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キモオタ童貞、匂いを嗅ぐ

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 盗撮三昧、アイコラ三昧、そしてオナニー三昧。

 そのような非生産的な日々を送っているうちに、彼の周りで季節が移ろっていった。

 月日が過ぎ、二年生の春が来た。

 彼に小さな変化と大きな奇跡が起きた。

 小さな変化の方は、少し痩せたことだ。

 ある意味、当たり前だった。

 例の女子テニス部の盗撮動画で念願のレナの着替えシーンを手に入れてもう久しかった。

 汗っかきらしく、練習後のレナは必ずスポブラを脱ぎ、普通の白いブラに替えていた。あまりな早業なので裸のムネの露出時間は短かく、しかも他のブスモブ女子たちが邪魔でしかたなかったが、幾本かの完璧動画の撮影に成功していた。そして、その控えめな美乳は彼の網膜に強烈に焼き付いた。

 なんといっても、あの汗に濡れたスポブラを脱ぐときの、

 ぷるんっ!

 ああ・・・。たまらん!

 画質は悪いが、充分に堪能できた。

 もちろん、静止画を取り込み、しかもそのシーンだけを繰り返し再生するいわゆる「GIF動画」まで作成したのは言うまでもない。

 そのようにして毎日自ら作成したレナの「ぷるん」オナネタで、しかも日に複数回もセーシの無駄撃ちをしているのだから。運動は全くしていないが多少健康になったと言えなくもない。その代わり、部屋に籠って妄想に明け暮れてばかりいるせいなのか、ニキビ面の眼鏡の奥の目つきがやや、イヤらしくなってはいた。

 そして、もう一つの「大きな奇跡」は。

 なんと、レナと同じクラスになったのだ!

 しかも、なんと、席が隣!

 ああ、神様♡!

 奇跡を前にした人は神を信じるようになるという。それを実感した。

 ただ単に、新年度で窓側から名簿のアイウエオ順になっただけのそんな単純な出来事が彼に奇跡を信じさせた。恋とは不思議なものである。


 

 見まいと思っても、何度も見てしまう。

 長い手脚。やや丸顔にキラキラと輝く瞳。浅く日焼けした健康的な肌。揺れる栗色のポニーテール。うなじの可憐な後れ毛。やはり日焼けしたしなやかな指先。丸顔の割にツン、と尖った可愛らしい鼻。官能的な唇。1組のサカイの傍若無人な巨乳とは違う、控えめな胸。スカートの下の意外にボリュームのある尻。他の女子のように挑戦的なほど短かくない、ごく普通のスカート丈から伸びる焼けてすんなり伸びた長い脚。

 休み時間、級友たちと楽し気に談笑し、テキストとノートを抱えて席を立ち、教室に戻るとスカートを抑えて座り、右手でシャーペンをクルクル回しながらページを繰り、時には居眠りをしかけ、友達と楽し気に菓子パンを頬張り、放課後を知らせる放送とともにスポーツバッグをぶら下げて教室を出る。

 登下校やテニスコート以外の、そんな彼女の日常がすぐ手の届くところで毎日見られる幸せ。

 何度も見ているうちに、やはり、目が合ってしまう。

「何?」

 小首をかしげるポニーテール。

「いや、別に・・・」

 ボソッと呟き、教科書に目を落とす。

 もっと気の利いたことを言えばいいのだが、あいにくそんな素養は全く持ち合わせがなかった。もっともそんなことが出来るならアイコラや盗撮なんかしていない。

 どうしても気になってしまう。

 レナのパーツは、そのどれをとっても、彼を魅了した。あくまでも「パーツ」に拘る彼だった。彼をしてレナに向かわせている意識が、「佐々木麗奈」という一個の人格、その全てに惹かれているせいだとは気づけなかった。レナという一個の人間への尊重、「愛」に目覚められなかった。

 それが、「オナネタ」漁りに夢中の「キモオタ童貞」の限界だったのかもしれない。


 

 もし彼が「キモオタ」を自ら捨て、ただの「童貞」になることが出来ていたら。

 そして彼女の「パーツ」ではなく、素直に彼女の全人格を認め、真正面から挑み、彼の正直な裸の気持ちを彼女に直接ぶつけることが出来ていれば。

 初恋が成就するか否かは別として、少なくとも人間的には成長できたかもしれない。

 


 

 レナと同じクラスになってから、彼のズリネタが変わった。


 

 それは、匂いだった。


 

 席が隣だから、彼女の発する「匂い」が漂ってくるのだ。

 盗撮やヴァーチャルやアイコラでは絶対に再現したり所有できない、匂い。

 物理的に言えば、それは「化学物質の伝播」というものだった。彼女の使っているリンスやシャンプー、デオドラントの類に混じってさらに彼女の身体から発する汗や、汗腺から発する自然な香しく麗しい甘い体臭。それらが入り混じった分子入りの空気が、授業中の彼をくすぐるのだった。空気中に漂っている彼女ゆかりの分子が彼の鼻腔内の受容体に付着し、その情報が神経を伝わって彼の脳内のシナプスをバチバチ反応させ、しかる後に、彼の快楽中枢を刺激して股間のイチモツに血液がドクドクと充填された。

 ああ・・・。

 彼のイチモツは彼女の匂いにあまりにも敏感に反応し、かつ、正直だった。

 うっ!

「先生、すいません」

 彼は手を挙げた。

「カゲマ。どうした」

「トイレ行っていいスか」

 ダッセー・・・!

 級友の密かなやいのやいのも気にならないほど、それは彼にとって切実な問題だった。

 そそくさと教室を出て男子トイレに駆け込み、個室に籠った。

 すぐさまイチモツを取り出し、妄想劇場の幕を開け、シコった。


 

 他には誰もいない教室。

 ブレザーの制服姿のレナは彼の前に座っていた。彼を見つめ、レナは言った。

「きて、ノブオ君」

 目の前でパンツを脱ぎ、彼に向かって股を開き、片脚を椅子に上げた。

 彼女の無毛のツルツルのそこが、露わになった。それは、陰毛のないパイパンは彼の密かな願望だったが、妄想の中ではその件は華麗にパスした。

 彼女は妖しい眼で彼を見つめた。彼女の愛液に濡れ光るそこから、香しい匂いが立ち昇り、さらに彼を誘った。

「ノブオ君。ナメて・・・」


 

 うおっ!・・・・・・・・・・・・・。


 

 すぐ隣の席とはいえ、恋人でもない、友達とさえ言えない女子だ。現実には何の脈絡もなしにそこまでするわけがないことぐらい承知している。だから「妄想」なのだが、その妄想のイメージは彼にとってあまりにも鮮烈で強烈過ぎた。

 ネットでズリネタを漁る「キモオタ童貞」である。無修正の画像や動画は見飽きるほど見ていた。あくまでもネットの上でだが、女性器の仕組みもありようも知っている。実際には男子と同じでインモーだって生えているだろうことも知っている。その知識をベースに、彼女の、「ナマ」の匂いを嗅いだせいだ。

 勉強もスポーツもからきしの彼だったが、妄想力だけは折り紙付きだった。

 トイレットペーパーで後始末し終わると射精の後の幸福感に包まれた。彼は学校のトイレの便器に掛けたまま、自然な彼女への思慕を高めた。


 

 もちろん、家に帰るとふたたびヌイた。


 

 今度は二人とも最初から全裸。そして濃厚なディープキスから入った。レナの柔らかな唇の感触に早くもメロメロにされ、脳を蕩けさす彼。

 リアルの、本物のセックスならまず真っ先に彼女の美しい(だろう)乳房に手を伸ばし、その感触を味わい、その可愛い(だろう)乳首に吸いつきたくなるはずなのだが、妄想だから、あくまでも受け身なのである。生身の女子の肌に触れた経験がないので、映像の知識だけではそこは補えないのだった。

「ノブオ君、あたしのこと、好き?」

 彼女にキスされつつ、優しくシゴかれた彼はすでに暴発寸前になっている。

「ねえ、ナメっこしよ?」

 AVではおなじみのシックスナインという性技を妄想内に初めて登場させた。

 ベッドの上に彼を寝かせたレナが彼の上に逆さまに覆いかぶさって来る。

「見える? あたしのオ●ンコ・・・」

 目の前十数センチのところに、彼女の無毛の、ピンク色の、ぷっくりと膨らんだドテ高肉厚の外陰唇があり、その真ん中にタテスジが、控えめな小陰唇の端が見え隠れしていて濡れ光っていた。そして、その上。逆さまだからその下になるわけだが、控えめなフードに包まれた女の一番敏感なそこがぷっくりと・・・。

 そこにレナの指が差しのべられ、くりくりと刺激し始めるのがエロすぎて堪らなかった。

「ねえ、ナメて・・・」

 レナはゆっくりと腰を落とし、同時に彼のイチモツに舌を這わせた。


 

 うおっ!・・・、かはっ!・・・、うっく・・・・・・・。


 

 あくまでも妄想だが、そのイメージは強烈過ぎた。

 どぴゅ、おぴゅ・・・。

 何度も間歇し、果て切った。


 

 イチモツが鎮まり我に返ると、ふとあることが気になるった。

 彼女の匂いが香るということは、自分のニオイも彼女に気付かれているということなのではないか、と。

 席は窓際だったから、外からの風で自分の体臭も彼女に伝わってしまうのでは?

 それで彼はシゴいた後にシャワーを浴びるようになった。朝シャンもするようになり、身だしなみに気を遣うようになった。

 少しずつではあったが、やっと彼の意識は妄想一辺倒から離れ、現実に向かい始めた。


 


 


 

 からん、ころん・・・。

 またドアのカウベルが鳴った。

 期待して見上げたものの、またしても客はレナではなかった。 スマートフォンを見た。もう約束の10時は過ぎていた。

 遅い。

 キミはツミだ、レナ。

 でもぼくは許す。

 キミは、ぼくの運命の女だし、キミを愛しているから。

 キミだってそうだろ?

 きっとバスが渋滞かなんかにハマって遅れてるだけなんだよね。

 彼は、またしても何ら根拠のない意味不明の自信たっぷりでほくそ笑みを浮かべ、独り言ちた。そしてまたまた、レナとの記憶の中に埋没していった。


 


 

 

 散々にアダルトビデオは観ていた。だがまだリアルのセックスの経験のない童貞だから、女が「イク」というのが実感として、皮膚感覚としてよくわからない。

 男がセーシを出すのと同じでシオを噴くのが「イク」ことなのか?

 「シオ」はおしっこなのだろうか。それとも愛液なのだろうか。

 自分が「出して」イクのと同じようなものなのだろうか。

 よく言われるのは、頭が真っ白になる、電気が身体を駆け巡る、身体中の細胞が一気に泡だって蒸発し新しい細胞に生まれ変わる? 的な。「真っ白」と「電気」はなんとなく想像がつく。だが「細胞」は・・・。

 やっぱり、よくわからん。

 だがそれはリア充の男にだって同じなはず。

 教室でない、理科室や視聴覚室での授業でレナが隣にいないときなどは、そんな真面目なエロ考察に及んだりもした。

 そしてその度にレナという女の子への思慕と欲求が深化した。

 そしてその「深化」は、校内の彼女を追ってカメラに収めたり、例の盗撮動画を集めたりする彼を次第に飽きさせた。


 

 もっと、別な角度からのレナの情報が欲しい。


 

 彼の嗜好は、思考と指向は、次第に休日のレナの動静へと向かった。

 プライベートのレナはどのように過ごしているのか。

 趣味は何なのか。

 付き合っている男はいるのか。


 

 ここでも彼はレナのパーツではなく全人的なレナという一個の人格に興味を向けつつあった。あとは自分を虚しくして彼女にコクることさえできれば「キモオタ童貞」の「キモオタ」が外れ、ただの「童貞」になれたのだったが。


 

 何故そのような心境の変化が彼に起こったか。

 席が隣なだけに、彼女の佇まい、感じ、オーラ、雰囲気というものは当然毎日のように感じられた。もう授業中に妄想し過ぎてトイレに駆け込んでヌクようなことはなかったが、そんな彼女の「雰囲気」を感じられる幸せのなかに浸る日々を送っていた。

 それだけに、その微妙な「変化」が、彼にはわかったのだ。


 

 それは、雰囲気、だった。

 なんか、違う。そう思った。

 髪型や彼女の身体の各パーツにはなんら変わりはない。

 だが、違うのだ。

 それはやはり、「雰囲気」としか言いようがなかった。

 それはそこはかとなく、どことなく、淫靡な感じの、変化だった。

「悪い。貸して?」
 彼女の手が急に机の上に伸びて来て彼の消しゴムを持ち去った。再び伸びて来た手が消しゴムを返した時の彼女の可愛い顔をまともに見てしまった。

「うふ、アリガト♡」

 変化は、たったそれだけだった。

 だがそこに、その彼女の可愛い笑顔の奥にある淫靡な「雰囲気」に、彼は気づいてしまったのだ。


 

 何かある。

 それは童貞特有の思い込み、早合点かも知れなかった。

 でも彼は、そう思った。自分の直感を信じた。


 


 

 朝早く家を出て彼女の家に向かった。

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