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ボーンネルの開国譚2
二章 第十話 真実の信頼
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「この度はエルムを無事連れてきていただき、誠にありがとうございます」
ガランはそう言ってジン達に向かい深々と頭を下げた。
「そんな、やめてください。私たちはエルムがいないとここに来ることもできませんでしたから」
すると部屋の中に人型の閻魁にも引けを取らない大きさの鬼が入ってきた。その鬼の頬には大きな傷があり、如何にも鬼というような怖い顔をしていた。
「よう、俺はイッカクつうもんだ。エルムが世話になったな。」
「おお、イッカク······エルムはどうじゃ?」
「まあ、あんな話の後だ。アイツにとってシキはそれほどまでに大切なやつだったからな」
エルムは先ほどの会話の後、自分が住んでいた家で一人になっていたのだ。
「そうか······しばらくは一人にさせておくのがよかろう」
そしてイッカクはその場にズドンと腰を下ろした。
「先程の話だが、エルムの兄が裏切ったというのは確かか」
「······はい。エルムの兄、シキがこの集落におったコルトという······わしの孫を殺したのは本当です。わしも、目の前でハッキリと確認しましたゆえ」
長であるガランは多数の家族同然の仲間達を失い、その中にはまだ生まれたばかりの赤子もいたのだ。そんな中ガランは唯一生き残った自分と血のつながりを持つ孫のコルトを小さい頃から家族同然のように育てたシキによって殺されたのだ。しかしながらガランは形容し難いその感情に耐えつつも冷静に会話を続けた。
「そういやあ、あんた達はどうしてここへ来たんだ?」
「我の力を取り戻すためだ」
イッカクの質問に素早く反応して閻魁はそう答えた。それにジンやクレースはおいバレるだろ災厄と突っ込みを入れたかったが、もうすでに遅かった。
「ん? あんたの力? どういうことだ」
「もう言っていいんじゃねえか? どうせどっかでバレるだろ」
「うむ、そうだな。仕方あるまい」
ガランとイッカク、そして黙って座っていたメルトはそれぞれ不思議そうに顔を見合わせていた。そして閻魁は立ち上がり自信満々に自分の筋肉を見せつける。
「我こそは、かつてギルゼンノーズを壊滅寸前まで破壊し、鬼帝ゲルオードと渡り合った災厄の鬼、閻魁であるッ!」
おい、その自己紹介はダメだろという突っ込みを入れたがったが、これもまたすでに遅かった。
三人は大きく口を開いて驚き、外で密かに話を聞いていた集落の鬼達がざわつき始める。
「閻魁だと!? 閻魁は数百年前にゲルオード様に封印されたはずだろ!」
「閻魁、その自己紹介だと完全にワルモノ」
「ん、そうか。我としては気に入っているのだがな」
そんな中、メルトは近くにあった刀に手をかけていた。
「おいメルト、やめんか。お主かて見れば分かるじゃろ。この方は悪い方ではない」
「······わかったよ、確かにそうだな」
「さあ皆さん、ここまでさぞお疲れでしょう。どうぞこの後はごゆっくりなさってください」
そして一度ガランの家を後にした皆はそれぞれ分かれて辺りの様子を見て回ることにしたのだ。
ジンは家を出た後、ある家の扉の前に立っていた。その家は外壁に数カ所傷が入っていて、お世辞にも綺麗な家とをはいえないものだった。その家はかつてエルムとシキが二人で住んでいた家でありエルムにとっては思い入れのある家なのだ。
(このままエルムを一人にしておくと、きっとエルムはどんどん悲しい気持ちが大きくなっていく。
でもそんなのダメだ。独りで悩むのは本当に怖くて、辛くて、寂しいから。でも私は、なんて声をかければいいんだろう。昔クレースは悲しい気持ちだった私になんて声をかけてくれただろう。昔ガルは辛い気持ちだった私にどう寄り添ってくれただろう)
ジンはエルムにかける言葉を悩みながらも優しくドアをノックした。しかし中にいるエルムからの反応はなく、ただ静けさだけが漂っていた。
「エルム? 入っても······いいかな」
その声を聞いて何やら中から音がしてドアはキィーッと音を鳴らしながら開いた。
「ジン······お姉ちゃん」
ドアの隙間から見せたエルムの目はすっかり赤くなって涙が浮かんでいた。
ジンたちがガランの家で話をしていた頃、エルムはかつて住んでいた自分の家がすっかり荒れ果てた様子も気にすることなくひとり家の中に入っていった。中の様子は前までとあまり変わらなかったがそこには誰の姿も無かった。
そしてエルム何も考えず、全身の力がドッと抜けるように膝を埃っぽい床の上につけた。先ほどまではなんとか声を出してくれていた口も今はもう動こうともしない。話を聞いた瞬間に血の気が走った感じは治ったものの、それと入れ替わるようにうまく言葉にできない、だが嫌な何かが心を埋め尽くしてしまったのだ。
「どうして······」
そんなエルムがようやく放った言葉は小さな少女には到底受け止めきれない信じ難い話への単純な疑問。だが今は到底答えが得られないような疑問。
(わからない。どうしてお兄ちゃんがみんなを)
エルムが家の中を見渡して思い出すのはどれもが兄との思い出。あたたかい思い出もちょっぴり悲しかった思い出も、楽しかった思い出も全ての思い出がエルムの頭をよぎる。
そしてその時、しばらく放心した状態のエルムの耳に、ドアがノックされる音が聞こえてきた。だが今のエルムにとってはそんな音どうでもよかった。しかしそのノックの音の後、ジンの声が聞こえてきたのだ。
エルムは自分が泣いているのにも気づかず、すがるようにドアの前まで歩みを進めたのだった。
「ジン······お姉ちゃん」
エルムは自分が泣いていたのに気づいて慌てて涙を拭いた。
「ご、ごめんなさい急にいなくなって。どうぞ入ってください」
「うんうん、こっちこそごめんね」
そしてエルムはジンを家の中に入れた。エルムはなぜ自分がこんなにも平然とできているのかが分からないほどだったが、そっとベッドの上に座り、その横にジンも座る。
エルムは少し緊張した顔でジンの顔を見ると、ジンが自分の目をしっかりと見つめているのに気がついた。エルムは何といえば分からなかったがジンは静かに口を開いた。
「我慢してるところなんて、装った自分なんて私に見せないで。ちっぽけだけど、頼りないかもしれないけど、私の背中にエルムの全部を一緒に背負わせて」
「ッ······」
ジンの言葉を聞いて、エルムは再び自分が涙を流しているのを感じ、いつの間にかその口からは何かに突っかかって出てこなかった言葉が堰を切ったように溢れ出てきた。
「お兄ちゃんはッ、私の知ってるお兄ちゃんは絶対にそんなことしないッ!!
お兄ちゃんは誰よりもカッコよくて、優しくて、誰よりも、みんなを大切に思ってくれてる世界で一番のお兄ちゃんだもんッ!」
エルムは自分の思っていることを素直に口に出した。いいや、出せたのだ。そしてエルムは真剣な顔で自分の叫ぶ声を聞いているジンに気づいた。ジンはエルムの言葉を聞き終えると、笑顔になって再びエルムの方を優しい顔でみつめた。
「だったら何の心配もないね。お兄さんのことが大好きなら、信じ続ければいい。たとえその結果裏切られても関係ないよ。大好きな人を信じることは当たり前だから。それに私もエルムのお兄さんがそんなことするなんて思ってないよ」
「えっ······」
「だから、一緒に助けに行こう。私たちと一緒に、大嘘つきのお兄さんを」
エルムは驚きを感じたがその驚きは一瞬にして嬉しさに変化する。
「うん!」
元気に返事をしたエルムの胸は兄を信じるという嬉しい気持ちでいつの間にか埋め尽くされていたのだ。
(だからなんだ。ジンお姉ちゃんがみんなに好かれる理由は······ジンお姉ちゃんはかけて欲しい言葉をなんの恥ずかしげもなくかけてくれる。でもきっともっと、ジンお姉ちゃんはいいところがいっぱいなんだろうなあ)
エルムは胸の高まりを抑えながら、今度は嬉し涙を浮かべてジンに抱きついた。
ガランはそう言ってジン達に向かい深々と頭を下げた。
「そんな、やめてください。私たちはエルムがいないとここに来ることもできませんでしたから」
すると部屋の中に人型の閻魁にも引けを取らない大きさの鬼が入ってきた。その鬼の頬には大きな傷があり、如何にも鬼というような怖い顔をしていた。
「よう、俺はイッカクつうもんだ。エルムが世話になったな。」
「おお、イッカク······エルムはどうじゃ?」
「まあ、あんな話の後だ。アイツにとってシキはそれほどまでに大切なやつだったからな」
エルムは先ほどの会話の後、自分が住んでいた家で一人になっていたのだ。
「そうか······しばらくは一人にさせておくのがよかろう」
そしてイッカクはその場にズドンと腰を下ろした。
「先程の話だが、エルムの兄が裏切ったというのは確かか」
「······はい。エルムの兄、シキがこの集落におったコルトという······わしの孫を殺したのは本当です。わしも、目の前でハッキリと確認しましたゆえ」
長であるガランは多数の家族同然の仲間達を失い、その中にはまだ生まれたばかりの赤子もいたのだ。そんな中ガランは唯一生き残った自分と血のつながりを持つ孫のコルトを小さい頃から家族同然のように育てたシキによって殺されたのだ。しかしながらガランは形容し難いその感情に耐えつつも冷静に会話を続けた。
「そういやあ、あんた達はどうしてここへ来たんだ?」
「我の力を取り戻すためだ」
イッカクの質問に素早く反応して閻魁はそう答えた。それにジンやクレースはおいバレるだろ災厄と突っ込みを入れたかったが、もうすでに遅かった。
「ん? あんたの力? どういうことだ」
「もう言っていいんじゃねえか? どうせどっかでバレるだろ」
「うむ、そうだな。仕方あるまい」
ガランとイッカク、そして黙って座っていたメルトはそれぞれ不思議そうに顔を見合わせていた。そして閻魁は立ち上がり自信満々に自分の筋肉を見せつける。
「我こそは、かつてギルゼンノーズを壊滅寸前まで破壊し、鬼帝ゲルオードと渡り合った災厄の鬼、閻魁であるッ!」
おい、その自己紹介はダメだろという突っ込みを入れたがったが、これもまたすでに遅かった。
三人は大きく口を開いて驚き、外で密かに話を聞いていた集落の鬼達がざわつき始める。
「閻魁だと!? 閻魁は数百年前にゲルオード様に封印されたはずだろ!」
「閻魁、その自己紹介だと完全にワルモノ」
「ん、そうか。我としては気に入っているのだがな」
そんな中、メルトは近くにあった刀に手をかけていた。
「おいメルト、やめんか。お主かて見れば分かるじゃろ。この方は悪い方ではない」
「······わかったよ、確かにそうだな」
「さあ皆さん、ここまでさぞお疲れでしょう。どうぞこの後はごゆっくりなさってください」
そして一度ガランの家を後にした皆はそれぞれ分かれて辺りの様子を見て回ることにしたのだ。
ジンは家を出た後、ある家の扉の前に立っていた。その家は外壁に数カ所傷が入っていて、お世辞にも綺麗な家とをはいえないものだった。その家はかつてエルムとシキが二人で住んでいた家でありエルムにとっては思い入れのある家なのだ。
(このままエルムを一人にしておくと、きっとエルムはどんどん悲しい気持ちが大きくなっていく。
でもそんなのダメだ。独りで悩むのは本当に怖くて、辛くて、寂しいから。でも私は、なんて声をかければいいんだろう。昔クレースは悲しい気持ちだった私になんて声をかけてくれただろう。昔ガルは辛い気持ちだった私にどう寄り添ってくれただろう)
ジンはエルムにかける言葉を悩みながらも優しくドアをノックした。しかし中にいるエルムからの反応はなく、ただ静けさだけが漂っていた。
「エルム? 入っても······いいかな」
その声を聞いて何やら中から音がしてドアはキィーッと音を鳴らしながら開いた。
「ジン······お姉ちゃん」
ドアの隙間から見せたエルムの目はすっかり赤くなって涙が浮かんでいた。
ジンたちがガランの家で話をしていた頃、エルムはかつて住んでいた自分の家がすっかり荒れ果てた様子も気にすることなくひとり家の中に入っていった。中の様子は前までとあまり変わらなかったがそこには誰の姿も無かった。
そしてエルム何も考えず、全身の力がドッと抜けるように膝を埃っぽい床の上につけた。先ほどまではなんとか声を出してくれていた口も今はもう動こうともしない。話を聞いた瞬間に血の気が走った感じは治ったものの、それと入れ替わるようにうまく言葉にできない、だが嫌な何かが心を埋め尽くしてしまったのだ。
「どうして······」
そんなエルムがようやく放った言葉は小さな少女には到底受け止めきれない信じ難い話への単純な疑問。だが今は到底答えが得られないような疑問。
(わからない。どうしてお兄ちゃんがみんなを)
エルムが家の中を見渡して思い出すのはどれもが兄との思い出。あたたかい思い出もちょっぴり悲しかった思い出も、楽しかった思い出も全ての思い出がエルムの頭をよぎる。
そしてその時、しばらく放心した状態のエルムの耳に、ドアがノックされる音が聞こえてきた。だが今のエルムにとってはそんな音どうでもよかった。しかしそのノックの音の後、ジンの声が聞こえてきたのだ。
エルムは自分が泣いているのにも気づかず、すがるようにドアの前まで歩みを進めたのだった。
「ジン······お姉ちゃん」
エルムは自分が泣いていたのに気づいて慌てて涙を拭いた。
「ご、ごめんなさい急にいなくなって。どうぞ入ってください」
「うんうん、こっちこそごめんね」
そしてエルムはジンを家の中に入れた。エルムはなぜ自分がこんなにも平然とできているのかが分からないほどだったが、そっとベッドの上に座り、その横にジンも座る。
エルムは少し緊張した顔でジンの顔を見ると、ジンが自分の目をしっかりと見つめているのに気がついた。エルムは何といえば分からなかったがジンは静かに口を開いた。
「我慢してるところなんて、装った自分なんて私に見せないで。ちっぽけだけど、頼りないかもしれないけど、私の背中にエルムの全部を一緒に背負わせて」
「ッ······」
ジンの言葉を聞いて、エルムは再び自分が涙を流しているのを感じ、いつの間にかその口からは何かに突っかかって出てこなかった言葉が堰を切ったように溢れ出てきた。
「お兄ちゃんはッ、私の知ってるお兄ちゃんは絶対にそんなことしないッ!!
お兄ちゃんは誰よりもカッコよくて、優しくて、誰よりも、みんなを大切に思ってくれてる世界で一番のお兄ちゃんだもんッ!」
エルムは自分の思っていることを素直に口に出した。いいや、出せたのだ。そしてエルムは真剣な顔で自分の叫ぶ声を聞いているジンに気づいた。ジンはエルムの言葉を聞き終えると、笑顔になって再びエルムの方を優しい顔でみつめた。
「だったら何の心配もないね。お兄さんのことが大好きなら、信じ続ければいい。たとえその結果裏切られても関係ないよ。大好きな人を信じることは当たり前だから。それに私もエルムのお兄さんがそんなことするなんて思ってないよ」
「えっ······」
「だから、一緒に助けに行こう。私たちと一緒に、大嘘つきのお兄さんを」
エルムは驚きを感じたがその驚きは一瞬にして嬉しさに変化する。
「うん!」
元気に返事をしたエルムの胸は兄を信じるという嬉しい気持ちでいつの間にか埋め尽くされていたのだ。
(だからなんだ。ジンお姉ちゃんがみんなに好かれる理由は······ジンお姉ちゃんはかけて欲しい言葉をなんの恥ずかしげもなくかけてくれる。でもきっともっと、ジンお姉ちゃんはいいところがいっぱいなんだろうなあ)
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