上 下
43 / 237
ボーンネルの開国譚2

二章 第五話 自由の行方

しおりを挟む
そういえば、ゼグトスはバーガルで何をしてたんだろう。まだ会ってからそんなに経ってないけど、それにしても何を考えているのかがはっきりとは分からないなあ。私のことを大切にしてくれてるっていうのは感じるけど、どうして私の所に来てくれたんだろ。

そんなことを考えているとゼグトスと目が合った。それに応えるかのようにゼグトスは嬉しそうな顔をしてニッコリとこちらを見て笑う。

「ジン様、どうされましたか?」

「······いいや、なんでもないよ」

でも、ただ一つ言えることがあるのならゼグトスは信頼できるし、ゼグトスは私を信頼してくれる。まあいいや、それだけで十分か。

「そういや思ったんだが、ギルゼンノーズってバーガルみたく誰でも入れてくれんのか?」

「ゲルオードに言えばなんとかなるだろ」

「そ、そういやそうだったな。鬼帝と知り合いだったか」

バーガル王国を出てしばらく歩くと徐々に足元の地面から緑は消えていき乾いた土が目立つ地形となった。ギルゼンノーズ特有の痩せた土だ。

「おそらく、ここはもうギルゼンノーズの中だな」

「ギーグまではもうすぐダヨ。魔物も少しずつ強くなってキタネ」

ボルは襲ってきたAランクのガーグナイトの首筋を掴み地面に叩き潰しながらそう言った。
そうして魔物に襲われつつも少し進んでいくと何やら大きな建造物のようなものが見えてきた。近づいてよく見てみるとその周りはすでに荒れて使われていないような門が立っていた。

「あ、これ我の封印されてた門だ。懐かしいものだな」

「へえこれが閻魁門か」

「はくりょくない」

「まあそう言うなパールよ。この門は我がいたからこそ威厳があったのだ。我がいなくなった後ではまあこうなっても仕方ないのう」

そう、閻魁が解放された後、力を完全に失った閻魁門からは以前まで纏ったような禍々しい雰囲気も感じられず、魔物は門のすぐ近くにまできていたのだ。

「あっ! 我思い出したぞ。鬼幻郷はこの門から入れるのだ」

すると突然、閻魁が思い出したようにそんなことを言い出したのだ。

「ほう、なら話ははやいな。それでどう行くんだ?」

「うーん······あっ!、違うか······うーんなんだったかのう······分からん」

「だろうな、じゃあとりあえずはギーグに行くか」

その後もしばらく歩いているとようやく話をしている鬼の姿が見えてきた。そして親子のように見えたその鬼は閻魁をみると驚いて腰を抜かし、子どもの鬼は母親に抱きついて怯えていたのだ。

「ん? なぜ怖がるのだ。今の者が我の姿を知っているはずがないのだがな」

「見た目だろ」

「あはは、まあ確かに小さい子は怖がるね」

「あっアレ」

そう言ってボルが指さした方向には何やら奥が透けて見えるような赤い結界が見えた。

「あれはおそらくゲルオードの奴の結界だな。簡単には入れんぞ」

「ということはあそこがギーグってことだね」

もう少し近づいていくと、その赤い結界は全体に妖力を纏っておりただならぬ防御力を誇っていることが分かった。

「これは······」

入り口付近でその結界から透けて見えるギーグはまるで別世界のようであり竹林が広がって、静謐かつ幻想的な風景が広がっていた。

「問題はこっからどうやってゲルオードを呼ぶかだな」

「我が妖力を解放してやろうか?」

「やめろ、余計にややこしくなる······とは言ったもののどうしたものか」

「首都ギーグに何か用か?」

するとそこに、硬そうな鱗の鎧を着た屈強な鬼族の男が話しかけてきた。

「ああ、鬼幻郷への行き方の聞き込みがしたくてな。どうすれば入れる?」

男はしばらく考えるように押し黙り口を開いた。

「まあそうだな······では俺のことを倒してみせろ。そうすれば入れてやるぞ。まあ鬼族の俺が相手であるから多少の力を示せれば認めてや······」

そうカッコよくセリフを言い終える前に男の意識は突然プツリと途切れる。



「大丈夫?」

いつの間にか倒れていた男は心地のいい声で目を覚ました。

「ここは、どこだ? 俺は······俺か」

「いつまで寝転んでいる。約束通り入れてもらうぞ」

「く、まあ仕方ない。一度言ってしまったのだからな。それにお前の力は十分見せてもらった。お前たちも通れ」

そう言ってその男が首にかけていた赤い宝石のようなものを結界に翳すと入り口部分の結界にだけ大きな穴が空く。

「割とあっさり入れてくれんじゃねえか、さてはいい奴だなお前」

トキワの言葉に男は首を横に振る。

「鬼族にとって他者を認めさせたければ力を示すことのみだ。そして今回コイツはそれを示した。そこに何の問題もない」

すると突然、話を聞いていた閻魁は男の前までやってきた。

「お前、名は?」

「アバンだが」

「アバンよ、その心意気、大いに結構。だが······お前は本当にそれでよいのか?」

「何?」

アバンは上から見下ろされた状態で閻魁をジッと睨む。

「お前はこのままその考えに縛られているようではこの先何も為し得んぞ。そこに待っておるのは一つのつまらぬ信念を守ってきたという満足感ではなく、もっとこうしておけばよかったという後悔だけだ」

「ッ······」

「自分の意志も願いも無しに迎える現実などつまらんだろ。ならば抗え。抗って抗って、たとえその結果全てを失ったとしても我はそちらを選んだぞ」

そう、それは自分の思うように生き、ゲルオードに歴然とした力の差を見せつけられながらも挑むことを諦めなかった閻魁だからこそ言えた言葉であった。

「お前······」

「それに我は今······いや、何でもない。まあそういうことだ、ではなアバンよ」

そう言って閻魁たちはその場を後にして首都ギーグに入るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...