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ペナルティは懲戒免職

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 目を開けた先には、元の体の大きさに戻ったチョビンさんが心配そうな顔で覗きこんでいた。

「どうも、すみませんでした」

「それで、一体、俺と別れてから何があった?」

 

 僕は、このような体になってしまった経緯を包み隠さずに、チョビンさんに報告した。

 僕の話を聞きながら、チョビンさんは悔しそうな表情をして「俺がついていれば……」と呟いた。

 チョビンさん話では、憑依と言う行為は非常に重い規約違反なのだそうだ。

 それは、取り付いた方も取り付かれた方も存在そのものが消え去る危険性が高いからでそうである。

 今回のように短い時間だからこそ、お互いに大事にまではいたらなかったが、もし長時間にわたって、憑依していたら、相手を取り殺してしまったり、自分自身が激しい体力の消耗から、取り付いた体から抜け出せなくなり、最終的にはカルマに取り込まれて悪魔化してしまうか、もしくは存在自体が消滅してしまうのだそうだ。


 それいえに、憑依は重大な規約違反になってるとのことだった。

 それから、チョビンさんは、とりあえずの規約違反に対してのペナルティーを言い渡した。

 それは、当分の間の出社自粛というものであってして、これは、あくまでの仮処分ということだった。

 本当の処分については、CEOというカンパニーにおいての最高責任者と協議して決めるというものだった。

 場合によっては、懲戒免職になる可能性もあるとのことである。

 僕は、それを聞いた時に一瞬セフィロスさんの事を思い出してしまっていた。

 セフィロスさんのようにカンパニーを追放されて堕天使になってしまうのだろうかとも考えてしまうのだった。

「とりあえず、処分が下るまでは部屋でおとなしくしておけ。個人的には、有紀の取った行動は分からないまでもないので穏便な処置になるようにCEOに話してやるから。もう決して無茶をしてはいけないぞ」

 そう言って、チョビンさんは部屋を出ていった。



 部屋に一人っきりになってから、僕の頭の中はあゆみの事でいっぱいだった。

 とてもじゃないが、あゆみのこれからの事が心配で部屋でじっとなどしてられない心境だった。

 そんな訳で、僕は、すぐにチョビンさんのいいつけを破って部屋から飛び出し、あゆみのいる下界に向かって飛び立っていた。さきほど、休息をとったので、体力もすっかり回復している。

 僕は、すっかり日が昇り、明るくなった蒼穹の空を飛びながら、どうやって、あゆみの薬物依存を断ち切らすかばかり思案していた。

 しかし、あまり考えてる時間もないわけで、部屋から飛び出したことが、いつチョビンさんに発覚してしまい、連れ戻しにくるか分からない。

 そんな状況の中、あゆみのために出来ることを考えるのだった。

 そうして、導きだした答えが、薬物依存に落とし入れたであろう剛と言う男に再度、憑依して、彼の口から関係を絶つような事を言うしかないと思ったのだ。まずは、薬の入手経路を絶とういう考えなのだ。

 ぐずぐずしている時間はないので、僕は空中浮遊しながら剛の気を探し始めた。

 昨日、憑依したばかりってこともあるのか、すぐに剛のカルマに満ち溢れた負の気をすぐに感じとることが出来た。

 僕は、剛の気を頼りに上空から彼を探索した。

 ほどなくして、剛の気は上空からでもはっきりと分かる派手な客寄せ看板のあるパチンコ屋の建物の中から強く感じた。

 早速、地上に降りると、パチンコ店に入り剛の姿を探した。

 

 すぐに、僕は剛の姿を店内で発見した。

 剛は、慣れた手つきでスロットにコインを投入してゲームに興じていた。

 剛は負けこんでいるのだろうかイライラしていて、時折、スロット機を手のひらで叩いていた。

 剛の体全体からは見てるだけで、気分が悪くなるようなカルマが感じ取れた。

 

 僕は、また、剛の体に憑依しないといけないと思うと気分が乗らない。

 それでも、剛に憑依しない限り、あゆみを助けてやる術は無いと思えるので躊躇しながらも彼の体に入り込むしかないのだ。

 そして、いよいよ憑依しようと行動に移るときだった。

 

 剛を呼ぶ聞き覚えのある声がして、彼はスロット機のリールから目を反らして、声のする方に振り返った。

 僕も、剛と同じように声の主に視線をやった。

 そこには、あゆみが手を振りながら立っていたのだった。

「てめぇ~、何しにきた。それと昨日、俺に何しやがった?」
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