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本編

最後は当て馬で終わるなんて

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それから約1週間後の土曜日、西條と林田は玄関まで迎えに来てくれた相田に、涼介をお願いする。
涼介は少しだけ緊張しながらも、大好きなお友達のりくくんと手を繋いで元気に家を出た。

「行っちゃったね。もうすでに寂しい」
2人は涼介のいないしんとした部屋で、ため息をつく。
「俺も。てか、この家に2人きりになるの、前に林田が泊まりに来た時以来じゃない?」
数年前、飲み会で酔っ払った林田を西條が介抱した時だ。
住所を聞いても実家の住所しか言えない林田を、仕方なく(といいつつ心の中ではガッツポーズをしながら)連れてきたが、玄関で盛大に吐いて2人ともゲロまみれになった記憶がある。
「ああ、あれな…」
林田は苦笑しながら話題を逸らす。
「それはさておき、せっかくだし今から映画でも見ない?やりたいことあるなら無理にとは言わないけど」
無理にだなんてとんでもない。
好きな子からのお誘いに、西條は前のめりで
「見る」
と答えた。

夕方から夜にかけて、さっき買いに行ったお菓子やノンアルコールビールを飲みながら、2人はソファーに座って映画を見る。
本当は久しぶりにお酒を飲みたがったが、万が一涼介のことで呼び出しがあってはいけないので2人とも我慢することにしたのだ。
「え~、なんでこんな男選んじゃうの?俺なら絶対あいつ選ぶんだけど」
よくある恋愛ものを見ながら、林田は盛大に文句を言う。
「4年だよ?4年も片思いして、最後は当て馬にされて終わりだなんて…。最初他の女と付き合ってたくせにさっさと乗り換えた男なんて信用ならないじゃん!」
膝の上でクッションを抱えながら怒る林田に、西條は真顔で答えた。
「4年も一緒にいて振り向いてもらえなかったなら、それが答えなんだよ。所詮都合のいい男友達にしかなれないってこと」
何を隠そう西條も、隣で映画の男に盛大な文句を言う林田に4年ほど片思いをしている。
あまりにも冷たい声に、林田は驚いて西條の顔を見た。
「なんてね。林田なら、4年も友達だった相手から突然好きって言われてキスされたらどうする?最初は困って、それからごめん友達でいたかった、って言うかな」
西條はそう言いながら、冷蔵庫に新しい缶を取りに向かう。
返事を聞いたところで実らない恋を再確認させられるだけだ。
「…西條なら、いいよ」
え?
西條は思ってもみなかった林田の返事に、驚いて缶を落とす。
少し凹んだその缶を、動揺を隠すように開けると、西條の林田への気持ちのようにしゅわしゅわと溢れ出した。
「わ、なに!?なにやってんのもう~!」
林田は慌てながら西條のもとへ駆けつけ、びしょびしょの床を拭く。
それから西條の手にある缶をとり、ベタベタになった西條の手も拭いた。
「ね、ねえ、なに?さっきの」
西條はようやく思考が動き始めたようで、林田の目を見つめながら問いただした。
「もうそんな空気じゃないだろ…なにやってんだよもう」
頬を紅く染めて恥ずかしそうに怒る林田に、逃してたまるもんか!とキスをする。
林田は一瞬ビクッとして驚いたようだったが、すぐに西條の唇を受け入れ、甘い吐息を漏らした。
「ふ…ん……ん」
西條よりも10cmほど背が低い林田は、すぐに首が疲れてしまい唇を離した。
「好きだ。好きだよ、林田。友達じゃ嫌だ」
林田の柔らかい髪の毛を優しく撫で、西條は自分の胸に抱き寄せる。
林田も西條の背中に腕を回し、
「知ってる。俺も同じだよ」
と返事をした。
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