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04 setting out on・・・ 夏樹の場合

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 女のくせに奈美の手は大きくてごつかった。


 

 去年、中学に入って入部する部活の見学に体育館に行った。三年生になっていた奈美がジャージのズボンにTシャツ姿でバスケの練習をしていた。夏樹はすぐに彼女に見つかった。

「夏樹じゃん、へっへっへ・・・」

 お前はオッサンか、と言いたくなるほどイヤらしいっぽく笑いながら近づいてきた。一緒に行った同じ小学校から来たツレが、

「・・・めっちゃ、デケェ女・・・」と絶句していた。

「ねえ、バスケにしなよお。面白いよォ」

 あの大きなバスケットボールを、奈美は笑いながら片手で掴んで持ち上げて見せた。


 

 そんな手で頻繁にシコシコされては、刺激に強くなるのも当たり前だった。

「あんた、なかなかイカなくなったね」

 向かい合わせでチンコをシゴかれながら、奈美のボヤくのを聞いた。

「ねえ、そこに寝て」

 言われるまま絨毯の上に寝転がった。

 すかさず奈美は夏樹の身体を跨いでなんと顔の上に腰を下ろした。過去奈美からは様々なイタズラをされたが、今日のは極め付きだった。あまりに突然で、なすすべがなかった。スカートをふぁさっと被せられると真っ暗になった。目隠しと同じだ。両の二の腕の上には彼女の脛が乗っていてずっしりと動かせない。

 顔の上に奈美の、ぱんつ越しとはいえ股間がある。独特の匂いがした。おしっこと奈美の女の匂いが混じったのだ。猛烈だがイヤではなかった。それはどことなく懐かしい匂いだった。夏樹は何年ぶりかでこの匂いを嗅いだような気がした。

「・・・覚えてる? 一緒にお風呂に入ってた頃。よくこんなのして、遊んだよね」

 奈美の股間は鼻に近づいてきた。鼻の先にぱんつの布が触れる。それは奈美の汗のせいか、わずかに湿っている。と、布の真ん中らへんがコリコリしているのがわかる。奈美はワザとそのコリコリを夏樹の鼻に擦り付けて来た。

 あれは二人とも小学生のころ、どっちの家だったか忘れたが、風呂上がりで押し入れの中に入って遊んでいた。何をして遊んだかは忘れたが、せっかく汗を流したのにわざわざ暑苦しい所に潜り込んでまた汗だくになっていた。夢中で遊んでいるうちに、どういう体勢でそうなったのか、奈美の股間が夏樹のおでこに触れた。お互いに「あ」と思ったが、奈美が構わずに股間をぐりぐり押し付けてくるのが不思議だった。頭まで押さえられながら、どうして奈美はこんなことをするんだろうと不思議だった。

 その時の匂いだ。

 夏樹はやっと思い出した。その時は不思議だったけど、今はもう、どうして奈美がこんなことをするのか薄々わかるようになっていた。

「なんでこんなことするんだよ・・・」

「したくなったの」

「・・・どうせカレシにはしないんだろ」

「当たり前じゃん。絶対しないよ、こんなこと。あんたにだけだよ」

「酷ェよ。オレのことなんだと思ってるんだよ。お前のオモチャじゃねえんだぞ。オレが大切なんじゃなかったのかよ! 降りろよ!」

「ガマンしな・・・」

「もしかして、・・・気持ちいいのか」

「黙ってて! 」

 すると、チンコがギュッと掴まれ、またシゴかれた。それがものすごくエロくて、堪らなかった。

「・・・イキそう?」

「・・・ん、もうちょっと」

「早く、早くイッて、・・・ねえ、ねえっ!」

 奈美のそこが汗ばんできていた。それで奈美も昂奮しているのだとわかった。

 気持ちいいんだ・・・。

 それでやっと夏樹も状況がわかって昂奮してきた。

 布の中のコリコリに関係しているのかもしれない。めくってみたいのだが、残念ながら、手が動かせない。それで口を使った。

「ひゃっ!」

 シゴくのが止まった。感じたんだ。夏樹は初めて奈美の「女」に触れた気がした。ムッとする臭気がさらに濃くなったような気がした。

「・・・ねえ、今の。もう一回して」

「どうして」

「んもう、イチイチうるさい! 言われたとおりにしてっ!」

 チッ・・・。

 不承不承、もう一度唇で触れ、さらに舌を使った。

 太腿がギュッとしまり、顔が頭がチョークされた。苦しくはなかった。ブルブル震えているから、感じているのだろう。どんな顔をしているのかわからないだけに余計に見たくなった。

 しばらくすると脱力して、頭は解放された。でも、鼻の頭は奈美の汗のせいか、濡れていた。穴が濡れると言っていたから、それかもしれない。また見たい気持ちが疼いてしまったが、どんなに頑張っても奈美の体重を動かすことができなかった。

 そのうちに込み上げが来た。

「出そう・・・」

「いいよ」

 シゴキに拍車がかかった。同時にカサコソティッシュの箱の音がした。尻の穴の中がムズムズして足の裏から頭の後ろまでを何かが駆け抜けた。全身の筋肉が強張って、

「・・・んふっ、・・・あおっ・・・」

 下半身を突き上げるように、夏樹は何度かにわけて射精した。頭が真っ白になって・・・、だらけた。

 今までで最高のドピュ、だった。

 顔の上から奈美の身体がいなくなり、新鮮な空気を吸った。窓の光が眩しかった。

「覚えておいて欲しかったの。あんた絶対、約束、破るから」

 しなびたチンコを何度かティッシュで拭いてくれながら、奈美は頬を赤く上気させていた。その風情がなんだかとても可愛いく思えた。

「あたしに無断で行っちゃうよね、きっと・・・。あんた、そういうイコジなとこあるから・・・」

 イコジ? それを言うなら「芯が通った」とか「意志が強い」とか言って欲しかった。奈美の成績がイマイチ残念なのも頷けた。こいつは、ボキャ貧だ。

 ティッシュをゴミ箱に放り込んでしまうと、奈美は覆いかぶさって来た。

「いつ、どうするか知らないけど、忘れないでね。あたしはいつもあんたの味方だから」

 そう言って奈美は再び熱い唇をくれた。あまりの柔らかさと甘さに、全身から力が抜けた。


 

 奈美が帰ってしまうと、入れ替わりに継母が部屋に上がって来た。

 窓を開けて換気はした。部屋にはまだ、さっき奈美にシゴかれて出したばかりの自分の精子(ほんとうは精液なのだが、友達や奈美がそういう言い方をする)、アニメのキャラクターのくずかごからもティッシュに沁み込んだ匂いが発散されていることだろう。その匂いが篭っているような気がして焦った。それに奈美の女の匂いも篭っていたかもしれない。

 でも、継母のドギツイ香水のほうがはるかにクサかった。さっき飲み物を持ってきたときとは違う、かなりハデな赤系の花柄の服を着ていた。少し顔を顰めると鼻をクンクン鳴らし、

「臭うわね」

 と言った。キツい香水振りまいててよくわかるなと思った。だいぶ前からこの女のことは無視することにしたから、匂いでわかったとしても、もうどうでもよかったけれど。

「あたし、あの子キライ。これからはもう家に連れ込まないでね」

 この女なりに嫌われているのがわかるのかもしれない。それにきっと奈美もこの女から好かれていないと知って喜ぶに違いない。

「・・・何か、用ですか」

「これから出かけるから。帰りは明日の夜になる。お父さんも明日まで帰ってこないから。ご飯とか、一人で大丈夫よね」

「・・・はい」

「明日は塾だけでしょ。出掛ける時は戸締りよろしくね」

 言いたいことを言ってしまうと継母は出て行った。

 背後でドアが閉まった。振り返ってドアを確認した夏樹は思わずガッツポーズをとった。

 よっしゃー、チャンスだ! チャンスが向こうから転がり込んできた!

 このチャンスを逃す手はない。絶対に、ない。決行は今を置いて他にはない。

 準備に二三時間はかかる。今からでは行動が夜になる。夜ウロウロしていては、目立つ。その後も、家を出たのに気付かれるまで出来るだけ時間を稼ぎたかった。だから出発は早朝。そして一気に遠くへ行ってしまうことだ。夜になるまでに人目に付かないところに身を隠す。ホテルでも、山の中でもいい。

 漠然とだが、そんな行動イメージを描いた。

 今から誰もいなくなるということは夜一杯準備をしてたっぷりと睡眠をとることができるということだ。コソコソしないで堂々と準備できるのはありがたい。

 そしてツイていることに明日は土曜日だ。リュックを背負った子供が一人でいても誰も怪しまない。

 ああ、神様。ありがとうございます。こんなチャンスをくれるなんて・・・。

 そうと決まったら、行動あるのみだ。

 夏樹は引き出しからかねて用意していた備品リストを書いたノートを取り出し、もう一度項目ごとにチェックを始めた。今ある所持金と、この事あるのを見越して早めに銀行からおろしておいたお年玉やらを貯め込んだお金。そして父母の部屋に忍び込んでいつもポケットの現金をおいてある棚の小皿やらを物色し、金を数えた。五万円と少しにはなった。必要な電車賃を計算してゆくと、目的地へたどり着くのに必要な十倍近くの金であることを知り少し安心した。

 すべての準備が終わると目覚まし時計をかけてベッドに入った。起床は四時。五時の始発に乗るには充分な時間だ。

 ところがいざ寝ようと思うとなかなか寝られない。ドキドキして目が冴えるばかりだった。


 

 ひと月ほど前。

 夏休み明けの実力テストのために少し根詰めて頑張っていた夜のことだった。

 コーヒーが飲みたくなって階下に降りると、もう一時を回ったというのにまだ灯りが点いていた。このまま降りて行けば、まだ起きてるのか、もう寝なさい、寝る前にコーヒー飲んだら眠れなくなる、とかなんとかいろいろ煩いだろうと思い、降りたついでにトイレに行こうか、それとも引き返して大人しく寝るか悩んでいた。すると、父とあの女の話し声が聞くとはなしに聞こえてしまった。

「・・・ナツキはもう寝たか」

「わかんない。あの子、あたしのことキライみたいだから、あんまり接触しないようにしてるの」

「まあ、そういう年頃だからなあ・・・。いちいち目くじら立てんなよ」

「だあってー・・・。ねえ、それより、いつ籍入れてくれるの? もういいんじゃないのォ?」

「もう少し待ってろ。今アイツの籍抜くわけには行かねえんだ。ここまで待ったのが水の泡になっちまう。どうせアイツも身動き出来ねえんだから。焦るこたねえよ」

「今どこにいるんだっけ」

「アイツの兄貴んとこだ。向こうが言い出して来たんだぞ。一度距離を置かせてください、面倒見ますってさ」

「じゃあ、願ったり叶ったりじゃないの。あんな女、サッサと離婚して厄介払いしちゃえば・・・」

「それがな、急いては事を仕損じるんだな」

「なにそれ、どういうこと?」

「あの兄貴な、もうすぐ逝っちまうらしいんだ、これが」

「ええっ、じゃあなおさら・・・」

「金持ってるんだと。他にも山やらなんやら。それにあの兄貴も独身でアイツしか身寄りがない。ここまで言えばわかるだろ?」

「どゆこと?」

「・・・ちっ。いいか? 金持ってるやつが死ぬ。すると相続する権利のあるヤツのとこに金が行く。ソイツと結婚していれば、どうなる?」

「ああー! そういうことか。じゃ、あの女を離婚しないで待ってればお金がタンマリ入って来るってこと?」

「そういうこと」

「・・・でもさあ、あたしもうあの子と一緒に暮らすの、ヤなのよ。早く何とかしてヨォ」

「まあ焦るなって。夏樹が高校に入るまでガマンしろ。全寮制の学校に入れるから。そうすりゃ晴れてお前と二人きりになれる。もう少し辛抱しろよ・・・」


 

 母が生きている。

 それを知ってしまったら、夏樹にはもう進むべき道は一つしかなかった。

 情の薄い男だとは思ったが、あんな金の亡者のような父とは思わなかった。どんな理由で離れて暮らしているのかは知らないが、実の息子に「母はもう死んだ」なんてウソ吐くなんて。その上財産を掠め取ろうとするなんて。鬼畜より劣る。あの女も大嫌いだ。もううんざりだ。コイツらと一緒にこれからも暮らしてくなんてありえない! どんな手段を使っても、もう一度母に会いたい。会ってこれからは母と一緒に暮らす。もうこの家にはいたくない!

 そう思って、この一か月ずっと耐えてきた。奈美にだけは胸の内を曝け出して来た。もうこの家に居たくないと。

 ふと奈美の顔が浮かんだ。

 奈美に電話しようか・・・。奈美からはかかってこない。かけられない。夏樹の継母を嫌っているからだ。だから電話するなら夏樹からしなければならない。

 いや、それはダメだ。

 決心が鈍るかもしれないし、アイツはちょっと抜けたところがあるから大騒ぎしてせっかくのチャンスがフイになってしまうかもしれない。それに夏樹が真実を知ってしまったのを知れば、父と継母が何をしてくるかわからない。ここは忍の一時あるのみだ。

 昼間出したばかりなのに、奈美のことを考えただけで、夏樹のそこはもうビンビンに張り切って腹につきそうなほど反り返っていた。奈美の白い太腿と白いぱんつの中のもののことを思うだけで・・・。

「カレシのと同じくらいだよ、コレ・・・」

 奈美はそう言った。

 その言葉で、奈美がもう経験をしているのを知った。無性にハラが立った。ちきしょー、奈美のヤツ! そして奈美の身体の温もりが欲しくなった。

 あの冷たくてすべすべの真っ白な太腿の間の奈美のそこ。今日匂いを嗅いだそこを見たい。中に這入りたい。切に切に、思った。幾晩も寝床の中で奈美を思い、擦って出したが、今夜のはとびきりだ。とびきり、奈美が欲しい。だが、我慢した。欲望よりも使命の方が、勝った。我慢して、思いきり、シゴいた。
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