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それからの二人

初恋の人

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「うん、実はね」
俺のパートナーは、初恋の彼だ。
中学生の時、一番隣で憧れ、その背中を追いかけた先輩。
部活動の先輩だった彼は、いつも俺を隣に置き、それはそれはかわいがってくれた。
遠征の時も、本当は同じ学年の人と同室になるところを、特別に同じ部屋にしてくれた。
部のエースで、誰もが憧れる彼。
その日の夜、布団の中でそっとキスをしてくれた。
他の部員にバレないよう、こっそり。
その日から俺たちの中はより一層深まり、部活のない日は放課後二人で遊んだり、
お互いに初めての恋を大切に育てていった。
先輩の卒業後は、必死で勉強して同じ高校に入るため努力した。
先輩は頭が良く、県の中でも一二を争う高校に入って、部の中でも話題になったほどだ。
先輩は空いた時間を見つけて夜こっそり会いに来てくれたり、夏休みなどの長期休みはバイト代で遊びにも連れて行ってくれた。
初体験は、先輩の家で。
先輩の家は母子家庭で、常に家を空けていたのだ。
クーラーのない部屋で、真夏に汗だくになりながら、初めてのセックスをした。
暑くて意識が朦朧とする中、先輩がひたすら俺の身体に気遣ってくれたことを覚えている。
抱きしめられて、暑くてたまらないのに、それが心地良くて。
だけど、そんな幸せも長くは続かなかった。
母親に、中を引き裂かれたのだ。
毎日のように先輩と通話する俺を怪しんだ母親は、まず最初に携帯を取り上げた。
それから、監視するようになって、先輩と俺との時間はどんどん減って行った。
関係がバレたわけでは無いけれど、高校の校則がゆるく、見た目が派手な先輩を、母親は良く思っていなかった。
そして迎えた受験。
母親は先輩と別の学校を志願するよう俺に命じた。
当然逆らうこともできず、そのまま先輩とは疎遠に。
その頃はもう会える回数も減っていたし、先輩も来年は大学受験ということで、忙しくしていた。
俺が別の高校に入ってからも、しばらくはバイト代で買った携帯で連絡を取り合っていたけれど、それも先輩の受験が近づいて、俺の方から連絡を絶った。
そして、それから10年以上が経った今。
半年前に、先輩と再会した。
突然道で肩を掴まれ、振り返ると。
「…和季?」
俺は懐かしさと、久しぶりに会えたことへの感動で涙を流した。
先輩は慌てて、自分の家に入れてくれた。
先輩の部屋はあの時のように散らかっていて、如何にも男部屋って感じだった。
結婚はしていなくて、付き合っている人もいなくて…。
「お前以外と一緒になるくらいなら、ずっと一人の方がマシだと思った」
先輩は、俺がもう結婚をして、子供を作っていると思っていたらしい。
そんなわけがない。
あれから何人かとお付き合いをしたけれど、いずれも長くは続かなかった。
そろそろ母親から結婚の催促をされるだろうと怯えていたけれど、まさか先輩に会えるなんて。
「俺、ずっと先輩のことを考えてました。
俺のせいで離れてしまって、本当に後悔してたんです」
久しぶりに会えて、目の前にいることが嬉しくて。
その日、十数年ぶりに先輩と身体を繋げた。
朝まで、疲れて動けなくなるまで。
先輩はまた、俺の身体を気遣ってくれた。
本当に大丈夫かと、何度も何度も聞いてくれた。
あの頃とやっぱり変わっていなくて、それが嬉しくて、先輩のベットの上で何度も泣いた。

「それで、半年付き合った記念日に、彼がプロポーズしてくれたの」
柚季たちには、言える範囲のことを話した。
改めて思い返すと、本当に運命的な再会だったな、としみじみ思う。
もう二度と離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
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