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トンネル内を
大声を上げ走ってくる男。
「来る!来るぞーー!」
トンネルの中を
大型バスが猛スピードで
バックしてくる。
途中、前方を歩いていた人達を
次々に撥ねたバスが
近づいて来るのが見える。
唖然として動けない麻美。
振り返りながら
必死に駆けてくる男が
麻美を通り越した後、
目の前に近づいて来る
眩しいライトの光。
眩しさに
目を細めたと同時に
人形のように跳ね上がった体は、
地面に強く打ち付けられた。
足と手が普段ではありえない方向に曲がり、
いろんな所から血が流れ出た。
麻美は遠ざかる意識の中で
母の良子が
ぼうーと立っているのを見た。
母さん、眩しいよ。
目を開けられない・・・
誰か・・・助けて・・・
眩しさに
目をしばたかせながら、
やっと明るさに
慣れて目を開けた。
ここは・・・どこ?
白い天井が見える。
家? ううん・・ちがう
全身が動かない。
眩しさに流れ出た涙も拭えない。
私・・・どうしちゃったの?
息も苦しい。
「まったく・・・
やっかいな子だよ。
いっそ死ねば良かったのに」
目の前に髪の毛の長い
厚化粧な女が現れた。
女は酷く不機嫌な顔つきをしている。
やけに眉毛が細い。
血の色をした分厚い唇が
麻美を現実に
引き戻していった。
そうだった。
思い出した。
二年前に私の母が死んで
ひと月もたたずに、
この品のない女が
法律上、私の母親になった。
一度だって
この女を母だと
思った事はない。
むしろ、恨んでいる。
私の母は二年前に自殺した。
原因は、父の不倫だった。
良くある話だ。
母さんの通夜の日、
この女は、真っ赤な口紅に
黒のワンピース、
真っ赤なネイルで
焼香に現れた。
一目で父の不倫相手だと
気が付いた。
何故って?
母さんの遺影を見て
ニヤッと口の端で
笑ったから。
母さんは、いつも優しい笑顔で
私を学校へ送り出してくれた。
あの日もいつも通りだった。なんの変わりも無い
母さんだった。
なのに母さんは、
私を送り出して
すぐに出掛けたようだ。
近所の雑居ビルの屋上から
投身自殺した。
即死だった。
母さんが死んで
すぐに雑居ビルに登った。
屋上から下を見ると
ぞっと全身に鳥肌が立った。
屋上の柵に
大きなカラスがいて
かあ・・・かああ・・・
と鳴いていた。
母さんの葬式も済んで
何日かたった日に、
私は高校へ向かう途中の
トンネルで
大型バスの引き起こした
奇怪な事故に巻き込まれた。
多くの死傷者が出て、
私は死なないまでも
いつ死んでもおかしくない
そんな状況で
病院に運ばれた。
一命は取り留めたものの
今でも失った手足が無いくせに
酷く痛むような感覚にとらわれる。
運が良かったと
人は言った。
この状態で
運がいいって言えるんだろうか?
いつも呼吸器を付けられ、
話すことも出来ない。
ただ、生きている。
生かされている。
息することも自分では
ままならない私は、
毎日妄想だけをしている。
妄想だけが
私に残された
唯一の楽しみだ。
妄想の世界でなら、
私は歩ける。
そして、何より
優しかった母さんが、
いつでも
私の見方になってくれる。
「ああ、全く嫌になるよ。
その目・・・
あんたなんか
バス会社から金がもらえなかったら、とっくにその呼吸器
はずしてるとこだよ。
ふっ……はあっはっ
可笑しいだろ?
笑ってみなよ」
品のない赤い口紅の
恥さらしでふしだらな女。
こんな女の
どこがいいのか・・・
趣味の悪い父さんの神経を
疑う。
ねえ、かあさん、
今日は、どうやって殺そうか?
fin
大声を上げ走ってくる男。
「来る!来るぞーー!」
トンネルの中を
大型バスが猛スピードで
バックしてくる。
途中、前方を歩いていた人達を
次々に撥ねたバスが
近づいて来るのが見える。
唖然として動けない麻美。
振り返りながら
必死に駆けてくる男が
麻美を通り越した後、
目の前に近づいて来る
眩しいライトの光。
眩しさに
目を細めたと同時に
人形のように跳ね上がった体は、
地面に強く打ち付けられた。
足と手が普段ではありえない方向に曲がり、
いろんな所から血が流れ出た。
麻美は遠ざかる意識の中で
母の良子が
ぼうーと立っているのを見た。
母さん、眩しいよ。
目を開けられない・・・
誰か・・・助けて・・・
眩しさに
目をしばたかせながら、
やっと明るさに
慣れて目を開けた。
ここは・・・どこ?
白い天井が見える。
家? ううん・・ちがう
全身が動かない。
眩しさに流れ出た涙も拭えない。
私・・・どうしちゃったの?
息も苦しい。
「まったく・・・
やっかいな子だよ。
いっそ死ねば良かったのに」
目の前に髪の毛の長い
厚化粧な女が現れた。
女は酷く不機嫌な顔つきをしている。
やけに眉毛が細い。
血の色をした分厚い唇が
麻美を現実に
引き戻していった。
そうだった。
思い出した。
二年前に私の母が死んで
ひと月もたたずに、
この品のない女が
法律上、私の母親になった。
一度だって
この女を母だと
思った事はない。
むしろ、恨んでいる。
私の母は二年前に自殺した。
原因は、父の不倫だった。
良くある話だ。
母さんの通夜の日、
この女は、真っ赤な口紅に
黒のワンピース、
真っ赤なネイルで
焼香に現れた。
一目で父の不倫相手だと
気が付いた。
何故って?
母さんの遺影を見て
ニヤッと口の端で
笑ったから。
母さんは、いつも優しい笑顔で
私を学校へ送り出してくれた。
あの日もいつも通りだった。なんの変わりも無い
母さんだった。
なのに母さんは、
私を送り出して
すぐに出掛けたようだ。
近所の雑居ビルの屋上から
投身自殺した。
即死だった。
母さんが死んで
すぐに雑居ビルに登った。
屋上から下を見ると
ぞっと全身に鳥肌が立った。
屋上の柵に
大きなカラスがいて
かあ・・・かああ・・・
と鳴いていた。
母さんの葬式も済んで
何日かたった日に、
私は高校へ向かう途中の
トンネルで
大型バスの引き起こした
奇怪な事故に巻き込まれた。
多くの死傷者が出て、
私は死なないまでも
いつ死んでもおかしくない
そんな状況で
病院に運ばれた。
一命は取り留めたものの
今でも失った手足が無いくせに
酷く痛むような感覚にとらわれる。
運が良かったと
人は言った。
この状態で
運がいいって言えるんだろうか?
いつも呼吸器を付けられ、
話すことも出来ない。
ただ、生きている。
生かされている。
息することも自分では
ままならない私は、
毎日妄想だけをしている。
妄想だけが
私に残された
唯一の楽しみだ。
妄想の世界でなら、
私は歩ける。
そして、何より
優しかった母さんが、
いつでも
私の見方になってくれる。
「ああ、全く嫌になるよ。
その目・・・
あんたなんか
バス会社から金がもらえなかったら、とっくにその呼吸器
はずしてるとこだよ。
ふっ……はあっはっ
可笑しいだろ?
笑ってみなよ」
品のない赤い口紅の
恥さらしでふしだらな女。
こんな女の
どこがいいのか・・・
趣味の悪い父さんの神経を
疑う。
ねえ、かあさん、
今日は、どうやって殺そうか?
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