パール先に行ってて、すぐに追いツク」

「随分と余裕そうですね。この状況をお分かりで?」

いつの間にかジャスパーに続いて他の援軍の部隊が数千人という数でボル達のことを取り囲んでいたのだ。

「ウン。そっちの地上部隊はほぼゼンメツ。こっちはムキズ」

「フンッ、まあ今はそうですね」

焦るような素振りも見せず呆れたような顔で逆に煽られたジャスパーは少しイラッとする。ボルはこう見えてトキワのような煽り性能を持っているのだ。

(ゼルタス、使っていいよ)

(分かりましたボルさん)

「じゃあ後でね、クレース、パール」

「ああ、早く来いよ」

「ばいばーい」

ボルは再びゼルタスで地面を強く叩いた。そしてそれと同時にゼルタスから地面へと三色の魔力が流れ込んでいく。

「隔てろ、ガルドのカベ」

ボルの声に応じて地面はミシリっと音をたて地下から地響きが聞こえてくる。
地響きはさらに大きくなり、やがて地面が再び揺れ動いた。

「なっ」

そして突然、ボルから少し横の地面の一部が不自然に隆起し始める。
徐々に隆起した地面から色のついた鉱石が現れ壁を形作ったのだ。
その壁は大量の魔力を帯びており、ガルド鉱石に魔力が込められたものであった。
瞬く間に城壁ほど巨大に伸びたその壁は目の前のジャスパー達とクレースたち二人を分断する。

「まだこれほどの魔力を残していたとは」

(貯めてたダケ)

「まあいいです。真っ直ぐ進んでも地獄が広がるだけですから」

そしてクレース達は百鬼閣に向かいボルがその場に一人残る。
ボルの周りを取り囲むのは武装した傭兵の集団であった。その中には元々冒険者であった傭兵や金で雇われた傭兵など様々であり、全員がかなり屈強な体つきをしていた。目の前の光景を見ていた傭兵達は警戒するようにボルのことを見て武器を構える。

「もう魔力は残っていないはずです。さあ、苦痛を与えなさい」

その声を聞いて傭兵達は一斉にボルへ向かって走っていく。
そして三つの部隊に分かれ、ボルを三方向から囲い込むような陣形をとる。

「囲いこめ! 攻撃を分散させるんだ!」

その傭兵の声をよそにボルはゼルタスを何もない場所で思い切り振り翳した。

「ハァアッ!?」

それと同時に空気は殴られたように衝撃波となって右方向からきた傭兵集団を吹っ飛ばす。
右側の先頭にいた傭兵は硬い防具など関係なく空を舞うとそのまま鈍い音を立てて地面に叩き潰された。

「怯むな! 進め!!」

しかし何度も死地をくぐり抜けて来た経験のある傭兵達はその光景にも怯まず攻めてくる。

「一斉に攻めなさい。私が防御壁を張ります」

その声を聞いて傭兵達は同時に三方向からボルに向かってきた。
そしてボルはもう一度衝撃波をつくり出す。

「やらせません」

タイミングよくジャスパーが防御壁を形成しそれを防いだ。

「グッ、バケモノですね」

その威力から遠くにいたジャスパーは魔法の反動を受ける。
ボルは右手に持っていたゼルタスを丁寧に地面に置くと、左から来た傭兵の先頭を体重が乗った重い一撃で殴った。

「ガハッ!······」

殴られた傭兵は後ろに吹っ飛びさらに後ろにいたもの達を巻き込んで20mほど吹っ飛ぶ。

(ボルさん?)

(血がついちゃうかもしれないカラ)

「数で抑えろ!! 単独で正面からは向かうな!!」

本能的に危険を感じたジャスパーは大声で指示を出した。
傭兵はそれに従って四方八方からボルに剣を向け、後ろからはボルに魔力弾の銃口が向けられる。

しかし、鋭く重たい斬撃は素手で受け止められる。

重なった剣はまるで意味を為さず、ただ一人の手によって止められ、代わりに何人もの巨体が吹き飛ばされた。
ジャスパーによる魔法と魔力弾を死角から放っても予期していたように跳ね返されてカウンターを繰り出される。

「何なんですか! あなたはッ!!」

理不尽なボルの強さに堪らず大声を上げてジャスパーの怒りはさらに増していった。
そしてその後もあらゆる攻撃が素手のボルの前に弾かれていくのをただジャスパーは眺めていた。

「もう、構いません。使い物にならない傭兵などただの囮になりなさい」

今のままでは全滅させられると感じたジャスパーは杖を手に取った。
それと同時に傭兵集団の後ろの方で密かに魔力を練り込んでいた魔法部隊からの魔力がジャスパーの杖に注ぎ込まれていく。

「死になさいッ!!」

狂気に満ちた表情で杖に込められた魔力に対してさらに自身の魔力を流し込んでいく。

「奏でよ、狂気なる調和を。
 生み出せ死の結晶を。
 その音色は死を運び、祝福となりて我が前に現れん」

その杖からは深く、暗い結晶が生み出され、ゆっくりとボルや傭兵のいる場所まで上昇していく。
何一つ音のないその魔法は来るべき何かを予感させるように、少しの光を見せ、辺りの雰囲気を呑み込んでいった。

「死の交響曲(デッド・シンフォニア)」

そうして破壊をもたらす極級魔法が今まさに繰り出そうとされていたのだ。
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