上 下
46 / 237
ボーンネルの開国譚2

二章 第八話 動き出す歯車

しおりを挟む
エルムは少し緊張していた。さっき出会ったばかりの人が突然自分の故郷のことを聞いてきて、そして一緒に行こうと言い出すのだ。確かに少し不思議に思うかもしれない。兄からは小さい時に見ず知らずの人について行ってはいけないと言われた。それに一緒にいた鬼(閻魁)のことをエルムは怖いと感じていたのだ。

(でも、ジンお姉ちゃんはきっと悪くない人だから、きっとお兄ちゃんも信じてくれる)

そう心の中で自分にいい聞かせてエルムはジン達とともに閻魁門に向かう。


「エルムちゃん、大丈夫だよ。閻魁はこう見えて何も怖くないから、それにこう見えて優しいよ」

「なっ」

少し照れた閻魁を他所にエルムは自分の不安を見透かされたようなジンの言葉に少しドキッとした。

「はい、ありがとうございます。ジンお姉ちゃんはその、すごくみんなから好かれやすい人なんですね」

エルムはパールと手を繋ぐジンの姿と、足にピッタリとくっ付いて歩くガル、自然とジンを囲い込むように歩く他の全員の様子を見ながらそう言った。

「でも、きっとエルムのお兄さんもエルムのことが大好きなんだろうね」

「······はい、お兄ちゃんは私のことをとても大事にしてくれます」

エルムは少し恥ずかしそうにしながらもハッキリとそう言い切った。

「そろそろだな」

竹林の中をしばらく歩くと昨日は暗くて見えなかった開けた道が見えてきた。昨日通った結界はゲルオードに説明していたおかげですんなりと通ることができ、再び閻魁門の前まで来た。

「エルム、ここからは任せていいか?」

「はい、任せてください」

エルムはペンダントを握りしめて門の前で強く祈る。するとエルムの周りには妖力が火の玉のようにゆらゆらと揺れながら現れ、その火の玉は閻魁門の元へとゆっくり近づいていく。そして先程まで何もなかったその門には赤い結界がうっすらと姿を見せ、火の玉は現れた結界に溶け込むように中に入っていく。

ーパリンッ

赤い結果はそれに応じて大きな音を立てて割れた。

「これで後は妖力を流し込めば······」

「エルム!」

大量の妖力を使用したエルムはその場に倒れ込む。

「ごめんなさい、私の妖力ではこれで精一杯です。後は門に妖力を流し込めば······」

「任せよ」

閻魁は結果が壊れた部分に自分の妖力を流し込む。すると閻魁門には突然、真っ黒な空間が生まれた。

「ここから入ることが出来ます。さあ、行きましょう」

「こりゃあ随分不気味な入り口だな」

「さっさと行け」

「ちょっ!?」

クレースは恐る恐るその中を覗き込んでいたトキワを後ろから蹴り飛ばすとトキワはその真っ黒な空間の中に消えていった。

「よし私達も行くぞ。エルム、大丈夫か?」

「はい、私は大丈夫です。それより閻魁さんは大丈夫ですか? もの凄い妖力を消費したと思うのですが······」

「案ずるな。こんなもの、我からすれば微弱な量よ、さあ行くぞ」

そしてジンたちは同時にその空間へと入っていった。


一方、鬼幻郷。

鬼幻郷を象徴するかのように遥か昔から建つ巨大な建物のある部屋には五人の人影があった。

「まだ見つからぬのか」

「はい、申し訳ございません。未だ捜索中です。ですが鬼のもの達には脅威たり得る者はおりません、それに外部からこちらに入るには莫大な量の妖力が必要となります。わざわざ鬼幻郷まで鬼帝がくるとは考えられませんし、それに復活した閻魁は現在、ボーンネルという小国にいる様です。ですので何も心配なさる必要はございません」

するとその部屋に慌てた様子で見回りをしていた一人の兵が部屋に入ってきた。

「大至急報告! 鬼幻郷の内部に何者かが侵入! 感知部隊からは数は少数であり、鬼族の存在を確認とのことです!」

「何!? どれほどの妖力が必要だと思っているんだ!」

「まあ落ち着け、アイルベル。数人で入ってきたところで何ができる」

「そうじゃぞ、あの馬鹿もうまく働きおって邪魔な閻魁はもうここにはおらん。全てが計画通りだ」

「やっとか、待ちくたびれたぞ」

「レイよ、まだわからないぞ、落ち着け」

その五人から溢れ出る闘気は部屋にヒシヒシと伝わり、見張りの者は思わず息を呑む。

そしてジン達が鬼幻郷に入ってきた瞬間、歯車は動き出す。ある者は全てを破壊するため、またある者は本当の正義を遂行するため、そしてある者は最愛を守るためそれぞれが動き出そうとしていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

婚約破棄をしてきた元婚約者さま、あなただけは治せません。

こうやさい
ファンタジー
 わたくしには治癒の力があります。けれどあなただけは治せません。  『婚約者に婚約破棄かお飾りになるか選ばされました。ならばもちろん……。』から連想した、病気を婚約破棄のいいわけに使った男の話。一応事実病気にもなっているので苦手な方はお気を付け下さい。  区切りが変。特に何の盛り上がりもない。そしてヒロイン結構あれ。  微妙に治癒に関する設定が出来ておる。なんかにあったっけ? 使い回せるか?  けど掘り下げると作者的に使い勝手悪そうだなぁ。時間戻せるとか多分治癒より扱い高度だぞ。  続きは需要の少なさから判断して予約を取り消しました。今後投稿作業が出来ない時等用に待機させます。よって追加日時は未定です。詳しくは近況ボード(https://www.alphapolis.co.jp/diary/view/206551)で。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/423759993

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...