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1974
31 私は泣いています
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ナガノさんの背中に手を回していると、なぜだかその日一緒に遊んだ小学生たちの顔が浮かんできて、その中にフッとヤマギシ君の顔が見えてきたのです。
わたしは彼をチェリー君と言ってバカにしました。しかし彼はもう将来を見据えて夢に向かって一生懸命に今できることを頑張っていたのです。
それに引き換え自分は何なんだと思ってしまいました。何をしているんだと。彼をバカにする資格があるのかと。ワシオ君からフラれた痛手を昇華しようと分不相応な大学に入ったのはいいが、成績は最悪。バレーも中途半端。将来何をしたいのかもわからない。そして、さして好きでもない男に股を開いて悦んでいて、それにすら集中できず、ぱんつのことを心配している・・・。
そんなイメージを振り払うように首を振り、ナガノさんの唇を貪りました。
「ミオちゃん、どうした。今日スゲー激しいじゃん」
「ねえ、もっと、もっと突いて。もっといっぱい感じさせて!」
サンダルを履いて胸にTシャツをひっかけただけの、ほとんど丸裸のままドアを開け外に出ました。星灯りと遠くの街の灯だけの真っ暗闇です。構うことはありませんでした。
「後ろからして。いっぱい突いて。滅茶苦茶にしてよおんっ!」
ドアに手をつきお尻を突き出しました。
ナガノさんはわたしのお尻をガッと掴むとそこに捻じ込んできました。
「ああっ! こ、これっ、これいいっ! ああん・・・ああっ」
ぺちぺちがパンパンになり、一気に高みに登ってきます。彼の手が胸を鷲掴みにし、挿入れられたままグッグッグッと突かれるともうダメでした。ゾクゾクぞわぞわがやってきてビンッと身体を走り抜けるものが頭の後ろを突き、真っ白になりました。
「はあっ、んんんんんんんっ、・・・」
膝が崩れ落ちそうになるのをさらに突かれ続けました。あまりの刺激に無意識にそれから逃れようとしました。車体を伝って後ろのほうに動いていきました。彼は腰を打ち付けながら後ろのハッチバックのドアを上げました。そういうドアは当時の車としては珍しく、TVコマーシャルでも金髪のカップルが急に降って来た雨をこのハッチバックドアの下でイチャイチャしながらしのぐ、といったシーンが流され、「ケンメリ」はナンパな男子の女の子ひっかけアイテムとして当時とても人気がありました。当時の若者は、若者に限らず日本人の大多数は、金髪の女の子や男の子にステレオタイプな憧れを抱いていました。
わたしはその中に逃れようとしてガーゴベイの中に伏せで這入り込みました。しかし、背後から覆いかぶさって来たナガノさんのものの角度が変わっただけで、さらに新鮮な刺激を受けて再び何度かイカされ、最後はお尻の上に出されて終わりました。
旅館の前まで送ってもらいました。
「じゃ、また電話するよ。おやすみ」
ナガノさんの「ケンメリ」を見送ると、身体の満足ともう慣れっこになっていた心地よい諦めの感情とを抱えて部屋に戻りました。
「どこ行ってたの」
部屋には少女漫画を読んでいた子が一人だけだったので助かりました。
「そのへん散歩して来た。みんなは?」
「さあ。あんたとおんなじじゃない? 会わなかった?」
長話は無用です。すぐにお風呂に入ってたくさんかかされたイヤらしい汗を流さなければなりません。バッグを掴んで湯を貰いに行きました。着替えを出して脱衣所にあるコインランドリーに汚れ物を突っ込みました。このころからコインランドリーは大都市だけでなく、地方の特に学生の団体などを受け入れる旅館などにも普及していました。
洗い場にはおばちゃんのペアが一組だけでした。身体を流して湯に浸かり、ようやくホッとして大きなため息をつきました。
翌日もその次の日も、わたしたちは同じルーティンをこなしました。
合宿もあと四五日で終わるという、その日の朝食でヤマダさんから連絡がありました。予定していた、他の大学との練習試合が相手の都合で中止になったということでした。
「かえって良かったかもよ。ウチの新しいフォーメーションが知られずに済んだからね。秋になったらどこの大学もびっくりするよ。あたしたちはそれだけのことをやって来たんだから、みんな自信持って!」
ヤマダさんはそうはいうものの、その練習試合でわたしたちがやってきたことがどれだけの効果があるか確かめたかったので、みんな拍子抜けが否めませんでした。
その日の夜。またナガノさんから電話がありました。
夕飯の後、遊びに行こうよという同じ部屋の一年生をなんとかやり過ごし、旅館の裏手に停まっている「ケンメリ」に乗り込むと、後部座席にもう一人の男の人がいてビックリしました。
「ウソ!」
「黙っててごめんな。この前の、コイツにバレちゃってさ。どうしてもって言うんで断れなかったんだ。コイツにもヤラせてやってくれよ。頼むよ」
「ミオちゃんお願いっ! 一回だけヤラせて。一回だけでいいから」
「えー、ヤダよお・・・」
「じゃあさ、先っぽだけでいいから。ちゃんとゴムもするし。ね?」
「ヤダったら、ヤダ! ナガノさん。何とかしてよォ!」
「ミオちゃん。オレからも頼むよ。ね? 今日だけだからさ」
ナガノさんは車を止めてくれません。そのうちに後ろの男の人がシートを倒し、わたしはたちまち強引にキスされて胸を揉まれました。
「・・・むわっ! ね、ヤダよ。ヤダ!・・・んああん、ダメ、ヤダああん んごあ・・・」
キスと胸の愛撫に加え、股間をナガノさんの指で責められていると、だんだん抵抗するのが面倒になってきました。自分は結構いい加減な女だったのだなという自嘲がありました。
私は泣いています ベッドの上で・・・
ラジオから流れて来たその曲もそのころ流行った歌謡曲でした。
結局、わたしは二人に代わるがわる、されました。
初めて体験した異様な雰囲気に呑まれ、興奮したのは事実ですし、気持ちが良いところもあったのは認めます。でも、終わると何故か涙が溢れてきて仕方がありませんでした。泣きながらぱんつやショートパンツを見に着けていると、余計に泣けてきてどうしようもありませんでした。そのわたしの姿を見てバツが悪くなったのか、ナガノさんもシガさんも下を向いて黙っていました。
「ごめんな、ミオちゃん。もう、泣くなよォ。・・・悪かったよ」
「エッ、エッ、エッ、ヒッ、エッ、エエッ、・・・」
「ミオちゃん。ホントにごめんな。・・・ナガノ、オレ、駅の手前で下ろしてくれ。悪いけど、ミオちゃんはお前だけで送ってやってくれ・・・」
「そうか・・・」
「ヒッ、エッ、ヒック、エッ、・・・」
旅館の前で「ケンメリ」を下ろされ、彼の車が去ってゆくのも見送らずに部屋に行きました。まだ誰も外から帰って来ていませんでした。練習試合がなくなったことで、どこかの居酒屋で憂さを晴らしているのでしょう。支度をして女湯に行きました。こちらもありがたいことに誰もいませんでした。大きなお風呂を一人占めし、もう一度込み上げてきた感情を思いきり解き放とうとしていた時、ガラっと浴室の戸が開きました。あのキモヤナダの指導で確実にレシーブ法を高め、わがチームの「歩くセーフティーネット」の異名を持つミシマさんという二年生の先輩でした。チーム一の大女で、わたしよりお尻も大きいしムネもあるひとです。
「おつかれさまです」
ミシマさんは身体を流して湯船に入ってくると。ジリジリとわたしに寄ってきました。そこはかとない恐怖を感じ、こころもち、ヒキました。
「・・・ハヤカワ」
「・・・はい」
「・・・見たよ」
彼女の顔は今にも「ウエヘッヘッヘー」と不気味な笑いを漏らすかのように歪んでいました。
翌日もナガノさんから電話がありました。
「今日は飲みに行こうよ。昨日のお詫びもしたいからさ。そのへんの居酒屋とかじゃなくてちゃんとしたとこ予約してるんだ。あ、でもジャージでいいからね。気ぃ使わないで、そのまま来てくれよ」
彼の「ケンメリ」が旅館の前を通り過ぎていつもの場所に停まったとき、助手席に滑り込んだのはわたしではありませんでした。
「ハヤカワが急用で来られなくなりまして。ミシマといいます。よろしくお願いします」
何を隠そう、このミシマさんが、
「なんで一年生ばっかカッコいいのなの?」とヤマダさんにクレームを入れたその人でした。
「わたしの代わりに行ってもらっていいですか。彼、大きな女の人が好みで、ミシマ先輩なら絶対彼にお似合いです。あの、ナイショなんですが、彼、足でアソコを踏まれるのが好きらしいんです・・・」
そんな感じで教えてあげたら大喜びで代わってくれたのでした。
それで終わってくれたら何事もなかったのですが、悲劇というか喜劇は合宿最後の日の朝食の最中にやってきました。
あったかいごはんに海苔と温泉タマゴ、それに納豆、焼きシャケという定番の朝ごはんを掻き込んでいると、
ピシャーン!
「ハヤカワミオッ! どこにいるっ!」
朝食会場である大広間の襖が勢いよく開き、見たことも会ったこともない、ゴージャスな服に身を包んだ女の人が現れました。
「誰がハヤカワミオなのっ!」
恐怖に駆られた部員たちが一斉にわたしを指さしたので、その般若のような女のひとがズカズカと目の前にやって来ていきなり胸倉を掴みました。
「あんたがハヤカワミオ?」
「な、なんなんですか、イキナリ! あんた誰?」
訳が分からず、茶碗と箸を持ったまま言い返しました。
「あんたねっ。ナガノ君寝取ったのわっ!」
あ・・・。
わたしが固まっていると目じりの向こうに忍び足で逃げて行くミシマさんが見えました。
「な、何のことですか?」
「とぼけないでっ!」
彼女は大量の唾をわたしの顔に浴びせながら、糸切り歯を剥き出しにしてわめき始めました。
「ゆうべ河原で、彼の車の中にいたでしょ! あたしの車に気が付いて逃げて行ったくせに! 知らないとは言わせないわよっ!」
ようやく事態が呑み込めました。その人はナガノさんの彼女だったらしいのです。いつからかは知りませんが合宿中の彼を追いかけて来ていたのでしょう。そしてどういう方法でかは知りませんが、ゆうべナガノさんと車の中でイタしているミシマさんに突撃したのでしょう。すんでのところで彼女を取り逃がし、頭にきて今朝の来襲となったわけなのでしょう。
「落ち着いてください! たしかにわたしはハヤカワですけど、あなたとは会ったこともないでしょ? わたしの顔、見たんですか? それに昨夜はわたし、ずっと旅館にいました。そうだよねえ、ナオミ・・・」
そばに居た一年生に助けを求めました。
「・・・う、うん。一緒に合宿中に溜まってた洗濯物洗ってたから、間違いないですよ」
これで少しホッとしました。が、それでも彼女の追及は止みませんでした。
「じゃ、なに? あたしがウソ吐いてるっての? だって彼が吐いたのよ、一緒に居たのは市ヶ谷女子のハヤカワミオって子だってっ! あんた、コイツのこと庇ってるんでしょ!」
彼がその般若の彼女から追及されて苦し紛れにわたしの名前を出したのだろうと推測出来ました。
ナガノの野郎・・・。
そこへヤマダさんがまあまあ、と割って入ってくれ、その場は治まりました。
落ち着いて正気を取り戻した般若の彼女は突然押しかけてわたしを怒鳴りつけたことを詫びてくれました。正気の彼女はそれなりに清楚なお嬢様でした。ナガノさんを本当に好きだったのでしょう。またしても男は選べよと言ってやりたくなりましたが、もちろん黙っていました。
もちろんその後宿を出るまで、修羅場を避けて逃げていたミシマさんとわたしはみんなに囲まれ吊し上げの刑にされました。
それ以来、ナガノさんとも他の帝国のメンバーともそういう関係になることはありませんでした。
ミシマさんとはそんなことが縁になって以前より親しくなりました。穴兄弟という言葉がありますが、わたしたちの場合は、サオ姉妹でしたから。東京に戻ってからも、ミシマさんは懲りずに密かに彼とのお付き合いを続けていたのではないかと思います。彼女は以前より落ち着いて綺麗になりましたし、ナガノさんにしてみても、本当の彼女にはお願い出来ないことをしてもらえる、都合のいいパートナーを手放すなんてありえないはずでしたから。
わたしは彼をチェリー君と言ってバカにしました。しかし彼はもう将来を見据えて夢に向かって一生懸命に今できることを頑張っていたのです。
それに引き換え自分は何なんだと思ってしまいました。何をしているんだと。彼をバカにする資格があるのかと。ワシオ君からフラれた痛手を昇華しようと分不相応な大学に入ったのはいいが、成績は最悪。バレーも中途半端。将来何をしたいのかもわからない。そして、さして好きでもない男に股を開いて悦んでいて、それにすら集中できず、ぱんつのことを心配している・・・。
そんなイメージを振り払うように首を振り、ナガノさんの唇を貪りました。
「ミオちゃん、どうした。今日スゲー激しいじゃん」
「ねえ、もっと、もっと突いて。もっといっぱい感じさせて!」
サンダルを履いて胸にTシャツをひっかけただけの、ほとんど丸裸のままドアを開け外に出ました。星灯りと遠くの街の灯だけの真っ暗闇です。構うことはありませんでした。
「後ろからして。いっぱい突いて。滅茶苦茶にしてよおんっ!」
ドアに手をつきお尻を突き出しました。
ナガノさんはわたしのお尻をガッと掴むとそこに捻じ込んできました。
「ああっ! こ、これっ、これいいっ! ああん・・・ああっ」
ぺちぺちがパンパンになり、一気に高みに登ってきます。彼の手が胸を鷲掴みにし、挿入れられたままグッグッグッと突かれるともうダメでした。ゾクゾクぞわぞわがやってきてビンッと身体を走り抜けるものが頭の後ろを突き、真っ白になりました。
「はあっ、んんんんんんんっ、・・・」
膝が崩れ落ちそうになるのをさらに突かれ続けました。あまりの刺激に無意識にそれから逃れようとしました。車体を伝って後ろのほうに動いていきました。彼は腰を打ち付けながら後ろのハッチバックのドアを上げました。そういうドアは当時の車としては珍しく、TVコマーシャルでも金髪のカップルが急に降って来た雨をこのハッチバックドアの下でイチャイチャしながらしのぐ、といったシーンが流され、「ケンメリ」はナンパな男子の女の子ひっかけアイテムとして当時とても人気がありました。当時の若者は、若者に限らず日本人の大多数は、金髪の女の子や男の子にステレオタイプな憧れを抱いていました。
わたしはその中に逃れようとしてガーゴベイの中に伏せで這入り込みました。しかし、背後から覆いかぶさって来たナガノさんのものの角度が変わっただけで、さらに新鮮な刺激を受けて再び何度かイカされ、最後はお尻の上に出されて終わりました。
旅館の前まで送ってもらいました。
「じゃ、また電話するよ。おやすみ」
ナガノさんの「ケンメリ」を見送ると、身体の満足ともう慣れっこになっていた心地よい諦めの感情とを抱えて部屋に戻りました。
「どこ行ってたの」
部屋には少女漫画を読んでいた子が一人だけだったので助かりました。
「そのへん散歩して来た。みんなは?」
「さあ。あんたとおんなじじゃない? 会わなかった?」
長話は無用です。すぐにお風呂に入ってたくさんかかされたイヤらしい汗を流さなければなりません。バッグを掴んで湯を貰いに行きました。着替えを出して脱衣所にあるコインランドリーに汚れ物を突っ込みました。このころからコインランドリーは大都市だけでなく、地方の特に学生の団体などを受け入れる旅館などにも普及していました。
洗い場にはおばちゃんのペアが一組だけでした。身体を流して湯に浸かり、ようやくホッとして大きなため息をつきました。
翌日もその次の日も、わたしたちは同じルーティンをこなしました。
合宿もあと四五日で終わるという、その日の朝食でヤマダさんから連絡がありました。予定していた、他の大学との練習試合が相手の都合で中止になったということでした。
「かえって良かったかもよ。ウチの新しいフォーメーションが知られずに済んだからね。秋になったらどこの大学もびっくりするよ。あたしたちはそれだけのことをやって来たんだから、みんな自信持って!」
ヤマダさんはそうはいうものの、その練習試合でわたしたちがやってきたことがどれだけの効果があるか確かめたかったので、みんな拍子抜けが否めませんでした。
その日の夜。またナガノさんから電話がありました。
夕飯の後、遊びに行こうよという同じ部屋の一年生をなんとかやり過ごし、旅館の裏手に停まっている「ケンメリ」に乗り込むと、後部座席にもう一人の男の人がいてビックリしました。
「ウソ!」
「黙っててごめんな。この前の、コイツにバレちゃってさ。どうしてもって言うんで断れなかったんだ。コイツにもヤラせてやってくれよ。頼むよ」
「ミオちゃんお願いっ! 一回だけヤラせて。一回だけでいいから」
「えー、ヤダよお・・・」
「じゃあさ、先っぽだけでいいから。ちゃんとゴムもするし。ね?」
「ヤダったら、ヤダ! ナガノさん。何とかしてよォ!」
「ミオちゃん。オレからも頼むよ。ね? 今日だけだからさ」
ナガノさんは車を止めてくれません。そのうちに後ろの男の人がシートを倒し、わたしはたちまち強引にキスされて胸を揉まれました。
「・・・むわっ! ね、ヤダよ。ヤダ!・・・んああん、ダメ、ヤダああん んごあ・・・」
キスと胸の愛撫に加え、股間をナガノさんの指で責められていると、だんだん抵抗するのが面倒になってきました。自分は結構いい加減な女だったのだなという自嘲がありました。
私は泣いています ベッドの上で・・・
ラジオから流れて来たその曲もそのころ流行った歌謡曲でした。
結局、わたしは二人に代わるがわる、されました。
初めて体験した異様な雰囲気に呑まれ、興奮したのは事実ですし、気持ちが良いところもあったのは認めます。でも、終わると何故か涙が溢れてきて仕方がありませんでした。泣きながらぱんつやショートパンツを見に着けていると、余計に泣けてきてどうしようもありませんでした。そのわたしの姿を見てバツが悪くなったのか、ナガノさんもシガさんも下を向いて黙っていました。
「ごめんな、ミオちゃん。もう、泣くなよォ。・・・悪かったよ」
「エッ、エッ、エッ、ヒッ、エッ、エエッ、・・・」
「ミオちゃん。ホントにごめんな。・・・ナガノ、オレ、駅の手前で下ろしてくれ。悪いけど、ミオちゃんはお前だけで送ってやってくれ・・・」
「そうか・・・」
「ヒッ、エッ、ヒック、エッ、・・・」
旅館の前で「ケンメリ」を下ろされ、彼の車が去ってゆくのも見送らずに部屋に行きました。まだ誰も外から帰って来ていませんでした。練習試合がなくなったことで、どこかの居酒屋で憂さを晴らしているのでしょう。支度をして女湯に行きました。こちらもありがたいことに誰もいませんでした。大きなお風呂を一人占めし、もう一度込み上げてきた感情を思いきり解き放とうとしていた時、ガラっと浴室の戸が開きました。あのキモヤナダの指導で確実にレシーブ法を高め、わがチームの「歩くセーフティーネット」の異名を持つミシマさんという二年生の先輩でした。チーム一の大女で、わたしよりお尻も大きいしムネもあるひとです。
「おつかれさまです」
ミシマさんは身体を流して湯船に入ってくると。ジリジリとわたしに寄ってきました。そこはかとない恐怖を感じ、こころもち、ヒキました。
「・・・ハヤカワ」
「・・・はい」
「・・・見たよ」
彼女の顔は今にも「ウエヘッヘッヘー」と不気味な笑いを漏らすかのように歪んでいました。
翌日もナガノさんから電話がありました。
「今日は飲みに行こうよ。昨日のお詫びもしたいからさ。そのへんの居酒屋とかじゃなくてちゃんとしたとこ予約してるんだ。あ、でもジャージでいいからね。気ぃ使わないで、そのまま来てくれよ」
彼の「ケンメリ」が旅館の前を通り過ぎていつもの場所に停まったとき、助手席に滑り込んだのはわたしではありませんでした。
「ハヤカワが急用で来られなくなりまして。ミシマといいます。よろしくお願いします」
何を隠そう、このミシマさんが、
「なんで一年生ばっかカッコいいのなの?」とヤマダさんにクレームを入れたその人でした。
「わたしの代わりに行ってもらっていいですか。彼、大きな女の人が好みで、ミシマ先輩なら絶対彼にお似合いです。あの、ナイショなんですが、彼、足でアソコを踏まれるのが好きらしいんです・・・」
そんな感じで教えてあげたら大喜びで代わってくれたのでした。
それで終わってくれたら何事もなかったのですが、悲劇というか喜劇は合宿最後の日の朝食の最中にやってきました。
あったかいごはんに海苔と温泉タマゴ、それに納豆、焼きシャケという定番の朝ごはんを掻き込んでいると、
ピシャーン!
「ハヤカワミオッ! どこにいるっ!」
朝食会場である大広間の襖が勢いよく開き、見たことも会ったこともない、ゴージャスな服に身を包んだ女の人が現れました。
「誰がハヤカワミオなのっ!」
恐怖に駆られた部員たちが一斉にわたしを指さしたので、その般若のような女のひとがズカズカと目の前にやって来ていきなり胸倉を掴みました。
「あんたがハヤカワミオ?」
「な、なんなんですか、イキナリ! あんた誰?」
訳が分からず、茶碗と箸を持ったまま言い返しました。
「あんたねっ。ナガノ君寝取ったのわっ!」
あ・・・。
わたしが固まっていると目じりの向こうに忍び足で逃げて行くミシマさんが見えました。
「な、何のことですか?」
「とぼけないでっ!」
彼女は大量の唾をわたしの顔に浴びせながら、糸切り歯を剥き出しにしてわめき始めました。
「ゆうべ河原で、彼の車の中にいたでしょ! あたしの車に気が付いて逃げて行ったくせに! 知らないとは言わせないわよっ!」
ようやく事態が呑み込めました。その人はナガノさんの彼女だったらしいのです。いつからかは知りませんが合宿中の彼を追いかけて来ていたのでしょう。そしてどういう方法でかは知りませんが、ゆうべナガノさんと車の中でイタしているミシマさんに突撃したのでしょう。すんでのところで彼女を取り逃がし、頭にきて今朝の来襲となったわけなのでしょう。
「落ち着いてください! たしかにわたしはハヤカワですけど、あなたとは会ったこともないでしょ? わたしの顔、見たんですか? それに昨夜はわたし、ずっと旅館にいました。そうだよねえ、ナオミ・・・」
そばに居た一年生に助けを求めました。
「・・・う、うん。一緒に合宿中に溜まってた洗濯物洗ってたから、間違いないですよ」
これで少しホッとしました。が、それでも彼女の追及は止みませんでした。
「じゃ、なに? あたしがウソ吐いてるっての? だって彼が吐いたのよ、一緒に居たのは市ヶ谷女子のハヤカワミオって子だってっ! あんた、コイツのこと庇ってるんでしょ!」
彼がその般若の彼女から追及されて苦し紛れにわたしの名前を出したのだろうと推測出来ました。
ナガノの野郎・・・。
そこへヤマダさんがまあまあ、と割って入ってくれ、その場は治まりました。
落ち着いて正気を取り戻した般若の彼女は突然押しかけてわたしを怒鳴りつけたことを詫びてくれました。正気の彼女はそれなりに清楚なお嬢様でした。ナガノさんを本当に好きだったのでしょう。またしても男は選べよと言ってやりたくなりましたが、もちろん黙っていました。
もちろんその後宿を出るまで、修羅場を避けて逃げていたミシマさんとわたしはみんなに囲まれ吊し上げの刑にされました。
それ以来、ナガノさんとも他の帝国のメンバーともそういう関係になることはありませんでした。
ミシマさんとはそんなことが縁になって以前より親しくなりました。穴兄弟という言葉がありますが、わたしたちの場合は、サオ姉妹でしたから。東京に戻ってからも、ミシマさんは懲りずに密かに彼とのお付き合いを続けていたのではないかと思います。彼女は以前より落ち着いて綺麗になりましたし、ナガノさんにしてみても、本当の彼女にはお願い出来ないことをしてもらえる、都合のいいパートナーを手放すなんてありえないはずでしたから。
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