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ボーンネルの開国譚2

二章 第七話 鬼族の少女

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「久しいなジン」

「久しぶり!」

突如現れたゲルオードに宿の一階では大パニックとなっていたのだ。

「それにお主らもよく来てくれたな、閻魁はどうだ?」

以前現れた時とは違い、格好も話し方も少しラフな感じのゲルオードは部屋に入ってきた。

「まあ特に心配するようなことはないぞ。今回はアイツの力を取り戻しに来たんだ」

それを聞いてゲルオードは少し驚いたような顔を見せた。

「つまり鬼幻郷に行きいたいと言うわけだな?」

「話が早くて助かる。閻魁門から行くというのは分かったがそれだけだ。どうすればいける?」

ゲルオードは懐に手を入れてしばらく考え込むように押し黙った。

「お主らの強さを考えれば閻魁の力を取り戻すことは一向に構わん。だがあいにく、少し前に鬼幻郷への道が開けなくなってな。我も方法を探すが正直言ってすぐに見つかるとは考えにくい」

ゲルオードが言うには鬼幻郷への道が開けなくなったのは閻魁が門に封印されてから少し経ってからのことらしい。

「うーん、どうしようゲルオードさんが分からないとどうしようもないね」

「おいジン、さん付けはやめろ、ゲルオードでよい。それと手掛かりになるかは分からんが、ついこの間鬼幻郷から一人の鬼族のものが転移してきたのだ。まだ幼い者だったが本人の願望で一人暮らしをしている。名はエルムだ、一度会ってみるがいい」

そしてゲルオードはその鬼の住む場所を教えてくれた。

「意外と面倒見いいね、ゲルオード」

「我はこの国の王であるぞ。当たり前のことだ」

すると再び廊下から騒がしい音が聞こえてくる。

「おい、ジン! ここから外に出られッ······」

部屋を探検してバルコニーを見つけた閻魁は興奮してジンに自慢しに部屋に駆け込んできたのだ。

「げ、ゲルオードではないかッ、なせここに!」

「全く騒がしいやつだな。そういえばそこの二人も喋るのは初めてだったか」

ゲルオードは一緒に来たトキワとボルを見てそう言った。

「おう、よろしくな」

「ヨロシク」

リンギルがこの場にいれば今すぐにでもどこかに消えてしまいたいと思うほどのゲルオードの雰囲気にも動じることなく二人は普段のように会話する。

「じゃあ取り敢えず明日その子の所に行こっか、ゲルオードもここに泊まる?」

「いいや、気持ちだけ受け取っておこう。話が出来たならそれでいい、困ったことがあればいつでも相談しろ。ではまたな」

そう言い終えると一瞬でゲルオードは姿を消してしまった。そしてゲルオードの話をボルやトキワにも伝えて翌朝ゲルオードに教えてもらった家まで向かうことにしたのだ。




「ここか」

ゲルオードに教えてもらった場所まで行くとそこには小さいながらもしっかりとした家が建っていた。そしてそのドアをコンコンっとノックする。しかしドアはしばらく経っても開かなかった。

「留守かな?」

もし怪しまれて居留守を使われていれば悲しいと思っていた時だった。

「どなたですか?」

後ろからジンよりもちょっぴり幼いくらいの鬼族の少女が少し怯えるようにして声をかけてきた。

「初めまして、私はジン。エルムちゃんでよかったかな?」

「は、はいそうです」

ジンを見た少女は少し安心したようにしてそう言った。そして話したいことがあると言うとあっさりと家の中に招いてくれたのだ。

「急にごめんね、鬼幻郷について聞きたいことがあって」

「お姉ちゃん、鬼幻郷を知っているんですか?」

ジンが話すとエルムは驚いた顔をして前のめりになってそう聞いてきた。

「鬼幻郷のことはあまりよく知らないんだけど向こうに行く方法が知りたくて、エルムちゃんは知ってる?」

エルムは少し押し黙った。自分の知っていることを先程会ったばかりのしかも他種族の者に話していいのかと思案していたのだ。しかし、エルムは何かに押されるようにして口を開いた。

「私······知ってます。でも今のあそこに行くのは危険です」

「どういうことだ?」

「······少し前、鬼幻郷に悪い人たちが入ってきたんです。その人たちは鬼族ではないですけど頭にツノを生やした人たちや他にも骸骨の見た目の人もいてあっという間に私たちの住む場所を占領したんです」

エルムは拳をぎゅっと握って何かを思い出すかのように悔しそうな顔をした。

「龍人族と骸族の可能性が高いな」

「うん、でもどうしてわざわざ鬼幻郷まで」

「······その人たちは酷いんです。言うことを聞いていても暴力を振るってくる人もいました」

「その~だったら嬢ちゃんはどうやってここまできたんだ?」

「私には少し歳の離れたシキという名前のお兄ちゃんがいるんです。最近その人達はなぜか機嫌が悪くて前よりも攻撃的になりました。でもッ私のお兄ちゃんは強いんです、だからお兄ちゃんが私だけこっちの世界に逃してくれて······」

エルムはその時のことを思い出して下を俯いた。

「ごめんね、嫌なことを思い出させてしまって」

「いいえ、私の方こそごめんなさい。だからもう······今は向こうに行くのは······」

すると突然一人で寛いでいた閻魁が立ち上がった。

「我に任せるが良い。そんな餓鬼ども我の前では敵ではないわ!」

「まあそうだな。私たちは鬼幻郷に用があってな、そういう状況なら力を貸そう」

「本当ですかッ!」

閻魁とクレースの言葉を聞くと少女の顔はパッと輝いた。そして少女は首につけていたペンダントを強く握りしめる。

「分かりました。では私が向こうへ繋がる道をつくります。私の兄がつくった結界ですが破る方法なら私も知っています」

「いますぐ行くべきだとオモウ。もしかしたら閻魁の復活と関係してるかもシレナイ」

「そうだね。エルムちゃん、今からでも大丈夫?」

「はい!」

そうしてエルムを引き連れてジン達は再び閻魁門に向かうことにしたのであった。
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