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荷造り

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「よいっしょ…」
最後のダンボール箱の蓋をガムテープで止め、漸く引越しの準備が片付いた。
と言ってもまだ数日はここで生活するので、必要なものだけは残してある。
颯太の荷物は元々必要最低限で、どちらかと言うと俺が泊まる度に増えていった物が多かった。
二人でゆっくり見るために買ったテレビや、テレビ台に飾っていたマスコット。
このマスコットはお菓子に付いているもので、二人でコンビニに行くと必ず買っていた。
夕方までに片付いたので、スーパーへ行って食材を買う。
一応最低限の調理器具は残しているので、簡単なものなら作れる。
そういえば、最初に颯太に手料理を振舞った時から、結構な量の調理器具が増えていた。
次はこれを作りたいからこれが必要で…と買っていくうちに、颯太の家とは思えないキッチンができていた。
たった二ヶ月半なのに、ここまで生活感が出るのかと二人で驚いたほどだ。
スーパーにつくと、最初に目に入った安売りの卵をカゴに入れようとしてやめる。
あと三日で引っ越しなので、流石に二人で一パックは使い切れない。
卵はまだ冷蔵庫に何個か残っていたはずなので、今日はやめておこう。
使い切れる量の野菜と肉を買い、荷造りを頑張った自分へのご褒美としてプリンを買った。
もちろん、颯太の分も合わせて二つ。
エコバックに入れて颯太の家に帰り、ちゃちゃっと夕飯作りを済ませた。
今日は、野菜たっぷりのオムレツと、大根の味噌汁、肉野菜炒めに、白米だ。
引っ越しが決まってから、こうして頻繁に颯太の家に通っていると、なんだかもう同棲している気分だ。
母さんの花屋をはやく上がらせてもらい、そのままの足で颯太の家に帰る。
夕方まで荷造りをして、今まで手が届かなかった部分の掃除をして、スーパーへ買い出しに行って、颯太の帰りを待つ。
それから二人順番にお風呂に入り、三日に一度の頻度で身体を繋げる。
荷造りは少しずつ、無理のない程度に行っていたので、思っていたより忙しくはならなかった。
そして朝起きてこれまた二人で朝食を食べ、それぞれ仕事と店の手伝いに向かう日々。
幸せだな、と思う。
そうこうしているうちに颯太が帰ってくる時間になった。
「ただいま~」
「おかえり、ご飯できてるよ」
帰宅した颯太の上着と鞄を受け取る。
上着はシワにならないようハンガーにかけ、消臭剤をかけた。
「美味しそ~」
手を洗ってきた颯太が、テーブルの料理を見て嬉しそうに口角を上げた。
「調理器具ほとんどしまっちゃったから、簡単なのだけどな」
そう言うと、颯太は片付いた部屋を見てお礼を言ってくれた。
「さ、食べよ」
向かい合って、決して大きいとは言えないテーブルで食事をする。
新居には既に新しい冷蔵庫や背の高いテーブルが届いていて、数日前から少しずつそっちの準備も進めている。
明日は祝日で休みなので、二人でそっちに行って色々なものを使える状態にしておかなくてはならない。
ベッドも届くので、颯太と二人で組み立てる予定だ。
「本当、ありがとね。
一人で荷造り大変だったでしょ?」
大変じゃなかったと言えば、嘘になる。
しかし、はやく同棲がしたいと再就職をしたばかりの颯太に無理を言ったのは俺だ。
「ううん、全然。
ていうか、颯太の物はそこまでなかったから。
たった二ヶ月半でここまで物を増やしたのは俺の方だし」
テレビをつけて二人で見ながらゆっくり食べる。
半年前の俺は、こんな未来1mmも想像していなかった。
もう、誰かとこうして幸せな食卓を囲めるとは思っていなかった。
ずっと、一途に俺を想っていてくれた颯太のおかげだ。
「ごちそうさま、美味しかった。
俺お風呂入っちゃうけど、ゆきはどうする?」
先に食べ終えた颯太に聞かれ、急いで残りをかき込む。
「一緒に入る」
食器を片付け、ワンルームの狭い湯船に二人で入った。
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