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第一部 求める

17 Malizia

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 教えられたアパートにも行ってみた。

 木造の、元々はピンクだったと思われる色褪せたモルタルの壁にはいくつものひびが入っていた。二階建て六世帯の半数が空き部屋に思われた。鉄製の階段の下、一階の真ん中が母親が住んでいた部屋らしかった。ドアの隣には洗濯機が放置されていて、ボディーに付いた埃が雨の飛沫を浴びて斑点模様になっていた。

 ドアの郵便受けには数十枚のチラシが突っ込まれて飛び出し、今にも吐き出されてきそうなほどだった。もちろんドアは施錠されていた。風を受けてピラピラするチラシたちを引き抜き、蓋から中を覗いてみた。暗くてわからなかったが黴臭い匂いが漂い出て来た。

「切れちゃったね、糸が・・・」

 美玖の言葉にも反応せず、夏樹はただ茫然と立っていた。

 ふとドアの脇に紙ひもで縛った雑誌が積まれているのが眼に留まった。引っ越しの時に処分し忘れて残ったものだろうか。彼の母がどんなものを読んでいたのか、気になったからしゃがみこんで見た。雑誌の束は、美玖が手に取ろうとしたとたんに紐が切れてばらけた。数か月の間風雨にさらされたからだろう。埃だらけの古雑誌を上からパラパラとめくると、女性の一人暮らしなら本来ありえないものが出て来た。

 風俗情報誌だ。

「?」

 このアパートの住人が空き部屋の前に勝手に置いて行ったのか。それとも夏樹の母の兄という人物の趣味か。いや、もしかすると・・・。

 美玖はすぐに雑誌を元に戻した。


 

 器用な子だ。

 美玖にはまったく仕組みが理解できなかったが、夏樹は自分のCDプレーヤーをそのラブホテル備え付けのオーディオシステムに繋いで聴けるようにしてしまった。

「あとからちゃんと元通りにできるのよね」

「・・・大丈夫」

「ならいいけど・・・」

 壁と天井のスピーカーからあの美しいラフマニノフのピアノの旋律が流れ出すと、夏樹は壁に背を凭れて膝を抱えた。

 なんと言葉を掛ければいいのかわからない。

 そっとしておいてやろう。とりあえずは、美玖にはそれしかできなかった。

 絶対に事故は起こさない。それには夜の走行は極力避けた方がいい。ましてや夜のタンデムは危険だ。しかも夏樹はまだ未成年で・・・。

 陽が落ちてからでは開いている宿も見つからなかった。そこでやむなく入った宿泊施設だったが、傍から見れば「未成年の少年をラブホテルに連れ込んだ淫行女」になってしまうのだろうな・・・。

 男女混合のツーリング仲間とワイワイやっていたころにはそんなものはごく普通のことだった。あらかじめ宿を予約もしていない、行き当たりばったりの旅ばかりだった。行った先に適当な宿泊先がなければしばしば数人で一室のラブホテルを利用した。もちろんセックスなどしない。そのまま酔いつぶれるまで飲んで雑魚寝。そして朝シャワーを浴びて出発。そんな旅が、楽しかった。

 美玖にはそういう感覚だった。だが今の夏樹にはそんなことすらもどうでもいいことに違いない。昨日までの夏樹なら「ラブホテルに泊まる」と言っただけで鼻の穴を膨らませて昂奮したはずだからだ。

 バッグから書類を出してテーブルの上に広げた。

 その書類が、はるばる数百キロをかけて美玖と夏樹が手にした唯一の成果だった。

 これがあの悪徳弁護士の言っていた固定資産税の請求書だ。実家を出て結婚してから賃貸住まいだった美玖はその請求書の綴りを初めて見た。

 名義は皆川洋介。夏樹の伯父の名前だ。税金の請求書がこうして来ている、ということは、名義上まだ山林の所有者は故人ではあるが伯父であるということだ。相続の問題が宙に浮いていた。

 あのアパートの扉の傍に積まれていた風俗情報誌は夏樹には美玖の背中越しで見られてはいないはずだ。それにあの老農婦の言葉も。夏樹の耳には入らなかったはずだ。

 美玖は言った。

「もう一度、あの山荘のあった町の法務局に行ってみよう。この請求書の持ち主を確認して、あとはプロに頼もう。法律のね。・・・ナツキ、聞いてる?」

 反応はなかった。相変わらず膝を抱えて空中の一点を見つめたまま身じろぎもしなかった。

 それまで優しかった、優しそうに見えた人が急に豹変し鬼になる。

 親し気に話しかけられて気を許していたら財布を盗むスリ。職務とはいえ家出人の彼を優しそうな声音でしつこく尋問し、交番へ連れ去ろうとする警官。

 美玖だけが彼の保護者で、このままずっとオートバイの旅を続けていきたかったのかもしれない。だから、旅を終わらせたくなくて一度は行くのをためらった。それでも、勇気を奮って会いに行った。

 それなのに・・・・

 美玖には彼の気持ちがよくわかった。

「あんたはもう、家に戻りなさい。そしてここまでのことをお父さんに話をして、あとはお父さんに任せなさい。あのアパートのことだって、まだお母さんと夫婦のままならお父さんに後始末をする義務がある。あの農家のお宅にもそれ相応のお礼とお詫びをしなくちゃいけないだろうしね・・・」

「・・・いやだ」

「あんたはよくやったよ。でもね、今のあんたにこれ以上お母さんを探す力はない。事態を解決する力もない。無理なの、もう・・・」

「絶対、いやだ!」

 席を立ち、彼のそばに座った。彼の手を取り、その骨ばった少年の身体を抱きしめた。これから青年になろうとしている少年の、涙の混じった汗の匂いを嗅いだ。

「・・・大丈夫。あんたならできる。正々堂々、お父さんに立ち向かいなさい。オレは知ってるぞ、って。あんたのしてることは、間違ってるって。それでもお父さんが不埒を言うなら、その時は連絡してきなさい。一緒にまたお母さんを探そう。そういう順番が必要なんだよ」

「嘘だ。もう、どうしようもなくなったから、逃げる気だろう。怖くなったんだ」

 美玖は思いきり夏樹の頬を張った。

 驚いたように頬を抑え見つめてくる夏樹の顔を見ていると、胸が締め付けられるように痛んだ。

「前に一度別れたよね。あんたはあたしに嘘ついて家に帰らなかった。勝手にまた出てきて、財布掏られて、困ってあたしを呼び出して・・・。それでもあたしは来たよ。逃げる気ならいつでも逃げられたし、そもそもあんたのことなんて放って置いた。こうなるかもしれないって、見つけ出すことは難しいだろうってことも予想してた。それでも、来た。

 あんたを放って置けなかったから。だからここにいる」

 彼の頬を彼の手ごと包んだ。

「痛かったでしょ。大人の男はそんなこと言わない。あんたはまだ子供だから。だから打たれたんだよ。あんたのお母さんの代わりに打ってあげたんだよ。

 大人になりなさい、夏樹。

 あんたが本当にお母さんを探したければ。お母さんに、会いたければ」

 美玖は彼の頬に唇を寄せた。そして、キスした。そして、シャツ越しに彼の胸を抑えた。

「男はね、いつでも、どんなに苦しい時でも、ここに熱いものを持って生きなきゃダメ。そうでないと女にモテないよ。お母さんも探せない。あんたのお母さんなんだから、あんたが自分でケリをつけなさい」

 今触れた美玖の唇。その感触。少しタバコの香りがした。大人の香りだ。

「わかる? ナツキ。大人になりたい? お父さんと戦う勇気が欲しい?」

 夏樹は、それが、美玖がもっと欲しいと思った。だから、自分から彼女の唇を求めた。

 奈美がしていたように、奈美にしてやったように、大人のキスをしたかった。ガツガツと彼女の唇を吸い、舌を差し入れ、彼女の唇を舐った。

 美玖は夏樹の稚拙なキスに優しく応えてくれた。夏樹の昂奮が収まるとゆっくりと彼の唇を吸い、舌を絡ませて唾液を交換し合い、それを何度も何度も繰り返した。

 奈美とのとは比べ物にならない、本当の、大人の、官能を揺さぶるようなキス。

「欲しいよ。ミクさんが、欲しい」

 美玖は夏樹の中に熱いものを植え付けたのを見届け、名残惜しそうにゆっくりと唇を離していった。

「ナツキ。あんたを本当の男にしてあげる。服、脱ぎなさい」

 どうしてこんなことをしているのか。それは美玖にもよくわからなかった。

 夏樹のためなのか、自分のため、自分の欲望がそれを求めていたからか。

 だが、あの浮気の時とは全く違う。快感を貪るだけだったあの時とは違う。

 美玖は夏樹の母をしてやりたかった。夏樹には母をしてやる必要があるからだ。だけど二人は赤の他人の男と女で、男は新しく母を迎えるには成長しすぎていて、母なしに戦うには幼すぎた。女は少年の母になるには若すぎ、それなしに力を与えるには歳を取り過ぎていた。何よりも女は、男が求めているものを、知っていた。

 夏樹が愛しい。愛し過ぎた。きっと、そのせいだ。

 夏樹は服を脱いだ。素裸で立った。

 美玖も、少年の目の前で服を脱いだ。たちまちのうちに彼の勃起は大きくなり、天を突いて、腹に付いた。夏樹はそれを隠そうとしたが、美玖はその手を押しとどめた。

 全裸になり、彼の身体に添い、肌を合わせた。

 少年の分身が、下腹に熱かった。真っ赤に灼けた火かき棒みたいに。ほんの数日前に彼を愛撫した時とは何かが違った。同じように屹立を手にし、口づけを交わしても、何かが違っていた。それは少年の溢れる性を宥めるためのものではなかった。美玖自身が彼を求めていた。

 彼のを愛撫しながら、彼の弱い首筋から始まって全身にキスの雨を降らせていった。美玖が吸い、舐めるたびに彼の身体は反応し、筋肉が強張った。

「はあっ・・・、はうっ・・・」

 その口から吐息が漏れるたびに、ますます愛しさが募り、美玖の官能を刺激した。

 キスはいつしかそこにたどり着いた。少年の足元に跪いて、目の前のまだ幼い少年に不似合いなほど逞しいそれに、唇をつけた。

「ああっ!」

 その幹に舌を這わせて何度も舐め上げ、指先は彼の身体を這い上って乳首を刺激した。時々上目で彼の表情を窺った。立ったまま目を閉じて快感に耐える少年。その顔を見ているだけで美玖もまた、萌えた。

 咥えた。同時に舌を使ってやると、夏樹の腿が強張り、尻がぴくぴくと蠢いた。空いた方の片手で、自分を慰めた。

「・・・我慢しなくていいよ。出しちゃいな」

「はあ、も、ホント、出る、出るゥっ!」

 夏樹は爆ぜた。

 奈美の中も気持ちよかったが、これは別世界だった。美玖の舌は妖しげな水棲動物のように夏樹の分身を愛で、翻弄し、放心していると、美玖のキスが首筋を襲った。今出したばかりだというのに、もう反応する分身。若さは限りがなく、節操がなかった。

「スゴイ。もう元気になってる」

 立ち上がり、片手をそれに添え扱きながらキスした。美玖の唇を無我夢中で吸ってくる、若いオス。夏樹は今、一個の漢としてそこにいた。

「今度はあたしを悦ばせて。好きなようにやってみて」

 そう言って美玖はベッドに横臥たわり、夏樹を誘った。

 あの美玖の身体。豊満な胸に縊れた腰、そしてふくよかな尻に濃い叢。それが今、目の前にある。

 奈美にしたように、まずもう一度キスをして首筋に舌を這わせ、豊かな胸を揉んだ。

「おっぱいの周りからグルグル円を描くように舐めてみて。そう・・・。上手だよ。

 乳首はワザととっておく。そうすると女はジレてくる。早く舐めて欲しいって、押し付けて来るよ、こんなふうに」

 そう言いながら、美玖は胸を夏樹の口に押し付けた。

「そう。・・・なかなか上手いじゃない。ホラ見て。昂奮して勃起(た)ってきちゃった。そこをペロンて・・・ああ、気持ちいいよ、ナツキ。それから舌の先でチロチロ、クルクル嘗め回す。ウフフ。感じて来たよ。とんがって来た・・・」

 奈美に比べると美玖の乳首は大きい。子供を産んでいるからだ、と夏樹は思った。美玖の、まだ見たことはない息子の、兄弟になった気分だ。

「最後に唇で挟んで。そして、チューって、吸ってみて。あっ! そ、そんな感じ。はあ~ん、めっちゃ上手いよ。それをしながら空いてる手で身体を優しく撫でる。爪を軽く立ててもいい。身体の上から徐々に下の方に。アソコ、触ってごらん」

 美玖の叢の奥に手を差し伸べた。

「濡れてるでしょ。あたし、あんたを欲しがってる。でも、いきなりそこ行かないで、もっとジラして。そこに行くかなって思わせておいて、戻して、また近づける。そう。そうするとね、触られなくても、もっと濡れて来る。女がジレてくる。もっと触って欲しい。もっと感じさせてって。

 そしたらキスしてあげるの。耳も、触ったり舐めてあげたり。ソフトクリームとかマシュマロとか、絹ごしのお豆腐を扱うみたいに。そおっと、優しく・・・。上手いじゃん、ナツキ。あたし、すっごい、感じてきちゃった・・・」

 焦らす方が我慢できなくなっていた。もう一度そこに触れようとすると脚がスーッと両側に開いていった。

「触って。優しく、だよ」

 美玖の舌が夏樹の唇を割って侵入してくる。

「あたしの舌、吸って。舌絡めてきて」

 昂奮しているんだ・・・。

 さっき触れたそこの上の方。奈美が皮だからと言った部分がコリコリしている。

「ミクさん・・・」

「なあに」

「見たい。・・・いいかな」

「いいよ」

 ほの暗かったが、ブラケットの灯りだけで十分にわかる。むしろ微弱な灯りに浮かび上がる美玖の艶めかしい姿態にドキドキが止まらなくなっていた。奈美の時はぱんつ越しだったり真っ暗で上掛けを掛けてしたのでちゃんとハッキリ見ていなかった。それが今、目の前にある。

 顔を移動してゆくと奈美のよりは淡い女の香りがしてくる。美玖は夏樹が見やすいように片膝を立ててさらに脚を開いてくれた。身体ごと移動して脚の間に入る。

「見える?」

「・・・スゲー・・・」

 そこは濃い陰毛に守られるようにあった。赤黒く見える中心が微弱な灯りを受けてキラキラと光っている。とても濡れてる。上の方には皮を突き上げて立っている突起がある。

「触っていい?」

「うふふ。もう触ってってお願いしたじゃん。舐めてくれてもいいよ。舐めたい?」

「うん!」

「上の方の皮の部分、めくってみて。とんがってるとこ。そこが一番感じるの。そこ舐められたら、あたし、イッちゃうかも」

「うそ・・・」

「うそじゃないよ。さっき乳首舐めてくれたみたいに、やってみて。優しくね」

 言われた通り、両手の親指でその皮を上の方にめくりあげると、濃いピンクの突起が完全に顔を出した。舌を突き出して、そこに触れた。

「あ・・・」

「痛いですか?」

「ううん。びりっと来た。もっと、舐めて」

 夏樹は今度は舌全体で舐め上げるようにしてみた。美玖の身体が震えた。

「はああん、感じるぅ・・・。もっと、吸ったりしてもいいよ。舌でレロレロ動かしても。ナツキの好きなようにしてみて」

 美玖の両手が夏樹の頭を掴んで髪の毛をグシャグシャにしてくる。感じてるんだ。悶えてるんだ。

 オレが美玖を悶えさせてる・・・。

 夏樹のペニスは昂奮してさらにいきり立った。
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